Bクラス戦2日目。
気分は昨日と逆転して最悪もいいところ。不機嫌を撒き散らさないように昨日は先輩に謝って一人で帰ったから尚のこと。朝からテンションは地を這っていた。
昨日ヘアピンを砕いた野郎の顔はよく覚えてる。絶対に見つけたら速攻で叩き潰す。
しかし多少は俺も慈悲の心を持ち合わせている。Fクラスに侵入するよう指示を出したあのゲスキノコにも何かしらの報復をすることで矛先を収めよう。
被害が拡大してるとか気にしない。一人に集中させるより分散させた方が負担は軽いだろうというせめてもの気遣いだ。
朝の予鈴とともに教室に入るとそこにはすでにFクラスのメンツが待機していた。
皆作戦通りに事が運ばれてるのを知って士気は上々だ。各々緊張せずに自由に時間を過ごしていた。
けれどそんな中、ひとり浮かばれない表情をしてる姫路瑞希の姿が目立っていた。
ガヤガヤと騒がしい教室内でいつも以上に寡黙で思いつめた表情をしている。
これは戦争に悪影響が出るな。
すぐにそう感じてしまうほどに彼女の気配は酷く落ち込んでいた。
幸先不安であるがもう少しで試召戦争は始まってしまう。持ち直してくれよと思いつつも具体的に何かできるかといったら何も思い浮かばなかった。
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開戦の本鈴が鳴る前に昨日と同じ状況にそれぞれ移動する。
今回の前線のスタート位置はBクラスの教室前。気落ちした姫路瑞希を先頭に対照的な意気揚々としたFクラスのメンバーが行進していた。
俺の昨日の役割は坂本の護衛であったが約束通り今日は外させてもらっている。
最前線、姫路の指揮下で目的のヤツが見つかるまで片っ端から戦っていくつもりだ。指揮官があの調子だとなあ、と不安になるが俺自身の殺る気は十分だ。確実に仕留める。
しばらくして本鈴がなり俺は本隊から離れ開幕ダッシュで教室から飛び出す。前方を見る限りではBクラスは教室の入り口の狭さをうまく使い籠城している様子だった。多対一で戦ってはいるものも窮屈でだいぶ攻めあぐねている。
急いで飛んできてはみたが戦場が小さいのでしばらくは出番はなさそうな雰囲気がある。
余裕がある今のうちに窓からBクラスの教室内を見渡すが影に隠れてか昨日のやつの姿は見えない。
見つけたら押しのけてでも飛びかかるのに。
そこから二十分ぐらいだったのだろうか、さすが前線の戦いは激しく、Fクラスはかなり早いペースでローテーションを取ってしまっている。
Bクラス相手では攻め切るというのも難しいかと思ったが、それでは昨日の優勢については説明がつかない。
相手がより強力な戦力を投入したのか、それともまた別の理由があるのか。
状況判断に努めて全体の様子をずっと見ていたが、一つわかったことがあった。
先程から姫路瑞希が敵にトドメを刺していないでいる。ある程度までは削りはするも、肝心なところで手を止めてしまっていた。
戦死だけはしないように立ち回っているようだが時間の問題かもしれない。
さらに悪いことに昨日とは違い敵の数の減りが遅いため、全体として前線は後退し、押され気味であった。
やはり何かあったか、とその原因を探るためにあたりを見渡すと同じように戦況の把握に努めていた吉井の視線がある一点に留まっているのに気がついた。
その目線を追い、見てから、畜生めと奥歯を噛みしめる。
視線の先、そこにいる根本恭二がチラつかせていたのは可愛らしいピンクの封筒であった。
男の彼が普通持っている代物ではないだろうし、姫路の視線も時折それを気にして揺れている。
ぼんやりと昨日の吉井の反応を思い出した。
朝のHR、ラブレターという単語で動揺を示したのは、姫路の持っていた封筒見たから。
そして彼は姫路に好意を寄せていて、それをみてショックを受けていた。
判断材料は限りなく少ないがあの封筒は姫路瑞希の私物と見てしまって間違いないだろう。
ラブレター、人に見せたくない、見られたら困るもの。
姫路の剣先を鈍らせ、戦争への参加を躊躇させるようなソレ
あのキノコは純粋な想いを、純粋な子を、穢してはいけないその尊い感情を、脅迫のために利用した。
人を好きになった事がある俺にはその辛さがよくわかる。断じて根本のことを許せなかった。
姫路瑞希自体に特に肩入れしているわけではない。それでもやはり怒りが湧き出る。
気づけば吉井と目が合っていた。吉井の瞳は怒りに燃え、姫路瑞希を助けるための手段を欲しているように見えた。
「三科くん」
普段陽気な彼とはかけ離れた低く冷たい声。俺は知っていた。純粋な子はここにもいる。
好きな人を悲しませたくない、ただそれだけを願う少年は目の前にいる。
純粋は俺が最も好むものであり、彼の性質はまさにそれ。
戦国であれば人を惹きつける大食漢であっただろう。絶倫、豪胆、色を好み、勝利を渇望し、民に支えられて覇を成す。強運を持ち、無理やり結果を引っ張ってくる才能。
正義を示す力だけで言えば彼は物語の主人公だ。
そして今の彼は怖いぐらいに透き通ってみえた。純粋に彼女を助けることだけを渇望するその姿はまさにヒーロー。
混じり気のないその気質に思わずぞくりと背が震えた。
「雄二のところまでついてきて欲しいんだ」
彼が望むものを彼がどう手に入れるか。周りはどう味方し、結果がどう転ぶのか。
付いていきたい、この目で見てみたいと思ってしまった。
嬉しいのかもよくわからない感情が自分の中に溢れてくる。
わかった、と返事は短く、しかし多くを含んでいた。
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「雄二--」
戦況が悪化していく一途を辿るのを放っておくわけにはいかず、急いで教室に戻ると教団前に彼は腕組みをして立っていた。
「なんだ明久、逃げてきたってんならチョキでしばくぞ」
「--姫路さんを前線から外して欲しい」
突然の彼の要求に坂本は驚いていた。だが彼自身、上に立つものとしての役割をきちんとわかっているようで落ち着き、続きを促す。
「姫路をか……。その理由は」
「どうしても言えない」
そこまでまた彼は思案顔になる。姫路が欠けるということは作戦そのものに大きな変更をきたすことを意味する。
長く、1分くらいだろうか再び彼はこちらをみた。
「条件がある。姫路が果たすはずだった役割を埋めることができれば許してやる」
もとよりかなり無茶なお願いではあった。
吉井には大した交渉の材料はなく、彼本来の実力で姫路が欠ける穴を埋めるだけのものは持っていない。
「ありがとう雄二!」
嬉しそうに答えてはいるがその実、それは難しいだろう。
彼女の仕事は二つ。一つは前線の維持、もう一つは土屋が奇襲を仕掛けるのを助けるために周囲の視線を集めること。
頑張っても彼にはそのどちらかになることしかできない。
きっとそれをわかっていて吉井に言っている。
そして先程から坂本の視線は俺の方に向いたままだった。
「それで、三科はどういった用件だ。発言次第じゃ明久同様にしばくからな」
「もともと吉井の付き添いで来たんだけどね--」
気紛れなのかもしれない。吉井の英雄色に当てられておかしくなっていると自分でも自覚する。
どうしようもなく俺は、吉井の、彼の純粋さをみて気分が高揚しているみたいだ。
「--姫路さんの仕事、前線の維持の方は俺がなんとかしてあげる」
自分の敵もいるはずなのに、吉井のことをたすけてあげたくなった。
それを聞いてすぐ、坂本は人の悪い笑みを浮かべた。
「そうか、できるんだなお前に」
「できるよ、俺なら」
よくわからないが今の坂本を見ると本当に楽しそうである。楽しいことを好む、欲望に素直なのはいいことだ。
ギラギラとその目が一層鋭くなる。
ちょっと悪いんだけど、と前置きして吉井が会話に割って入る。
「雄二、僕根本くんの制服が欲しいんだ」
「お前が何を考えてその発言をしてるのかはよく知らんがまあいい、それぐらい戦争に勝った暁にはくれてやる」
まあ解釈のしようによってはホモォな発言に取れなくもないがだがしかしこれで吉井のお願いも済んだ。
「どれしょうがない早々に決着をつけるか」
パキッと指の骨を鳴らしながら彼は言う。
力強くはっきり告げる。
「--俺も、本隊も出る」
三匹の子豚は力を合わせて狼を追い払った。でもこの場にいるのは子豚なんて可愛いものじゃない。
それぞれが何かを秘めた、途方も無い大きさの怪物を内に飼っている。
目的や理由はそれぞれ違うしれない。けれど目指す目標は同じで、結果としてBクラスの打倒が用意されている。そんなものだった。
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戦場に戻ってくると相変わらず姫路はもたついていた。今回ばかりは事情が事情だから責めはしない。
横に並び声をかける。
「姫路、お前はもう下がってろ」
「姫路さん、雄二が待機してろだって」
突然の撤退命令に戸惑ったのか安心したのかよくわからない表情でフリーズしてる。
ぱくぱくと口を開けて、なんとか声を絞り出した。
「え、あの、三科くん口調が……?」
「気にするのそこかよ⁉︎」
うっかりツッコンでしまった。俺普段はボケなのにっ!ボケなのにっ!
悔しそうに唇を噛み締めているが大事なのはそこじゃない。気を取り直して姫路と向き合う。
「お前の仕事は俺らが代わりにやる。お姫様は右の王子様に大人しく守られてろ」
「え、あの、どうして急に撤退なんて……」
「お前がちゃんと自分の仕事をしてないからだろ?」
うっ、と彼女は眉を八の字にして俯いてしまった。たしかにこの言い方じゃちょっとアレか。
「"具合が悪いんだろう?保健室に行って休んだほうがいい"」
顔を上げた彼女は今度は意外そうな顔をしていた。大きな目を何度か瞬きしさも意外そうに呟く。
「気を使うこと、できたんですね?」
「お、やっぱお前が戦うか?ん?」
それを聞いた彼女は胸の前で手を振って、いやいやどうぞどうぞと拒否をする。
少し芝居くさい動きでイラッとする。
なんだかんだでこいつ余裕あんじゃねーの?
コイツ少し優しくしてやったらつけ上がりやがってまったく。
しかしちゃんとこちらの意図は読み取っているらしく、あはと笑い彼女は軽やかに前線から一歩離れた。
「ではお言葉に甘えて少し保健室で休ませてもらうことにしますね。肩が凝っちゃって」
そういってどこぞの島田にはないソレを腕を組んで持ち上げる。
ぶぅっと隣で血が吹き出る音がした。
やっぱ代わりに働くのやめようかな。よくわかんねえけど今の姫路結構テンション高えぞ。
「お前、昔と違っていい性格になったな」
「あら、最初に他人のフリをしようとした割には普通に口を利くんですね」
ああ、全然可愛くないこの女。さっきから軽口叩きすぎじゃない?
「うるせえ、さっさと行きやがれ」
「は〜い」
間延びした返事をして彼女は背を向けて歩いていった。ああ、と立ち止まり振り返って丁寧に腰を折る。
「とても助かりました。どうか私の代わりにBクラスを倒してください。まさか、負けるなんてことはしませんよね」
そういって返事を待たずに彼女はまた立ち去る。
やろうと呟き右を向く。そこには吹き出した鼻血を拭いながらもぽかんとした表情を浮かべた吉井の姿があった。
「あれが、姫路さん?」
恋する少年にとってどうやら知らない彼女の一面というのは衝撃が強かったらしく、惚けていた。口を半開きのまま呆然として、去っていく彼女の後ろ姿を眺めている。
手のかかるやつだと、背中を少し強めに叩き彼を再起動させる。
「ほら、ちゃんと仕事するぞ」
「--っああ、うん!」
ここで一旦吉井とは別れる。彼はそのままBクラス横の空き教室に入っていった。
余計な時間をとったがこれからが本番だ。
一騎当千であった彼女の代わりに俺がならなくちゃいけない。片っ端からのしていけば、いずれ目的の彼と戦えるだろう。
「Fクラス、三科楓が英語でBクラス神田に勝負を挑む!試験召喚!」
「Bクラス神田、受ける!試験召喚!」
英語
Bクラス 神田洸 310点
vs
Fクラス 三科楓 427点
敵味方関係なく戦場にどよめきが広がった。400点越え、つまるところAクラス上位並みの点数。
それどころか先ほど対峙していた姫路瑞希よりも点数は高かった。
Dクラス戦のときと比べその楯を握る姿はよどみがない。
力強く、たしかな存在感を放ってその戦場にいた。装備は相変わらずの大楯と薄い古びた鎧。腕には強者の証の、鈍色に光る腕輪が控えめに自己主張をしていた。
予想外の強者の登場に停止してしまったその空間を無視してひとり、密かに闘志を燃やす。
膝を曲げ力を練り、支えている楯が少し浮く。腰を落とし体側に楯を引きつけ、息を吸い込む。
瞬間、爆発的な跳躍力をもって大楯の召喚獣は神田の召喚獣に突っ込んだ。
ぶつかる寸前、神田の召喚獣は一歩後ろへ足を引いたがなんの意味もなさず
Bクラス 神田洸 戦死
その持ち点が全て消し飛んだ。
今度こそ声となって戦場には再び動揺が走る。
一瞬の油断をついたとはいえBクラス内でも屈指の好成績を持つ者が一撃で倒された。
Bクラスの生徒はその事実を理解し、受け入れ、やがてそれは恐怖へと変わった。
視界の端で奥にいる根本の顔が歪むのが見えた。苦しそうだった。
トクンと胸が高鳴る。
これは恋?いや違う。
それはただのSっ気だ。
もっと表情を歪ませろ。苦痛に満ちたその顔を拝みたい。もっと、もっとだ。
Bクラス最終局面、後退していたFクラスは士気を上げ徐々に徐々にとその歩みを前へと進めていく。
その場にいる全員が、いま、三科楓という存在を改めて認識し直した。
読了ありがとうございます。
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当方プロットや話の構成、だいたいの流れとか全く決めてませんので全部その場その場の思いつきで書いてます。
この後の展開は私すらもわからないそんなゆるい感じの作品です。
主人公が徐々に原作キャラと絡むようになっていったときに、ようやく少しの笑いやユーモアだったりとかを提供できると思います。
またそういった少しジョークの混じった描写を書きやすくするために、今回の話の姫路さんのように雰囲気が違う感じの子に書いてしまいますんでご容赦ください。
みなさんがすいすいと読める、テンポの良い描写がいつか私にも身につけばいいなあと思います。
バカテスssは他シリーズと比べて閲覧者の母数が少ないようでなかなかにUAが伸びませんが辛抱強く続けていきたいと思います。
ぜひ今後ともですね、夢はパパの方をよろしくお願いします。