聖りりかる   作:岌斗

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第22章 ~スキマを継ぐモノ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?………何…が……」

 

 

 

 

 全身が悲鳴を上げている。

 

 

 

 なのに、何故か痛みを感じない。

 

 

 

 何かが身体を蝕んでいる。

 

 

 

 なのに、何故か力が沸き上がる。

 

 

 

 何が、起こった。

 

 

 

 ともすれば二度と起き上がれそうに無い全身の倦怠感を感じながら、途切れそうになる意識を必死で繋ぎ留めて、フェイトは現状把握に努める。

 

「……そうだ………」

 

 我が身の状態、肩に担いだ自分の使い魔を視界に収めたところで、漸く思い出す。ジュエルシードの光を見た瞬間、己の直感が警告を発した。その本能に従い、アルフを敵から助け出したんだと。

 

 そこに考えが至ったフェイトは、自分が動けない程に疲弊しているのが、限界を遥かに超越した機動による反動なのだと連鎖的に理解した。

 

 だが、あくまでも敵からアルフを引き剥がしただけであり、相手は未だに健在である。

 

「……っく!」

 

 体勢を立て直そうと試みるが、身体が動かなければ意味が無い。その為体に半ば呆然としながら、敵を見る。先程と同じ光がジュエルシードに収束し、

 

 

 

 

 

「レーメ! 出し惜しみは無しだ!!」

 

「うむ!『大いなる和睦を呼ぶ笛』発動!」

 

「万象、貫く能わず!!“オーラフォトンバリア”!!!」

 

 

 

 

 

 刹那、謎の光がフェイトとアルフを包み、球状の力場が形成される。

 

「え!?」

 

 疑問を漸く口にした瞬間、ジュエルシードから光が放たれた。

 

 

 

カッ!ガギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギッ!!!

 

 

 

 ……その光の氾濫を、フェイト・テスタロッサは生涯忘れないだろう。

 

 押し寄せる光が、ぶつかり、分解されて淡い燐光となる。その輝く欠片は宛てなく漂ってしまいそうな儚さを持ちながらも、間断無く放たれ続ける光に押されて圧倒的な流れを形作った。

 

 

 

「………すごい……!」

 

 

 

 それは間違いなく、少女にとって初めての光景。殺伐とした実家、清潔にされながらも何処か虚ろな自宅、霞がかった記憶の隅にある白い草原………

 

 それら全てを呑み込む程の、己の眼前に広がる奔流。 

 

 今までに感じた事のない、絶対的な衝動。

 

 

 

 この瞬間、フェイトは意味が無くとも涙が流れる事を知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ノゾム……!!」

 

 フェイトの周囲にオーラフォトンバリアを展開し、ジュエルシードの攻撃から少女を護る望とレーメ。相手からの攻撃を完全防御する事に成功して安心したのも束の間、内包されたパーマネントウィルを看破した三人からは余裕の色が失せていた。

 

「『滅亡の光』……これまた、とんでもない厄ネタが転がり込んだモンじゃないの」

 

 うんざりだと言わんばかりにナルカナがぼやく。しかし、その雰囲気や言葉の端々に刻み込まれた緊張感を拭い切れてはいない。

 

「当然それだけじゃない…よな」

 

 肉塊を睨み据えたまま、望は相手の分析に意識を割く。もしも自分の予想通りであるならば…

 

「やはりパーマネントウィルを制御する為の因子が組み込まれておる…な。よりにもよってこんな所で適合せずとも良かろうに……!!」

 

 いち早く分析を終えたレーメが忌々しげに呟く。その言葉を受けた望とナルカナも、己の予想が的中した事に顔を歪めた。

 

 

 

『滅亡の光』

 

 

 

 その名が指し示す通り、その光は等しき滅びを容赦なく齎す。それは放ったモノとて例外ではない。

 

 そんな光を放ちながら自身は滅びず、あまつさえ指向性を持たせたのだ。それはつまり、パーマネントウィルを取り込んだ存在が『滅亡の光』を御する因子を持っている証に他ならない。

 

「あの娘のナル化もあるってのに、なんでこう次から次へ……」

 

 半眼でオーラフォトンバリアに護られている少女を見遣る。

 

「……少なくともフェイト・テスタロッサのナル化は表面的な物らしい。根幹には至っていない所を見れば、最悪ナル化した部位の切断だけで済む。原因の考察が必要なナル化と違って、あのジュエルシードは倒しさえすれば解決できる」

 

 望が判断を下し、黎明を軽く振った。

 

「まずはアレからだ」

 

「……そう簡単には行かぬぞ。心せよ」

 

 レーメが警告を送るが、だからと言って望がするべき事は変わらない。

 

「…今の俺じゃ少し厳しい闘いになる。ナルカナ、フェイト・テスタロッサに張り付いておいてくれ」

 

「りょーかい、用心しなさいよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………!…」

 

 ジュエルシードからの砲撃が止む。フェイトは最後まで無事だった事に安堵しながら、僅かな名残惜しさを感じている自分に戦慄した。

 

「…………ん…フェイ…ト……?」

 

「っ、アルフ…!」

 

 そんな折、左肩に抱き抱えたアルフが目を覚ます。先程の自分を振り払う為に、半ば縋るようにアルフへと話し掛けた。

 

「アタシ…は……?」

 

 フェイトの超加速に耐え切れず、朦朧とした意識のままでアルフは言葉を発する。

 

「私が無茶な助け方した所為で気絶したんだ……ごめんね」

 

「いや……お陰で生きてられるんだ。流石はアタシのマスターだよ」

 

 弱々しくも、何処か誇らしげに微笑する。フェイトはその笑顔に、何故か救われた気がした。

 

「とにかく今は、アレを回収しないと…」

 

 自分の本来の役目を思い出し、どうにか動く身体を引き擦りながら、ジュエルシードに向き直ろうとする。

 

 

 

「はい無茶しなーい。ココはナルカナ様と愉快な仲間達にまっかせなさーい」

 

 

 

 …が、妙に間延びした気の抜ける声が掛けられ、気勢を一気に削がれた。

 

「アンタっ…!」

 

 面識のあるアルフが声を荒げるも、思う様に身体が動かない。そんな我が身を煩わしく思いながらも、目の前のこの女に従わざるを得ない状況を自覚し、どうにか言葉を引っ込めた。

 

「……貴女は…」

 

「問答無用! いいから離れるわよ!」

 

 言うが早いかフェイトとアルフの襟首を掴み、跳躍する。

 

「こっ、こら離せ!」

 

 アルフが抗議し、暴れようと身構える。その気配を察知したナルカナはキッと眦を吊り上げ、アルフを睨みつけた。

 

「…離す分には構わないけど、遺書は書いたの?」

 

 その言葉を聞いたフェイトとアルフが疑問を抱くより早く、背後から巨大な光芒が立ち上った。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノゾム、今の状態では上級以上のパーマネントウィルは使えぬぞ!」

 

 レーメが背後から警告を促す。その警告を尻目に、望は黎明を抜き放ち、ジュエルシードへと斬り掛かった。

 

 

ザギュッ! ギチィッ……

 

 

「!!」

 

 この感触、樹と肉を交互に絡ませて勢いを殺いでいるのか!? 予想外な手応えに驚くも、咄嗟の判断で黎明を手放す。グズグズと肉が絡み付く前に黎明の顕現を解除し、手元に再度形作るとレーメに指示を飛ばした。

 

「レーメ、オーラフォトンバリアを全域に展開だ! レーメはその維持に専念しろ!」

 

「心得たが……一人でやれるか?」

 

 懐疑的な視線を送るが、生憎と望は反応しない。その様子に何かしらの算段を察知したレーメが、改めて望に問い質した。

 

「いや、考え過ぎたか。ノゾム! 譲渡するパーマネントウィルは!?」

 

「そうだな………『繰り返す戒』、『星宮の麦』、『内なる光輪』、『冥界の地下水脈』…後は『クゥルトクゥル界の稲穂』を!」

 

「心得た! これより『繰り返す戒』、『星宮の麦』、『内なる光輪』、『冥界の地下水脈』、『クゥルトクゥル界の稲穂』、以上のパーマネントウィルの発動権限を一時的に譲渡する!!」

 

 レーメがそう宣言した瞬間、レーメの胸元から四つの光が望へと飛んで行った。その光は望の周囲を軽く漂うと、一斉に望の胸元へと入り込む。その様子を望が確認すると、黎明の柄を軽く握り直した。

 

「よし……行くぞ!!」

 

 

ドォンッ!!

 

 

 大気が震え上がるほどの強烈な震脚を地面に打ち込み、勢いもそのままに大上段から黎明を振り下ろす。しかして結果は先程と同じく、斬撃半ばには肉と樹の波状の衝撃吸収が行われ、続く一手は先と同じく肉塊による黎明の取り込みだった。

 

「ッしゃらぁ!」

 

 そんな事などは望とて織り込み済みである。オーラフォトンを纏わせた脚を黎明の柄に叩き込み、更に奥まで刃を食い込ませる。同化のポイントをずらされ、更なるダメージを受けた肉樹はその総身をぶるりと震わせ、何かを確かめるように小刻みな動きを繰り返した。

 取り込みをさせない為にも黎明の顕現を解除し、再びその手に呼び出した望はその挙動に疑念を抱くも、最優先すべきは脅威の排除以外に無い。此処は様子見を選択すべきであろうが、相手の内抱するパーマネントウィルはその予断を許さない物である。なれば罠であろうとも飛び込む以外の選択肢は無いと、牽制と姿勢崩しのオーラフォトンを纏わせた震脚を間近から叩き込んで、更に二刀を躍らせる。

 

 

ぐにぃぃぃ……

 

 

 樹と肉の絡みつきを防ぐための浅い斬撃を繰り返し、それでも相手に届かない事を悟ったのか、相手がのったりとした動きで最も太い肉の触手をしならせる。それを目で追った望は一度距離を取るべきかと考え、軽く重心を後ろへと逸らす。

 

「………?」

 

 なんだ、この奇妙な挙動は。

 

 その肉の触手を鞭として使うのであれば、その溜めはあまりに浅いと言わざるをえない。あれでは思うスピードも出なければ、それに伴う重さ…ひいては威力も出せないだろう。肉と樹の多重構造による鎧を編み出す程の知性を持つ存在にしては、あまりに不自然なその構え。

 

「!!」

 

 

ビュゴッガァァン!!!!

 

 

 その考えに至った瞬間、正面に黎明を構える。間髪いれずに飛び込んだのは、先程しならせた筈の触手だった。先の予想を大きく裏切る速度と重さの攻撃に、焦りはしないもののギリリと歯を喰いしばる。

 何故、その可能性を考慮しなかった。無理もない、樹がその役割を担っていると勝手な解釈をしていたからだ。

 

「骨格……ッ!!」

 

 肉塊の中に、確かな骨の手応えを感じる。樹との違いは何よりも『関節の有無』であろう。先刻は考えていなかった新たな戦術の出現に、対策を瞬時に練り上げる。それでも、一抹の自責の念は拭い切れない。

 

 勝手な解釈を組み上げ、それを軸に据えた戦術を展開する。何度自戒しようとも、どうしてもその癖が出る。

 

「……それでも…!」

 

 小さく漏らし、黎明を握りこむ。ドクンと刀身が脈打ち、望の思いに応えるようにその剣は輝きを放つ。

 

 

ビュボン! ボボボボボボボボボボボボボボボボッ!!!

 

 

 関節を相手に悟られた肉樹は、最早隠そうともせずに触手を腕のように使い、ラッシュを浴びせかける。望はその攻撃を全て避け、いなしながら肉樹との距離を詰めていく。

 そして、遂にその距離がゼロとなり、己のレンジ内に肉樹を捉えた。

 

 瞬間、

 

 

ドバァン!!

 

 

 肉樹の瘤が膨れ上がり、中から幾本もの新しい触手が襲いかかる!

 

 だが、

 

 

 

「通るかよ!!!!」

 

 

 

バッヂィィィン!!

 

 

 望の張った“オーラシールド”が、その触手を寄せ付けない。悉くを弾き、受け止めていく。それでも肉樹は一撃を届かせようと、更なる攻撃を積み重ねる。

 

「…無駄だぁぁぁぁ!!!」

 

 

ズドォン!!

 

 

 その動きを全否定するかのように、荒々しい刺突を肉樹へと見舞う。衝撃を重視したその突きに全体の動きを止めるも、肉樹は取りつかれたように黎明の吸収を試みていた。

 

 そのような三度目の愚行、望が赦す筈もない。奇しくも初撃と同じ構図に、しかし感じ入る物はありはしない。

 

 

 

 だが、先程の構図とは決定的な違いがある。

 

「ブチ貫け…!」

 

 それは、

 

 

 

「“オーバードライブ”!!」

 

 

 

 今の望には、必殺を冠する手札があるという事だ。

 望の掛け声と共に、肉に食い込む黎明が発光。その光を起爆剤に、突き立てた時とは比にならない程の激烈な突進が軟らかそうな肉の腹へと見舞われた。

 

 

ボゴン!!

 

 

 樹と肉で組成された腹部が大きくたわみ、オーバードライブの衝撃を逃がそうと全体が不気味にのたうち回る。

 

「ここかぁッ!!」

 

 のたうち回る巨体、その体軸を見極めた望が蹴りを放つ。衝撃を逃がす事に専念しているジュエルシードは為すが侭にその体躯を宙に舞わせた。

 刹那、肉のたわみが鎮静化する。衝撃を逃がし切ったのだと望が判断する前に、肉塊の表面がゴツゴツとした樹に被われた。

 

 しかし、

 

 

 

「“ライトバースト”ォォォ!!」

 

 

 

 

 望の叫びと共に、迸る閃光がジュエルシードを取り囲む!

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

ガキュキュキュキュキュキュキュキュンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なんだい……アレは…!?」

 

 茫然自失としたアルフが、溜まり兼ねた様に小さく漏らす。フェイトに至っては瞬きすら儘ならず、繰り広げられる闘争に魅入っていた。

 

「アンタ達がムキになって首を突っ込もうとしてた厄ネタ。そんだけよ」

 

 先程の望とジュエルシードの攻防、それは五秒に満たない間に行われていたのだ。フェイト達にとっては未知に等しい密度の戦闘。それをこのナルカナとか言う女性はさも当然の事とばかりに受け止めていた。

 

「…貴女達は…何者なの……?」

 

 並の魔導師でなくとも、到底至れない程の高み。そんな存在を疑問に思うのは当然だと思えた。しかし、ナルカナはその疑問を一瞥する事も無く流す。そしてこちらの主張を通すべく、一方的な告知を二人に発する。

 

「……悪いけど、アレは私達が回収させて貰うわ。アンタ達は退きなさい」

 

「なッ!? ふざけんじゃないよ!!」

 

 案の定と言うべきか、アルフは激昂する。しかし此処で、アルフにフェイトからの待ったが掛かった。

 

「アルフ、悔しいけど今回は旗色が悪い。この人達に任せよう」

 

「フェイト!」

 

 非難めいたアルフの視線から眼を逸らし、フェイトは軽くナルカナを睨む。

 

「それに」

 

「……」

 

 次の言葉を察するも、ナルカナはそれを口にはしなかった。

 

 

 

「ジュエルシードを諦めた訳じゃない。此処は任せて、改めて奪えば良いんだ」

 

 

 

 予想はしていたが、やはり気分の良い物では無い。ナルカナはフンと軽く鼻を鳴らし、ジロリとフェイト達を睨み返すと不機嫌さを隠しもせずに棘のある言葉を放った。

 

「堂々とした山賊宣言ごくろーさま。でも、当然仕掛けるからには『返り討ち』の可能性も理解してるのよね?」

 

 脅しも兼ねて殺気を軽く込めたその言葉に、フェイトが一歩、後退る。 しかし次の瞬間にはそれ以上に大きく一歩を踏み出し、ナルカナに吠えた。

 

「…だとしても、私は母さんの役に立ちたいんだ!! 大魔導士プレシア・テスタロッサの娘は……こんな所で立ち止まれないっ!!」

 

 その、言葉に籠められた、

 

「へぇ…」

 

 真意と真理をナルカナが理解しない訳が無い。

 

「ま、いいわ…今の所は見逃してあげる」

 

 瞬時に鋭くなった眼光を和らげ、相手から得た情報を漏らさずに平静を装う。

 

 

 

 ほんのささやかな対抗心からの手落ち。それすらも手札に仕舞い込むその手管は、流石の手練と言うべきか。

 

 

 

「……アルフ」

 

「…わかったよ」

 

 次の瞬間に二人は飛び上がり、飛行魔術を展開してその身を隠した。

 

「………さてと、後は望なんだけど…」

 

 

 

 

 

 

ボ ォ ン ! !

 

 

 

 

 

 

 二人の退却を認めたナルカナが踵を返そうとした刹那、聞き慣れた、しかし聞き慣れない奇妙な破裂音が彼女の耳に飛び込んで来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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