歌野と須美が話している間に、赤いジャージに身を包んだ春信が更衣室から出てくる。
「お待たせしました」
「Oh!ピッタリね!お兄さん、背も高いし手足も長いからちょっと心配だったけど」
「ありがとうございます」
「そういえば歌野さん、なんであんなにジャージが?」
「私たちのサイズもピッタリだったし…」
「そういえばそうだね~」
「あれも大赦の人が置いていったのよ、皆の勇者の色で用意してあるから
サイズも調べてたんじゃないかしら?」
須美は紫がかった薄い青、銀は赤、園子は濃い紫のジャージを着ていた。
「ただ…」
「ただ?」
「赤いジャージだけ3着あって、しかも1着は大きいし不思議に思ってたのよね」
「ああ、以前私が使用していた物ですね、友人が気を回してくれたんでしょう」
「なるほど、だからね。それだけ新品じゃなかったのは」
「でしょうね。クリーニングの袋に入ってました」
「色はアタシとおそろいっすね!」
「そうですね、銀様」
にこやかに言葉を交わす銀と春信。
そんな中、歌野は何か引っかかるように声を漏らした。
「でも…友人か…」
「なにか。。。?」
「こういう言い方は失礼かもしれないけど…」
「構いませんよ、遠慮なくおっしゃって下さい」
「大赦のあの人たちの間で友人関係ってあったんだなぁって…」
「というと?」
「いえね、この更衣室作ったときも、大赦の人たちってあの格好だったのよ」
「あの格好って、まさか…」
「もしかして~」
「仮面の宮司、ですか…?」
「そうよ、とんだサプライズよ、ビックリしたわ!」
「それは…怖い絵面ですね…」
「でしょう?流石の私もちょっと引いちゃったわ」
「ひなたさん、よく平気で同行できましたねー」
「慣れって怖いね~」
「そうね、大赦との連絡役は風さんかひなたさんに任せていたものね…」
「だから、今思うとお兄さんみたいに素顔で行動する人のほうが珍しいのかなって」
「ふふふ、確かに表に出る実働隊は基本、あの仮面をつけていますからね」
「あ、でも私達は顔を出している人と一緒だったんだよ~」
「おや、そうなんですか?」
「ええ、
「ほほう。。。」
「あれ?知らなかったんすか?」
「ええ、おそらくお会いした事がないですね」
「そうなんだ~」
「勇者部の時にはそんなサポート役はつきませんでしたし。。。
夏凜が
「あら、夏凜さんは後から来たのね」
「考えてみれば、勇者部には神託を受ける巫女もおらず
大赦との連絡もメールばかりだったと聞きます」
「世界を守る勇者なのに冷遇されてたんですね…」
「精霊の護りを過信していた部分もあるんでしょうね」
「あ、でも東郷さんは巫女の素養があるって話ですよね?」
「そういえばそうですね、しかし勇者部の戦いの間には神託は受けなかったそうです」
「リアリー?」
「そもそも巫女の神託にない不規則な進攻ばかりだったようですし。。。」
「不思議な話ね、ミステリアスだわ」
「まあ、勇者部の事はともかく
実際は大赦内で仮面をつけない人員も多いですし、フレンドリーな関係もありますよ」
「そうなのね、少し安心したわ!」
「さて、そろそろ作業にかかりましょうか」
「おっと、そうだった!」
「おしゃべりをしに来たんじゃないものね」
「がんばるよ~」
「それじゃあ、小学生組には収穫を手伝ってもらおうかしら?
立ったりしゃがんだりで結構、体力がいるわよ」
「体力には自信があります!任せてください!」
「私は疲れたら寝ちゃうかも~」
「さっき頑張るって言ったばかりでしょう、そのっち」
「ふふふ、無理せず、ゆっくりで良いからね」
「よっしゃ、行くぞー!須美!園子!」
「ええ!」
「ああ~、まって~」
「3人とも元気で良いわね~」
「で、私は。。。」
「ああ、お兄さんにはちょっと力仕事をお願いしようかしら」
歌野は鍬を取ると畑の一角へ春信を案内する
「ここの土が意外と固くて、いつか耕そうと後回しになっていたの」
「なるほど、ここだけ掘り返されていませんね」
「ええ、下手なやり方をすると手がしびれちゃうから、慌てずにやってね」
「わかりました」
歌野から鍬を受け取り、しっかりと腰を入れて振り下ろす
ザクッ
堅い手ごたえを越えたその下に確かな土の感触を確かめるように鍬を振る
ザクッ
「いいわね!どこかでやった事があるの?」
「ええ、実は以前少しだけですが、畑仕事を教わった事がありまして」
「なるほど!教えた人はいいセンスしてるわね!」
「はい、私もそう思います」
「あはは、それが出来るお兄さんもいいセンスよ、才能あるんじゃないですか?農耕の!」
「。。。」
「ん?どうしたの?」
「い、いえ、ありがとうございます」
「じゃあ、私は須美君たちと収穫してるから、こっちは頼んだわ!」
「はい、お任せください」
ザクッ、ザクッ
歌野と小学生組が賑やかに収穫している間
ザクッ、ザクッ
黙々と畑を耕す春信
ザクッ、ザクッ
確かに疲れる仕事ではあったが
ザクッ、ザクッ
何も考えずに鍬を振り、土に触れるのは心地よかった
ザクッ、ザクッ
こんな平和な時間がいつまでも続けばいいと思っていた頃
ザクッ、ザクッ
一人の少女の声に春信の手が止まった
ガシャンッ
「お兄さん?!」
その音と声に皆が振り向くと、倒れた自転車の横に
零れそうなほど目に涙を溜めた
「みーちゃん!どうしたの?!」
そのただならぬ雰囲気に歌野は収穫中の野菜を抱えたまま水都へ駆け寄る
「え?うたのん、ど…どうしたの?」
しかし、当の水都は歌野の行動に驚いたように目をパチクリさせる
その瞬きで水都の目に溜まっていた涙が頬を伝った
「え…あれ?涙が…」
「なにかあったの?みーちゃん、いきなり泣き出すなんて…」
須美たちも近くまで来て心配そうに見ている
「な…なんでだろう?何も悲しいことなんてないのに…」
「大丈夫?みーちゃん、こっちに座って、とにかく落ち着いて…」
「うん…ひっく…」
少しオロオロしながらも水都を気遣い、休ませる歌野
水都はしばらく涙を流すと、にこやかに笑って歌野に応える
「うん!もう大丈夫!心配かけたね、うたのん」
軽いガッツポーズで元気をアピールする水都にホッとしつつ
「でもいきなりどうしたの?なんでもないのに泣き出すなんて…」
尋ねる歌野に「んー」と考えるような素振りで顎に指を当てる水都
「うたのんは…2年前のこと覚えてる?」
「2年前って…」
「バーテックスの侵攻が始まって、諏訪で1年過ごした頃のこと」
「忘れる訳ないわ!あの1年はみーちゃんと二人で頑張ったんだもの!」
「うん、私は畑仕事が手伝えなくて申し訳なかったんだけど…」
「そんなことないわ!みーちゃんが傍にいてくれるだけで心強かったもの!」
「ありがと、うたのん。でも実際、畑仕事はうたのん1人でやってて…」
「大変だったんですね…」
「大人はみんな、バーテックスの侵攻に絶望してたからね、誰も手伝わなかったんだ…」
「そうなんですか…」
「でも、1年頑張ったら手伝ってくれる人たちが出てきたんだ」
「それはよかったね~」
「うん!最初に手伝ってくれた人の事は今でも忘れないよ」
「。。。」
「宮阪のおじいさんだね!」
「うん!そう!嬉しかったなぁ…」
「バット、なぜ今その話を?」
歌野の疑問にまた水都は考える
「んー、なんでだろう?お兄さんの赤いジャージを見たらその事を思い出して…
なんだか涙が出ちゃったんだ。おかしいよね、こっちでは皆が手伝ってくれてるのに」
「そのおじいさんが赤いジャージを着てたって事ですか?」
「いいえ、おじいさんは野良仕事の作業着だったわ、赤くもなかったし…」
「不思議な話ですね…」
「おにーさんは何か…って?!」
「そうですね、藤森水都様は巫女ですから。。。」
「…?」
「何か別の情報が神託に近い形で、感情を揺さぶったのかも。。。」
「あの~」
「まあ、単なる予想ですし。。。」
「お、おにい…さん?」
「私には少々分かりかねますが。。。」
「な、なんでお兄さんまで泣いてるんですか?」
「え。。。」
話しながら両目一杯に溜まった涙を零す春信
どうやら何度も泣いていたせいで、自分が涙を流していることも気付かなかったようだ
「部室にいた時からそうでしたし、本当は体調が悪いんじゃ?」
「い、いえ、これは。。。嬉しくてつい。。。」
「え?嬉しくて?」
「。。。!
そ、そうです!やっと藤森水都様にお目通り願えたので
嬉しくて思わず泣いてしまったんですよ!」
「え!ええ!えええ~!!
わ、私なんかに会えてもなんにも良い事なんてないですよ!勇者でもないし!」
水都は顔を真っ赤にして両手と首をブンブン振っている。
「いえいえ、そんな事はありませんよ。
それに、お会いできるまでに随分かかった気がしますから。。。」
「随分って、さっき来たばかりだし、部室で会ったのも数日前だったわよね?」
「そうですね、しかし体感時間では
「な、なんだろう…お兄さんがアタシにツッコミを求めてるような気がする」
「何かツッコミどころがあったの~?」
「わからんっ!でも…何かメタな匂いがする!」
「めた~?」
「何をわけの分からない事言ってるの、銀」
「と、とにかく、こうしてお目通り願えたわけですから、あらためてご挨拶させてください」
「え…いえ、あ…はい…」
「諏訪の巫女、藤森水都様。
私は大赦より参りました、三好夏凜の兄、春信と申します。
どうか、以後お見知りおきを」
「あ、あわわわ、は、はい、わたっ!わたしぃはぁ、うたのんの…じゃなくて
白鳥歌野さんの巫女をやってます、諏訪でやってましたぁ、フジモリミトです~!」
「み、みーちゃん、緊張しすぎて自分の名前がカタコトになってるわよ…」
「ううぅ…は、はずかしい…」
「ははは、硬くなられずとも大丈夫ですよ、藤森水都様」
春信がにこやかに近づこうとすると歌野の後ろにささっと隠れる水都
「あらら~」
「これは…」
「嫌われちゃいましたかねぇ?」
「え、ええっと。。。」
「ああ、大丈夫よ。みーちゃんは若い男性と話すのが特に苦手なだけだから」
「そ、そうだったんですか。。。?」
「ご、ごめんなさいぃ…」
「なにせ、諏訪の結界で3年間、純粋培養されたもの!私の手で!」
「。。。」
「歌野さんの?!」
「どういうことだ?!」
「おお~!」
「って、なんで園子が嬉しそうなんだ?!」
「うたのん、誤解を生む言い方はやめてぇ!」
「誤解?!なにが?!」
「誤解じゃないわ!真実よ!」
「真実なの?!だからなにが?!」
「あらたな風だよ~!」
「風?!何の話だ?!」
「お、落ち着きなさい!そのっち!」
「須美?!お前なんで興奮してんだ?!」
「みーちゃんは私が一生守るから大丈夫よ!」
「歌野さん?!なんでいきなり戦いの話に?!」
「うたのん、皆の前で恥ずかしいよぉ」
「恥ずかしい?!何か恥ずかしい話が?!」
「コレはご飯3杯いけるよ~!メモメモ」
「ご飯?!いつの間にメシの話に?!」
「これは何かが開いた気がするわ!」
「開くってなんのはなs…ってがはぁっ!!」
「銀!」「ミノさん!」「銀君!」「銀ちゃん!」「銀様!」
「モ、モウ、コレイジョウ、ツッコメナイ…バタン」
「銀っ!!『バタン』は擬音よ!口で言うものじゃないわ!」
「そこ、お前が突っ込むのかよ!須美!」
満身創痍でもツッコミには動いてしまう、真の勇者の姿がそこにはあった。
春信(以下略):酷いオチですね。。。
mototwo(以下略):ゆ、『ゆゆゆい』ギャグ回だから…
あなた、銀様を何だと思ってるんですか。。。
元気で愉快なツッコミ小学生勇者
バカにしてるんですか?
い、いやいや、銀や球子の本質ってそういうもんだって!
あの方たち、世界の為に命を奉げた英霊ですよ?
だから!それがおかしいんだって!
はあ?
ああいう子たちって、ワガママ言ったり、皆にバカにされたりしながらも
周りの空気を和らげるような雰囲気を素で出す子たちなんだってば
ほほう?
そういう子たちは絶対に死んじゃダメなの!
命懸けの戦いでどれだけボロボロになっても帰って来なきゃダメなの!
ダメって。。。
『勇者は根性』なんだから、根性で帰って来るの!友奈みたいに!
友奈さんは、ある意味特別ですけど。。。
もちろん、他の誰が死んでもいいってわけでもないけど、ああいう子は特にダメなの!
ワガママなお年寄りですねぇ。。。
そいつは前作からのこの小説のコンセプトだ
は?
『勇者はワガママ』だからな!
『勇者は根性』じゃなかったんですか
それは本編の方だ。俺の話はこっちがコンセプト
だいたい、あなたは勇者でもなんでもないでしょう。。。
それはそれ、これはこれ
何の説明にもなってませんよ?
それに、他のオチの方が酷かったんだよ?
またですか。。。一体他にどんなオチが。。。
こち亀オチ
こち○オチって。。。
・
・
・
・
・
水都への挨拶を済ませた春信が去った後、土煙を上げて突撃してくる影
その影がその手に持つのは『
それを振りかざし少女は叫んだ
「春信はどこだあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
その勢いに気圧されながらも正直に答える小学生3人
「お、お兄さんなら~わけの分からない理由で~愛媛に~」
「な、なんでも長い事本編に戻ってこない球子さんを迎えに行くとか」
「ア、アタシたちにそんな言葉だけ残してダッシュで行っちゃいましたよ」
「おのれぇぇぇぇぇぇぇっ!逃げたかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
3人の言葉を聞くと同時に叫びながら走り去るその少女を見送り呟く5人
「ど、どうしたんだろう…?」
「ワッツハプン?一体なにがあったの…ひなたさん?」
「あ~やっぱり今のひなた先輩だよね~」
「だよね~って、まあ確かに疑いたくなるくらい言動がおかしかったけどな…」
「風さんはもういきなり殴られる事はないと思うって笑ってらしたけど…」
「それどころじゃ済まなそうだな、こりゃあ…」
「あ、そうだ歌野さん…」
「どうしたの、須美ちゃん…」
「お茶と牡丹餅も持ってきたんです…」
「そう、みんなで食べましょうか、何も考えずに…」
「ノーマインドだね…」
「そこ、水都さんが英語で言うんすか…」
「ミノさんのツッコミもいつもとちがうね~」
牡丹餅でお茶しながら5人が見送った土煙と叫び声は遥か遠くへ響いていくのであった
・
・
・
・
・
またひなたかよ!結局ひなたかよ!!ひなたに恨みでもあんのかよ!!!
おっ、やっと突っ込んだか
突っ込むわ!こんなアホなオチ見せられたら突っ込んでまうわ!
春信も素に戻ったし、今回はここまでだなっ!
突っ込ませただけで放置すんな!
バイバーイ
勝手に終わんな!
<一・段・落>
<番外編>
《2話前の部室にて》
「ははは。。。それでは3人で向かいましょうか」
「「はいっ!」」
歌野の畑へ向かう銀、須美、春信。
それを見送る風と東郷は
「「はあぁ~っ」」
大きな溜息をついた。
「さっきはちょっと焦っちゃったわぁ」
「いきなり『必殺技』ですからね」
「アタシャ、てっきり誰かが『満開』の事、漏らしたのかと思ったわよ…」
「私も、風先輩が銀に話したのかと…」
「言わないわよ、須美ちゃんの脚とか、園子ちゃんの事とか、ややこしいじゃない…」
「実際、どんな話をしたんですか?風先輩忘れかけてたみたいですけど」
「あー、さっきの話で思い出したんだけど、正直忘れててもしょうがないのよ…」
・
・
・
・
・
<ある日の勇者部部室>
風は大赦へ勇者一同の旅行をお願いするメールを打ち込んでいた。
「えっと、『勇者たちの中でも疲れが目立って…』いや、ここはもっとこう…」
ドタドタドタ
そんな擬音が見えるかのような音を立てて勇者部へ舞い込んだ球子と銀。
「風~!」
「風さん風さん風さん!」
「あー!なによ、騒がしいわね、何かあったの?」
打ちかけのメールを置いて二人の話を聞く風。
「お前ら!ロボに乗ったのか?!」
「必殺技でビームは撃てるんですか?!」
「はあ?!」
「「だから!」」
「勇者の合体技でビーム撃ったり!」
「勇者ロボを呼んで大きな敵と戦ったり!」
「なによそれ!そんなのできるわけないでしょーが!」
「ほーらな!タマの言うとおりだったろ!」
「えー!きっともう出来てると思ったのにー!」
「まあ、そう残念がるな、銀よ。
ロボなんてなくてもタマが旋刃盤に乗せて今度飛ばせてやるから」
「ホントッスか!」
「ああ、まかせておきタマ…」
またドタドタと廊下を駆けて行く二人を風は呆れた顔で見送っていた。
「なんだったのよ、いまのは…
ああ、さっきなんて打とうと思ってたんだっけ?
えーと、『勇者たちを労って』だったっけ…?」
・
・
・
・
・
「ってな感じだったから、『必殺技』なんて言葉自体、印象に残ってなかったのよ…」
「それは…」
「しょうがないでしょ?」
「まあ、確かにそうですね。それにしても」
「あん?」
「あの二人、本当に仲が良いですね。」
「男の子の兄弟ってあんなんなのかねぇ?」
「まあっ、風先輩ったら」
「男の子の兄弟ですか?」
「あら、ひなた、それに若葉も」
「いつも一緒で仲が良いですね、お二人も」
「もちろんです。今もデートの帰りですから」
「おい、ひなた、単に宿題をしに図書室へ寄っただけだろう」
「若葉ちゃん、それを図書室デートっていうんですよ、世間では」
「そっ、そうなのか?」
「おいおい、簡単に丸め込まれてるんじゃないわよ、若葉…」
「え?あっ!ひなた!お前また…」
「そんな事はありませんよ。東郷さんにも聞いてみればわかります」
「ええっ!私にですか?!」
いきなり横から振られて戸惑う東郷。
若葉は真剣な面持ちで質問しようと詰め寄るが
「よし、確かめてやる」
ひなたの言葉のほうが早かった。
「では東郷さん、『東郷さんが結城さんと図書館で宿題をした』とし…」
「デートですね」
東郷の返事は更に早かった。
「なにいっ!」
「東郷!?」
「それはデートです。間違いありません。問題もありません」
「東郷…アンタって子は…」
「ほらみなさい、若葉ちゃん」
「むう、そうだったのか。すまない、ひなた。お前を疑うなんて」
「いいんですよ、若葉ちゃん。それより男の子の兄弟って?」
「え?(ひなた…ここで終わらせちゃうんだ、今の会話…)
あ…ああ、球子と銀が仲の良い男の子の兄弟みたいだって話よ」
「あの二人か、ふふふ、確かにな」
「私は男の子の兄弟がどんなものかあまり分からないですけど」
「我々勇者の中には兄弟がいる者は少なそうだな」
「銀には弟さんが二人いますよ」
「そういえばそんな事言ってたわね、こっち来た頃に」
「きっと話に出ると会えなくて寂しいと思いますから、銀の前では言わないであげて下さいね」
「東郷さんはいつも銀ちゃんのことを気に掛けていますね」
「ええ、大切なともだちですから」
「そういえば、夏凜にも兄がいたな」
「あら、そうなんですか?」
「あ…しまっ…」
「ああ、さっきまで来てたわよ。ってか覚えてないの、ひなた?」
「あっ…風さん…」
「この間、すごい事になったじゃないですか、春信さんと」
「ああっ…東郷、それはっ…」
「ハル…?」
その名を聞いた途端、ひなたの目の色が変わり、部室の匂いを気にしだす
「匂う…」
「「え?」」
「ヤツの匂いだ!」
「ひ、ひなた…」
「若葉ちゃん」
「な、なんだ?」
「『生太刀』を」
「え…そ、それは…」
「『生太刀』を出せ!」
「はいぃ!」
ズザッと跪くように生太刀をひなたに差し出す若葉。
ひなたはそれを受け取るとスラリと抜き身にし
「春信はどこだあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
叫びながら飛び出していった。
若葉はそのあとへ続き
「ひっ、ひなたっ、さつっ殺人だけはっ、それだけはっ…」
嘆くように呟いていた。
呆然としながらそれを見守っていた二人が呟く。
「東郷…」
「なんですか、風先輩」
「訂正するわ…」
「なにをですか、風先輩」
「『あんな事はもうない』ってお兄さんに言ったこと…」
「あれですか、風先輩」
「あれ以上の事しかもうないと思うわ…」
「そうですか、風先輩」
「いや、なにがよ!一体なんなのよ!何があったのよ!二人とも!」
廊下で若葉が飛び出したのを見て慌てて部室へ来た夏凜には
残った二人にツッコミを入れるのが精一杯であった。