魔法先生ネギま!-Fate/Crossover servant-   作:魔黒丼

8 / 11
第7話

―佐々木まき絵にとって、この日は進級して最初の始業式だったという以外は何ら変わりない一日だった。

 午前中で授業が終わると、午後からは部活である新体操の練習に専念していた。幼い頃から新体操を習っていた彼女は中学3年になった現在もその情熱を捧げており、今日も夕暮れまでその練習に明け暮れていた。

 そう、いつもと同じように、練習を終えてシャワーで汗を流した後に寮へと帰る――――筈だった。

 

 日もとっぷりと沈み、月明かりが照らすなか彼女は桜通りを歩いていた。

 しかし、毎日のように通っている桜並木の通りが、この日はいつもと違って見えた。

 この日は少し蒸し暑かった筈なのに、背筋にぞくりと悪寒が走る。夜道を照らす街灯も、空に輝く月もどこか不気味にすら見える。

 

 ―――何か気持ち悪い。早く帰ろう。

 

 拭えぬ違和感に不安を覚え、小走りで通りを駆けていく。

 風の音以外には自身の足音だけが桜通りに響いていた。

 自分の足音以外には何も聞こえない。その筈なのに、気配だけははっきりと分かった。自身の背後に何かが居る(・・・・・・・・・・・)とはっきり分かってしまった。

 

 

 痛いくらいに鼓動が高まり、肌が泡立つ。湧き上がる何かを抑えるように胸を抑えた。

 呼吸も早まり、気付けば全力で駆け出していた。

 背後から迫る何かも分からぬまま、彼女は夜の桜通りを全速力で駆け抜ける。

 通い慣れた道がやけに長く感じる。しかし、それでも通い慣れた道だ。やがて桜並木の途切れる桜通りの突き当り、この道の終わりが見えた。

 

 ―――やっと抜けられる。この道を抜ければ何かからきっと逃げられる。

 

 縋る思いで彼女は得体の知れぬ恐怖から逃げる為、必死に足を動かし、やがて通りの突き当りにたどり着いた。

 

 

「やった―――――――」

 

 歓喜の声を上げながら突き当りを曲がった途端、ぶつかった何かにその声は遮られた。

 どしん、と壁にぶつかったような衝撃で思わず尻餅を着いた。

 

「きゃっ!?あいたたた…」

 

 痛むお尻をさすりながらまき絵は思う。

 ―――この道に壁など無かったはずなのに、と腰を落としたまま彼女は眼前の何かを見上げた。そこには2メートル程の赤い毛で覆われた何かが、獣のような眼光で自身をぬうっと見下ろしていた。

 

「――――――っ!!??」

 

 声にならない悲鳴を上げて、彼女は意識を手放した。

 

………

……

 

「……なんだこやつは?」

 

 いきなりぶつかって来て派手に転び、目を合わせたと思ったら気を失ったまき絵を見て面食らったライダーは困惑顔で顎の下をぼりぼりと掻いた。

 するとその後ろから追従していた夕映が彼の腰のあたりからひょっこりと顔を出した。

 

「どうしたのですかライ……アレクセイさん?」

 

 不意に言いかけた言葉を呑み込み、決められた名前で呼びなおす彼女の更に後ろには親友ののどかとハルナ、そして担任のネギの姿があった。

あれから保健室を後にした一行は、紛失した魔法の本を探して各所を奔走していたものの、結局発見することは出来ず、結局日が暮れる時間にまでなってしまったのだった。

 

「ム、いや…この娘がだな。いきなり余にぶつかったと思ったら目を剥いて気を失いおったのだ」

 

 そうライダーが指さす先には仰向けに倒れるまき絵の姿。

 

「え?ま、まき絵さん!?」

 

 ネギは大仰に驚いて彼女に駆け寄り肩を揺さぶるが、まき絵は目を回して呻ったまま目覚めようとはしなかった。

 

「あらー完全に気絶してるよねコレ」

 

「あわわ…だ、大丈夫かな」

 

「まー大丈夫じゃない?多分。アスナやいいんちょ程じゃないけどまき絵だってそれほど(やわ)じゃ無いし」

 

 心配そうに覗き込むのどかとは対照的に無責任に笑うハルナ。するとネギは気絶した彼女をその小さな背中で背負おうとしていた。

 

「と、とにかく…こんなところで寝かせる訳にはいきませんし…彼女を寮まで連れて帰らないと…」

 

「ですけどネギ先生。先生が彼女を背負うのは少し無理が…」

 

 そう忠告する夕映の言葉通り、魔法で強化していないネギの筋力では自身よりも一回りは大きいまき絵の身体を背負うのは無理があり、何とか持ちあげたもののその足は生まれたての小鹿のようにプルプルと震えていた。

 

「うぅ…ボクは先生なんです…生徒を守る使命が…」

 

「せんせー無理しない方がいいよー?」

 

 教師の意地か使命感か、ハルナの忠告を尻目にネギは今にも崩れそうな足取りで一歩一歩進んで行く。

 その後ろ姿を見ながら夕映は昼間のネギの話を思いだしていた。

 

 『―――魔法使いは本来、影ながら世界を支えるのが仕事です。ですので一般社会からその存在をばれないように隠して生きるのが原則なんです。しかもボクの場合は仮免期間のようなものなのでバレたら大変なことに…』

 

 そう顔を蒼くして語っていたのを思い返して、夕映はネギの現状を察した。

 

(流石にパルやのどか達の前で魔法を使う訳にはいきませんからね…)

 

 ならば今この場にうってつけの巨漢が居るのを思いだして夕映はライダーの方へ振り返った。

 

「すみませんがアレクセイ…さん?」

 

 呼びかけながら振り向いて、夕映はライダーの様子に違和感を感じた。

 先ほどまでの困惑顔とは打って変わって、ライダーは怪訝な表情で何もない筈の空を見上げていた。

 

「……」

 

「…あの、ライダー…さん?」

 

 妙に真剣さを帯びた様子に不安を感じつつも呼びかける夕映の声にようやく気付いたように、ライダーは眼下のマスターに向き直った。

 

「むぉ?どうかしたのか夕映よ?」

 

「いえ…何かあったのですか?」

 

「フム…いや、なに…気を払う程の事でも無かろうさ」

 

「?…はぁ」

 

「ともかく、今はあの坊主に手を貸してやらねばな。あの様子だと、あと十歩も保たぬだろう」

 

 そう何ごとも無かったかのように言ってライダーは、もはや倒れる数秒前の状態のネギのもとへと歩み寄って行った。

 その背を見送りながら夕映は、ライダーの様子に感じた違和感を拭いきれず、同じように彼が見上げていた夜空を見上げていた。しかし、あるのは少し欠けた月が輝く夜空だけだった。

 

………

……

 

「…気付かれていたのでしょうか?」

 

 ジェット噴射で夜空に浮遊しながら茶々丸は、肩に乗せた自らの主(エヴァ)に訊ねた。

 

「完全にでは無いだろうが…おそらくな」

 

 不機嫌そうに頬杖をついて、彼女は和気あいあいと帰路を歩むネギやライダーたちを見下ろした。

 現在、彼女たちの姿は彼女たち自身意外からは視認できないよう認識阻害の結界が張られていた。無論、それなりの実力を持つ魔法使いから見れば酷くおざなりなものでしか無いが、それでも経験が乏しいネギや、そもそも魔法使いでは無いライダーたちからすれば彼女たちを目視することは困難であった。

 

 それでも気配を察してか、または直感か、彼女たちの存在を感じたライダーの獣じみた嗅覚にエヴァも茶々丸もある種の戦慄を覚えた。

 

 そもそもエヴァ達二人がここに居るのは、彼女の魔力源たる血を求めての事であり、先ほどまで偶然通り掛かった佐々木まき絵を襲おうと背後から付け狙っていた。

 しかし、それはすんでのところで意図せず阻止された。更に偶然通り掛かったネギやライダーたちと言うイレギュラーによって、彼女は狩りを中止せざるをえなかった。

 

 今の彼女たちに取ってネギもその取り巻きもさしたる脅威では無かった。いくら天才で強力な魔力を扱えようと、経験不足で根っからの気弱で臆病な少年など彼女に取ってみればただの子供同然だった。

 

 しかし、ライダーは別だった。如何に魔法に関しては素人だったとしても、当人が強大な魔力で形成された使い魔であり、その戦闘能力も先日の夜に見せつけられた通り、歴戦の魔法教師数人をまとめて相手取ったとしても決して引けを取らぬどころか、更なる余力すら隠し持っている様でもあった。

 

 とは言え、エヴァ自身も遅れをとっているつもりなど微塵も無かった。

 

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル―――その正体は数百年もの歳月を生きる真祖の吸血鬼であり、「闇の福音(ダークエヴァンジェル)」の二つ名で知られる強力な魔法使いでもあった。

 現在はとある事情でその実力の半分も発揮できない状態ではあるが、それでもその実力はこの学園で彼女を知る者であれば決して油断ならない程のものでもあった。

 

 しかしながら、そんな彼女でも正面切って彼の使い魔(サーヴァント)と闘うことは些か厳しいものがあった。

 全快時ならいざ知らず、満月でないと満足に魔法も使えない今の彼女では例え茶々丸のサポートがあったとしても到底敵うものでは無かった。

 

 その事実を分かった上で彼女は忌々し気に口元を歪めた。

 

「フン…とにもかくにも今は血だ。待っているが良いボーヤ…」

 

そう吐き捨ててエヴァは膝元の従者に帰宅を命じた。

 機械仕掛けの少女に担がれながらエヴァは冷静に目的達成の算段を思案していた。

 

(…とは言え、あの綾瀬夕映の使い魔は邪魔だ。恐らくあの小娘がボーヤと行動を行動を共にする時間は今後増えるだろう…なら必然的にあの使い魔も付いて来る筈だ…これは対策が必要だな…)

 

………

……

 

 英国、倫敦(ロンドン)某所。

 ―――時計塔。それは、通常ならばロンドンの観光名所として受け取られる単語だろう。 だが、魔法使い(・・・・)たちの間ではまったく違う意味合いを持つ単語となる。

 

 そこは数多くの魔法使いを統括する『魔法協会』の心臓部であり、同時に、まだ若き魔法使いたちを育てるための最高学府であり、まさに魔法使いの総本山とも言える由緒ある歴史を持つ、由緒ある場所なのである。

 

「――――フ●ック」

 

 そんな時計塔が誇る『最高学府』の校舎の一室に似つかわしくない言葉(スラング)が響き渡った。

 

「そう言わずに…会わせてくれたって良いじゃないですか」

 

「黙れ。第一誰が来ているのか分かって言っているのか?」

 

「もちろん、知りません!」

 

 支離滅裂。まんま子供の駄々を聞かされているような鬱屈としたため息を、長髪の男はこれ見よがしに吐き出した。

 

 現在、この部屋には二人の魔法使いが居た。

 一人は先ほどから椅子に腰かけ不機嫌そうに眉を顰める長髪の男。彼こそが、この時計塔における魔法講師の一人、ロード・エルメロイ二世。

 そしてもう一人。先ほどから机を挟んで彼に向かって駄々をこねる青年。フラット・エスカルドスは身を乗り出して自らの教師に喰らいついた。

 

「でも教授たちが昨日から大騒ぎしてるって事はとんでもない人が来てるんですよね?どんな人が来てるんですか!?有名な人とか!?もしかして『千の呪文の(サウザンド・マス)――――」

 

「ええい顔が近い!鬱陶しい!そして少し黙れアホ!」

 

「――ぎゃん!!」

 

 振り下ろされた拳骨によって卓上に沈んだフラットを一瞥し、エルメロイ二世はこめかみを指で抑えながら口を開いた。

 

「お前がどうやって嗅ぎつけ、どこまで知ったのかはこの際いい。だがお前が会いたがっている人物(・・)は非常にややこしい立場にある。一介の生徒に過ぎないお前が簡単に会える相手じゃない」

 

「まあまあ、そこは『グレートビッグベン☆ロンドンスター』である教授の――――いだだだだだ!!」

 

「二度とその名を口にするなと言ったはずだが?」

 

 蔑称よりも腹立たしい二つ名を呼ばれ額に青筋を浮かべる教授のアイアンクローを頭蓋に受けながら、尚もフラットは食い下がった。

 

「じ、じゃあ教授にピッタリな新しい二つ名を考えてあげますから代わりに…」

 

「要らん、不要だ。第一、誰かも分からんのに会ってどうする?その人物が君が想像するほどの大物であったとしても相手にされなかったら?何よりも、会って君は何をするつもりなんだ?」

 

「えっと…そりゃあインタビューとかお喋りとか、あわよくば秘術とか見せて貰えればなーなんて…あいだだだだ!?」

 

「阿保か!?いや阿保だなおまえは!どこの世界に自らの手の内を赤の他人に晒す魔法使いがいる!!」

 

 余りにも軽薄な言葉に思わず鷲掴みにしていた手に力を篭める。

 

「で、でもやっぱり気になるじゃないですか!要塞のような時計塔の結界内(・・・・・・・・・・・・・)あっさり転移して来れるような人(・・・・・・・・・・・・・・・)なんて!」

 

「―――!」

 

 彼の言葉に面食らったエルメロイ二世は、思わず握りしめていた頭を解放した。

 彼が口にした誰か。その正体不明の来訪者の存在は、時計塔の生徒たちの間でも密かに噂になっていたため彼が知っていても不思議ではない。

 問題は、その侵入経路を彼が知っていることだった。

 

「…いつから気が付いていた?」

 

 荒々しさの消えた抑揚のない声で彼は訊ねた。

 

「えーと…おとといの朝ぐらいですよね?ちょうどその前の日の晩くらいにここ結界の強度や仕組みが知りたくてハッキングを仕掛けてたんですが…あ、勿論誰にも気づかれないように!で、ついでに時計塔内の魔力の流れをモニター出来ないかなって試してみたら…」

 

「もういい、だいたい分かった」

 

 フラットの説明を遮って、エルメロイ二世は天を仰いだ。

 先ほど彼自身が述べた通り、この時計塔は何重にも張られた魔法結界によって護られており、その防衛機能の厳重さはまさに要塞のようだと言っても過言ではない。

 その厳重に厳重さを重ねた魔法プロテクトを、この弟子は事も無げにハッキングしたと言ったのだ。

 

 ―――その恐るべき才能を持ちながら、なぜこのような幼稚な思考回路を持つように育ってしまったのか。

 

「…才能あるバカというのは始末に負えんな」

 

 聞こえないほど小さく呟いたエルメロイ二世は、再びその始末に負えない馬鹿弟子に目を向ける。

 

「えーっと…あの教授?」

 

 もはや怒りを通り越して冷静になった彼の様子に戸惑うフラットに向かってエルメロイ二世は告げた。

 

「今のは聞かなかったことにしておく。だからこれ以上、この件に首を突っ込むな」

 

「そんなぁ!そこを何とかお願いします教授!いえ、絶対領域マジシャン先生!!」

 

「死ね!テムズ川に沈んで死ね!!」

 

 再び拳骨によって机に突伏したフラットの首根っこを掴んでエルメロイ二世は彼を部屋の外へと放り出した。

 

 弟子の奇行に辟易としつつも彼は有り余るフラットの才能にわなないていた。

 本来なら既にこの時計塔から卒業してもおかしくない実力と才能を有していたフラットだったが、いかんせん魔法の才能はともかく、その性格の緩さゆえに魔法使いとして世に出すことが憚られた彼は、二十歳を間近に控えた今なお、時計塔の問題児の一人として生徒の身分に据えられていた。

 

 ―――あれが卒業するのが先か私の胃が死ぬのが先か。

 空恐ろしい想像が頭を過ったが、今の彼に弟子の行動に慄いている暇など無かった。

 

 すぐさま気持ちを切り替えると彼は部屋の奥、さらにその奥にある一室へと赴いた。

 

 そこは至って簡素な部屋だった。幾つかの本棚に囲われたその部屋の中央、そこに置かれた椅子の上に一人の老人が彼に背を向けた状態で腰かけていた。

 振り返ることもせず、ただひっそりと座りこんだ老人の背に向かって、エルメロイ二世は言葉を掛けた。

 

「間もなく極東から呼び寄せた彼の魔法使いが着くはずです。これで宜しかったのですね?宝石翁(・・・)




………
……

…エタらないよね?



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。