今回はだいぶうまくかけたと思いますよ??
Bクラス戦最終局面。戦場は一人の参入で大荒れした。
身の丈以上の大楯を持つ召喚獣。錆びれた鎧を身につけながらも、その重さを感じさせないような軽やかさで戦場を駆け回っていた。
攻めても受けきられ、守ると弾き出される。当たり判定の大きなその大楯はその質量に伴って、ダメージ量も相当に大きい。
相手が楯で攻撃を受けたときのカット率はみたところ70%〜100%だ。
刀などの軽い武器は簡単に弾かれ、1点もダメージが入らない。
大鎚などの重厚な打武器でも有効な攻撃を入れられていないか、大振りを利用して上手くかわされるかしていた。
かく言う相手の攻撃は自身の武器で凌いでも平均して皆三割は減らされている。最初に倒された神田洸同様にまともに食らえば全損するだろう。
誰も、一瞬も目を反らせなかった。
戦闘開始から15分、すでに八名もの生徒が彼一人に屠られている。
未だその腕に鈍色に怪しく輝くその腕輪は使われていない。
相手は手札を隠した状態で戦っている。三人がかりでなんとか抑えられている状況にBクラスは歯嚙みせざるをえなかった。
先程まで押し返していた盤面はわかりやすく劣勢に陥り、返す手立ては今のところない。
生憎、ほかのFクラスの面々は大した点数を持っていないことと、彼が余りにも自由に戦場を駆け巡るせいで迂闊に手を出せていないでいるため決定的な敗北には繋がっていない。
持久戦に持ち込んで少しずつ点数を削ろうとするも、なにぶん楯が堅い。姫路瑞希が後退してくれたことが唯一の救いであった。
(クソッ!クソッ!クソッ!!なんなんだ一体!なんであんな奴がFクラスにもう一人いるんだ!坂本のやつDクラス戦の時は温存してやがったな⁉︎)
根本は歯噛みしながら内心大荒れしていたが、しかしそんなことはない。将である坂本雄二も同様に彼の姫路に勝るとも劣らない一騎当千ぶりに驚いていた。
(姫路が言ってたのはこういうことだったのか!三科楓、正直名前なんて聞いたことなかった)
これはあとで尋問確定だなとこの嬉しい誤算に口角が上がる。
「昨日からお前ら教室の前に集まりやがって暑苦しいんだよ」
「ふん、Bクラスの代表さんはもうお手上げか?」
「言ってろ」
わかりやすく表情には出さないものの根本自身は非常に焦っていた。Bクラスが、最下位クラスのFクラスに負けるようなことがあってはならない。
まして自分は代表なのだ。敗者の台頭としての烙印を押されるのは自分のプライドが許さない。
何のために姫路瑞希の私物まで盗み出すように指示を出したと思っているんだ。
全ては勝つためだ。勝って、勘違いをして勝てると思って挑んできたFクラスのカスどもに身の程を知らせるためだ。
舐められ、受けたこの侮辱を晴らすために手段を選ばなかったのだ。
ここで引くわけには絶対に行かない。
内心はそう自身を焚きつけてはいても、理性が状況を正確に判断して僅かばかり色味が濃くなってきた敗北の可能性を徐々に強く感じてきた。
それはストレスとして自身に纏わりつき、より一層勝利を焦らせる。
頭ががんがんとうるさい。耳鳴りがして、集中が削がれる。
そして気のせいか自身の心臓の早鐘と同様にこの教室自体も揺れているような気がした。
極度の緊張がもたらした錯覚か。
いや、そんなことはない。先程から地響きのような音が奥の方から聞こえてくる。
本当にこの教室自体が何かハンマーのようなもので叩かれているかのようだった。
「さっきからドンドンうるせえな。何だっていうんだ」
口に出してもその音は止まらない。
鳴り続けるその不快な音はどんどんどん大きくなっていく。音の間隔も次第に狭く、速くなっていった。
そう、それはまるで警報音のようで--。
「--ダラッシャァァァァア!!!!」
轟音と共にソイツは壁の奥から現れた。あまりにも常識外れ、想定外の登場の仕方に呆然、思考がフリーズする。
まさかこんな方法で奇襲をかけてくると誰が想像していただろうか。皆が一様にその登場に目を見開いていた。
「Fクラス吉井明久がBクラス代表根本恭二に勝負を申し込む!」
その声にハッとなった一部の人がそれに慌てた形で応戦する。
「っ代わりに受ける!試験召喚!」
先程からの想定外続きで声が裏返りながらも、根本のその減らず口と虚勢は止まらない。
「--へっ、なんだ驚かせやがって!こっちにはまだ近衛部隊がいるんだよ!」
吉井が率いる部隊の奇襲は止めた。三科も踏み込んでくる様子はない。驚かされはしたが自分が倒されなければ何の意味もない。
その危機を脱出した一瞬の油断が命取りとなった。
視界の端にかすかに揺れ動くなにかがうつりこんだ。
教室の窓、その外に垂れ下がるロープ。上の階から乱入してきた小柄な体躯の少年と体育科の教師。
今度こそ、驚きは声となった。
「ムッツリーニィィィィッ!!!???」
「……土屋康太、試験召喚」
近衛部隊は戦闘中、他の受け手はもうそこにはいなかった。
仕方なしに自身の召喚獣を出すも、土屋の召喚獣はその姿を掠めて一瞬で肉薄した。引き絞った短刀でそのまま一撃。
なすすべもなく0点となり、戦死の表示が出される。
Bクラスの敗北が決定した。
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「ミイッツケタァ……」
土屋の強襲の直前、三科楓は自身の獲物を見つけた。
よれた制服に耳にかかるぐらいの髪の長さ、キュッと上がったツリ目。
間違いなく自分が探していた相手だった。苦労した。なかなか見つからなかった。もしかしたらこのまま戦争が終わってしまうかもしれないという不安もあった。それでも、最後の最後に出てきた。
ソイツを逃がすつもりは毛頭ない。
今まで三体の召喚獣を相手をするのに手一杯だったはずの大楯の召喚獣は、どこにそんな力があるのか、まとめて吹き飛ばし、すぐさま彼の元へと接近した。
相手は斧槍。所謂ハルバードと呼ばれる長物を持っている。
相手が反応し、振りかぶるが一閃、遠心力に任せた攻撃が大楯の召喚獣に迫ってきた。
それを楯で受けるようなことはしないで、気にせずさらに接近。柄の部分の強打を受けるも、一番力の乗った先端部分、その刃がついたところは避けたため致命傷にはなっていなかった。
だが、今まで極微量しか減らなかった大楯の召喚獣の持ち点が一気に半分にまで削れた。正直、あと一撃同じように入れば全損、よくても瀕死である。
それでも大楯の召喚獣は止まらない。体の軸はブレたが倒れるまでには至っておらず、相手と同様、質量を持ったその楯を脇へと引きしぼり、懐へと潜り込む。
大楯の召喚獣は相手の振り抜きが止まった瞬間、その先端で強烈な突きを放った。
普通じゃありえない効果音が聞こえた。
ブシュッと、到底楯では聞くことがないであろう斬血の音だった。
その耳と、目を疑った。
その楯の先端を見ればそこには、腹を突き破った形で宙吊りになった彼の召喚獣がいた。ガシャンと鈍い金属音をたてて、するりと力なく握られたその手から斧槍がこぼれ落ちる。
目の前のグロテスクな光景に何人かは口を抑えた。
召喚者は自身の分身、風貌の似た召喚獣のそのショッキングな光景に彼ら以上に気分を悪くした。
まるで自分が串刺しにされているような光景だった。
だが悪夢のような光景はそこでは終わらない。
先端に突き刺さった召喚獣を、大楯の召喚獣はまるで剣先の血を払うかのように横薙ぎに払い壁際へと追いやる。
まさかと、皆がさらに顔を青ざめさた。
そのまさかである。
大楯の召喚獣は壁と挟み込むようにその大楯を力一杯に叩きつけた。
何度も、何度も、例え相手の反応がなくなろうとも、相手の原型が崩れようとも、その手は止まらない。
絶えずその大楯と壁での圧殺、スクラップを繰り返す。
はじめはゴツゴツとした無機質な音を響かせていたのに、だんだんのぬちゃっと粘着質な音へと変化していった。
そこが我慢の限界だった。
そこら中で嘔吐のアンサンブルが生まれる。
粘着質な音と酸味のある異臭。
分かりやすい地獄絵図であった。
この光景を生み出した張本人は対称的にマジで子どものようなキラキラした笑顔を浮かべている。
それを間近で見ていた坂本雄二は頭を抱えた。
(アイツ昨日は相当抑え込んでたな⁉︎)
私怨というのは恐ろしいものである。これを見て、坂本は彼の前では絶対に先輩彼女に関わった怒らせるようなことをするのはやめようと誓った。
一際大きな音を立てて楯が叩きつけられた。何かが弾け飛び、自身の足元に転がる。
よく見るとそれは召喚獣の生首であった。さすがにこれはアウトだ。
我慢することなく、坂本雄二は胃の中身を全部ぶちまけた。
「よしっ!」
とっくの昔に点数はゼロになっていたはずなのに倒した召喚獣の姿が消えないから思わず夢中になって消えるまで攻撃を繰り返してしまった。
先程の大きな一撃で今度こそその姿は完全に消えてしまってる。
少し熱くなりすぎたかなと反省しあたりを振り返ると、そこのは地獄のような光景が待ち構えていた。
みんな膝をついてゲロしてるのである。Bクラス、Fクラス関係なく皆一様に吐いていた。
(……何この地獄絵図?)
しばらく見ない間に戦場は阿鼻叫喚としていた。
「オエェェェエッ!!」
とりあえず貰いゲロすることにした。
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一部悲惨な状況となった試召戦争は無事終戦を迎え戦後の交渉へと移ることになった。
ふらふらとしながらもFクラスの代表の坂本が立ち上がる。
「さてまず教室交換の件についてだが、条件によっては免除してやらなくもない」
その声に皆ザワザワとしはじめる。続きを聞きたいと次第に声のボリュームは落ちていった。
根本が条件は何だと続きを促す。
「それはお前だよ、負け組代表さん」
「俺?」
「ああ、お前にはAクラスに試召戦争の準備が出来てあると伝えてもらう」
思いのほか簡単な条件に根本は一瞬ホッとした。もっと無理な条件を出されると思っていた。
「ただし、これを着て貰ってな」
そう言っておもむろに取り出したのは一つのコスチュームだった。
ソレはとても布面積が狭かった。白を基調にしたソレは股間を隠す小さな布地の他にそれを固定するためのサスペンダーのような同じく白の紐のみ。黒の網目のストッキング、そして最後のおまけに真っ白のパンティが一枚。
「変態仮面じゃねえかっ!!!???」
これ、三科楓が昨日の帰り道に購入しておいた品物である。
見る側のダメージを考慮せず、ただただ相手の精神をゴリゴリ削るためのものを選んだ結果、大晦日に見たコレになった。
「こんなの着てられっ、ぐほぉっ!」
「気絶させておきました!」
そう言って敬礼してくるがあまりの変わり身の早さに目を剥いてしまう。
たじたじとしながらも後は頼んだと残りを全て任せ、教室へと引き返す。
途中吉井が根本の上着のポケットからピンクの封筒を取り出し、後はゴミ箱へと叩き込んだ。
以上にてBクラス戦は終戦を迎えた。
根本がどうなったとか後のことは知らない。
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「三科、明日話があるから昼休み申し訳ないが一緒に屋上まできてくれ」
「わかった」
返事もほどほどにFクラスの教室を後にする。
向かう先は当然三年Aクラス、愛しの千代ちゃんのいる教室だ。
「先輩、一緒に帰りましょ!」
突然の訪問に一度驚いたような表情を浮かべたが、すぐに花のような笑顔が咲き誇った。
「昨日はごめん、一緒に帰れなくて」
「ううん、気にしないで。いつも気を使ってくれてるのは知ってるから」
「そう」
それきり、会話は少し止まってしまった。
用意していたはずのプレゼントの話をするべきか迷っていた。
「Bクラス戦勝ったんだってね。おめでとう」
「うん、ありがとう」
「--少し安心したんだ」
「何が?」
「Bクラスの代表、根本くんだっけ。あまりいい噂を聞かないから、怪我がないようで本当によかった」
「先輩」
立ち止まってぎゅっと先輩の体を抱きしめた。細い体ははじめは急なことに驚いて緊張していたが、ゆっくりと力が抜けていった。
1日会えなかっただけでこんなにもいつもより愛おしい。
髪から広がる優しい匂いも、上へと伸びる長いまつ毛も、透き通る白い肌も、細い喉元も全てがいつもより先輩を強く感じさせる。
寂しい思いをさせたのはこっちだったのに、自分の体のことを心配してくれてる。本当に優しい人。
「大好きです」
「うん、私もだよ」
今は下校中であるし制服も着ている。流石にこの流れでキスをしたとして誰かに見られたら大変なことになるのはお互いにわかっている。
節度は守って付き合う、それはずっと前からちゃんと決めていることだった。
抱きしめている腕の力を緩め、そのまま手を繋いで再び歩き出す。
こうした瞬間があるから幸せなのだと思う。
ふと、思い出したことがあった。
「そういえば先輩、明日悪いんですけどお昼休みは予定入っちゃってご飯一緒に食べれないです」
今度は先輩が足を止めた。ふるふると震えながら吠える。
「1日会えなくてやっと一緒にいれたのに、なんですぐまた次の日会えなくなるの?意味わかんない!」
流石にその自分勝手な物言いには反論したかった。
「予定が入るばっかりはしょーがないじゃん!」
「断ればよかったでしょ!」
「うちの代表から呼ばれてんだよ!」
「私のお願いよりも代表君のお願いの方が大事なんだね!もういい知らない!これから一人で食べるもん!」
「そんなこと一言も言ってないじゃん!どうしてそういうことになるわけ⁉︎」
「いい、もう帰る!」
「送ってくって!」
「いらない!一人で帰って!」
「ちょっ、おい!」
ああもう、くそ!と悪態を吐く。
また喧嘩だ。しかも今回も相当にくだらない理由でだ。
ちなみに先週は知り合いに遭遇して、繋いでた手を離したら怒られた。恥ずかしがる必要ないじゃん、らしい。恥ずかしいに決まってんじゃん。
だがこうして喧嘩したからには1日、お互い頭を冷やす時間が必要だ。
明日はそのまま代表の方の用事を優先させることにする。
以前、用事を蹴って先輩のところに行ったら中途半端な人は嫌いと言って追い返されたことがあった。よく考えればその通り過ぎて何も言い返せなかった。
「俺だって一緒にご飯食べたいに決まってるじゃん、バカ」
後でちゃんと謝ろう。一人取り残された路地をフラフラと辿る。
春でも日差しが沈むと寒いんだな、先輩いた時はそんなこと感じなかったのに。
好き同士って難しいな。
もっと恋愛って単純なものだと思ってたのに。好きなら好き、嫌いなら嫌い。それだけなら良かった。そうひとりごちる。
でもそれだと味気ないとも感じる。
もう立派に恋愛の持つ毒に侵されている。けれどまったく嫌な感じはしなかった。
約束の次話投稿いたしました。宣言通り投稿頻度を上げていくつもりです。
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