先輩と喧嘩した翌日、朝から使った科目の補充試験を受けて午前を潰した。
そして今から喧嘩の原因となった忌々しい代表とのお話の時間である。
喧嘩はしても弁当を作ってきてくれたため、それを持って教室を後にする。
屋上に向かって移動しているのだが、ぞろぞろと後ろに後列ができてるのは何でだ。
後ろを振り返ると後列、吉井をはじめとする坂本グループの面々が手を振ってくる。
中には当然姫路瑞希もいた。
こんなの聞いてない。昼休みということで予想をつけておけばよかった。ご飯食べながらに決まってるんだから、当然いつもご飯を一緒に食べてる奴らも付いてくるわけである。
むしゃくしゃしたので腹いせに吉井の足を蹴ってやった。
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「んで、今日なんで俺呼ばれたわけ、代表」
屋上へ着いた坂本御一行+俺は円を描くように座った。ゆっくり弁当をつつきながら今日の呼ばれた理由について触れるようで、各々弁当箱を取り出す。
弁当のフタを開けてみるとびっくり、ケチャップの赤字で「だーりんコロス」と書いてあった。ジーザス、みんな思わず二度見した。
「三科、昨日のお前の点数について説明して欲しい」
昨日の点数、Aクラス上位陣でもなかなか出さない高得点を取れた理由について坂本たちは説明が欲しかったようだった。
強いて言えばなぜFクラスにいるのか、というところにも質問は繋がるのだろう。だがしかし、Fクラスに入った理由については教えることはやはりできない。
忘れないで欲しいのは、俺がFクラスにいる原因は振り分け試験前日に盛った結果、翌日腰痛でベッドから起き上がれなかっただけなのだ。
そこらへんの事情はうまく避けるように説明しないといけない。
ある程度説明の流れを考えながら口を開く。
「まず英語の点数についてだけど、あれは完全に実力だよ」
「Dクラス戦では点数を抑えてたってことか?」
「そういうこと」
それを聞いてふむ、と坂本は思案顔になった。腕を組むその姿はなかなかに様になっている。
坂本は、そうだなとさらに質問を続けた。
「お前がFクラスにいる理由はなんだ?」
やはりきた。これからの立ち回りも考えて、あくまでも訳ありのスタンスを取るのが吉だろうか。
今後どういったポジションでいるかも加味して、あとあと方針を決めなければいけない。
一先ずはどっちつかずな答えにするのがいいだろう。
「教えられない」
「どうしてもか?」
「ああ、いくら代表の頼みでもこればっかりは言えない」
「そうか、無理にとは言わない。気にしないでくれ」
では、と話をつなげる。
「お前が本来いるべきクラスは何処だ?」
ここで少し困った。島田美波と同様に一教科高得点型として振る舞うことも今の段階ではできる。
そうすることで得られるメリットは自身の乱用を防げること、これ一つ。
正直に答えた結果、男子という理由で戦場の駒として乱用された日には自分はいつか干からびてしまうかもしれない。
実際、始業式からまだほとんど経っていないにもかかわらず、すでに二回。もっと言えば日をまたいだBクラス戦もあり、かなりのハイペースで試召戦争を行なっている。
今後もこの調子だったらまず間違いなく体の弱い一部の生徒は体調を崩すだろう。
さて、どうしたものかと返事に迷っていると自分ではない誰かが代わりに答えてしまった。
「Aクラスですよ、もちろん。中でもトップ集団の一人です」
やりやがった、コイツ。
「姫路はそういってるが、本当か三科?」
今ならギリギリ否定できるかもしれない。姫路の買いかぶりだということに--。
「--本当ですよ。三科くんは入試成績、私と僅差の3位でしたから」
その事実に他の面子も騒めく。
学年三席、それも僅差の。今年のFクラスは一体どうなっているのか。そして本来三席であるはずの彼が、Fクラスに入るだけの事情とは一体どれだけ大きなものなのだろうか。
色々な憶測が飛び交った。
「ちなみに、僅差ってどれくらい?」
島田が遠慮がちに尋ね、それもまた姫路が勝手に答える。
「たったの2点です。あと一問か二問彼が多く当てるか私が間違ってたら次席は彼でしたね」
その声にまたもやどよめきが広がる。皆顔を見合わせて姫路の言ったことを信じられないといった表情で聞いていた。
それにしてもさっきからこの女、あまりにも俺の情報を垂れ流し過ぎてない?
そう思って睨みつけてやると、彼女はこちらと視線を交わらせ、ニヤリと笑った。
あ、狙ってやってる。同じところまで堕とすつもりだ。目元までしっかりと笑って"一人だけ楽はさせませんよ?"と無言のプレッシャーを与えてくる。
「もしそれが本当だとしたら、三科の名前を聞いたことがないのはおかしい」
坂本の言うことは最もで、吉井たちもたしかにと納得する。
それについての説明はこれ以上姫路にされるのも癪であるから自分から言うことにした。
「目立ちたくなかったからな。次のテストから手を抜いたんだよ」
なんでまたそんなことを、と吉井が詰め寄る。
「成績がいいと教員から雑用を頼まれることが多くなる。さらには成績優秀者と知ると皆んな取り入ろうとこぞってチヤホヤしてくる。
そうやって近づいてくるやつは俺に何かしらのレッテルを貼り付けて期待をする。想像通りの人じゃないとそれが今度は嫉妬とかに変わる。勝手に期待されて勝手に失望されるのはごめんだからな。だから努力することをやめたんだよ」
そこまで言って周りの反応を伺う。坂本はなるほどと言った顔で、吉井はあーと口を開けて、島田は辟易とした表情で、木下弟は自身の姉を想像して、土屋は床に顔を押し当ててシャッターチャンスをうかがっていた。
おい土屋テメエ何やってんだ。
それはいいとして、姫路はうんうんと激しく相槌を打っていた。その様子を見て、そういえばコイツは最初はこんな性格じゃなかったんだけどなあと、昔を思い出す。
思い出したのは去年の春。
入学した当初、彼女は誰から見てもとてもキラキラした存在だった。吉井の知っている彼女の通り、穢れを知らない、どこまでも純粋で真っ直ぐ。真っ直ぐゆえに、必死に周りの期待に応えようとしていた。
途中、俺は見切りをつけたが、彼女はその間も絶えず上を目指し続けた。
周りが求めるキャラを必死に演じようとして、その結果生まれたのが今みたいなひん曲がった、"いい"性格の姫路瑞希だ。
いつからかは覚えてはいないが、放課後の教室で偶にだが二人でいるときに、普段みんなの前で振舞っている彼女とはかけ離れた言動と行動をとるようになった。
努力をやめた俺に対して、この人なら言っても大丈夫と思ったのか、いろんな不満を喋るようになった。俺の方が先に気づいて離れていっただけで、二人とも同じものを嫌っているのだとわかっていたから遠慮なしに彼女はその胸の内を語った。
彼女はすでに自分の立場を作ってしまったため今更それを壊すこともできず引くに引けなかったところがあった。
同情してか分からないが一年生の時は俺も大人しくそれに付き合ってやっていた。
生返事をすると説教され、罵られ、俺が気にしてることをピンポイントで弄ってくるようになった。一体どこでそんな言葉を覚えて、誰に似たのか。今の毒うさぎスタイルがいつのまにか確立されていた。
いやほんと誰だよ。
「それならまあ、名前を聞かなかったのにも説明がつくか」
「まあそういうことだから、お前らがそういう態度を取るつもりだったら俺は今後一切試召戦争には協力するつもりはない」
結果論であるが、せっかくバカでいてもいい環境を手に入れたんだ。
吉井の純粋さは本当に好ましいけど、ここは釘を刺しておかないといけない。今後戦力として運用されるのは間違いないとして、相手にも守ってもらうスタンスを作るのがこの場合一番いいだろうと思った。
ここにいるやつらは本当にいい奴らなのだろう。二つ返事で了承してくれた。一見、坂本を中心として集まったグループのように見れなくもないがその実、集まった人の気質は皆どちらかというと吉井に似ている。
類は友を呼ぶというのは、似たような気質の人が集まることを言う。根の優しさはさることながら、人を惹きつける素質は坂本と吉井は特に似ていた。
こいつらなら仲良くしても大丈夫かな、と密かに思ったり。
「まあ三科くんはあの後身を引きましたからね、私の勝ち越しですよ」
前言撤回、コイツとは仲良くなれない。
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点数についてが一番に聞きたかったことのようで後の時間はただの雑談となった。今後どう作戦に組み入れていくかは追い追い検討するそうで、今のところはとくに頭を使う必要はなくなった。
ブロッコリーをフォークで刺しながら島田美波が、気になってたんだけどと話を切り出す。
「三科の言ってた彼女さんってどんな人なの?」
恋愛大好き、恋するうら若き乙女にとって他人の恋愛事情もまたスイーツと同じぐらい好きなのであった。
そうだなあ、と言葉を探す。
「一言で表すなら、強い人かなあ」
「意志がってこと?」
「それもあるんだけど、なんていえばいいんだろう。ふとした時に、ああ敵わないなって思い知らされることがあるんだ。愛は尊敬からって哲学者は言ったけどほんとその通りだよ。尊敬が尽きない」
へえ、と島田はその言葉の意味をじっくり感じ取った。先輩とやらの話をしている時の三科の目はとても真剣で、時折すごく優しそうな目をするのだ。
それを見てなんとなく、良いなと感じた。恋人のいる人の持つ独特の雰囲気に人と付き合うことへの憧れが大きくなる。
「ほかにはどんなところが好きなの?」
この際、聞きたいことは遠慮なく全部聞いてしまおう。もしかしたらこうやって弁当を一緒につついて時間を過ごすことは、今後そう訪れないかもしれない。
今のうちにできるだけ、話を聞いておきたいと思った。
「すっごく可愛い。これ以上ないってくらい可愛い」
「……たしかに可愛かった」
実は土屋は最上千代のことを見たことがあった。写真で、だが、三科が持ってきた飛びっきりの笑顔の写真はアイドルのプロマイド並みによかった。美人に癒され、いつも以上に仕事をはりきってしまったのもここだけの話。縫合含めて現金3万の価値はあるものを作ってしまっていたと思う。
「そんな可愛いなら見てみたいわね。ねえ、写真とかないの?」
「あることにゃあるが、あんま人に見せたくないなあ」
この見せたくないなあと言う発言、独占欲ではなく単に見せられるような写真が少ないだけである。ラブラブなツーショットか隠し撮り、挙げ句の果てにはイメクラなどカップルとしての醜態を晒すのもあまり気がすすまない。
適当なものを選び、みんなに携帯を向ける。
「うわあ、すっごく綺麗!」
島田はその写真を見て目を光らせた。見せたのは去年の夏、二人でひまわり畑で有名な観光地に訪れた時、ひまわりをバックにして撮ったもの。
白を基調としたサマードレスには青のリボンや可愛いフリルがあしらわれ、頭にはつばが広めの麦わら帽子が被ってある。
自然光がいい感じに全体をライトアップし、品のいいお嬢様然とした先輩がひまわりに負けないぐらい華やかな笑顔を浮かべていた。
写真集で見るような、完璧なロケーションかつシチュエーションであった。
男性陣からも、おおっと声が上がる。いやらしい意味はなく単純に感嘆したのだとわかる。
それぐらい先輩の写真は絵になっていた。
「いいなあ、こんな美人な彼女さんがいて。羨ましいなあ、僕も欲しいよ」
「たしかに美人だな、羨ましいのには違いない」
そうは言ってるが坂本。お前には霧島がいるじゃないか。あいつも人形みたいに綺麗な顔の作りしてるぞ?
「して、お主はなぜ先輩と付き合っておるのじゃ?見てくれは悪くないから、同級生や後輩からも人気があるだろうに」
「中学からの知り合いでな」
「へえ、そうなの?再開した二人が運命に気づいて恋に落ちたのね。ステキじゃない!」
いやそんなキラキラとした目で妄想を膨らませても困る。恋愛脳な島田は想像逞しく、一人勝手な妄想を広げていた。
「いや、先輩の彼氏から奪った」
瞬間空気が凍りついた。長いこと話しを聞くだけで黙っていた姫路もこればっかりは固まった。
「奪ったって、どういった経緯で?」
話せが長くなるなあ、と少し昼休みギリギリになるかもしれないがつらつらと言葉を並べていった。
まず簡単に先輩と出会った経緯から触れようか。中学校が同じで、部活動がおんなじ体育館内だったんだよ。
そりゃまあ綺麗な人だから人気があって、俺にもみんなと同じように先輩だけが特別キラキラして見えた。
体育館の使用時間の割り当てが同じ時、先輩後輩交えて、部活動の違いも関係なしでみんなで雑談しながら帰ってたんだ。その中に俺も先輩もいた。
下校する道でみんな段々自分の家の方向に別れてくんだけど、最後は家の方面が一緒だったからいつも先輩と二人で帰ってた。だから帰り道よく喋ってたし仲も良くて、姉みたいに慕ってたよ。
月日が経って先輩が一足先に中学を卒業して、文月学園に通うようになった。その頃には先輩の身長なんか悠に越してたなあ。
先輩がいたからウチに来たのかって?別に先輩を追いかけた訳じゃなかったんだけど、一年後俺の進学先にたまたま先輩がいたってだけなんだ。
偶然再開して、昔話に花が咲いて、近所のカフェで積もる話があるからって入ってった。俺の見てない一年間、先輩もいろいろあったらしくてさ、彼氏もできたんだって話もその時聞かされた。
そん時は素直におめでとうって言えてたよ。
そのあとも同じ中学校出身の人が少ないこともあって先輩とは度々会ってはいたんだ。本当に昔に戻ったみたいで、姉みたいに慕ってたこともあって、お互い結構家族のこととか、プライベートな相談もしてたりした。
ある時先輩に今の彼氏さんについて相談を受けたことがあったんだ。彼氏さんはどうも天然さんというか一般常識に疎いというか、周りに吹き込まれたことも簡単に信じちゃって嘘のことも見分けられないらしかったんだ。
その時の相談は、彼氏さんが周りに吹き込まれたことを鵜呑みにしちゃって、恋人同士なら当然なことなのだと言われて信じて疑わずに強引に迫ってきたことがあったって内容だった。
俺もその彼氏さんと何度か話すことはあったんだ。根はいい人だけど確かにどこか普通とはズレてて、ある意味頭がおかしな人だったよ。
でも騙されやすいのは本当でね、先輩が言ってるかとは間違いじゃないってすぐわかった。
姉みたいに慕ってた人が一番信頼を寄せていたはずの人に裏切られたことを知って、すごく怒った。会って、この人なら大丈夫かなって思ってたところもあったから余計に許せなかった。
それでもとりあえずは先輩は傷ついた心を癒さないといけないって思った。いつも以上に優しく接するようになって、割れ物のように丁寧に相手をするようにした。頼られてるんだから、俺が守らなきゃって思い始めたんだろうな。
その時からかな、先輩も優しさや甘えられる人を求めてて、段々とお互いの距離が近くなっていったんだ。
狙ってやっていったわけじゃないけど、会う頻度もどんどん増えて、付き合ってはないけどお互いの距離感が近くなって、いい雰囲気になっていったよ。先輩が傷ついた原因も知ってるから、極端なスキンシップ、まあ性的なニュアンスがあるキスとかそういうのは絶対にしないようにしてた。
先輩にはそれが誠実さに映ったんだろうね、お互いのことをもっともっと話すようになって、いつしか心が移ろいでいったんだ。
告白?ああ、前の彼氏さんと別れるって先輩から言い出すのを待ったよ。付き合っている人の中に割って入って告白するのは不誠実だろ?
まあでも、知ってる人から彼女を奪うって行為は背独感がやばかったなあ。うん。
え、彼氏さんはこの学校にまだいるのかって?うんいるよ。名前?名前は--。
キーンコーンカーンコーン
そこでチャイムが鳴った。結構喋ってたかもしれない。それにさすがにフラれた後の人の名前を出すのは死体蹴りか、と思い丁度いいタイミングでチャイムが鳴ったなとそのまま口をつぐんだ。
「さて、時間だし俺は教室に戻るよ」
「そうだな、悪いな。いろいろ聞いて」
「気にしないでくれ」
じゃっと残して先に教室へと帰っていく。次の授業は生物で、早めに授業の用意をしてないと怒るから後が怖い。
いそいそと階段を下っていった。
そういえば、と携帯を開く。
"ご馳走様でした、美味しかったです!先輩大好き!"
長続きする秘訣は喧嘩中で会っても必ず愛情表現をすること。
同棲してるならお休みのキスだったり、学生だったら別れ際にさっと好きであることを相手に伝えることだ。
喧嘩をしてもあなたを思っている心だけは変わらない。そう伝えることは例え喧嘩をして険悪な空気であっても"あ、この人私のこと好きでいてくれてるんだ"と分かると仲直りできる可能性がグッと高くなる。
付き合う当初に二人で交わした約束は数多くあれど、実は一番この約束が好きだったりする。
携帯の通知がなり返信が表示される。
"お粗末様。放課後は一緒に帰ってよね!死ね!大好き!"
りょーかいと短く返して携帯をしまう。情緒不安定な返信だなあと思いながらやはり最後の一言を見るだけで少し嬉しくなる。
喧嘩するのは相手を思っているから。喧嘩をしなくなるのは相手への期待をやめてしまったときだと俺は思う。
これからもいっぱいいっぱい喧嘩しよう。何度でも仲直りして、別れたとしても好きだったら告白し直せばいい。またすきになって貰えばいい。
先輩を想う限り何度でも先輩と向き合っていこうと、そう改めて思った。
みなさまお疲れ様です。読了ありがとうございました。
宣言通り投稿ペース上げてまいりました。
今回地の文多め?といっていいのか微妙なところですが文字数もありますし読んでて辛くはなかったでしょうか?
テンポのいい文章ならスラスラと読むのも苦痛ではないのですが自分の文章を客観視したことはないので少々不安です。
誤字脱字、評価、感想、リクエストお待ちしております!
リクエストではこのシーンを抜いて欲しくなかった!ぜひこう言う話を書いて欲しいなどさまざまなご要望にお応えしていくつもりなので遠慮なくお申し出ください。
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ありがとうございました。