聖りりかる   作:岌斗

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第9章 ~遥か彼方の……~

 

 

 

 

 

 

 

 

《神剣が………無い…?》

 

《…言い方に少し語弊はありますが、概ねそれで構いません》

 

 望は呆然と立ち尽くす。イルカナのフォローを受けても衝撃は抜けきっていないらしい。

 

《…ちょっと待ってくれ、例え苗木だろうと時間樹は時間樹だ。管制人格も無しにどうやってその身を維持してたんだ…?》

 

《エト・カ・リファの時もそうでしたが、ある程度まで管制人格が時間樹の育成をして、その成長を軌道に乗せてしまえば、後は休眠しても維持に問題ありません………ただ…》

 

《…ただ?》

 

 イルカナが軽く間を置く。それに望は何か嫌な予感を感じながら先を促した。

 

 そして、その予感は最悪の形で以て望を打ち砕く。

 

 

 

《この時間樹の管制人格たる神剣使いは、時間樹の成長すら儘ならない内から休眠をせずに『自らを滅ぼして細分化し、その身を時間樹の内部に溶け込ませた』らしいのです》

 

 

 

 その言葉に望は息を呑む。

 

《そんな!?》

 

《不可能、ではありません。神剣による自殺ならエターナルであろうと起こり得ます。ログ領域を形成してから滅んでいたのは幸いでしたが、そこからの情報を読み取るにその神剣は、天位神剣第三位に属していました……》

 

 望の混乱は悪化の一途を辿るのみである。本当に何が起こっているのか、いくら何でもイレギュラーが多過ぎる。

 

《…エターナルが自らを滅ぼした……時間樹の護り手も遺さずに…?》

 

 混乱しながらも望は首を傾げ、その一点に注目する。

 

 神の尖兵である『ミニオン』や『エターナルアバター』の様な存在は時間樹である以上、維持や抑止に必要な物であり、ある程度確保して然るべきなのだ。

 

 イルカナの様子や報告すら無い状況を見るに、そのようなモノから襲撃を受けた様には思えない。

 

《ですが、事実としてそのエターナルは滅びています………この時間樹に更に途徹もない歪みを作り出して、ですが》

 

《歪…み……》

 

 まだ何かあるのか、と望は半ば絶望交じりに呟く。

 

 しかし、次にイルカナから紡がれた言葉が全ての謎の『答え』であり、時間樹の歪みの『元凶』だった。

 

《そのエターナルが自滅した時期が早期に過ぎたのです。時間樹は未熟で、自らを維持するシステムすら確立しないままにエターナルの死と、遺言とも取れるシステムを受け入れた。その結果として………》

 

そこまで言ってイルカナは一度心を鎮める為に胸元に手を置いた。

 

深呼吸を一つ、望に向き直る。

 

 

 

《……時間樹に『神剣、ならびにそれを操る神剣使いは吸収すべき栄養分である』というプログラムが生まれ、この時間樹に存在する神剣使い達を吸収し始めたのです…》

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 一部の窓ガラスが粉砕されたとある喫茶店の中、複数の人間が何やら重苦しい雰囲気を纏いながら話しこんでいた。

 

「ナノハ…考え直す気はないのか…?」

 

 半分諦めながらも一応はなのはに尋ねてみるレーメ。

 

 実は四回目の質問だったりもする。

 

「決めたもん!」

 

 こちらも四回目の全く同じ返事を寄越す。高町なのはという少女は、本当に決めた事には完全に意固地になるらしい。ずっとこの返事の一点張りだ。

 

 眉間を押さえながらレーメは視線をなのはの右横に移す。

 

「シロウよ……どうにか……」

 

「なななのははがががたたたた戦いをををしえててて」

 

「……ならんな」

 

 壊れたラジカセの如く言葉を操るのは、なのはの父親である高町 士郎。

 

 かれこれ約三十分前からこの調子である。

 

「モモコよ……何か知恵は無いか?」

 

「うーん…私が言うのも何だけど…こうなっちゃったらねぇ……」

 

 苦笑いしながら返すのは士郎の妻、桃子。彼女はなのはの母親であるが故に、なのはの頑固さは骨身に染みている。

 

「「はぁ……」」

 

 桃子とレーメ、二人揃って溜息をつく。

 

 そんな中、ふと桃子は顔を上げて首を傾げる。

 

「あら?…なのはがあんな事言い出すって事は……」

 

「うむ、今回は自ら進んで顔を突っ込んだのだ。そして力の差を感じて…」

 

「…顔を突っ込んでも大丈夫なようになりたがった…と」

 

「まあ、『力』という『エサ』は入れ食い状態の魅力があるからなぁ」

 

 レーメと桃子がそんな会話をしていると、何か気になる語句があったのか、士郎が顔をこちらに『ぐりん!』と向ける。そのまま猛烈な勢いでレーメに詰め寄り、あくまでも静かな口調で士郎は含めるように尋ねた。

 

「レーメちゃん……『なのはが力を手に入れた』と言ったね…?」

 

「あ、ああ…簡潔に言えばそれで…」

 

「理由…原因はわかるかな?」

 

「…あー………どう話した物か…」

 

 軽く考えを巡らせる。

 

 力を得た少女、戦力外通知を受けた少女、それをバネにしようとしている少女…。

 

 今ここで正直に話せばどうなるか………。

 

 …………………………………………………………………………………………………………………………………自分には関係無いじゃん。

 

 聞かれたのはあくまでも『力を手に入れた理由』であって『教えを請うた理由』ではないのだ。

 

 仲間を売る事はできないが、イタチを売るのは躊躇う必要がない。

 

 

 

 だってアイツ、イタチだし?

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

《…つまり、話を要約すると…》

 

 一つ、この時間樹には神剣使いを吸収するプログラムがある。

 

 一つ、吸収された神剣使いは僅かな欠片に分かれ、エネルギーとして時間樹の中を流転している。

 

 一つ、神剣使いがバラバラに散った事により、神剣そのものすら細かく分かれ、欠片となった神剣使いの元へ行こうとしている。

 

 一つ、この時間樹での『魔法文明』とは、神剣の力を誤解した物である。

 

《…歪みしか無いように思えてきた……》

 

《本当ですね…自分で言いながらうんざりしてきました》

 

 イルカナも疲れたように呟く。だが逆に望はそこにとある仮説を立て、一つの謎を解きにかかった。

 

《…でもおかげでスッキリした事がある》

 

《?…何がです?》

 

《実はな、イルカナ……》

 

 そして望はこの世界での顛末を話す。

 

 それを聞いたイルカナは大きく頷いた。

 

《望さんの考えは分かりました。恐らくそれで間違いないでしょう》

 

《パーマネントウィルが人を襲い、悪しき願望器と呼ばれる理由……か…》

 

《…神剣の自覚が無ければ同じ事ですよ。その本質を理解していないのに使いこなせる訳が無いんです》

 

《…だよなぁ…》

 

 望は頭を抱えてその場にうずくまる。イルカナも深い溜息をつくが、すぐに現状報告に入った。

 

《落ち込んでも始まりません。まずは沙月さんとナルカナの現状ですが…》

 

《ああ、どんな感じになってるんだ?》

 

《沙月さんはログ領域内部にて必要な情報の仕分けをしています。根幹からシステムが間違っていたので、他のバグを探していて、合流は遅れるかも知れません》

 

《そうか……なるべく早くに会いたいよな…》

 

 ……イルカナの額に太っとい青筋が浮かんだ事に、望は全く気付いてはいない。

 

《……次にナルカナですが、バグに対する大まかな対策を立てて、現在はそのシステムを改善するアーティファクトを製造しています。それが済めば、私でも代役が務まるとの事なので、終わり次第飛んで来るそうです》

 

《全く……でもそんな所が何よりナルカナらしいよ…》

 

 僅かな微笑みを浮かべながら、望は目を細める。

 

《…望さん……その表情は反則ですよ?》

 

「…?」

 

 顔を赤らめながらイルカナが横を向く。望は訳も分からず首をカクンと傾げた。

 

「んぷッ!」

 

 イルカナが慌てて顔を押さえる。 指の隙間から紅いモノが流れ落ちる。

 

「ッ!イルカナ!!」

 

「だっ大丈夫、大丈夫ですから!」

 

 ダパダパと血を流しながら望を近付けまいと手で制する。

 

(今の望さんは極めて危険! この可愛さは反則でしょう!?)

 

 先程の深刻な雰囲気はもはや見る影もなく、重苦しい空気は完膚亡きまでに叩きのめされた。

 

 いかにイルカナとてこの空気を持ち直す事は不可能だろう。

 

「とにかくっ! とにかく今はそういう事なのでっ!」

 

「…あれ?」

 

 慌てながら距離をとるイルカナに、望はまたもや首を傾げる。

 

「イルカナは高町さんにお世話にならないのか?…厚かましい話ではあるけど、ステイの為に招待したがってるぞ?」

 

《いえ、私はこれからマナホールの調査に行きます。原理の調査だけなので一週間もかかりません》

 

 どれだけ慌てようとも流石はしっかり者のイルカナ。核心に触れる部分は神剣言語を忘れない。

 

 …流れ続ける鼻血さえ無きゃなー…

 

《…分かった。それが終わったら是非来てくれ。あの家は…温かい》

 

《ええ、その時は是非》

 

 イルカナも笑いながら神社を去る。

 

 やがてイルカナの気配が消え、それとほぼ同時に結界も霧散する。望は帰ろうと高町家に向かい足を動かそうとした。

 

「…………あ」

 

 踵を返そうと、軽く横を向いた所であるモノが目に入る。

 

「……イタチ扱いでも掘っても良いから忘れるのだけはやめてくれよう…」

 

 ……もはやオチ要員でしかなくなったユーノはめそめそ泣きながら愚痴っていた。

 

「いや、悪い。完璧に忘れてたよ…」

 

 申し訳なさそうに望が謝罪する。何とか立ち直ったユーノは望の肩に乗り、望と共に家路へ向かった。

 

 

 

 

 …尚、今夜の高町家の夕食メニューが『イタチ鍋』に決まりかけている事を彼らが知るのは、自分達がリビングへ入ってからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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