聖りりかる   作:岌斗

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第5章 ~家族への誘い~

 

 

 

 

 

「………………………………………………………………………………………は?」

 

「だから、戸籍よ戸籍! 高町家へようこそ、高町 望くん!」

 

 雀が嘶く朝一番、嬉しそうに桃子が望に話しかけて来た内容がコレである。ちなみにレーメは久々のベッドにご満悦らしく、未だに夢の中で羊を数えていた。

 

 

 

 桃子曰く、

 

世刻 望の名前を徹底的に調べた

が、そんな名前の人間は存在しない

いないのなら作ってしまえ。

折角だから高町家の養子として戸籍登録してしまえ。

戸籍獲得成功←今ココ

 

 

 

「ちょっと待って下さい!!」

 

「あら、どうしたの?」

 

 桃子は何か手落ちがあったのかと、少々考え直す。

 

「あ」

 

 そして思い当たる節へと辿り着く。

 

「望くんの旅の仲間だったわね! 大丈夫よ、呼んで貰って問題ないわ」

 

「違います!!」

 

 言われて桃子は再び首を傾げる。

 

「……?」

 

 望はその様子に若干の苛つきを覚えながら、桃子へと質問を投げかける事にした。

 

「戸籍を作った理由は?」

 

「望くん達が此処で動くのに何かと便利でしょ?」

 

「何故、姓を高町に?」

 

「望くん達の歳だと後見人より養子の方が自然でしょ?」

 

「…見た目通りの年齢だと思ってます?」

 

「まさか、昨日の交渉術を見てそうは思わないわ。理の“裏”で生きている以上、そんな事もあるんでしょう。でも今の貴方は子供なのよ?」

 

 それを言われるとぐうの音も出ない。

 

 仕方なく望は最後の質問を繰り出した。

 

「……繋ぎ止める為ですか?」

 

「ええ」

 

 悪びれも無く桃子は即答する。

 

「…貴女達へのメリットが見えない…!」

 

 吐き捨てる様に望が言う。いくら自分たちが牛耳る側の人間とはいえ、多方面に借りを作る事は善とは言い難い。

 ましてや存在しない人間の戸籍を作成するのだ。そんな危険を冒すほどの価値をたったあれだけの会話から見出せる事など出来ようはずもない。

 

 そんな望の頭に桃子は手を置きながら、諭すように言葉を紡ぐ。

 

「…私達にメリットなんて要らないのよ。こんなのは只の自己満足でしかない……でもね? そんな自己満足が何物にも替えられない幸せだと、そう思う人もいる」

 

 言われて、気付く。自分達の旅も、半分は自己満足に塗れているのだと。

 

「ずっと旅して来たんでしょう? ずっと傷ついてきたんでしょう? だったら、少しはその羽根を休めなさい」

 

 桃子の優しい言葉に頷きかけ、望はそれでも首を横に振る。

 

「…お気持ちは嬉しいです。けど…俺にはまだ、この世界でやるべき事がある」

 

 そんな望の言葉に桃子は肩を落とす。

 

「だから、羽根を休めるのはやるべき事を終えてからにさせて下さい」

 

「……!!…ええ、こちらからも是非お願いするわ」

 

 一転、満面の笑顔でもって望の言葉を受け入れた。

 

 

 

「……ぅみゅ………ノゾム~?」

 

 レーメが寝ぼけながら台所へと入って来る。望と桃子は顔を見合わせ、互いに笑い合った。

 

「…望くん?」

 

「いえ、桃子さんの口からでお願いします」

 

 そう言って望は台所を後にする。

 

「そう? じゃあそうさせて貰おうかしら。あのね、レーメちゃん…………」

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」

 

 

 直後、高町家に二人分の笑い声が響き渡るがそれは別の話。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 携帯電話に設定された、ポップなアラームで目を覚ます。

 

「……ぅ~」

 

 朝はやっぱり眠い。どう足掻こうと、この眠気に勝てる気配は今のところない。

 

 それでもなのはは無理矢理に体を起こすと、彼女の一日を始めるべく身仕度を始めた。

 

「…あれ?」

 

 ふと、彼女は違和感を覚える。

 

 おかしい、何かを忘れている。

 

 違和感が徐々に強くなっていき、なのはは周りを見渡した。

 

 見慣れた机、ついさっきまで寝ていたベッド、まだ空きスペースが多い本棚、その本棚の上に乗ったルビーの様に紅い珠……

 

「あっ!!」

 

 パジャマを脱いだ瞬間に目に入ったそれを掴み、慌てて庭先まで走る。

 

「あら、なのは?」

 

「ん? おお」

 

「あぁ、おは…」

 

 誰かが何か言っているがそんな事も気にならない。なのはは庭先に顔を出してその名前を口にした。

 

「フェレットくん!!」

 

 だが、返事は無い。まさかそのまま姿を消したのか?

 

 だったらこの宝石は回収しないと駄目な筈だ。思わずなのははその場でペたりと膝をつく。

 

 

 

 ………?

 

 

 

 妙に足元が湿っぽい。いや、じめじめしているといった方がしっくりと来るだろうか。気になったので、そっと軒下を覗いてみる。

 

 

 そこには、

 

 

 すっかり腐った生物(ナマモノ)が横たわっていた。

 

 

「いいんだよもう……僕はオチ要員で弄られキャラとして位置付けられたんだ……弄れよもう…上も下も前も後ろもさぁ………弄ってもほじっても何も言わないからさぁ……」

 

「…えっと……フェレット…くん…?」

 

「あぁ…おはようございます……貴女は前を弄りますか? それとも……後ろをほじりますか………?」

 

「ナニ言ってるのかわかんないよ!?」

 

 

 

 その後、なのはがユーノの説得に十分程かけて何とか軒下から連れ出すと母親である桃子から改めて声が掛けられた。

 

「おはよう、なのは」

 

「あ、お母さん!おはよう!」

 

「あのね、なのは…」

 

「構わんぞ、モモコ。吾らから言った方が分かりやすかろう」

 

 余り聞き慣れない声が母の言葉を遮る。桃子の横に視線を移すと、昨夜に出会った少女が立っていた。

 

「おはよう、だな。吾の名はレーメという。今日からこの高町家で世話になる事となった。今後ともよろしく頼むぞ」

 

言いながら右手を差し出す。 なのはも連られて右手を出し、

 

「今日からなのはの新しいお姉ちゃんになるのよ」

 

 桃子からの爆弾発言を聞いて飛び上がらんばかりに驚く。

 

「にゃっ!? お世話ってそっちの!?」

 

「まあ、そういう事でな。よければ汝の口から名前を聞かせ願いたい」

 

 レーメはそうなのはに言ったが、当人はそれどころではない。

 

 昨夜の恐さやら恥ずかしさやら憧れやらで頭の中が飛びかけていて、名前を尋ねる部分を辛うじて聞き取れただけである。

 

「あっあ、えっと…! た、高町っにゃのひゃでっ! あっ!!?」

 

 噛み噛みになった自己紹介をやり直す為に深呼吸を繰り返す。

 

 が、

 

「うむ!ニャノヒャだな。よろしく頼むぞ、ニャノヒャ!」

 

 満面の笑み(悪意6割)を浮かべたレーメがなのはの固まった右手を取る。しばらくはそれで呼ばれそうだ。

 

 

 

 ふと、その天啓は唐突にやって来た。

 

 

 

 今、目の前にいるのは?

 

 昨夜助けてくれた人だ。

 

 昨夜、この人は一人だったか?

 

 否、二人組でいた。

 

 では、そのもう一人とは?

 

 私を救ってくれた『王子様』だ。

 

 話の流れから察するに?

 

 …………………

 

 

 

 油の切れたゼンマイの様に首を横へと回す。

 

 すると、

 

 そこには、

 

「おはよう、昨夜は自己紹介できてなかったね。俺の名前は…今日から、高町 望だ。よろしく、なのはちゃん」

 

 王子様が右手を差し出してくる。

 

 そこがなのはのキャパシティの限界だった。

 

「∞%*↑◎!ヾΨζ」

 

「……なのはちゃん?」

 

「φ♯‡※?」

 

「…桃子さん?」

 

「………私にも予想外ねぇ…」

 

 望は桃子に視線を送るが、冷汗をかきながら眼を逸らされた。

 

 望は溜息をひとつつくと、レーメへと向き直る。

 

「…どうする?」

 

「とりあえず叩けばよかろう」

 

 言いながらレーメはなのはに近寄り、その頭をはたく。

 

「…ったぁ!」

 

「ほれ、目覚めたぞ」

 

「………まぁ、いっか」

 

「……あれ?キミは…」

 

 再起動を果たしたなのはが改めて望へと向き直る。その視線を受けた望は軽く咳ばらいをすると、もう一度自己紹介をした。

 

「改めまして、今日から高町 望です。今後ともよろしくね」

 

「あ、高町 なのはです…今後ともよろしく…望くん…」

 

 まだ完全には動いてないらしく、どこか虚ろな様子だ。流石にこれ以上は学校に差し支えるため、桃子が手を叩きながら、大きめの声でなのはに指示を出した。

 

「はい、なのはもいい加減シャキッとなさい!」

 

「にゃっ! はいなの!」

 

「あと! その格好! いくら望くん達が今日から家族になるとはいえ、少しだらし無いわよ!」

 

 瞬間、なのはの刻が凍る。

 

 スッと、何気なく視線を下げて自分の姿を確認する。

 

 

 

 キャミソール一枚に、可愛らしい白のパンツだけを纏った自分の姿を。

 

 

 

「…………」

 

 転瞬、なのはは完全な無表情と化す。

 

 無表情を貫き、極めて冷静な仕草で肩幅に脚を開き、自然な体勢をとりながら視線は斜め上四十五度を向く。

 

「…すぅぅー…」

 

 大きく息を溜め、気を限界まで鎮める。

 

 刹那、

 

 

 

「ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

 

 高町家史上最大の絶叫が邸宅の中に響き渡った。

 

 

 

 

 

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