Overlord of Overdose ~黒の聖者・白の奴隷~   作:Me No

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城塞都市の新たなる冒険者

 城砦都市エ・ランテル。

 隣国であるバハルス帝国、スレイン法国との要所となる境界に位置するリ・エスティーゼ王国の都市である。

 城砦都市の名を冠するだけあって、このエ・ランテルは三重の堅固な城壁に囲まれており、王国でも屈指の防衛力を誇っている。

 そんな街は各城壁内ごとにそれぞれ明確なゾーン分けが行われていた。

 外周部は王国軍の駐屯地として利用されており、軍事系統の施設・設備が大半を占めている。

 最内周部は都市の中枢となる行政関係と兵糧を保管しておくための倉庫が並んでおり、厳重な警備が行われている区画だ。

 そして二つの区画の間にあるのが街に住む市民の為のエリアであり、一般的に街と聞いて想像されるのがここにあたる。

 そんな区画に点在する広場の中で最も大きい中央広場――そこに隣接して立ち並ぶ建物の一つ、五階建ての建物から現れた三人組が街の喧騒を忘却の彼方へと押しやった。

 

 まず何より目を引くのが三人組の中心にいる女性だ。

 神に仕える女性が着るとされる尼僧服にその身を包んでいるが、敬虔という言葉から連想されるイメージとは大きく異なる印象を持った女性だ。

 年齢的には二十になる頃だろうか、健康的な褐色の肌の持ち主で、忙しなく視線を泳がせてはころころと表情が変えている。

 見るからに活発そうな印象があるが、彼女の三つ編みが歩くことでピコピコと揺れて、その印象をより強めていた。

 もしも、尻尾が生えていたならさぞ忙しなく振っていることだろう。

 

 対して彼女の連れ合いである二人の性別は不明だった。

 それも仕方の無い話だ。

 なんせ外見から性別を判断できるものがないのだ。

 

 広場にいた誰かが「漆黒の戦士」と呟く。

 

 まさしくその通りで三人組で最も背の高い者は漆黒に輝き、金と紫色の紋様が入った絢爛華麗な全身鎧に身を包み、真紅のマントを風に靡かせて歩いている。

 一目見ただけでも相当高価な鎧だと言うのが分かる。

 その全身鎧に隠された素顔は一体どんな物だろうかと見つめる人々の想像力を擽られるのも仕方ないことだろう。

 

 そして、最後の一人は見る者全ての度肝を抜く奇抜な格好をしていた。

 

 小柄な身体の一切を包み隠す外套を羽織り、顔をすっぽりと覆うタイプの兜ともいっても良いマスクを着けている。

 

 そのマスクは一言で言えば――虎だった。

 

 あまりにも精巧な作りであるため、まるで生きた虎の頭を刎ねて、そのまま人の身体にくっつけたような印象すらある。

 城塞都市から遠く離れた所に竜王国と呼ばれる地があるが、そこを襲っているビーストマンと呼ばれる種族でないかと城門を潜るときに門兵と一悶着あったほどだ。

 

 漆黒の戦士を先頭にそんな風変わりな三人組が通りを静かに進んで行く。

 目撃者達は遠ざかっていく三人の後ろ姿を目で追いながら口々に噂する。

 いずれはこの街どころか国中に知れ渡ることになる三人組だが、当然彼らはその事を知る由もない。

 

 三人組はさほど広くない通りを黙々と進む。

 

 街の中であるが、石畳のようなしっかりした作りではなく、土と泥が交じり合っていて足場は悪い。

 

(自然といえば風情もあるけど、大都市の道路がこれという事は文明的には大したことないな)

 

 モモンガは土を踏みしめながら思った。

 

 漆黒の戦士の正体――それは全身鎧に身を包んだモモンガだ。

 

 魔法詠唱者であるモモンガは本来であれば全身鎧を装備できない。

 だが、魔法で製作した鎧であれば身につけることは可能だ。

 そのため《クリエイト・グレーターアイテム/上位道具創造》により作成した漆黒の鎧を身につけ、骨の顔は幻覚魔法によるマスクで隠すことによって人間に見えるように偽装している。

 最初に門を潜るときは内心ばれるのではないかと不安だったが問題なく通過することも出来た。

 それから冒険者組合と呼ばれる建物に入って登録を済ませる頃には焦りもなくなり、今は周りの状況に気を使う程度の余裕も生まれた。

 

 路上を軽やかに歩きながら、周囲に人がいないことを確認すると、モモンガは後ろにいる二人に話しかけることにした。

 

「ルプス。それに――ミカサ。念のために言っておくが私はモモンであり、お前達のパートナーだ。対等の関係である為、敬語は必要ない。後、くれぐれも互いの名前を間違えるなよ?」

「了解っす! モモンさん」

 親指を立てて返事するルプス。

「………………」

 無言で頷くミカサ。

 

(ふむ。ルプスレギナの適応力は確かに高いな)

 

 モモンガはルプス――本名、ルプスレギナ・ベータの人選に間違いがないことを確信した。

 戦闘メイド『プレアデス』の一人、ルプスレギナ・ベータ。

 種族は人狼――職業はプリースト。

 当初、モモンガはナーベラルを連れて行くつもりだったが、シコクが彼女を推薦したことにより彼女を選ぶことにした。

 

(シコクは解答を提示するだけでその理由を語れないから不安もあったけど、確かに人選に狂いは無かった。この世界基準で考えればプレアデスの中ではルプスレギナが一番のチートキャラだ)

 

 第三位階魔法が常人の限界であるこの世界において、彼女は第三位階魔法に相当する治癒と攻撃魔法を扱える上に直接戦闘能力すら有するという万能キャラとなる。

 実際、組合に登録する際に第三位階魔法の治癒と攻撃魔法を両立させていることを告げた彼女に受付嬢は飛び上がらんばかりに驚いた。

 

(……正解過ぎて、戦士の俺がおまけっぽくなってるんだけど)

 

 騒然とする冒険者ギルドを見て、ここで直接戦闘も出来ると知られると厄介な事になると思ったモモンガが、彼女は直接戦闘が苦手――血を見るのが特に駄目、という設定を慌てて付け加えたほどだ。

 

 ちなみに円卓会議の時に、みかかが推薦した人物はソリュシャンだった。

 その理由は彼女らしく「索敵能力がないのは危険である」という観点からだ。

 またいざ襲われた際には、ソリュシャンの索敵能力を上回った時点でモモンガが戦士として対応できる相手ではなく、本気を出す必要があるのが分かるので鳴子代わりにもなると言っていた。

 

 だが、結果はソリュシャンではなくルプスレギナが選ばれた。

 そもそも索敵能力を考えるなら、誰を選ぶかなど問われるような問題ではない。

 

(かつてのギルドメンバーと冒険する――それは俺の譲れない願いだからな)

 

 その為にモモンガは随分と悩んだのだ。

 

「モモンさん。どうかしたっすか?」

「いや、なんでもない。ルプス、お前なら大丈夫だと思うが敵対行動を誘発するような行動はするなよ?」

「ばっちりオッケーっす! 冒険者ギルドでナンパされた時みたく声をかけられたら、上手くあしらって見せますよ!」

「………………」

 ちなみに冒険者ギルドでナンパされた時は「この人より強いなら考えてあげるっす」とモモンガに対処を全振りし、モモンガがその冒険者を片手で投げ飛ばす事態になった。

「いや、あれは……う~~ん。まぁ、私の強さが皆に知れたから結果的には良かったのだが……」

「ご不満っすか?」

「出来れば、もう少し穏便な手段で頼む。それともう一点……私達が本気で戦おうとしたり、殺すぞと思ったときに人間を脅かす殺気……のようなものが漂うらしい。だから私の許可がない限りは本気を出すことは禁じる。いいな?」

「モチのロンっす」

 再びルプスレギナは親指を立てた。

 

「よし。……さて、この辺りに教えてもらった宿屋があるはずなのだが」

「……ところでモモンさん。私、ちょっと面白いこと思いついちゃったんですけど」

「ん? 面白いこと?」

 周囲を見渡していたモモンガにルプスレギナの楽しそうな声が聞こえてきた。

「そうっす。この都市で冒険者としての地位を得、名が知られるまで上り詰めるんですよね? だったら、手早く済ませたほうがいいと思うんです」

 ルプスレギナは悪戯を思いついたというには凶悪な笑みを浮かべてモモンガに自分の考えを述べた。

 

 

 革靴に付いた泥を落としながら二段ほどの階段を上がり、ルプスレギナは両手を使ってウエスタンドアを押し開ける。

 明り取りの窓が全て下ろされているためその室内は暗く、外の明るさになれた人間なら一瞬真っ暗に感じるだろう。

 ルプスレギナですら問題ない闇など至高なる御方であれば尚更だろう。

 

 素早く室内を見渡す。

 室内は人間の街にしては広い方なのだろう。

 幅十五メートル、奥行き二十メートルくらい。

 一階は酒場になっているようで奥にカウンターがあり、後ろの棚には何十本もの酒瓶が陳列している。

 何卓もある丸テーブルには四組ほど客の姿があった。

 一人を除いて全員が男であり、暴力を生業とする者の特有の危険な空気を纏っていた。

 酒場の隅には途中で折れながら、上に向かう階段がある。

 受付嬢の話によるとニ階、三階部分が宿屋で自分達もここに宿を取りに来た次第だ。

 

 宿屋の奥、カウンターでグラスを磨いている一人の男がルプスレギナを堂々と観察していた。

 

 それなりに身奇麗にしているが、服の下に隠されている鍛えられた肉体を見るに引退した兵士か何かだろう。

 服の裾を捲くり上げ、露出した太い二の腕には常人なら一生縁のない類の傷跡が幾つも浮かび上がっていた。

 そして顔にもやはり大きな傷がある。

 

「帰りな、シスターさん。ここはあんたみたいなお上品な人が来る所じゃねえよ」

 

 割れ鐘を髣髴とさせる濁声がルプスレギナにかけられた。

 

「これはこれは御丁寧に――御忠告痛み入ります」

 普段の彼女を知る姉妹達であれば、さぞ驚くことだろう……或いはニヤニヤと笑うところか。

 敬虔という言葉から連想されるイメージそのものである上品な声色と笑顔を浮かべてから頭を下げる。

 そんな所作を見たことがないのだろう。

 丸テーブルを囲んでいるグループの幾人かが下卑た笑い声をあげるのがルプスレギナの耳に届いた。

 

「ですが、丁重にお断り致しますわ」

 

 頭を下げた彼女から聞こえてきたのは、店の主人である男よりも枯れ果てた薄気味悪い声だった。

 

「………………」

 

 沈黙が宿を支配していた。

 誰一人声を発することが出来ない。

 息をすることすら忘れたかのような静寂を作ったのはルプスレギナが開放した殺気だ。

 

 顔を上げたルプスレギナの瞳を見て、皆が石像にでもなったかのように凍りついた。

 

 動くな。

 話すな。

 騒ぐな。

 

 ――でなければ、殺す。

 

 そう瞳が継げている。

 

 頬を引っ叩くような圧力を感じるほどの暴力的、かつ信じられないほどの洗練された殺気。

 現に彼女の後ろ――店の外には日常の光景が広がっていた。

 

「大変申し訳ありません。ギルドの受付嬢の方に聞いたらここをお勧めされまして、どうか宿を貸して欲しいのですが?」

 

 その言葉と共に殺気は霧散する。

 

「………………」

 

 だが、しばらく誰も声を出すことが出来なかった。

 ややあって最初の男――額に珠のような汗を浮かべた店の主人がようやく声をあげた。

 

「宿? ギルドのネェちゃんが勧めた? ってことは、冒険者志願? あんたがっ!?」

「はい。その通りです」

 確かにこんな美女がこんな場所に来る理由は他になく、今まで飽くことなく続けられたお決まりのパターンでやって来ている。

 

(だが、こんな殺気……一体、この娘は何者なんだ?)

 

「……すみません」

 

 店内の人間が一様にビクリと震える。

 あの女性の機嫌をわずかであっても損ねたくないからだ。

 

「私は、宿を、貸して欲しいのですが?」

「た、大変御無礼を……個室で一日七銅貨になります、が?」

「七銅貨だそうです」

 女性は後ろを向き、声をかける。

 

 そこには全身鎧と虎の仮面をつけた人物が立っていた。

 

(……き、気付かなかった)

 

 あの女性が入った後、二人は入ってきたのだろう。

 ただ皆が、あの尋常でない殺気に意識を奪われ、それ所ではなかったのだ。

 

「連れが騒がせたようですまなかった――少し悪戯が過ぎたようだ」

 

 軽い口調で言った全身鎧の男の台詞に皆は乾いた笑みを浮かべた。

 

 少し?

 一般人なら卒倒しかねないあの殺気がか?

 

 格の違いをまざまざと見せ付けられて、店にいる連中は誰もちょっかいをかけようとはしない。

 

 そんな中、全身鎧の男から銅貨を受け取った女性が店の中を我が物顔で歩いて、主人のごつい手の中に銅貨を落とした。

 

(いや、なんで俺の宿に泊まるんだよ? お前ら絶対金持ってるんだろ?!)

 

 この街には三つの冒険者向けの宿があり、ここは一番安い宿だ。

 こんな殺気を放てる強者が寝泊りするような宿ではない。

 

(……厄介な客だぜ)

 

 手の中に落ちた銅貨を数えることはしないで、主人はそのままズボンのポケットに銅貨を突っ込んだ。

 そして店の中を歩き、カウンターから鍵を一つ取り出す。

「階段上がって、直ぐ右の部屋になります。寝台に備え付けてある宝箱の中に荷物は入れて下さい。鍵はこれです」

 主人は失礼がないように慣れない敬語を使いつつ、カウンターに鍵を置く。

 早々に引っ込めようとした手を、女性の手が止めた。

 

(なっ……早っ!?)

 あれだけの殺気を出すのだから只者ではないと思ったが、それでも不気味なほどに早い。

 

「どうなされたのですか? 随分震えてらっしゃるようですけど?」

「か……勘弁してくれ」

 主人は話は終わったと、その手を乱暴に引っ込める。

「あらあら」

 ルプスレギナに言わせれば冗談程度の殺気だったのだが、どうやら必要以上に怯えさせたらしい。

 くるりと後ろを振り返ると、店内の人間はいっせいに目を逸らした。

 

「皆様方――大変お騒がせ致しました」

 

「………………」

 一度店内を見回してから頭を下げるが、誰一人として目を合わせてくれない。

 

(うぷぷぷぷ、エクストリーム!! ドッキリ企画、大成功っす!)

 

 心の中で拳を握りながら、ルプスレギナは階段を昇る。

 その後を全身鎧の男は足早に、虎の仮面をつけた人物はマイペースに続いていく。

 

 皆の姿が二階に消えてから、カウンターにいた主人の前に皆が足音を殺して集まった。

 二階にいる彼らの機嫌を損ねてはならないと傍にいても聞き取りづらいほどの声で話し始める。

 

「……只者じゃねえ。なんだ、あいつら」

「ああ。あの殺気、あれはもう人間じゃねえ」

「その殺気を流しちまう後ろの二人も相当だな」

「プレートは卸し立ての新品みたいだったぜ? 冒険者ギルドでも話題になってんじゃねえか」

 

 飛び交う会話に含まれるのは驚愕と畏怖だ。

 同じ冒険者としてはこの上なく心強い味方であり、間違っても睨まれることだけは避けなければならない連中だ。

 

「……うぷぷぷぷ。めっちゃ話題になってます。ばっちり成功っす!」

 種族的特長で耳の良いルプスレギナはあてがわれた部屋から階下の会話を盗み聞きしてその成果に満足する。

「う、うむ」

「エ・ランテルの赤い死神って……これ、私の事っすよね? いや~~二つ名で語られるのは悪い気分じゃないっすね。この噂が広がるのも時間の問題っすよ」

「………………」

 確かに噂になるのは間違いないだろうし、少なくともこの宿でルプスレギナをナンパするような真似はあるまい。

 

(だが、俺より目立ってどうする!)

 

 正直、そう怒鳴ってやりたいモモンガだった。

 

(いや、別に俺が一番じゃなくてもいいんだけどさ。だけど、ほら……接待って物があるだろ?)

 

 上司よりゴルフの上手い部下はいないし、上司よりいい車に乗る部下はいない、関係ないが姉より優れた弟もいないとギルドメンバーの誰とは言及しないが言っている。

 

(この考え方は古いのか? 若い人……NPCには理解出来ない感情なのか?)

 

 木製の寝台に腰を下ろして、モモンガは額に指を当てた。

 

(まぁ、いい。ルプスレギナはやり方は少しあれだがミスをしてるわけではない)

 

 少なくとも人間を軽視しがちなナザリックのメンバーの中では優秀な部類だろう。

 

「ところで、盗聴などの恐れはないか?」

 モモンガは対面――ルプスレギナの横に腰掛けているミカサに声をかけた。

 モモンガの言葉に虎の仮面が肯定と一度頷く。

「そうか。ならば、ミカサ――いや、パンドラズ・アクター。話してもいいぞ」

「畏まりました。私の創造主たるモモンガ様!」

 モモンガの許しを得て虎の仮面を外す。

 そこにいるのは、みかかだ。

 

 しかし、その顔がぐにゃりと歪む。

 

 ピンク色の卵を彷彿とされる頭部には目と口の部分にペンで塗りつぶしたような黒々とした穴がある。

 彼こそモモンガの創り出したNPC――パンドラズ・アクター。

 そして、ソリュシャンではなくルプスレギナがここにいる理由である。

 

 現在のナザリックの状態を鑑みれば、モモンガとみかかが共に行動するのは難しい。

 

 だからといってモモンガはゾロゾロとシモベを連れて行くのは嫌だった。

 下手な行動をして支配者の器を疑われるくらいなら一人で行動した方がいいとすら思っている位だ。

 モモンガもユグドラシルに関してはそれなりの強者の自覚がある。

 いくら未知の敵、未開の土地とは言え、為す術もなく無残にやられることはないと思っている。

 

 しかし、それがナザリック地下大墳墓の主人として許されない行動だということも理解していた。

 

 そういう訳でアルベドやデミウルゴスを納得させた上で、かつてのギルドメンバーと共に未知を旅するにはどうしたらいいか?

 モモンガが悩みぬいた末に出した結論がパンドラズ・アクターの同行だ。

 パンドラズ・アクターはギルドメンバーの外装をコピーすることが出来るという特殊技術を有している。

 

 現在はみかかと共に行動することは不可能だが、状況が変わればその限りではない。

 パンドラズ・アクターであれば、その時が来れば速やかにみかかと入れ替わることが出来る。

 

 自分の我侭が多分に含まれているが、いざ行ってみると悪い案ではないように思えた。

 みかかの能力を用いれば、ソリュシャンより探索役として優れているし、ルプスレギナでは不可能なアンデッドである自分の回復も行える。

 前衛役のモモンガ、探索役のパンドラズ・アクター、回復・後衛役のルプスレギナとパーティとして最低限の体裁も整っているので他に仲間を探す必要もない。

 

 デス・ナイトと同レベルの戦士が周辺国家最強の戦士であれば、十分な布陣だろう。

 

「……色々と制約をつけてすまないな。パンドラズ・アクター」

 彼にはみかかの姿でいる際は極力会話することは禁じている。

 下手に会話を許してしまうと、みかかと入れ替わる際に入念な情報確認を要してしまうからだ。

 それなら喋らないほうがいい。

 何よりも……こいつが喋るとモモンガが頭を悩ませて出した策略はあっけなく崩壊してしまう。

 

「何をおっしゃいますか!」

 カツンと踵を合わせて鳴らし――。

 

「重大な任務でありますので仕方ありません!」

 ――オーバーなアクションで敬礼する。

 

「わたしの創造主、ん~~モモンガ様!!」

 キリッ、と本人は格好をつけてるつもりなのだろう軍帽の縁を指で摘みながらポーズを取った。

 

「………………うへぇ」

 

 ルプスレギナの声には「もうお腹一杯っす」と言わんばかりのうんざりしたものが感じられた。

 

(やっぱ……だっさいわぁ)

 

 今の姿でも仰々しいリアクションを取るパンドラズ・アクターに無い眉を顰めてしまうのに、友人の姿でこれをされたらどうなる事やら……と言うか、させるわけにはいかない。

 

 もしも、彼女の姿でコレをしてる所を本人に見られでもしたら確実に数日は口を利いてくれないだろう。

 

(……みかかさんも実際にパンドラズ・アクターを見たら苦笑いしてたからな)

 

 あの時のモモンガを気遣う笑顔はしばらく忘れられないだろう。

 

「ええっと……声はモモンガさんと同じくらい好きですよ!」と言われて、モモンガは複雑な感情を覚えたのを思い出す。

 

(意外に声フェチなのだろうか? 確かにギルドメンバーではぶくぶく茶釜さんと一番仲が良かったけど……)

 

「如何されましたか? モモンガ様」

「ああ、いや……なんでもない。パンドラズ・アクターよ。ルプスレギナにも言ったが任務上、私達は対等な関係だ――だから、敬礼は必要ないぞ? な、それは辞めておこう」

「《Wenn es meines Gottes Wille/我が神のお望みとあらば》」

「……ドイツ語だったか? それも止めような。本当に頼むぞ?」

「は、はぁ」

 微妙な返事をするパンドラズ・アクターと小一時間ほど話し合いたいところだが、生憎だがモモンガもそこまで暇ではない。

 

「みかかさんがこの世界での金銭を得るために数日内にここを訪れる予定だ。合流するまでは私達も仕事を見つけてこなすことにしよう」

 モモンガの言葉に二人は頷く。

「しかし、モモンガ様! みかか様はどのようにしてこの世界での金銭を得るのでしょう? 今は、どちらに?」

 パンドラズ・アクターのオーバーリアクションは見ない振りをしてモモンガは答えた。

「ナザリック近郊に広がるトブの大森林に住む魔獣を確認したいとアウラとマーレを連れていった。なんでも森の賢王とか言うらしい」

「賢王……その名に偽りがなければ是非とも我らが陣営に加えたいものですね」

 パンドラズ・アクターの言葉にモモンガは頷く。

 

「何にせよ、彼女に任せておけば問題ない。だが、私達も負けていられない――やって来る彼女を驚かせてやろうじゃないか」

 

 対抗心を燃やしたモモンガの言葉に触発されたのかパンドラズ・アクターとルプスレギナの瞳には強い光が宿っていた。

 

 




ルプスレギナ「人呼んでエ・ランテルの赤い死神、ルプスっす!! 死ぬぜぇ、私の姿を見た者はみんな死ぬっすよ~~」
モモンガ「ルプスレギナ! 貴様には失望したぞ!!(俺より目立ってるじゃん!)」
ナーベラル「あれ? 私、戦力外通告?!」

 城塞都市に出来る女が爆誕したようです。

 ナーベラルはどうなるんでしょう?
 どなたか働き先を紹介してあげてください。

 後、誰かの死亡フラグが立ったような、立ってないような?

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