聖りりかる   作:岌斗

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第1章 ~開幕の鐘は夜更けに~

 

 

 

 

 

「……ぅおっ!」

 

 転移の加速を殺しきれずに多少よろけつつも、着地を果たし辺りを見渡す。

 

 そこは闇夜に包まれた閑静な住宅街だった。舗装されたアスファルトに、区画整備の行き届いた近現代を想わせる機能的な住宅群。まだそこまで遅い時間では無いらしく、電光があちこちの家から漏れ出ている。

 

「レーメ、大丈夫か?」

 

 周囲の確認と警戒もそこそこに、望は己の相棒である神獣へと声をかける。幸いにも返事はすぐ傍から聞こえてきて、逸れてしまった訳ではないらしい。

 

「うむ、何の問…だ……い……」

 

 ふと、途中で切られていくパートナーの返答に不審を覚え、声の方へと振り向き、

 

 そしてお互いの現状に愕然となる。

 

 

 

「「………何で…………」」

 

 

 

「何で大きくなってるんだ!?」

「何故そこまで縮んでおるのだ!?」

 

「「!!!??」」

 

 慌てて自分の姿を確認し合う。

 

 そして、住宅街に二人の声が木霊した。

 

 

 

「「…んなぁぁぁぁっ!!?」」

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

「…詳しくは分からんが、封印したオリハルコンネームが何らかの影響を受けた…のだろうな」

 

「……俺の中から何かしらのオリハルコンネームを抜いたから体が縮んで、そのオリハルコンネームをお前の中で管理してるからお前が大きくなった…と?」

 

「まあ、そんな辺りであろう……詳しい事は分からん……」

 

「「……はぁ…………」」

 

 二人して歩道の縁に胡坐をかき、大きな溜息をつく。

 

 そう。

 

 二人は今、突入時からは考えられない外見をしているのだ。

 

 姿はそのままに縮尺を大きくして、少しだけ成長させたかのようなレーメ。そして遙か昔のまだまだガキと呼ばれていた頃まで幼くなった望。

 

 そしてそんな二人は、体格的には釣り合いが取れていた。無論、チビ餓鬼という意味合いでだ。

 

 徐にレーメが口を開く。

 

「此処で腐っておっても事態は進まん。サツキ達からの連絡を待ち、吾らが出来る事を成すとするぞ」

 

 思考の渦からいち早く脱し、望へと声をかける。

 

 望もそのレーメの言葉に同意し、立ち上がる。

 

「そうだな、ひとまずは…衣は最悪でも装束を展開すれば何とかなるか。食もエターナルだからマナさえあれば一応問題ないし……住が最大の懸案事項だな」

 

 己の置かれた状態を紐解き、今まで旅をしてきた経験知識から自分に必要な物を選別していく。

 

「うむ、町の文化を見る限り、ノゾムが生まれた世界に非常に近しいのではないか?」

 

 レーメの指摘に、望が頷きかけて…そのままとある思考にぶち当たりフリーズする。

 

「…まずい……この文化水準だと…」

 

 その焦りように、レーメも不安になり望に尋ねる。

 

「ノゾム…どうしたと言うのだ?」

 

「レーメ、思いだしててくれ。この文化レベルだと俺たちには何も出来る事が無い」

 

「なに!?」

 

「この手合いの世界だと治安がそれなりに安定してるんだよ。現に俺達の元々の世界だってそうだっただろう? だから大概の場合、子供は保護対象として扱われる。俺たちのこの外見だと出来る事が限られてくるんだ」

 

「た、確かにそうであったな……その辺りも追々考えるとしよう。今は現状把握に努めるべきか……此処はどんな世界のどのあたりになるのか、想像だけでも判るか?」

 

 思考を切り替え、仕切り直したレーメが望へと問う。すると望は辺りを見て断定した。

 

「どんな世界かはまだ分からないが…此処は間違いなく日本だ」

 

 そう言って親指でアスファルトの地面を指す。そこには白い塗料で大きく『止まれ』の文字が書かれていた。

 

「……懐かしむべきなのかな」

 

「それは汝が決める事だろう。吾は何処までもつき従うだけだ」

 

「それもそうか……」

 

 呟くように告げる。少しばかり目を細めて町並みを見渡し、望は改めてレーメを見た。

 

「何も感じないって事は、そこまで懐かしい物でも無いんだろうなぁ…」

 

「思っていたより反応が薄いな…」

 

 想像よりも遙かに淡白な反応に、レーメは少し拍子抜けする。しかし、それはある意味で勘違いだった。

 

 

 

「…あの日々に…後悔が無いって言えば、嘘になる」

 

「……………………」

 

「…あの笑顔に、あの涙に、未練が無いって言えば……それは間違いなく、嘘になる」

 

「……………………」

 

「…常に命を秤にかけながら生きて、泣きながら命を奪う事も、怒り任せに未来を潰すことも無い。自分の未来を懸念して、何気ないことで笑ったり、どうでもいい事で怒ったり……」

 

 レーメは望の独白に対し、沈黙を以って先を促す。望の言葉には今まで培い、重ね上げた途撤もない重さがある。望の背中には今、奪い、救い、踏みにじり、祝福した、すべての命が乗っている。

 

 これまでの望にとって……そしてこれからの望にとって、その言葉がとても大切な事のように思えた。

 

 

 

「きっと、自分が考えてる以上に…俺はこの景色を胸に刻みつけてる」

 

 

 それでも

 

 

「きっと、自分で考えてる以上に……俺はあの日々に縋りつこうと足掻いてる」

 

 

 だからこそ

 

 

「この景色を見ても、何もこみあげないのは……」

 

 

 共に日々を彩った仲間が…掛け替えの無い戦友が……

 

 

「この景色には、いないから」

 

 

 

 

 

 大切だったアノヒトも……

 

 

 

 

 

「この中には…いないんだ………」

 

 

 そう呟いた望は静かに目を閉じる。

 

 最後までその名前を呼ばなかったのは、彼なりのケジメだったのだろうか。

 

 

 静かに星空を見上げ、声なき声で叫びを上げ、枯れた瞳を瞼に隠す。

 

 そんな望の在り方があまりに寡黙すぎて、そんな望の背中があまりに雄弁すぎて、

 

 

 レーメは、声をかける事が出来なかった。

 

 

 

………キィン…!!

 

 

 

「「…!!」」

 

 しかし余りにも唐突に、その沈黙は破られる。

 

「レーメ!」

 

「分かっておる! こっちだ!」

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

「レイジングハート! セットアップ!!」

 

 掛け声と共にとある少女が光に包まれる。やがてその光は納まり、中から一人の『魔法少女』が姿を現した。

 

 そして、

 

「わきゃっ!?」

 

 その少女は、

 

「ひゃぁっ!!」

 

 

 

グオオオオォォォォォォォッ!!!!

 

 

 

 絶賛逃走中だった。

 

「はっ…はぁっ……はっ…!」

 

「落ち着いて! あなたの心にある魔法の言葉を探すんです!」

 

 下からイタチがアドバイスを送る。

 

「フェレットです」

 

 お前みたいな淫獣イタチで十分じゃい。

 

「…魔法の…言葉……」

 

 そう言って少女は足を止めて心を鎮める…

 

ガアアアアァァァァ!!!

 

 最早、自分たちを追いかけていた黒い影はすぐそこまで来ている。それでも少女は持ち前の責任感と、頼る者なき孤高なる精神で心の均衡をなんとか保ち続けていた。

 

 そして、

 

「…! 見えた!!」

 

 杖を一気に構え、少女はその言葉を叫ぶ!!

 

 

 

「リリカル・マジカル!」

 

 

 

「封印すべきは悪しき器、ジュエルシード!!」

 

「ジュエルシード、封印!!」

 

 少女の言葉に導かれ、幾筋もの光が影へと伸びる!

 

 

 

ギシッ!!

 

 

 

 光の帯がその不定形の身体を抑えつけ、影と光が拮抗しせめぎ合う。

 

 やがて……

 

 

 

ビリビリッ、ブチン!!

 

 

 

 その影を抑えつけていた桜色の帯は千切れ飛び、跡形もなく砕け散った。

 

「ふぇっ!!?」

 

「そんな!?」

 

 驚愕の声を上げるも、命の脅威はそこまで迫っている。

 

「…や…ぃやあ……」

 

 極限状態から解放され、集中の糸が切れてしまった少女に冷静さは最早残されてはいない。

 

 巻き込んでしまった失態を後悔しながらも、事態の原因となったフェレットは特攻の構えを取っていた。

 

「いやああああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁあっ!!!!」

 

 絶体絶命の中、恐慌状態に陥った少女が遂に悲鳴を上げる。

 

 それを合図にしたかの様に黒い影が少女に襲いかかった!

 

 

 

「レーメ!!」

 

「うむ!『クゥルトクゥル界の稲穂』限定十パーセント解放!」

 

「隙なく縛れ!“グラスプ”!!」

 

 

 

ギシィッッ!!!

 

 

 

 今度こそ影が動きを止める。

 

 大地に縫い付けられたが如く、影は白金に輝く光に縛りあげられてその総身を地面へと這い蹲らせた。

 

 少女は恐怖と安堵の連続に思考が追い付かず、満足に声も上げられない。極限状態が故に、逆に冷静な部分を残していたフェレットは、影を縛りあげている未知の魔法の質と、その魔力密度に絶句している。

 

 やがてその魔法はゆっくりと影に食い込み……

 

 

 

ギチギチ……ッ

 

グチンッ!!!!!

 

 

 

「なぁっ!!??」

 

 フェレットもまさかそこまでの威力があるとは思わなかったのか、どこか間抜けな悲鳴を漏らす。

 

 締めあげていた縄状の魔力がそのまま影を捩じ切った。言葉にすればそれだけだが、それ故にその行為の異常性が際立っている。

 

「ふぅ…間に合ったか…」

 

 腰を抜かして立つ事もままならず、混乱から声も上げられない少女に対し、突然現れた少年は呟きながら自然に近付く。

 

 そして、右手を差し出しながら、

 

 

 

「大丈夫か?」

 

 

 

 

 そう、呟くように声を掛けた。

 

 

 

 

 

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