夢はパパ   作:肉壁

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はい投稿。


05.憎しみが争いを生んだ

朝、目が覚めて真っ先に思い浮かぶのは先輩のこと。

昨日は偶然にも先輩に似合いそうな髪留めが見つかったのはよかった。

この前の紅茶缶も喜んでくれたし今度もそうだといいな、と思って起床。

朝から気分は最高。あのあと優子からも無事家に着いたと連絡があり、そのまま補充試験の疲れで眠ってしまった。

 

時刻は4:30。早く寝た分起床もそれだけ早くなった。

お腹はすごく空いている。昨日は家へ着くなりご飯も食べずに寝てしまったのだ。

少しだけ寝るつもりがバッチリ朝までコース。あるあるだよね。

 

いつもよりすっきりした頭で下の階へ降りる。下の部屋はまだ明かりもついてないしみんな寝ているようだった。

 

少し汗ばんでいて気持ち悪い。

風呂にも入ってなかったっけ。

 

ご飯はシャワー浴びてからだな。着替え、取りに行かないと。

 

朝の数分は貴重である。いつもより早く起きても、シャワーを浴びて、朝ごはんも作ってたらいつも通りの時間と変わらなくなってしまうだろう。

 

ぼーっとしちゃだめと、寝起きの固い体に鞭打って準備をすることにした。

 

 

シャワーの音が個室に響きわたっていた。鏡は薄く曇り、自分の体の線をぼかして写している。

 

お湯の温度は40度。お湯の温度は低ければ低いほど髪の毛に優しい。

これ以上温度を高くすると今度は髪の毛の油脂を必要以上にとってしまう。

 

シャンプーはいつも髪の毛を切っている美容室のサロン専売品のもの。

 

シャンプーの値段における違いって何だろうと思うだろうが実際には大きな違いがある。

 

前提として、髪の毛自体の汚れは湯洗いでほとんど落ちてしまうのだ。

 

世にあるシャンプーは本当に大まかに分けて二つ。サロン専売品のものと市販のドラッグストアで買えるようなもの。

 

市販のシャンプーはとても安価であるが、その分安価なものでも泡立ちが良くなるように非常に洗浄力の強いラウ系の洗浄成分が多く含まれている。

 

洗浄力が強すぎる場合、髪の毛は必要以上に皮脂を落としてしまうことになり、頭皮自体の保湿力というものがなくなってしまう。

 

乾燥した頭皮はこれ以上水分を逃さないように毛穴から油脂を分泌し膜を作る。これが原因でニオイの元や目づまりがおこる。さらには頭皮環境が悪化する。

 

それと比べてサロン専売品のものは洗浄力が市販のものと比べてだいぶ弱い。

頭皮に優しく、髪の毛が生えている環境を根本的に改善する。

市販のものを使っていた人が専売品の方を使い始めると、徐々に髪の毛の状態は良くなる。

生え変わりの部分は健康的な髪の毛であり、カットを繰り返して全体が生え変わったときに違いに驚くと思う。

男性と比べ女性の方が大変かもしれないが断言しよう。

 

昔は前髪に多少の癖があったが、一年かけて癖はほとんどなくなってしまった。

パサついて膨らんでいた髪もだいぶ落ち着いている。

 

そういうの気にし始めたのはいつからだっけ、っていっても思い出せないが昔とは明らかに違う。

 

身体を洗い、最後に冷水で冷やして毛穴を引き締める。

目は完全に覚めた。

 

身体を拭きながら、今日は前髪あげていこうかな、とか考えてみる。

普段下ろしているからたまに髪型変えると先輩も喜ぶ。

俺?俺も先輩の髪型変わってるの見るとテンション上がるよ?

ポニーテールが好きとか、そういった特定の髪型が好きなわけではない。

 

普段下ろしている子が纏めてたり、逆に普段まとめてる子が下ろしてたりする普段と違う雰囲気にドキッとする。

 

いつだったか、夏祭りに普段下ろしている先輩が、うなじをしっかりと見せたアップで来たときの破壊力は凄まじかった。

あれはすごい、超鼻血。

 

何はともあれドライヤーで髪を乾かし始める。左右に引っ張りながら前髪の生えグセを直し、前髪を根本から立ち上げながら乾かす。

そんなのんびりしている訳にもいかないのでだいぶラフな感じに乾かしたが、まあ後はワックスでもなんでもつければどうにでもなる。

 

身支度を終えて、再度鏡で自分の顔をチェックする。

 

「よし、今日もいい男」

 

三科楓はナルシストではない。自分の顔の造形に、もう少しシャープな輪郭ならな、とそれなりにコンプレックスは抱えている。

 

けれど人に良く見られるように努力はしている。

 

先輩の隣を歩いている人として恥ずかしくないように、それが三科楓のカッコ良さの全ての価値基準であった。

 

 

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「おにいちゃんおはよう」

 

寝ぼけ眼を擦って降りて来たのは妹の柊。いまは小学校2年生。

幼いながらも目鼻立ちははっきりしていて将来の有望さが見え隠れしてる。

よくあるクラスに1人はいる飛びっきりの可愛い子ポジ。

 

男女問わず今のところは慕われているが、学年が上がって、嫉妬やら何やらで虐められたりしないか不安である。

 

それすらも起こさせないほどのカリスマ性と人心掌握を身につければいいのか。なるほど、将来の行く先が決まった。魔王だ。魔王を目指してもらおう。

 

「ああ、おはよう柊。顔洗ってきな」

 

「ん、その前にぎゅーっ」

 

「はいはい」

 

返事も待たずに腰のあたりに抱きついてきた。寝ぐせがついた頭のつむじの部分だけが見える。

 

小さい頃からよく可愛がっていたためしっかりとブラコンとしての教育は済んでいる。

 

テレビを見てても膝の上に乗ってきたり、気付いた時にはベットの中に潜り込んでいたりとよく甘えてくれる子に育った。

 

わしゃわしゃと少し雑に撫でるとそれでも嬉しそうに目を細める。

満足したのかぴゅーっと洗面所の方へ走っていってしまった。

 

さすが自分の中の可愛いランキング2位にいるだけはある。甘えん坊なところも含めてどうしても構ってしまいたくなる。

もちろん1位は先輩だ。

え、3位?3位は猫だよ。普通より太った猫とかって可愛くない?あのふてぶてしい感じがいい。

 

憐れかな、木下優子はランキングには入っていない。

 

 

妹が顔を洗って戻ってきたタイミングで火を止める。

朝は時間と材料があったからイングリッシュマフィンでのサンドイッチを作った。焦げたコーングリッツの匂いがいい感じにただよっている。

妹に先にプレートを差し出して自分はコーヒーを入れる。少し薄めにいれておいた。

 

「はい、どうぞ」

 

「いただきまーす!」

 

元気に挨拶とともに口いっぱいにかぶり付く。口の周りにはケチャップがついてなんともまあ愛らしい。

 

おべんとうとはまたベタな、と思いながらティッシュで拭ってやると満面の笑みを浮かべていた。

 

「おいひーー!」

 

「それは良かった」

 

相手の反応を見たところで自分もかじり付く。結局朝食の時間はほぼいつも通りになってしまった。

 

「おはよう」

 

「ああ、母さんおはよう。ご飯は台所に置いてある」

 

「ありがと、助かる」

 

少し遅れて起きてきたのは俺たち二児の母。自分の知る人の中での一番の人格者であり、この人に育てられた道徳心とかが全て俺の中にある。

連勤続きで久しぶりの休みだったため今日の起床は遅かったようだ。

 

「おにいちゃん、これちょーだい」

 

そう言って指差してるのは先ほど入れたコーヒーである。

自分と同じものを飲みたいっていう心理から口にしてるからか、こういうところもまた可愛い。

 

「はいよ、でもこのままだと苦いから牛乳いれような」

 

席を立ち、冷蔵庫から牛乳を取り出す。カップの中身を半分移し、さらに砂糖も入れて妹用に作り変える。

 

実を言うと、一人で飲む時より薄く作ったのはこのためだ。

 

あまり濃すぎると苦くて飲めないのと、カフェインが効きすぎて興奮して夜にねれなくなるためだ。

 

さすが長年お兄ちゃんをやっているだけのことはあって気づかい完璧。

 

「はいよ」

 

「ありがと!」

 

上手くたべれないのか口の周り以外にも色々こぼしている。

手のかかる子ほど可愛いってのは本当だな、と呟きまた席に着く。

 

 

わいわいと朝食は終わり登校する時間となった。

荷物を取り忘れ物がないかを確認して家を飛び出す。

 

今日はBクラス戦。目標は根本恭二の首。今日の調子から行けば絶好調だ。

 

 

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朝のFクラスは閑散としている。だいたいの奴らは時間ギリギリに学校に来るか、木下弟のように部活の朝練に行くなりするかしている。

 

HRまであと3分しかないのにきているのは半分程度。身体が丈夫だけが取り柄のような集団だ。遅れてきても休むようなことはするまい。

 

午前は昨日できかった分の科目の補充試験があり、Bクラス戦は午後からになる。

 

予鈴がなるとちらほらと人が集まってきた。だがしかしどうしたことか吉井の表情は暗い。何か不幸なことでもあったのか。

 

「どうしたんだ吉井、なんかあったのか」

 

「おはよう三科くん。別になんでもないよ」

 

「そうか?まるで気になるあの子が別の異性に宛てて書いたラブレターを見たような表情してたからてっきり落ち込んでーーどうした吉井っ⁉︎そんな急にさめざめと泣いて⁉︎」

 

地雷はそう、踏み抜くもの。

 

「いや、ほんと気にしないでください……」

 

そうは言うが大の高校生が突然泣き始めるのはキモ、いや、少々おかしい。

やっぱり何かあったんだろう。

 

「きっといいことあるさ」

 

本鈴がなり、ポンと肩を叩いて自分の席に戻る。席はあらかた埋まっていた。

これから始まる補充試験、少し気合い入れねば。

 

 

------

 

昼休みも終わりBクラス戦が開戦した。

姫路瑞希を中心とする先発部隊が勢いよく飛び出し、前線のラインを上げるべく廊下を駆け抜ける。

 

今回俺は坂本の近衛兵として待機する。偵察と坂本が教室から移動する際の斥候が仕事である。

 

今は前線の様子、手応えを見極めるべく先発部隊と同時に前線へと向かっていた。

 

先頭はすでに交戦しており鍔迫り合いに持ち込んでいる。

複数人で対応してはいるがやはりなかなか厳しいところがある様子。

 

が、その認識は覆される。息を切らせて遅れてやってきた姫路瑞希が前線へと加わった瞬間戦況は押され気味から、一気に五分へと引き上げられた。

 

彼女の召喚獣の腕が鈍く光っている。そこにあるのは一つの腕輪。

科目で400点を超えることで与えられるという特殊効果を持つ代物。

効果は召喚獣ごとに異なり、彼女の召喚獣の場合は熱線である。点数を消費することで高火力のビームが出てくる。

 

今も目の前で女生徒二人の召喚獣、どちらも200点ほどの決して低くない点数が一瞬にして消し飛んだ。

 

力isパワー。前々から思っていたが彼女の召喚獣、重そうな甲冑に大剣、腕輪の効果は高火力のビームときてだいぶ脳筋である。

ガードの上から叩き潰す圧倒的ラスボス感。

 

学年次席ポイズンピンクが戦場を蹂躙していた。

 

流石だな、と偵察を切り上げる。

 

坂本には、あれは毒ウサギじゃなくてただのゴリラだと伝えておいた。疑問符を浮かべていたが取り敢えず前線は大丈夫ということだけ伝わった。

 

そうすることで6限目に入り今では姫路瑞希を中心に前線をぶち上げて目標の教室まで押し込む一歩手前まで来ている。

 

完全に姫路瑞希の独壇場だな、と呆れてしまう。

 

ふと、教室のドアがノックされる。

入って来たのはみたことのない顔。Bクラスの生徒だった。

 

「Bクラスの使者としてきた。この調子だと6限目になっても戦争は終わりそうにない。そのため続きは明日にしたいと考えている。同意してくれるなら調印をするためについてきてもらいたい」

 

坂本はそれを聞いて腕を組みながら目を閉じた。今後の展開に、この交渉が有利に働くかどうかを見極めているのだろう。

 

閉じていた目を開き、わかったと答える。

 

「念のためだ、三科ともう二人はついてきてくれ。残りはここで待機」

 

「あい分かった」

 

使者を先頭に教室を後にし、交戦中の廊下の反対方向、そこにある階段から降りて別教室へ案内された。

そこにはやはりBクラス代表根本恭二がいる。

ゲスオカッパは薄ら笑いながら交渉を進めている。この交渉自体に何か裏があるのか、ブラフかは判断できない。

坂本も同じことを感じているのだろうが特に反応はせず、安い挑発も全て無視をしている。

 

そのことに対し特にイラつきを隠そうともせず、鼻を鳴らしながら話をして先へ進めていく。

 

そこでふとそういえばここへくる途中に物陰に制服、人の気配がしたのを思い出した。

こういう時に思い出す悪い予感は当たるもので、こういうのは大体フラグである。

 

こっそりと耳打ちする。

 

「代表、悪いけど一足先に教室に戻る」

 

「ん、どうした」

 

「フラグ立てたから回収を阻止してくる」

 

「は?」

 

返事も待たずに教室を後にする。何もなかったらそれでいい、あとで坂本に気のせいだったといえば済む話だ。

 

この時間帯、FクラスとBクラスを除いた生徒は廊下を立ち歩いていることはない。Fクラスの連中にそういった指示は出されていないはずだ。

 

Bクラスの工作員という線が濃厚。

そしてその予感は的中する。

 

教室に踏み込みそこにいた3人の生徒に声をかける。

 

「お前ら一体何をしている」

 

教室の状態は酷いものだった。ちゃぶ台の足は折られ、荷物、筆記用具は壊れている。確実にこの3人がやったにちがいなかった。

 

しまったといった表情で3人は見るからに焦り始める。恐らくこれだけではあるまい。

 

一人と二人に別れて一人の方は見逃した。余りにも行動が早かったため対応に遅れた。

足元の荷物を踏みながら彼は教室を出ていった。

仕様がないため、残りの二人はここで始末する。

 

試験召喚、と呟きその楯を前へと構えさせる。待機していたFクラスの奴らがいないことからコイツらにやられたことがわかる。敵討ちだ。

敵前逃亡は戦死扱い、相手もこれには応戦しなければならない。

 

英語

Bクラス 雑賀孫六198点

浅井長政 232点

 

片や長銃、見るからに火縄銃を構えた和装をたすきで抑えた召喚獣、片や日本刀を構えた装飾華美な羽織を着た召喚獣。

完全に名前に容姿が引っ張られていた。

 

だが遠近と武器のバランスはよく、盾持ちだからと言って油断はできない。

 

しかしこちらも今回のテストはBクラス相手ということでちゃんと"いつも"の調子で受けた。

 

相手は心底驚いた顔をしている。

 

「Fクラス……?」

 

「いや、この点数見るからにそんなことは……」

 

その疑問には答えない、納得しないまま、負けてしまえ。

 

召喚獣が楯を構える腕を引き絞りそのまま前進する。

 

突然始まった先頭に一瞬出遅れはしたものの、雑賀の召喚獣は膝を落としその長銃を構えた。

 

見るからに銃持ちは近接武器を持っていない。そのため浅井の召喚獣が応戦する。

 

確かに遠近武器共に揃ってバランスが良いと思われるが、しかし武器の相性もある。

 

浅井の召喚獣が持つのは日本刀。

日本刀とは本来軽装の武士同士の戦いで、一太刀で決着をつけるためのもので、切れ味のみを追求したある種、切断と突きのみに特化した尖った性能を持つ武器である。

 

薄く鋭く、無駄をなくした結果、弊害も出てくる。つまりその構造上鍔迫り合いをするわけにはいかないのだ。

簡単に刃こぼれ、耐久度によっては折れる。

時代劇なんかではよく刀同士での押し合いのシーンが映るが普通ならありえない。

見栄えを重視したフィクションでの戦闘である。

 

そこから導き出される結論は、俺のもつ金属製の大楯には相性が最悪だということだ。

 

西洋の剣は切断というよりは叩き斬るという、斧とやっていることは変わらない。刃は日本刀と比べ鋭くない。もし相手が日本刀ではなかったらその強度と重さで押しつぶされていたかもしれない。

 

相手が上段から振り下ろすがそれは楯表面を多少削るだけであっさりと弾かれてしまう。

 

相手の武器を跳ねあげて、あいた懐をその腹で殴る。楯にもダメージ判定ついてるのはありがたい。

 

シールドバッシュを受け軽装であるその召喚獣は吹き飛び、元いた位置に戻される。

 

もう一度今度は横薙ぎの一閃が繰り出されるが同じこと。受けきり、できた隙にきっちりと攻撃を叩き込む。

 

ちょくちょくと銃弾が放たれてはいるが大楯がそれを通さない。等身大の大楯では足元を狙うこともできない。

 

相手は弱くはなかったが、相性が最悪だった。

 

まともにやり合っていたら埒があかないと気づき横合いから突くように攻撃を繰り出してきたが、楯を体へと近づけ、楯を起点に回転することで重いものを振り回すことなくうまく影へと身を隠す。

 

なかなか通らない攻撃と徐々に減っていく点数を見て焦りが出て攻撃も段々と荒くなってくる。

 

そうすればあとは容易いもので浅井の召喚獣は戦死。

 

近接武器を持たない雑賀の召喚獣は突進して壁へと叩きつけたあと、壁と楯の間に挟み込みグッチャグチャになるように何回も押しつぶしてスクラップにしてやった。

相手は若干引いてた。

 

楯は銃よりも強し。楯は剣よりも強し。

 

Bクラス雑賀、浅井共に戦死。

廊下へと放り出し鉄人が回収、無事補修室へと連れていかれた。

 

残ったのは荒らされた教室のみ。とりあえずどの具合かを確認してみることにした。

 

みんなの机の上に置いてあったシャーペンは余すことなくへし折られ、補充試験もままならない。

折れたちゃぶ台の後は痛々しく、バックの中の荷物も荒らされている。

 

自分の席へ目をやった。さっき逃げた一人がでた方の戸のすぐ近くの席であった。

鞄には奴が荷物を踏んだ白い足跡が残っている。

 

嫌な予感がした。

 

中身をあけ、鞄の奥にしまってあった包装された小袋を取り出す。

 

ふつ、と何かが切れる音がした。

 

手に残ったものを握りしめ、その不幸に耐える。教室を緋色に染めていた夕日は雲に隠れ、教室を薄暗くする。

じめっとした空気を含む隙間風が前髪を揺らし、今ある神経を全て逆撫でた。

 

 

------

 

Fクラスの教室の戸を開けて入ると、中は酷い具合だった。補充試験に必要な環境が壊され、荷物も荒らされている。

ヤロウこれが狙いだったか、と奥歯を噛み締める。

 

あたりを見渡すと一人うずくまっている奴がいた。先に教室に戻ると言っていたのはこれを予想してだったかと、理解する。

 

「おい、三科大丈夫か」

 

みるとうずくまっている彼の手には薄紫の花がモチーフになったヘアピンと思われるものが握られていた。

しかしそれは砕けている。

きっとそれは彼の言っていた彼女にあげるつもりだった、もしくは彼女に関係する何かなのだろう。

Bクラスの連中にやられたことは明白であった。

俯いているせいか前髪で隠れて表情は見えず、そこに現れている感情が怒りなのか悲しみなのかわからない。

きっとどっちもなのだろう。

 

ゆらりと立ち上がり、こちらを振り向いた彼の表情は無表情だった。

余計怖かった。

 

「ああ、代表お疲れ様。悪いけど少し間に合わなかったみたいだ」

 

残ってた奴らみんな戦死しちゃったよ、と呟く。

 

「こそこそやってたBクラスのやつが三人いたんだけど一人取り逃がしちゃったよ、参ったな」

 

そうは言うがその二人はもしかしなくてもこいつが始末したのだろう。どうやってかは知らないが、彼が生き残っているのだからその二人は彼に倒されたのだ。

姫路が言っていたことが少し思い出される。どうしてこいつはFクラスにいるのか、なぜ生き残っているのか。彼には確実に何かある。

 

そうか、と短く返事をする。

 

「それでなんだけど代表。一つお願いがあるんだ」

 

「言ってみろ」

 

「明日、代表の護衛を外させてほしい」

 

「理由は」

 

彼の無表情は変わり、薄く笑った。

 

「私怨ができた」

 

「その手に握ってるやつか」

 

ああ、と強い意志のこもった目でこちらを見つめる。瞳には今度こそはっきりと感情が見て取れた。

 

「頼む」

 

頭を下げながら彼は言った。同級生に頭下げさせることはあっても、自分から下げられるのは初めてだった。

人に、同い年になかなか頭は下げれるもんじゃないのは知っている。

素直にすごいと思った。

 

「わかった、そのかわりきちんと落とし前つけてこいよ」

 

「ありがとう」

 

果たしてかの選択がどう現れるのか予想もつかない。

 

そしてこの選択でもしかしたら彼について少しわかるのかもしれない。姫路の反応と彼が生き残っていた理由。

この試召戦争は想像以上に面白いことになりそうだと感じた。

 




評価付与してくれた方々本当にありがとうございます!いま二人の方に評価をつけてもらったのですが私の評価の色は未だに無色です。

五人からどうやら色付きのバーになるらしいので多くの方に読んでもらう為にもよろしければ是非お願いします。

感想、誤字脱字、リクエスト、その他諸々お待ちしておりますので時間のある方は下の感想を書くのフォームをポチっていただければなと思います。
三月に入ってからは投稿頻度も上げていくので今後とも是非よろしくお願いします。
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