聖りりかる   作:岌斗

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第16章 ~接敵、勝利と敗北~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(のっ、望くんのっ!! 指、唇!?ゆくちッ!? あっでも…幸せ…だな…………もうちょっとくらいは……こうして…ん……っ! 離れる? 指が……駄目! ダメだよ!! せっかく! 折角なのに!! ……離さない、離したくない!! でもっどうしたら!? …………ッ!!!)

 

 

 

ガシィッ!!!

 

 

 

「んむっ…ちゅぷぅ……」

 

 

 

 そして、世界は凍り付く。

 

 精々がうっとりして腰砕けになる程度だろうと、そう高を括っていたレーメは目を見開き硬直。イルカナもなのはの予想外の淫靡さに感心して顔に手を宛てがい、静観に徹する事にした。

 

「れろっ…んちゅ、ぷはっ」

 

 指先の指紋ひとつひとつに至るまで、丹念に何度も舌を這わせる。

 

「ちゅぴっ、あふっ………んむ…んくっ! はふぅ……ちゅる」

 

 硬直して動けない望の人差し指と中指を、なのはは舌で強引に押し開いて、更に望を味わおうと指を甘噛みした。

 

「れろれろっ………ぴちゃ、ちゅっ…はぅ…」

 

 ほんのりと桜色に染まった頬に、蕩けて潤んだ瞳。本当にコイツは九歳なのかと疑いたくなる様な、そぐわない色気を存分に醸し出している少女に、しかしそれを指摘できる者はこの場にいない。

 

 少女の口腔で温められ、程よく柔らかくなった指先。その爪の隙間に歯を入れて、僅かに残った爪垢をなのはの犬歯が優しく削り取る。望の一部であるその味に、なのはの背筋がぶるりと震えた。

 

「ひゅむぅ!! ……んあっ……く……ぷはっ…はぁぁぅ………」

 

 ようやくその唇を望の指から離す。指先から唇に架かった、てらてらと光る唾液の掛橋をなのはが確認したのも束の間、再びその唇の中に指を招き入れる。

 

「はむっ…ちゅ…ちゅぞぞっ! ………んくぅ……ごくっ…んふ………ぷぁ」

 

 指の隙間の僅かな谷間に溜まった自分の唾液を吸い取り、その勢いのまま嚥下。

 

 自分のものである筈のそれが、望というフィルターを通すだけでこれ程まで熱く、また愛おしくなれる事になのはは感動すら覚える。それでも舌が運動をやめる事は無く、逆にその感動は動きを加速させる為のスパイスにしかならない。

 

「ふ………れぷっ……ねろん……れるれるっ……むちゅ」

 

 先程とは趣向を変え、望の指を舌の裏側に回し、舌の表面より更に柔らかい場所で望の指を転がす。ある程度小馴れてくると、今度は頬の裏側まで指を導き、歯茎と頬で指を刺激した。

 

「………ぷはっ…」

 

 今度こそなのはが唇から望の指を解放する。そこには先程よりも遥かに濃厚な橋が幾重にも見て取れた。唾液は望の指だけに留まらず、その手全体に広がる。それでも直接咥えられた望の人差し指と中指の様相は凄まじく、長時間の愛撫にふやけ切り、濡れた指先特有の深く刻まれた皺に溜まった僅かな唾液が、その本来の発生源から糸を引いている。

 

「……舌…疲れちゃった………」

 

 糸を引いたままの口からぽつりとなのはが言葉を漏らす。少し困った表情で望を見上げ、その視線にようやく望の時が少しだけ動き始めた。

 

「…………え………? …あ……と……?」

 

 尤も、混乱の最中に止まった時間から解放されただけなので、再び動いた所で混乱が続くだけではあるのだが。

 

 そんな混乱などお構いなしに、なのはの表情が再び輝きだす。

 

「……そうだ! これなら………」

 

 言うや否や、なのはは望の乾き始めた指に再び唇を当て、

 

 

 

 

 一気に限界までその指を口の中に突き込んだ。

 

 

 

 

「んぐっ…! んっ…んっ! …んっ…んふっ…!」

 

 そのまま顔を前後させ、なのはは指を喉で愛撫する。

 

「………っ!!」

 

ちゅぽんっ!

 

 ようやく事態を飲み込み、正気に戻った望が手をなのはの口から引き抜いた。

 

「んぷぁっ!」

 

「なっ! なっ…なっなっ……なんっ!?」

 

 まともに言葉を発する事も出来ず、呆然となのはを見る。そんな望の様子に気付かないなのはは、潤んだ瞳を更に熱情に焦がしていた。 一度大きく燃え上がった以上、最早少女のリビドーは止まらない。

 

「ぃやぁ……やぁぁ…」

 

 イヤイヤと首を振りながら、望の服に縋り付く。桃色に潤んだ瞳に涙を湛え、上目遣いに望の顔を覗き込んだ。

 

「いやって……え? なにっ……が!?」

 

 予想だにしないなのはの行動に、いくら正気を取り戻したとはいえど、望は普段と掛け離れたなのはに戸惑うばかりである。

 

「やぁなのぉ…もっと……もっとぉ……」

 

 混乱した望などお構いなしに、なのはが必死におねだりする。その涙ながらの訴えに、望に残された何とか稼動する理性が反応を示した。

 

 ただ、その反応に問題点があったとすれば、

 

 

 

 

 

 

すっ

 

 

 

 

 

 

『生来のお人よし』な方面に発揮されてしまった事だろう。

 

「はむっ!!」

 

 嬉々として指先にしゃぶりつくなのは。その笑顔に望も僅かに表情を和らげた。

 

 

 

 

 

 

 

「ド阿呆ぉー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

ゴキャッ!!

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいなの」

 

 数分後、見事なたんこぶの塔を頭に築いたなのはがどこか満ち足りた表情に、つやっつやの頬で胸を張りながら正座していた。その様子に先程から火を噴きっ放しのレーメが再度噴火する。

 

「本当に反省しておるのか!?」

 

 詰め寄るレーメにも動じずに、なのはは自信満々に答えた。

 

「反省はしている。後悔はしたくない」

 

「強くなりましたねぇ…」

 

「こんな強さなど求めておらんわぁ!!」

 

 ホロリと漏らしたイルカナの呟きに、再三レーメが噴火する。望は手を洗う為に、先程洗面台へと赴いた。

 

 それまでの流れを切る様に、イルカナが主語も無くなのはへと問い掛けた。

 

「で、どうでした?」

 

 言われた瞬間、なのはが無表情になる。先程の行為を反芻、少しばかりの間を置いた少女は相好を『にへら』とだらしなく崩し、

 

「ごちそうさまでした……」

 

 それだけ言うとお花畑へと旅立っていった。それを見たイルカナは満足げになのはを見遣り、レーメはというと、

 

「………」

 

 喜怒哀楽を完全に排した無表情で、固く握り締めた右手を大きく振り上げていた。

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

「お待たせー………って、また増えてないか?」

 

 望が戻ると、最後に見た時より更に三段ほど頭の塔を増築させたなのはが、うっとりとした表情で虚空を見詰めていた。

 

「………どしたの?」

 

「絶賛トリップ中。ですね」

 

 何気なく告げるイルカナに、怒る気力も失せて若干燃え尽き気味なレーメが続いた。

 

「……今日は最早話にならん。イタチよ、汝から相手について詳しく聞きたい」

 

 話を振られたユーノが、棚の上にあるレイジングハートを持って来る。

 

「「「?」」」

 

「話を聞くよりも実際に見た方が早いでしょう。デバイスには記録機能もあるので」

 

 そう言いながら茶菓子を載せて来たお盆にレイジングハートを置く。

 

「……微妙に便利だな」

 

「それは褒めてるのか?」

 

「判断し難いのだ。仕方あるまい」

 

 そうこうしている内にレイジングハートから光が溢れ、立体映像が顕れる。

 

「「「おぉー……」」」

 

 三人の口からそれぞれ漏れる感嘆の声に、ついつい得意げになってしまうユーノ。

 

 そして、映像が流れ出した。

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「この辺りかな……っと」

 

 レイジングハートの映像記録を調べながら、件の箇所を抜き出す。

 

「ここからですね。過程はともかくとして、まずはここだけを」

 

 ユーノの言葉と共に空間のディスプレイに写されるのは、二人の少女が対峙したその時点が静止画となった構図だった。

 

 そこに映し出されているのは、片や見慣れた居候先の末娘。

 

 もう一人は見事な金の長髪を持った、なのはとそう歳は変わらないであろう少女だった……のだが

 

 

 

 

 

 

 

「あの年頃でこの格好か……」

 

「若干痛々しい……ぞ?」

 

「全部自分達に跳ね返るから何も言いませんよ」

 

「「ぐはぁっ!」」

 

「………続けますよ」

 

 呆れたユーノの操作のもと、映像が再生される。

 

 

 

 

 

 

 

 金髪を靡かせる少女は地面を主眼に置いた接近戦を得手としているらしい。対するなのはは待ち技主体の遠距離型。なまじ手札が多いだけ、戦いを知らない此方に不利が働く。しかし、少女はその不利を手数で補っていた。

 

 

 

ゴンゴンバギンドンゴガンガコン!!

 

 

 

 凄まじい音を鳴り響かせ、少女がなのはの光弾を迎撃する。

 

「……っく!」

 

「はあぁぁっ!!」

 

 しかし、敵もさる者。計算速度や魔力の集束にはやはりあちらに一日の長があるらしく、徐々になのはは押されてきていた。

 

「…………!!!」

 

 ついに少女がなのはに肉薄しようかというタイミングで、なのはがスタイルを変更する。

 

 

 

 

 

 

 

「ここに来て…!」

 

「選択肢としては確かにアリですが」

 

「それだけではない! あの術式、まだ実証段階だと言うに!」

 

 

 

 

 

 

 

 大胆な戦術のスイッチング。それまで主体としていた射撃戦の一切を否定した、根底からの近接戦闘特化。未だに身体を思うように操れないなのはは、とある裏技を用いる事でその弱点を補っていた。

 

 

ぐんっ!

 

 

「な…」

 

「ていっ!」

 

 なのはの突然の転身に、さしもの少女も身を硬直させる。が、その展開すら少女は上空へと逃れる事で、事態を脱して見せた。

 

「ふっ…!」

 

「………!」

 

 なのはが追いすがるように飛行魔術を展開、対する少女がそれに反応して斬撃型の遠距離攻撃を放つ。レイジングハートが防壁を張り、魔力同士で爆発を起こした。

 

「…!!」

 

 黒い少女は爆発が収まる前に距離を詰め、なのはの首筋に刃を突き付けようと振りかぶる。その挙動を気配だけで見極めたなのはが爆煙の中から右足を即座に跳ね上げ、鎌の棒に当たる部分を蹴り飛ばして地面へと着地、全身をバネにする様にしなやかに姿勢を下げた。

 

「!!」

 

 突撃の気配を察した少女はデバイスを蹴り飛ばされた反動を利用して距離を稼ぐ。視線をなのはに固定したまま滑空、三十メートル程の距離を置いて改めて少女達は再び対峙した。

 

「………」

 

「………」

 

 互いに無言、空気すらも動きを止めた様に音が止む。

 

 

 

 ただ、静寂。

 

 

 

「ふッ!!」

 

 先に動いたのは、なのは。飛行魔術の出力を全て相手へと向け、更に自身の筋力を上乗せする。限界まで腰を落としたそのロケットスタートに、望は舌を巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実戦成長型……突撃と同時にバリアを張って防御も兼ねる、か………たった一回の実戦でここまで…」

 

「…一番伸び代がある反面……」

 

「一番命のリスクが高いですね…」

 

 レーメとイルカナの言葉に、暗澹としながらも心根では素直に教え子の成長を喜びたい。望は複雑な表情で映像を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぅッ!!?」

 

 なのはのロケットスタートに驚愕したのも一瞬、何とか上体を捻り、更にデバイスを敢えて前に突き出す事で起動を逸らしにかかる黒衣の少女。

 

ギャリン!!

 

 確かな手応えと共に軌道がズレる。その結果に少女は笑みを浮かべ、

 

 

 

ドゴォッ!!!

 

 

 

「ガ…はァッ…!?」

 

 途端、脇腹への衝撃。

 

 ロクな受け身も取れず、少女は森の中へと吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……自身が砲弾になるが故の利点…」

 

 レーメが呟く。あの少女には何がどうなったかなど、理解できないだろう。

 

 だが、仕掛けた側ならば解る。仕掛けた側の情報だから解る。

 

 

 

 なのはと少女が擦れ違う瞬間、なのはがレイジングハートを無理矢理に振るって少女の脇腹を強打したのだ。

 

 

 

 だがそこは相手もさる者。バリアジャケットと咄嗟の魔力放出で決定打になり得るダメージは無いらしい。

 

 更に続く映像だが、ユーノがレイジングハートに触れて再生を止める。

 

「………で」

 

「あの娘を弾き飛ばした先にジュエルシードがあって持ち逃げされた、と」

 

「まぁ、有り体に言えば」

 

 先の話を併せ、結論づけたレーメにややげんなりとしたユーノが言う。

 

「まぁ、ナノハがあれだけ意気込んだならば次はあるまい。汝も戦いのセオリーを覚えておく事だな」

 

「はい!」

 

 意気込むユーノに、望は少し疑問を投げ掛ける。

 

「それよりも…」

 

「?」

 

「いや、なんでもない」

 

 気のせいだろう。そう望は自分に言い聞かせ、浮かんだ疑問を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

「………とまぁ、そんな行事でな。こればっかりは君達にも参加して貰いたい」

 

「いえ、こっちからでもお願いしたいくらいですよ」

 

 翌朝の高町家、リビングで朝の鍛練を終えた望と士郎が何やら話し合っていた。

 

「…うぃー…」

 

「おや、おはよ……う?」

 

 そんな朝の台所に、ナイトキャップを被ったレーメが訪れる。

 

 

 

 

「レーメ、1+1=?」

 

「しる○にあふぁみりぃ…ふぁー……」

 

 

 

 

 完全に寝ていた。

 

 ほぼ本能だけののそのそとした動きで歩いて来たレーメが、フローリングの溝にべちゃりと躓く。そのまま再び夢路に旅立つレーメを望が慌てて起こしに行った。

 

「………願わくば、この平和を…か」

 

 誰にも聞こえない様に、小さく士郎が呟く。その手に握った拳は、果たして何の為を思ってか。

 

 一瞬、ほんの一瞬だけ表情を陰らせた士郎は、顔を上げると普段の表情に戻る。パンパンと手を叩き、一日を始める為に軽く気合を入れた。

 

「さ、今日も頑張るか! 望くん、なのははどうした?」

 

「寝てますね。少し疲れてたみたいだから今朝は鍛練は控えました」

 

「そうか。レーメちゃん、起こしてきてくれないか?」

 

「既に来とるぞ?」

 

 望に起こされ、ようやく意識を覚醒させたレーメがクイッと下を指差す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…む゛ぁぁ゛ぁぁー…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに全身を引き攣らせて悶えるなのはがいた。

 

「……?」

 

 事情を飲み込めない士郎が思わずなのはを指差しながら望を見る。

 

「多分…筋肉痛……?」

 

「……あのロケットスタートからの無理な姿勢変更。普段使わない筋肉の酷使にイメージだけが先行し過ぎた運動。加えて、なまじ足りない全てを可能たらしめる魔法の力…当然といえば当然か」

 

 呆れて肩を竦めたレーメが独白する。一方の士郎は望の言葉に一応の納得を見せた。

 

「まあ、本格的に始めたのは最近だから仕方ないだろう」

 

 まずは筋肉痛の為のマッサージからか、と士郎がなのはのケアを考えながら台所へと赴く。面白がってなのはの体中をツンツンとつつくイルカナを尻目に、家族分のカップとソーサーを棚から出してコーヒーメーカーをセッティングし始めた。

 

 

 

 今日も今日とて、高町家の一日が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬっふっふっふ…………」

 

「…不気味ねぇ、何笑ってるのよ」

 

「設置完了ぉー! よって私のノルマはクリアー!! さーて、今からとっとと会いに行くわよー!!」

 

「え!? ちょっと!」

 

「じゃ、私こんな所で油売ってらんないから! おっ先―!」

 

「待ちなさいよ! 私ココに一人ぼっちなわけ!?」

 

「最悪私と交代でアイツ派遣させるから問題ナシよ! あんにゃろ、いきなりリンク切りやがって!」

 

「そういう意味じゃないわよ! 私だって会いに行きたいのに!!」

 

 

 

「じゃあねー! 待ってて、望ー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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