聖りりかる   作:岌斗

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第7章 ~高町なのはは揺るがない~

 

 

 

 

 魔物をやっつけてくれた、王子様がいた

 

 

 私を助けてくれた、王子様がいた

 

 

 でも、私では王子様を、守れない

 

 

 私では王子様を支えられない

 

 

 そんなの、いやだ

 

 

 守られるだけは、嫌だ

 

 

 ただ足を引っ張るだけは嫌だ!

 

 

 お荷物に見られるのだけは、絶対に嫌だ!!

 

 

 だから、あの言葉を思い描こう…

 

 

 だから、その言葉を刻み込もう…!

 

 

 

 

 

 ―――不屈の心は、この胸に―――!!

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

「それは、昨夜の!?」

 

 レーメが自分の真後ろからの光景に驚きを露にする。

 

「守られてるだけなのは嫌だから!」

 

「なのは! 彼に任せた方が!!」

 

「私だって望くんの力になりたいの!!」

 

 こうなってしまっては止められない。何処か望に通ずる頑固さを見せるなのはに、思わずレーメは肩を落としながら呟いた。

 

「案外…望との相性は良いのかも知れんな……」

 

 そう言ってる間にもなのはは魔力を練り上げる。 その魔力に、レーメはどこかチリチリした物を首筋に感じていた。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 思いが、足りない。

 

 力が、足りない。

 

 悔しくても、今は雌伏の時だ。

 

 新しい力に先達がいた。

 

 ならばその力は、自分だけの振るい方をすれば良い。

 

 新しい可能性は危険に塗れていた。

 

 所詮、可能性は可能性に過ぎない。そんなもの、自分で創ってしまえば良い。

 

 目的は出来た。可能性はこれからだ。

 

 だったら後は、踏み出すだけ。

 

 

 

 踏み込む覚悟は、必要ない。

 

 必要なのは、踏み出す勇気だ。

 

 

 

 

 

「リリカル・マジカル!!!」

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

「!? これは!」

 

 光の帯が獣に伸びる。若干の驚きを持ちながらも、望は光に包まれる獣と距離を取った。

 

ゴァァァァァァァァァァァ!!

 

 桜色の帯は獣へと十重二十重に絡み付く。それを見ながらも望は昨夜の光景を思い起こし、隙は見せなかった。

 

 

ギ……ギシ……ギッ………!

 

 

「…?」

 

 昨夜の物とは明らかに質が違う。昨夜より格段に密度が濃く、堅い。そして…

 

「…ッ!?」

 

 

 

 僅かに感じる、神剣の気配。

 

 

 

「……どういう事だよ…」

 

 力の流れは極々微弱。微弱ではあるが、確実な神剣のソレに、望は呆然とする。

 

ギリ…ギリ………ギシッ!!

 

 その間に、戦いは終局を迎えようとしていた。

 

「ジュエルシード、ナンバーXVI! 封印!!」

 

《Sealing》

 

 なのはが構えていた杖から電子音声が響き、獣が徐々に消滅していく。

 

 中から出てきたのは小型犬だった。

 

「なんと…あれ程に小さな犬だったとは……」

 

 近付きながらレーメは感嘆ともとれる言葉を発する。

 

「…なぁ、レーメ……」

 

「……皆まで言うな。吾とて混乱の渦中におるのだ…」

 

望たちの疑問に、未だ解決の糸口は無い。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

ごつんっ!

 

「ったぁーい!! 酷いと思うの!」

 

 とりあえず望はなのはに拳骨を見舞う。

 

ぱかんっ!

 

 レーメもそれに倣いなのはの頭をハタいた。

 

 なのはも最早涙目である。

 

「なんであんな無茶をしたんだ!」

 

「ナノハ! 流石にアレは看過できた物ではないぞ!?」

 

「だって………」

 

 望とレーメから同時に詰め寄られる。

 

「望さんもレーメさんも、許してあげて下さい。なのはだってきっと力になりたかったんですよ」

 

 ユーノがなのはの擁護に回る。

 

「…ならば…仕方ない……のか?」

 

 渋々とレーメが矛を収めかける。

 

「……だって…!」

 

「「「?」」」

 

 しばらく俯いたまま動かなかったなのはは、いきなり望に詰め寄ると二人へと思いの丈をぶつけた。

 

 

 

 

「守られるだけは嫌なの! 私だってお手伝いぐらいは出来るの! だから私だけ仲間外れにしないで!!」

 

 

 

 

「……ッ!」

 

 その言葉に反応し、咄嗟に望が片手でなのはの胸倉を掴み上げ、そのままなのはを宙吊り状態にする。

 

「望さん!?」

 

「黙ってろ!!」

 

 ユーノが思わず望を制止しようとするが、それ以上の剣幕で返される。

 

「俺達は君が、君達が危険な目に遭わないように動いてるんだ! それでも君が万一の場合に備えれる為にと思って、君にその杖を持たせたままにした!!」

 

「確かに怖いの!! でもこんな怖い目に遭うのが、なのはだけじゃ無いって思ったらもっと怖くなったの! だからっ!!」

 

「仲間外れにするなだと!? 遊び感覚じゃ無いってんなら、そんな事が言える筈ないだろう!!!」

 

 望は一息つき、改めて両手でなのはの胸倉を掴み上げ、吠える様に告げた。

 

「昨日今日で力を手に入れただけの餓鬼が『戦い』を舐めるな!!」

 

 極僅かとはいえ、戦場で鍛え抜かれた本物の殺気がなのはへと漏れだす。初めての自発的な戦闘に昂っていた精神がそれを察知し、たったそれだけでなのはは何も喋れなくなった。

 

「ノゾム、程々にしておけよ。ナノハはまだまだこれからの子供なのだ」

 

「…分かってる……でもキッチリと線引きをさせないと後が厄介だ」

 

 レーメが一応は、と望に釘を刺しておく。

 

「あ、あの…わたしっ…!」

 

 なのはの絞り出すような言葉に、漸く望は手を離す。地面にへたり込んだなのはにユーノが駆け寄る。

 

「…熱くなってすまない、なのはちゃん。でも…これだけは覚えておいてくれ。“求められた力に、大義は無い”……」

 

「…………」

 

「今は、分からなくていい。分かる頃には……いや、詮無いか…」

 

 続けようとした言葉を飲み込み、望は少女へ背を向ける。なのははその場に座り込んだまま動かない。

 

 そしてそんななのはを見ながらも、望は青い結晶へと近寄る。それに待ったをかけたのはユーノだった。

 

「待って下さい!! それは危険なんです! 昨日も貴方達が回収したみたいですが、それは何も知らない人が扱うべきじゃない」

 

 その言葉にレーメが呆れて溜息をつく。

 

「イタチよ……その言葉、そのまま汝に返ってくるぞ?」

 

「え…?」

 

「では聞くが……これは何なのだ?」

 

「何って………とある遺跡から発掘された『願望を叶える』と言う伝承を遺す失われた遺産。ロストロギア、ジュエルシードですよ」

 

「違う」

 

 ユーノの説明を望は一言で切り捨てる。

 

「何を言ってるんですか! 専門家が見立て、文献を参考にして調べ上げた結果なんですよ!?」

 

「その文献からして既に違っておったのだ。これはそんな物ではない」

 

 いつの間にか、レーメが手の上で未だに不安定な結晶を転がしながらそう言う。

 

「なっ……じゃ、じゃあ貴方達はそれが何か知っているんですか!?」

 

「ああ、知っておるぞ」

 

 レーメは望に視線を送る。

 

「まぁ、その程度なら話しても問題無いか……レーメ、俺から説明する。お前はなのはちゃんをフォローしてあげてくれ」

 

「うむ、こちらは任せておけ」

 

 簡潔に答え、石を望に投げ渡す。受け取ったのを見届けたレーメはなのはを抱き起こし、その場を後にした。

 

 恐らくこの時間であれば翠屋に行くのだろうとぼんやり考えながら、望はその小さな背中を見送った。

 

「さて…」

 

 一息、二人の背中が石段の下に隠れきった時に切り出したのはユーノだ。

 

「この結晶の鑑定は、遺跡発掘や探索を生業としているスクライア一族が専門書を細かく調べ上げ、多角的な状況から判断した物です。でも貴方はそれを真っ向から否定した……なら、僕は望さんに問います。これは一体何だと言うのですか?」

 

 望の様子は変わらない。先程の事もあってか若干不機嫌そうな雰囲気を纏ってはいるが。

 

 そして、ついに望の口から語られる。

 

「これは」

 

 世界の正体の、極々僅かな片鱗が。

 

 

 

グッ……

 

 

 

「……?」

 

 突然、望がジュエルシードを握り込む。

 

 

パキン!

 

 

「ッ…!?」

 

 その瞬間、殆ど間を置かずに望の握り拳の中で、何かが弾ける音が響いた。

 

「……何が…?」

 

 未知の現象を目の前で実践されて自失気味に呟くユーノの疑問に答えるように、静かに開いた手の平には濃藍の鉱石が握られている。ジュエルシードとは明らかに異なるその物質に、ユーノは暫し言葉を失った。しかし、スクライアの血は争えないようで、早くも解析と考察を始めている。

 

「ジュエルシードの変異体…にしては洗練された波動だし、安定の仕方が封印体よりも格段に良好になってる……?」

 

 自分だけの世界に入り込もうとするユーノを手で制し、望は闇色のそれを指で軽く弾いた。ユーノの意識を自分に向けさせ、最後の一押しをその口から紡ぐ。

 

 

 

「これは…『パーマネントウィル』………大いなる器より零れ落ちた、神々の意思の結晶だ」

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

「ナノハ……そう気を落とすでない」

 

 帰路に就きながら、レーメはなのはへと語りかける。なのはは神社の境内から沈黙を保っていた。

 

「……………」

 

「まあ…ノゾムも悪気があってあんな事を言っておる訳ではない……そこは理解してやってくれぬか?」

 

 少し切なげにレーメは言う。

 

 ……かつての神剣宇宙の旅の中、望まぬ戦いを強いられた子供や、エターナル同士の戦いに利用され、訳も解らぬままに死んでいった幼い命を思い、レーメは沈痛な面持ちになる。

 

 その度に望は一つひとつの命に涙を流し、マナに還元されて消滅していきながらも、集められる限りの骸を集めてはそれぞれに墓標を刻んでいた。

 

 あの時の己を全て押し殺した虚ろな瞳が、レーメには耐えられなかった。

 

 きっと望は、何も知らない命が戦いに晒される事を極端に嫌うのだろう。

 

「……が」

 

「ん?」

 

 ずっと俯いていたなのはが口を開く。

 

「なのはが…弱すぎるから……何も知らないから……怒られたの…」

 

「それは違うぞ、ナノハ。ノゾムは戦いが何かを知らぬままに、命の危機を伴う場に踏み込んだ事を叱っておったのだ」

 

 優しくレーメは諭す。これからは不用意に首を突っ込まない事を約束させる為の言葉を紡ごうとした瞬間、

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、戦いが何かを知れば良いの」

 

「……………はぇ?」

 

 

 

 

 

 

 予想の遥か彼方を素通りした言葉がなのはの口から出てきた。

 

「戦いが何か知らないから望くんは怒ったの。なら、戦いが何かを知れば望くんはきっと怒らないの」

 

「いや、あの…」

 

「なのはは諦めないの。レーメちゃん、よかったらレーメちゃんにも色々教えて欲しいの」

 

「だからな、ナノハ……」

 

「力が足りないなら、特訓するの。望くんには追い付けなくても、せめて足を引っ張らない様に」

 

 その言葉を聞き、その顔を見て、レーメは悟りの境地へと至る。空を見上げ、イタチとの論争をしているであろう望を想い、

 

「……ノゾムー……こやつは想像以上のタマだぞー……」

 

そう、力なく呟いた。やがて翠屋が見えると、なのはは勢い良く駆け出す。レーメが慌てて後を追う。

 

「不屈の心は、この胸に! なの!!」

 

「いきなり何を言っておるのだ!?」

 

 レーメが何が言っているが、今のなのはには聞こえない。勢いそのままになのはが翠屋へと駆け込んだ。

 

「あら、なのは? 随分と…」

 

「お父さん!!」

 

「ん…なんだい? なのh

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのはに『戦い』を教えて欲しいの!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …その日、海鳴市では超局地的に震度二の地震を観測し、とある喫茶店の窓ガラスが割れる被害を出したという。

 

 

 

 

 

 

 

 

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