魔法先生ネギま!-Fate/Crossover servant-   作:魔黒丼

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第8話

 ―――ここは麻帆良学園3年A組の教室。

 この日は朝から身体測定という事もあり、教室内では賑やかにそれぞれの成長具合を測っていた。

 

 身長が伸びて喜ぶ者や体重の増減に声を上げる者などで教室内は姦しい騒ぎに包まれていた。

 

「あーい、ゆえっちは…138センチねー」

 

「む…」

 

 理想よりもあまり背丈が伸びていない事に憮然と口を曲げつつも、夕映は突きつけられた現実を受け止めるしか無かった。

 

「おいーっす夕映ー、どうだったー?」

 

 軽い口調でハルナが声を掛けて来た。

 

「ン…パルですか」

 

「いやーアタシちょっと太っちゃっててさー。参っちゃうよねー?アタシも夕映と一緒に図書館島に潜ったほうが良かったかもー」

 

 ナハハハーと陽気に笑って夕映の頬を突く彼女だったが、それを聞いた夕映は突きながら揺れるハルナの胸をジトッと睨みつけた。

 

 その太った原因たる栄養は何処へ行ったのか小一時間ほど問い詰めたい衝動に駆られた夕映だったが、立て続けにハルナは口を開いた。

 

「そう言えば夕映のオジサンのアレクセイさんって筋肉ムキムキだよね。なんか良い感じのダイエットとか知らないのかなー?」

 

 何気なく発したハルナの一言に耳聡いクラスメイトたちが喰いついた。

 

「なになに!夕映の親戚に外人さんが居るの!?」

 

「え、あ―」

 

「どんな人!金髪!?イケメン!?」

 

「ムキムキって聞こえたけどどのくらい?ス●ローン?それともシュ●ルツェネッガー?」

 

「どこの国の人?」

 

「ヨーロッパ?ハリウッド?」

「お姉ちゃん、それ国じゃないよ…」

 

 途端に質問攻めにされ圧倒される夕映は何故かどんどんと追い詰められていく。

 矢継ぎ早に投げかけられる問いに右往左往していると見かねた明日菜が彼女らの間に割って入った。

 

「ちょっとみんな落ち着きなさいって、綾瀬さん困ってるでしょ。アホなことやってないで、まだ測定は残ってるんだから早く並びなさいよ」

 

「えー?アスナだって気にならない?」

 

「そーだよー?外人のオジサマだよー?」

 

 “オジサマ”と言う単語に一瞬だけピクリと反応した明日菜だったが、そこは何とか堪えて浮き足立つ彼女らを抑え込む。

 

「ハイハイ、良いからさっさと残りの項目も測っちゃいなさい」

 

「むむむ…」

 

「ブーブー」

 

「アスナのケチー」

 

 やや力づくではあるが何とか騒ぎは収束し、夕映はホッと胸を撫で下ろす。

 

「ふぅ…ありがとうございますアスナさん」

 

「いいのいいの、こうでも言わないとみんな引き下がらないでしょ?困った時はお互いさまってね」

 

 そう気さくに答える明日菜。

 ―思い返せば図書館島での魔法の本の探索でも彼女には助けられてきた。子供であるネギの世話からピンチの時のリーダー役など、同じバカレンジャーとしてだけでない彼女の活躍を心の中で夕映は再評価していた。

 

「―ところで…」

 

「はい?」

 

 気まずそうに目を逸らしながら、明日菜は小声で夕映に尋ねた。

 

「綾瀬さんの…そのオジサマって…どんな感じの人なのかしら?」

 

「……」

 

 心の中で抱いていた感謝とある種の尊敬の念が砂の城のように崩れていくのを感じた。

 明日菜の僅かに朱に染まったその顔から見え隠れする期待感が夕映を余計に呆れ返させた。

 

「……あえて例えるならば熊かと」

 

「くま!?」

 

「はい。身長は約2メートル程あり筋骨隆々とした山のような肉体。加えて毛深くてごつごつとした顔立ちを動物に例えるならばクマかと」

 

「へ、へー…そうなの…」

 

 ぎこちない笑顔を浮かべながらも明らかに落胆する明日菜の表情を見て、夕映は少しだけ溜飲が下がった気がした。

 そしてふと、話題の渦中になっていたライダーの事を考えた。

 

 ―大昔に多くの国を征服した王で現在は自身の使い魔らしきもの。明確なものと言えばそれくらいで人柄や人間性についても多分悪い人間では無いだろう程度の認識しかなく、思っていたよりも彼の事を知らなかったことに夕映は今さらながら気が付いた。

 これからは魔法の世界に足を踏み入れる以上、使い魔である彼との付き合いも長いものになると思い、互いの事を知るためにも今日にでも、今一度彼と話し合おうと夕映は密かに決意した。

 

「そう言えばさ、最近 寮で流行ってる…あのウワサどう思う?」

 

 唐突にそんな声が聞こえてきた。

 振り向けばクラスメイトの一人の柿崎美砂がみんなに聞こえるように話しかけていた。

 

「え…なによソレ?」

 

「あぁ…あの『桜通りの吸血鬼』ね」

 

 困惑する明日菜に誰かが答えた。

 すると噂の内容を知らないクラスメイトたちが柿崎に突撃し、彼女は噂の内容を語り始めた。

 

 曰く、真っ黒なボロ布を身に纏い血に塗れた吸血鬼が満月の夜、寮の近くの桜並木に現れる。

 そんな一見どこにでもありそうな怪談を柿崎はおどろおどろしく皆に語り聞かせた。

 

 それを聞いたクラスの一部からは恐怖に駆られた悲鳴が上がったが、他の生徒たちは軽く聞き流すか、幼稚で出鱈目な作り話と冷めた表情で呆れていた。

 だが夕映はその話を単なる作り話と聞き流せなかった。

 魔法の存在を知ってしまい、なおかつおとぎ話のような存在と契約を交わしてしまっていた彼女からすれば、吸血鬼と言う存在自体がもはや空想上の存在ではないのではないだろうかと、小さくない疑念として胸の奥に根付いていた。

 

 そして同じ思いをすぐ隣にいる明日菜が抱いてはいたが、この時、互いの事情を知らない二人がそれを察することは出来なかった。

 

…………

………

……

 

「―――と言う噂があるのですが、ライダーさんの時代には吸血鬼などはいたのでしょうか?」

 

 時は流れて放課後。

 学園都市にある麻帆良学園馬術部用の牧場。その一角にある(うまや)の外のベンチに夕映とライダーは居た。

 結局、夕映が彼に対する呼び名はライダーに固定された。これはシンプルに呼びやすさに拘ったためで、決して真名や敬称などに固執した為では無かった。

 

「フム…吸血鬼か…」

 

 顎に手を当てながらライダーは嘗ての記憶に思いを馳せる。

 

「余の生きた時代にもそう言った怪異が無い訳では無かった。魑魅魍魎や魔獣の類を見たことはある」

 

 ―しかし、と彼は続ける。

 

「生憎と余はそう言ったことに関しては門外漢であるからなぁ…吸血鬼にも余は会ったことが無いし…スマンが力にはなってやれそうもない」

 

「いえ、謝ることは…単なる好奇心ですし…」

 

 決まり悪げに頭を掻くライダーを見て夕映も申し訳なさそうに首を振る。

 するとライダーは思い出したように切り出した。

 

「ところで夕映よ、あの坊主はどうしたのだ?あやつから魔法を学ぶのではなかったのか?」

 

「あ、ネギ先生ですか?ネギ先生は用事があるようでして…魔法の講座は明日からということになりました」

 

「そうか…うーむ余も馬術の教師としての仕事は明日からだと言われておるし…む!そうだ!」

 

 閃いたと言わんばかりに手を打ち鳴らすライダー。

 

「夕映よ!改めてあの書庫に行くぞ!」

 

「書庫…図書館島のことですか?なぜ突然そんなことを…」

 

「いやなに、再び現界したこの時代に昨日は浮き足立ってばかりいたが、余はこの時代の情勢をまるで分かっておらんのでな」

 

 ―確かに。彼の生きた時代と二千年以上の隔たりがある現代とでは常識が大きく異なるのも道理である。

 その差を埋めるためにも図書館へ赴き、現代の常識を学ぶことは夕映も大いに賛成だった。

 次に続く言葉を聞くまでは。

 

「敵を知らねば戦の準備も始められん。何せ地図があるだけでは戦略も何も立てられんからなぁ」

 

「……はい?」

 

 呆気に取られる夕映を尻目にライダーは傍らに置いてあった鞄から地図帳を取り出すと、冒頭にあるグード図法の世界地図を広げた。

 

「最初の指針はもう決めておるのだ。まずは世界を半周する。西へ、ひたすら西へ。通りがかった国は全て落としてゆく。そうやってマケドニアに凱旋(がいせん)し、故国の皆に余の復活を祝賀させる!ふっふっふ、心躍るであろう?」

 

 指先で地図を順になぞりながら旅行計画でも立てるかのように笑顔で語るライダーに、しばし唖然としてから夕映は掠れそうな声で尋ねた。

 

「あの…それは戦争をする、と言うことですか?」

 

「ん?無論だ。世界を征するのに戦争は避けられぬだろう」

 

「―――ッ」

 

 今度こそ夕映は絶句した。

 戦争をする、と。さも当然のようにこの男(ライダー)は言ってのけたのだ。 

 

「さしあたって、この国の者を臣下に加えるところから始めねばなるまいが、この学園の教師たちは気に入った!魔術師でありながらあれほどの使い手となれば逃す手はあるまい。長である近右衛門も、良き相談役となる筈だ」

 

 唖然としたままの夕映を置き去りにして、ライダーはさも楽し気に自身の計画を語り続ける。

 やがてその話が日本を征服した後、隣国のどの国を先に手に掛けようかを語り始めた所でようやく夕映は口を開いた。

 

「あなたは…何を言っているんですか?」

 

「―うん?」

 

「戦争を始めるなんて、本気で言っているんですか?まして世界を征服するなんて…正気とは思えま―」

 

「夕映よ」

 

 言い終えるよりも先に、ライダーがそれを遮った。

 

「如何に貴様が余のマスターとは言え…余の覇道を否定することは許さんぞ」

 

 唸るような低い声でライダーは言った。先ほどまで見せていた陽気さは完全に消え、隣で憮然と座る彼の纏うオーラはまさに王のそれだった。

 

「この身は今やサーヴァントとは言え、余は征服王イスカンダル。生前よりこの身、この胸の内に燻ぶり続けるこの野望(ゆめ)は、紛れもなく余が余である証だ。それを否定することは夕映よ…貴様とは言え許しはせん」

 

 抑揚のない口調で断固と言い放つライダーの装いはいつの間にか出会った当初の赤い外套を纏った鎧姿になっていた。

 初めて自身に向けられる厳しい眼差しに気圧された彼女は、いつの間にかベンチから転げ落ちていた。

 並んで座っていた筈の彼の頭はさらに高い位置にあり、尻餅をついたまま夕映はただただ圧倒された。

 そしてようやく、自身の認識の甘さを痛感した。

 

 かつて多くの国を席巻し、征服したほどの男が、なぜ今も野心を抱いていないなどと思っていたのか。

 二千年以上の時を経てなお、この男は野望(ゆめ)を諦めてなどいなかったのだ。

 時代を超え、国が変わり、世界の常識も何もかもが変わりはしたが、それは彼が野望(ゆめ)を諦める理由になどなりはしなかったのだ。

 

 それを理解した夕映の胸の内には、彼女でも理解できない感情に支配された。

 それは畏怖か憧憬か、それとも―――。

 

 しばらくそうして互いを見合い続けていた二人だったが、突如ライダーは視線を外し、ベンチから立ち上がった。

 

「? ど、どうかしたのですか?」

 

「ふむ…なあ夕映よ、さっきの話にあった桜通りだったか…それはもしや、あっちにあるのか?」

 

 そう答えるライダーの視線の方向には麻帆良学園の女子寮。そして噂の渦中にある桜通りがあった。

 

「はい…確かにそうですが…」

 

「うむ。むこうの方でな、小さいが魔力のような反応と妙な気配がするのだ。もしかしたら噂の吸血鬼かも知れんぞ?」

 

「ッ!本当ですか!?」

 

 咄嗟に立ち上がり視線が交わると、夕映は先ほどの迫力を思いだして腰が引けそうになったが、なんとか堪えてライダーの目を見つめ返した。

 

 その様子を見てライダーは満足そうに鼻を鳴らすと、不敵な笑みを浮かべて言った。

 

「どうだ?噂の吸血鬼とやら…その正体を確かめてみるか?」

 

 答えるまでもない。

 そう言うように夕映はただ力強く頷いた。

 

………

……

 

 満月も浮かび始めた夕空の下、校舎の屋根の上でネギは自身の生徒である筈の絡繰 茶々丸、そしてエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルに拘束されていた。

 

 どうしてこうなったのか―――遡ること約10分ほど前。

 ネギがそれを見つけたのは単なる偶然だった。

 仕事を終えて帰る途中の道すがらに感じた魔法の気配を追い、駆け付けてみれば桜通りで真っ黒なボロ布を纏ったエヴァンジュリンがまさに、同じクラスメイトである宮崎のどかに襲いかかっていたところだった。

 

 考える間もなくネギは二人の間に割って入り、のどかを救出。

 何故こんな事を、と問いただしたネギだったがエヴァはまともな返答を返さないまま逃走を計った。

 途中で駆け付けてきた明日菜と木乃香にのどかを託し、ネギはエヴァを追いかけた。

 

 問い詰めたいことは山ほどあった。

 

 日もすっかり暮れた夕闇の中を追い続け、ようやく追いつめた場所がこの校舎の屋上だった。

 

 予想外に魔力の弱い(・・・・・・・・・)彼女を追い詰めたことに思わず油断したネギの前に突如現れたのが茶々丸だった。

 

 聞けば、なんと彼女はエヴァの従者(ミニステル)であるらしく、驚いたネギに立て続けに聞かされたのは魔法使いとそのパートナーである『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』との本来の関係性は単なるカップルや結婚相手などでは無く、戦いにおいて背を任せ合う相棒とのだった。

 

 驚きを隠せずにいたネギはそのままあっという間に拘束され、抵抗出来なくなったネギは更に驚きの事実を知らされる。

 

「―――私はお前の父、つまり『サウザンドマスター』に敗れて以来、魔力も極限にまで封じられ、も~~~15年間もあの教室でニッポンのノー天気な女子中学生たちと一緒にお勉強させられてるんだよ!!」

 

「えぇえええ!?」

 

 もたらされたのは行方不明だった父の新事実、そして彼女の積年の恨み辛みだった。

 

「そんな…僕、知らな…」

 

 何か言おうとしたが、そんなものは彼女の耳には全く届いていない。

 

「このバカげた呪いを解くには…奴の血縁たるお前の血が大量に必要なんだ」

 

 するとエヴァは鋭い牙を覗かせてネギに迫る。

 

「悪いが…死ぬまで血を吸わせてもら―――」

 

 そこまで言いかけた時だった。

 雲一つ無い筈の晴れた空に、雷のような低い音が響き始めた。

 

「―――?なんだ?」

 

 思わず吸血行為を中断して顔を上げる。

 すると傍らでネギを抑えていた茶々丸の頭部から電子音が鳴った。

 

「―――っ!マスター、膨大な魔力反応が猛スピードでこちらに向かっています」

 

「なんだと!?こんな時に―――」

 

 顔を向けると同時に雷鳴が轟いた。

 

「―――!?」

 

 三人は同時に音の方へと振り向いた。

 轟音の元は明らかだった。もつれあう紫電のスパークを撒き散らしながら、こちらを目がけて一直線に駆けてくるソレに他ならない。

 

 唖然となったネギが、その驚愕を口にする。

 

「せ、せ、戦車ぁああ!?」

 

 戦車―――とは言えその形は現代の戦車とは大きく異なる。履帯で走る車体も無ければ、ましてや大砲など詰まれてはいない、それは俗に『チャリオット』と呼ばれるものだった。

 古代ヨーロッパなどで使用されていた戦車(チャリオット)は一頭から二頭の軍馬によって牽引された軍用馬車であり、タロットなどに描かれた戦車もこの姿である。

 

 しかし、雷電を迸らせて迫りくる戦車を牽くのは軍馬などでは無かった。

 

「う、牛だと!?」

 

 エヴァが口にした通り、豪奢に飾られた戦車を牽くのは二頭の牡牛だった。

 轅に繋がれた逞しくも美しい黒毛の牡牛。

 

 しかもそれが駆けるのは大地では無く、夜空の中。

 戦車の車輪が踏み鳴らし、牡牛たちの蹄が駆り立てるのは地面ではなく稲妻だ。

 車輪と蹄が虚空を“蹴る”たびに、紫電が蜘蛛の巣状の触手を閃かし、轟々たる雷鳴で大気を揺すり上げるのである。

 

 あまりにも現実離れした光景に唖然となる三人の耳に、雷鳴すらも圧倒するような猛々しい咆哮が聞こえてきた。 

 

AAALaLaLaLaLai(アアアララララライッ)!!」

 

「なっ!?アイツは!」

 

「ライダーさん!?それに―――ゆ、夕映さん!?」

 

 眩い稲光の向こうの御者台には威風堂々たる巨漢の姿と、その(マスター)である少女の姿があった。

 

 




………
……

…続いた…だと?
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