夢はパパ   作:肉壁

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今日は全国的に卒業式の日ですね。一部の地域では生憎の雨ですが素晴らしい1日にしてくださいね。


09.下克上

「お前らのおかげでここまで来ることができた。礼を言う。本当によくやってくれた」

 

早朝、朝のHRの時間を使って坂本がみんなの前で語り始めた。

これから進めるのは俺たちFクラスの最終目標、戦争を始めるきっかけとなったAクラスとの試召戦争、その説明である。

 

「皆にここまで頑張ってきてもらって申し訳ないが、最後のAクラス戦は代表同士の一騎討ちで決着をつけたい」

 

代表同士の一騎討ち、それはつまるところ学年主席の霧島と坂本の正面からのぶつかり合いということになる。言うまでもなく、まともにやり合ったところで勝てるはずがない。

今回も先の二戦同様、考えがあるのだろう。

 

一騎討ちを申し出た坂本に対して、吉井がその無茶な挑戦をバカにする。

坂本がポケットからおもむろに何かを取り出し真っ直ぐ吉井に向かって投擲し吉井の顔すれすれを通って投げられた何かが壁に突き刺ささった。目を剥いて吉井は口を噤んだ。

 

「明久の言う通り俺が翔子に真正面から戦ったところで勝つことはできない」

 

「なら今さっき僕の発言に対して攻撃して来る必要なかったよねぇ⁉︎」

 

「うるさい黙れ。次は目だ」

 

咳払いをして話を元に戻した。

 

「いいか、勝負の内容は小学六年生までの歴史のテストだ。ある問題が出たら俺たちは絶対に勝てる」

 

「何でそこまで言い張れるのさ」

 

「あいつが絶対に間違う問題を知っているからだ」

 

彼が喋り出したのは霧島の弱点とそれを悠に越える凄さであった。一度聞いたことは絶対に忘れない。相当昔のことも全部覚えているそうだ。そして彼女が頭の良い最たる所以であるその記憶力の良さが今回のアダとなる。

一度覚えた、間違えた記憶も彼女は忘れない。一度覚えたことは忘れないから、彼女は暗記系は大して学び直すことはしないという予測。記憶が更新されず、間違えたまま答えるだろうと言う期待。その上で成り立っている作戦。

だがしかしそれは大きな希望でもあった。正面衝突した際の負けは確定している。けれどもしも、このもしもが叶えば、自分たちに勝利が訪れる。

皆がその事実に震えた。未だ嘗てない、最下位クラスが最上位クラスを打ち負かすことができるかもしれないという可能性に興奮を覚えた。

全員がすでに二度も、下克上を経験していたのだ。坂本ならやってくれるかもしれない、そういう期待がすでに皆の中に出来上がっていた。期待の視線が、坂本一人に集中する。

それをしっかりと坂本は受け止めていた。

 

「俺に任せろ」

 

力強い言葉とともに彼は鷹揚に頷いた。

 

 

------

 

坂本に声をかけられ、坂本御一行とともに俺はAクラスに向かっていた。

 

Aクラスに向かうという緊張はどこへやら、皆遠足気分でガヤガヤとしている。

 

着いてすぐ、坂本は無遠慮にノックなしでずかずかと中に入りこむ。突然現れた他クラスの面々にAクラス内はざわついていた。

 

「Fクラス代表の坂本雄二だ。俺たちFクラスは代表同士の一騎討ちをもって、Aクラスに試召戦争を挑みたい」

 

その言葉にまた周囲がざわつく。どういった用件だと思ったらまさか最下位クラスの代表者と学年主席の一騎討ち。連日の報告ですでにDクラスとBクラスが破れ、次はAクラスに挑むのではないかという噂が出ていたが、まさか本当にくるとは思っていなかった。

さらには戦争の内容も通常のルールとは違うものである。何か裏があるのかとそう思わざるを得なかった。

 

そこで優子をはじめとする何人かが反発する。代表選の際は姫路を出さないと言っても、全く信用してもらえない。

そうしてなかなか交渉が進まないなか、その停滞を打ち破った人がいた。

 

「……その勝負受けてもいい」

 

「代表⁉︎」

 

Aクラス代表、霧島翔子。二学年の主席であり、坂本の幼馴染。

優子を制し、言葉を続ける。

 

「ただし条件がある。クラスの代表生徒五人による代表戦」

 

この内容なら確かに、霧島に万が一があった場合の保険がかけられる。そしてこちらにとってもまだ勝機が残されている条件だった。

霧島が坂本の用意周到な性格をよく知っているからこそ、ある程度保険をかけたいのは当然であった。

 

「そしてもう一つ条件。勝った方が負けた方のいうことをなんでも一つ訊く」

 

霧島の目は冗談を言っている目ではなく本気だった。俺は霧島の気持ちを知っているからこそ、なんとなくこの条件は、ああそういうことかと得心がいく。

 

でもどうやら他の面々は違うようで、なにやら酷い勘違いをしていた。

大方、百合の噂がある霧島が姫路に何か要求するのではないかとか考えているのだろうがそんなことはない。

彼女は今も昔もずっと変わらず坂本一筋である。度々坂本の好きなところを延々と聞かされ、中には被った内容を聞かされたこともある。

何度も聞いていくうちにだんだん相槌も適当になり生返事をするようになると、悲しそうな顔になり、ごめんつまらなかったと聞かれ、話すことを途中でやめるのであった。

その沈み様に逆にこっちが申し訳ない気持ちになり、上の空だったと謝って話の続きを促すようなこともしばしば。坂本のことを語る彼女はとても幸せそうで、何だかんだで見ていて癒されている自分がいた。

あれ、なにこの毒うさぎとの落差。やべえ霧島天使じゃん。

 

こいつにももう少し可愛げがあればなあと目線を向けてみると、キョトンとあれ私何かしましたっけという顔で見つめ返してくる。見た目以外の可愛げなんて犬に食わせてしまった彼女のその顔はもう煽りにしか見えない。

昔の姫路は死んだ。もういない。でも一つとなって俺たちの心で生き続ける。

 

「わかった、その条件でやろう」

 

「絶対に負けない」

 

二人の視線は交差しやがて霧島が目をそらした。若干頬が紅い気がするから恐らく見つめあって照れただけだと思う。決して怖気づいて目を逸らしたわけではない。恋する乙女ってなんでこう二割り増しくらいで可愛くうつるんだろうね。

 

「約束の方、守って」

 

「ああ、男に二言はねえ」

 

二人は火花を散らして睨み合う。今度はお互いそらさない。ただ鋭く、お互いを睨みつけていた。

 

正面衝突は避けられたとはいえ、面倒な戦い方になったなと考えていると自分にも一つ、目線が向いているのに気がついた。

視線を寄せられている方を向くとそこにいたのは、やはりというか木下優子であった。毎度勝負事になると何かしら突っかかってくることの多かった彼女。その度にのらりくらりと躱し、勝負を真面目に受けることは今までで一度もなかった。定期テストの点数で勝負を申し込まれた時なんてまともにテストを受けた試しがない。平均点ぐらいを右往左往するのが常であった。

これが実力だと言って勝負を回避しようとも話は聞かないしで、俺との勝負にどこに思い入れがあるのだろうか謎だった。

コイツ自分が負けるまで続けるんじゃないのって思ったこともあって、一時期ただ敗北を知りたいだけのドMなんじゃないかと真剣に疑ったこともあった。

 

「アタシも絶対に負けたりなんかしないから」

 

そうは言われても俺が出るとは限らないし、そんなに闘志燃やされても困るって。

ほらあまりの気迫に弟も若干怯えてるぞ、あ、気にしない?さいですか。

 

どうやら優子は俺の返事を待っているようでまだこちらを見つめたままだった。目をそらすことはしない。

そこでふと俺は考えた。これ、霧島みたいな反応するのかなあ、と。

なんとなく気になったので実行にうつすことにし、返事待ちの彼女を口も開かず、目もそらさず、ただ熱い眼差しを送り続けた。

するとどうだろうか、彼女の表情はだんだんと変化していく。最初は少し気まずそうな顔になり、次に怪訝とした顔つきに変わる。目をそらさないことに居心地が悪くなり、しかし勝負を挑んだ以上そらすのは何となく違う気がして我慢して見続けた。

頬は時間が経つにつれて色付き始め、ついには耳まで真っ赤にして耐えきれず顔をそらした。

その反応に満足した俺は頷いて自分もようやく視線を外す。睨めっこは俺の勝ちだ。心の中で拳を握りしめガッツポーズをとる。

目的が入れ替わっていた、危ない危ない。

しかし彼女、普段はツンケンしつつもやはり女の子らしい一面はしっかりと残っている。恥ずかしさでプルプル震え始めた時は正直萌え死ぬところだった。

でも俺は先輩一筋。あくまでも可愛いと感じるだけ。

 

「……何か言いなさいよ」

 

いたたまれなくなった彼女が苦し紛れに発した言葉は実に彼女らしい気の強いものだった。思わずその言葉にふふっと少し笑ってしまった。

 

このときの俺はバカだったと思う。

 

「まあ、頑張れ」

 

本来血の気が多い彼女に対し挑発にしか聞こえない返事をしてしまった。

 

言葉選び完全に間違えちゃった(白目

 

それを聞いた彼女の反応はそれはそれは急なもので、真っ赤にしていた顔はすぐに平時の顔色へと戻り、再び闘争心を溢れさせていた。

 

「その言葉、後悔させてあげる」

 

やべえミスったかと後になって気がついたがもう遅い。相手はめらめらとその目に闘志を燃やしていた。はじめの言葉選びですでに失敗してしまったため半ばヤケクソ気味に答える。

 

「楽しみにしてるよ」

 

さらに挑発。

よし、フラグ立てておこう。いつも通り回収は全力回避の方で頑張りはするけど今回ばかりは少し厳しいかもしれない。だって優子だぜ?正攻法で戦わなかった場合リアルファイト不可避の木下優子だぜ?勝てる気がしねえよ。

もし出るとしたらその時は負けるかもしれない。

 

そんなこんなで戦前交渉は終了。Aクラス戦、平和に終わる気がしない。

 

 

------

 

教室に戻ってすぐに代表メンバーを決める作戦会議が始まった。下手な人選はできないし、それこそオーダー次第で結果が決まってしまう場合もある。

坂本は先程から黙ったまま。みんながその思考の邪魔をしない様に無言でその様子を見守っていた。

 

「科目の選択権は3つか……」

 

そう呟いて彼は目を閉じて黙ったきりだった。どれくらい時間が経っただろうか。大人しくしていられない吉井なんかはソワソワしていた。

 

坂本がゆっくりと閉じていた目をあけ口を開いた。

 

「オーダーを発表する」

 

全員が緊張した面持ちで坂本を見上げる。神童坂本の采配はどうなるのか。皆が一言一句聞き漏らさない様に耳を傾けた。

 

「--ムッツリーニ、姫路、三科の3タテでいこう。うん、それがいい」

 

何人かが飛び蹴りをかました。しょうがないと思う。

 

つーかお前が一番に頑張れよ。

 

「冗談はさておき」

 

「半分以上本気だったでしょ」

 

「冗談はさておきっ!本当のオーダーを発表する。明久、ムッツリーニ、姫路、三科、そして最後に俺だ」

 

さらに言葉を続ける。

 

「科目の選択権はムッツリーニと姫路、俺が使う。三科は相手の土俵かもしれないが頑張って戦ってくれ」

 

「ちょっと待って僕にはなんもないの!」

 

「言わなくても分かるだろ?」

 

「そっか、うん!僕も全力を尽くすよ!」

 

相手側のオーダーは霧島、次席のトシくんと優子は確実だろう。しかし残り二人は予想がつかない。順当に考えて、不確定要素は吉井と土屋が当たることになる。

 

絶対に勝ってほしい土屋がどうなるかがキーポイントだろう。吉井はダメだ、当て石、捨て駒がいいところだろう。坂本が言ったのは「言わなくても(期待してないのは)分かるだろ?」と言った感じだろう。本心隠して当て馬にするのはなかなか根性が腐ってる。

 

「テメエら明日は勝つぞ!!」

 

「おう!!」

 

そうしてみんなの声が重なる。みんなの本気が伝わってくる。今回、俺も点数はそれなりにとった。明日ははじめて優子と本気でぶつかり合うことになるのだろうか。明日のことなんて誰にもまったく予想がつかなかった。

 

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