Overlord of Overdose ~黒の聖者・白の奴隷~   作:Me No

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わきあがる疑惑

「もうすぐ到着です。あそこの一番大きな家がンフィーレアのお店になります」

「へぇ」

 みかかはエンリが指差す方向を見つめた。

 どうやらこの通りは薬草やそれに類したモノ等を扱う店が集まっているようだ。

 どの店からも薬や草の独特な匂いが流れ込み、まるで空気に色がついたような気さえしてくる程だ。

 周囲に立ち並ぶ建物は前に店舗があり、後ろが工房――古式ゆかしい商家のような造りで統一されている。

 だが、最も大きな家だけ工房に工房を重ねたような造りになっていた。

 

(バレアレ商店。確かに間違いないわね)

 

 みかかは出されている看板の文字を読み、目的地に間違いないことを確認する。

 それというのもエンリは文字が読めないからだ。

 

(言葉が通じるのに文字は読めないって、どういう世界設定なの? モモンガさんに意見を聞かないといけないな)

 

 突如訪れた未知に包まれた異世界は、みかかの首を傾げるようなことばかりだ。

 だが、差し迫ってる問題を解決することが重要だ。

 

「エンリ。心苦しいけど打ち合わせしたことを忘れないで欲しい」

 みかかは意識して声を低くし、男の振りをする。

 暗殺者の特殊技術を使えば、映画のように別人に化けることが可能だが、逆を言えばそれは特殊技術を用いれば看破可能という事である。

 しかし、単純にウィッグをつけたり声色を変えるのは誰しも出来ることであり、決して特殊技術ではない。

 ならば、特殊技術では見破ることは出来ない。

 

 カルネ村でシコクがみかかに耳打ちした内容だ。

 

 よく思いついたなと感心する反面、少しだけみかかは安心していた。

 いくら自分達が圧倒的な強者といっても、保有する特殊技術でウィッグや化粧を見破れるとしたら、世界は少しだけ悲しいことになっていただろう。

 

「はい。分かってます」

 エンリは元気良く返事する。

 その瞳はキラキラと輝いており、誰が見ても上機嫌であることが分かる。

 みかかも一人の女として可愛い服を着たり、宝石を身に纏ったりする楽しさは理解している。

 だが、これから大事な交渉をしようという時に平静を保てていないのは頂けない。

 

(……本当に大丈夫かしら? うっかりばらしたとか洒落ですまないんだけど)

 

 みかかがエンリと打ち合わせた内容は幾つかある。

 

 カルネ村の件は黙っていること。

 みかかの素性を話さないこと。

 シコクが人語を解する猫であることを言わないこと。

 

 以上三点だ。

 

 まず最初のカルネ村の件を話さないのは、みかかの常識的判断である。

 村が他国の騎士によって襲われ、多くの人が死んだなど吹聴するような話ではない。

 ガゼフの一件もあり、みかかはこの国を信用していない。

 下手にカルネ村の件を話して噂が広まれば、人心を惑わせ、王を侮辱したと言いがかりをつけられる可能性も十分考えられるからだ。

 

 二つ目にみかかの素性を話さないのは当然、ユグドラシルプレイヤーを警戒してのことだ。

 城砦都市エ・ランテルは王国・帝国・法国の三国に繋がる中継都市の役割も担っている。

 この街で下手を打つと三国に情報が飛び交って目も当てられない状態になる可能性がある。

 

 何より、カルネ村の一件にみかかは関与していないというというのが彼らを助けた報酬だ。

 例え、エンリであってもこれを破ることは許されない。

 ただでもシコクから人間種への苦言を呈されている身である。

 ここで発覚すれば「やはり人間など信用ならない」という話になってエンリやカルネ村の立場が悪くなるのは避けられないからだ。

 

 三つ目も二つ目と同じような理由だ。

 これはエンリが話しても受け入れられないかもしれないが、珍しい猫ということで誘拐されても困る。

 仮に誘拐しようと思ってもこの世界の人間にどうにかなるレベルではないのだが、念のためだ。

 

「あの、ミカ様?」

「何?」

「ミカ様は今、普段とは違う格好をされてますよね? お名前はミカ様のままでいいんですか?」

「………………」

 ああ、そういえばそうか。

 いちいち偽名を考えないといけないとか面倒くさい生き方をするようになったものだと自嘲しつつ考える。

 即座に思い浮かんだのは一つの名前。

 

「……アリス」

「えっ?」

 

「この格好の時はアリス・サエグサ――様はいらないからね? さぁ、行こうか」

「は、はい」

 返事も待たず馬車から降りるみかかにエンリも続く。

 

(多分、妹さんの名前なんだろうな)

 

 胸に釈然としないモヤモヤするものを感じながら、エンリもその後に続くのだった。

 

 

「じゃあ、お祖母ちゃん。外に行くから店番を頼むね」

「あいよ」

「じゃあ、イグヴァルジさん。行きましょうか?」

「おう」

 ンフィーレアはイグヴァルジを連れて玄関へと向かう。

 丁度その時を待っていたかのように入り口の扉が押し開き、ドアベルが大きな音を立てる。

 入ってきたのは二人――貴族と御付のメイドだろうか。

 自慢にしかならないが城砦都市エ・ランテルのバレアレ商店は都市最高の薬屋だ。

 この街の富裕層は当然として、近隣の貴族達もわざわざ訪れるほどである。

 貴族達は利益になる反面、扱いが難しい客なのでンフィーレアも慎重に対応するように祖母から厳しく言われていた。

 

(折角、冒険者ギルドに行こうとした矢先に面倒なお客さんがきちゃったな)

 

 そんな自らの胸中はおくびにも出さず、ンフィーレアは失礼のない対応を、と自らに言い聞かせてから口を開いた。

 

「いらっしゃ……」

 

 挨拶の途中でンフィーレアはまるで時が静止したかのように彫像と化した。

 

「久しぶり、ンフィー!」

「………………」

 美醜というものは人それぞれだが、ンフィーレアにとって今の彼女よりも美しい人が現れることなど未来永劫存在しないと断言できる。

 

 そこには女神がいた。

 女神が自分に親しみある笑顔を向けてくれていた。

 

 何という事だろう。

 信じられない。

 

 装飾過多――まるでドレスのようなメイド服を着用していたのは自分が思いを寄せる少女、エンリ・エモットだったのだ。

 普段の可愛らしい少女の姿ではなく、そこに立っているのは美しい女性となった彼女だった。

 舞踏会に出席する大貴族の令嬢が行うような本格的な化粧だ。

 エンリがシコクの指導の下に小一時間かけた努力の結晶だが、ンフィーレアには凄く綺麗だなという単純な一言で終わってしまう。

 だが、その効果は絶大――彼女の愛が得られるなら大概のことはやってやるという気持ちになってくる。

 

「ねえ、ンフィー。大丈夫?」

 

 沈黙している自分を心配したのか小首を傾げて尋ねてくる。

 そんな彼女もまた可愛らしかった。

 グロスを多めに塗った唇は水も滴るというような潤い具合だ

 その唇に触れることが出来たなら、どれほど幸せだろうかと在らぬ妄想を抱いてしまう。

 

「エ、エンリ?」

「うん。もしかして……綺麗になって驚いちゃった?」

 そういって彼女は自らの髪を梳いて流した。

 いつも一つにまとめていた髪を今日はまとめていない。

 髪をかきあげる仕草と同時に香水の匂いが鼻をくすぐった。

「う、うん。凄く綺麗だよ!」

「ありがとう。すっごく嬉しい!」

 エンリは照れながらも蕾が花開くような笑みを浮かべる。

 ンフィーレアの顔は一瞬で真っ赤に染まった。

 

(お! 落ち着つかないと!)

 

 笑顔を目にした瞬間、心臓を鷲づかみにされる。

 ドクンドクンと異様な速さで打ち始めた心臓の音が自分の脳内に響いてくる。

 

「今日はね。ンフィーに紹介したい人がいるの」

 

「………………えっ?」

 

 その言葉でンフィーレアは現実に戻される。

 女神の視線は自分を横切り、隣に立つ青年に向けられた。

 

「ア、アリスさ――ん。彼が私の幼馴染のンフィーレアです」

 エンリの言葉に込められた感情、そして彼女の視線。

 それを目にした瞬間――心臓はその鼓動を止めたかのように鳴りを潜め、代わりに大量のガラスが割れる音が聞こえてきた。

 

「はじめまして。私はアリス――アリス・サエグサです」

「………………」

 目の前の青年はまさしく貴族に相応しい優雅なお辞儀を見せてから右手を差し出してくる。

「よろしく。ンフィーレア・バレアレさん」

「……ど、どうも」

 握手する気などさらさらなかったが、エンリがキラキラした笑顔をこちらに向けているのを見て、その手を取った。

 何の皮か知らないが上質な手袋だ。

 力強く握られた手の感触を前に、ンフィーレアは吐き気を抑える事で一杯だった。

 

 

「これはまた――しばらく見ない間に随分と別嬪さんになったもんだねぇ」

 真っ白になった孫の横に立って、久しぶりに会ったエンリにリイジーが声をかける。

「ありがとうございます!」

 喜色満面の笑みを浮かべるエンリにリイジーは老人特有の悟った顔を浮かべた。

 

(こりゃ、もうどうしようもないね)

 

 可愛い孫の初恋が実ることはないだろう。

 折角、踏ん切りがついた所で残念だが、往々にして人生とはそういうものだ。

 

「どうやら新しいお客さんのようだな。俺はこれで失礼するよ」

「ああ。また何かあったら来るんだね」

「おう」

 イグヴァルジは少しの間、青年を見つめると静かに出て行く。

 青年も気になったのか店を出て行く彼を目で追っていた。

 店を出て行くのを見送ってから、リイジーの方を向く、

 

「貴方がこの店の主人ということで宜しいか?」

「勿論だとも、リイジー・バレアレだよ」

「そうか。では、改めて名乗らせて頂く」

 

(さぁ、気合を入れないと――うまく交渉しないとね)

 

 この場にいるのは四人だけ。

 そして盗聴、監視の類も在り得ない。

 みかかは身につけていたフードを外して、その顔を見せた。

 

「アリス・サエグサと言う。宜しく、リイジーさん」

 

 ペロロンチーノ風に言うのであれば、古典的様式美――眼鏡キャラが眼鏡を外したようなもの。

 

「こ、これは、また……」

 

 これが彼の愛するエロゲ世界なら老婆が少女(男装)に頬を赤らめるという誰も嬉しくないイベントCGが出ていたところだろう。

 

「信じられんほどの男前じゃな。あんた、一体何処から来たんだい?」

 元から研究一筋で、男にあまり興味のないリイジーですら、息を呑むほどの美しさだった。

 これだけの美形であれば初対面同然の状態でファーストネームを呼ばれるのも悪くないと思ってしまう。

「南の果てから。出来ればゆっくり話したいが、時間も有限だから早速本題に入らせて頂く。今日は商談に来た」

「……商談? まぁ、立ち話もなんだから座ろうじゃないか」

 リイジーは部屋の中央に向かい合って置かれている長椅子を指差した。

 普段の商談に使われているものだ。

 

 当然、長椅子にはリイジーとンフィーレア、みかかとエンリが別れて座る。

 二人の座る距離は近い――関係性は聞いていないが、言わずもがなという所だろう。

 自分と孫の距離も同じくらい近いが、これは孫が悪魔に魂を奪われたのではないかと心配になるほど呆けているからだ。

 

「まず最初に今日はカルネ村の村長の許可を得て、私が代表で取引に来させて貰った。私がここに来た目的は二つある。一つは採取した薬草の買取。もう一つはちょっとした商談だ」

「ほう。薬草の買取はいつもの事だから良いとして、もう一つの商談というのは何だい?」

「前者に共通することなんだが――少し失礼させてもらう」

 青年は肩に下げていた背負い袋を床に置き、その口を広げて手を突っ込む。

「この中にあるのは私が採取した薬草になる。少し散らかるが御容赦願いたい」

 正確にはシコクが森の賢王から奪い取った薬草だ。

 みかかが鞄から大量の薬草を取り出して、床に並べていく。

 

「「………………」」

 

 リイジーと……ショックで呆けていたンフィーレアの顔にすら真剣な物が宿る。

 信じられないほど大量の薬草を袋から取り出したのだ。

 あんな容量が詰まる袋を二人は見たことがない。

 

 まるで客がかぶりつくのを見た手品師のようにみかかは得意げな顔を浮かべた。

 

「大したもんだ。結構な量じゃないか」

 そうは言いつつも、リイジーには腑に落ちない点があった。

 

 生まれてこの方、土に触れたこともなさそうな美男子が森に入って薬草を採取したのだろうか?

 

 確かにこれだけの量があればかなりの金額になる。

 ただし、それは一般人の基準でだ。

 貴族が頻繁に催す舞踏会など一回も開くことは出来ないだろう。

 

「ありがとう。貴方のような優秀な薬師に褒めて頂けるのはこそばゆいな」

 プライベートの自分とは違う、余所行き仕様のリップサービスで話を盛り上げる。

「リイジーさん相手に胸を張れるようなものではないが、私も自己流だが薬学には少しばかり自信がある。これも使えるんじゃないかな?」

 まさか自分が疑問に思われているとは露知らず、みかかは話をすすめていく。

「なっ、それは!?」

 

 みかかがさらに袋に手を突っ込んで取り出した物を見て、リイジーが驚愕の声を上げた。

 並べられるのは木の皮、枝になった奇妙な実、一抱えもありそうな大きな茸、丈の伸びた草、多種多様だ。

 知識のない者では分からないが、リイジーとンフィーレアには宝の山と言っても良い。

 

「凄い。これだけの量を、あんな短い時間で採ってきたんですか?」

「その通り」

 エンリの驚愕を前にみかかが得意げに断言する。

「な、なんじゃと?」

 リイジーはその在り得ない発言に絶句した。

「あんな短い時間じゃと? 待った! 一体どれだけの時間でこれだけの量の採取を行ったんじゃ?」

 リイジーは詰め寄らんばかりの気迫でみかかに問いかける。

 これだけの宝の山だ。

 薬草の群生地を見逃していたのだろうか?

 

「それは秘密」

「何故、秘密にする?」

「最初に言ったと思うが繰り返そう。これは商談、成立もしてないのに手札は公開しないよ?」

「ぬっ!!」

 まったくその通りだ。

 リイジーは言葉を詰まらせる。

 トリックの種を自ら明かす手品師はいない。

 

(エンリ、ナイスパス。お陰で良い感じに食いついてくれた)

 

 今、床に並んでいるもので一番量が多いのは森の賢王が採取した薬草だ。

 森の賢王という名前を冠しているが、所詮は巨大ジャンガリアンハムスターである。

 採取した薬草はエンリでも知っている一般的なものでしかない。

 

 他は全てアウラとマーレがトブの大森林の支配地域内で採取し、早朝にみかかに献上したものである。

 野伏のアウラと森祭祀のマーレの採取能力はナザリックでもトップレベルだ。

 ナザリックトップレベルとは、この世界ではまさしく神の所業であろう。

 

「どうだろう? この床に並べた物を買い取ってもらえるだろうか?」

「無論じゃ! その為に御主はここに来たんじゃろ」

「さて、どうかな?」

「どういう意味じゃ? ん? 御主も薬学の知識があると言ったな? もしかして共同で何かしようって腹積もりかい?」

「そうではないよ、リイジーさん。これだけ大量に揃えたんだ。今後の取引の為にも、少し色を付けて貰えるとありがたいな」

 まるで親に玩具をねだるような口調。

「……そういう事かい。若いのに、案外食えん奴じゃな」

 リイジーは悔しそうに、だが面白いものを見たと笑った。

 

 これだけの量の薬草を持ってきたのだ。

 今、カルネ村に赴いても採れる薬草の量など知れているだろう。

 ここで仕入れておかなければ、色々手を回す必要があり費用もかさむ事になる。

 だとしたら通常より高い値段で買い取るしかない。

 

「相手の欲しい物を出来るだけ高く売る――それが商売の原則だろ?」

「ちっ。わしもまだまだ若いわい。つい、欲が出ちまったよ」

 ここで在庫は余ってると虚勢を張れていれば、話も違う方向に転がったかもしれない。

 だが、宝の山を見てリイジーは思わず食いついてしまった。

 こればかりは年老いて尚、見果てぬ夢を求める彼女の性根なので変えようがない。

 

「安心して欲しい。どちらかが一方的に儲かるような関係は健全ではない――それが取引の原則だ。」

「ほほう。つまり、どういう事だい?」

「エンリから話は聞いている。現在、そちらが薬草を仕入れる際、冒険者を雇ってカルネ村まで来て、トブの大森林で採取を行うそうだな?」

 リイジーはその通りだと頷く。

「非効率的だと思ったことはないか? 貴方達は薬の製造を行うのが主で、決して原材料の採取を行いたい訳ではない筈だ」

「そりゃそうだが……あんた、もしかして」

「お察しの通りだ。人はその能力に適した仕事を行えばいい。これからはカルネ村の人間が薬草を採取して定期的にバレアレ商店に送り届ける。今回のような形でね」

 

「ほほう。そいつはありがたいね」

 宝の山と言える品物の数々。

 これが定期的に納品されるとすれば、それは計り知れない恩恵となるからだ。

 カルネ村に赴く理由がなくなるのは、店の経営面だけを考えれば大助かりだ。

「なるほどねぇ。うちは経費と何より貴重な時間を節約出来る。浮いた経費分を色としてつけろってことだね?」

「そういう事だ。カルネ村とバレアレ商店の双方共に利益のある話だと思うがどうだろう?」

 リイジーの眼光に鋭さが増す。

 気になることがあるからだ。

 

「うちにとっては悪くない話だね。だが、幾つか疑問があるんで聞いていいかい?」

「勿論」

「あんたは冒険者――じゃなさそうだね。ワーカーかい? だとしたら、貴重な薬草を考え無しに採り尽す気じゃないだろうね?」

 ギロリとリイジーは睨みを効かせるが、まるで気にしてないように肩をすくめる。

「ワーカー? よく知らないが目先の利益に捕らわれて、資源を枯渇させる気はないよ。その愚行の先にある物はこの世の地獄だろ」

「………………」

 実感の篭った声だった。

 裕福そうな外見だが、それなりの苦労はしてきたようだ。

 

「そうかい。じゃあ……うちには関係ない話だけど、カルネ村の連中は困るんじゃないかい?」

「カルネ村が困るとは、何故?」

「ん? 例えば、孫の幼馴染も薬草を持ってきてるんだろ?」

 エンリは頷いた。

「はい。村の人の物も一緒に持ってきてます」

「当然、この子が持ってきた薬草にも色をつける事になるね」

「当たり前だな。この取引はカルネ村とバレアレ商店の間で行われるものだ」

「うむ。で、あんたの取り分はいくらだい?」

「取り分? ないよ、そんなの」

 リイジーの言葉に青年は不思議そうに小首を傾げ――すぐに合点がいったと頷いた。

 

「リイジーさんの言いたいことは理解した。私が中抜きをすると思ったわけだな。そんなセコイ商売はしないよ」

 急ぎならシコクに《転移門/ゲート》を作らせるなり、みかかが本気で走ればいい。

 急ぎでないならフラジールやソリュシャンに頼んでもいいだろう。

 どちらにせよ簡単なお仕事だ。

 

「益々分からん。あんたは一体何者なんじゃ? なんで、そんな事をする?」

 リイジーがそんな疑問を持つのも無理はない。

 目の前の青年の正体が一向に見えないのだ。

 貴族のような立派な衣装に身を包み、外見に相応した高い教養を備えている。

 その反面、貴族が何よりも大事にする自尊心がない――やり手の商人のように浅ましく、可能な限りの利益を求める計算高さを持っている。

 腰に下げた剣の造りはどう見ても一級品、まさか見掛け倒しではあるまい。

 そして、薬学の知識を備えており採取もお手の物。

 常人の枠では決して納まらない存在だ。

 

(まさか、アインドラ家に縁のある者か?)

 

 リ・エスティーゼ王国が誇る人類の宝、アダマンタイト級冒険者を二人も輩出した貴族の家系だ。

 かの貴族の血脈であれば、そういう者がいてもおかしくはない気がした。

 

「ああ。リイジーさんからすれば、私が怪しいわけだ」

「まあ、そうだね。カルネ村とも長い付き合いだし、気になるのは人情ってもんだろ?」

「確かにそうだ。人は何の意味もなしに行動したりしない。実際、私がカルネ村に力を尽くすのには理由がある」

「その理由とは?」

「とある筋からの情報。カルネ村はこれから大きく発展する――もしかしたら、第二の城砦都市になるかもね」

 リイジーは「何を言ってるんだ、こいつは?」という顔を隠そうともしない。

 カルネ村は百年ほど前に出来た開拓村だ。

 開拓村が出来るだけあって、土地は有り余ってるが――それがエ・ランテルのような大都市になるなど、数百年単位で考えなければ在り得ないことだ。

 しかし、気になるのは隣にいたエンリが思い当たる節でもあるのか反応している。

 

「仮にそれが外れても私はカルネ村をこの都市のように変えたい。薬草の流通ルートを確保するのはその第一歩だよ」

 

 全ては、あの時に始まったのだ。

 

 見捨てるという選択肢を選びながらも、友人の為にその選択を曲げた。

 

 用心深いギルドなら、少なくとも自分がスレイン法国の指揮官なら辺り一帯に何らかの痕跡がないか徹底的に捜索させる。

 そうすれば近接するナザリックが発見される可能性は高い。

 そのような事態にならなくても、いずれは隠蔽工作を行っているナザリック地下大墳墓も発見されることになるだろう。

 ならば、いっそ発覚されることを前提の上で行動しようという方針だ。

 

 まず、人の手が触れていないトブの大森林を支配下に治めて避難場所と新たな領土を築き上げる。

 

 そして、トブの大森林に隣接するカルネ村には異形種と人間の架け橋、もしくは異形種と人間を隔てる境界線の役割をしてもらいたいと思っている。

 

 その為にもカルネ村には発展してもらう。

 今の簡素な開拓村という地位では終わらせないし、終わってもらっては困るのだ。

 

「そんなに不思議な話でもないだろう? リイジーさんの店はこの辺りでは一番大きいようだが更に発展させたいと思ったことは?」

「むっ」

「城塞都市一番の薬師であるなら王国一の薬師となりたいと思ったことは? 私がカルネ村に尽力する理由もそれだよ。今よりも少しでも安全に幸せに暮らせる場所を確保したいだけだ」

 

(……ミカ様)

 

 今よりも少しでも安全に、幸せに暮らせる場所を。

 

 それはカルネ村の悲劇を知っているからこその発言だろう。

 エンリには、その言葉が何よりも嬉しかった。

 どんな綺麗な衣装より、どんな煌びやかな宝石よりも心を震わせた。

 自分だけではない――村の皆を想う気持ちがとても眩しい。

 

(ミカ様なら、本当に――ここより安全で幸せな都市を造ってくれる)

 

 そんな確信がエンリにはあった。

 

 エンリの瞳は一際輝いている。

 その言葉が、見事にその胸を打ち抜いたのだろう。

 それはまさしく、一人の少女が恋に落ちた瞬間だった。

 

「他に何か質問は?」

「いや、私からはないよ。ンフィー。あんたが決めな」

 リイジーは先程から沈黙を守っていたンフィーレアに話を振った。

「………………えっ?」

 ンフィーレアは驚いて祖母を見つめる。

 祖母が経営に関する判断をンフィーレアに委ねたことはないからだ。

「こいつは、これから長い付き合いになる話だろ? だったら老い先短い私じゃなく、あんたが決めな」

「………………」

 三人の視線がンフィーレアに集中する。

 ンフィーレアが見つめるのは愛しい幼馴染だ。

 その幼馴染は期待に満ちた視線でこちらを見つめ返していた。

 

「そ、その……大事な話だから、保留にさせてもらえないかな?」

 

 ンフィーレアはそんな幼馴染の顔を見ていられず、床に並べられた薬草に視線を落とした。

 大量の価値ある薬草。

 自分の取り得である薬学ですら――陰鬱な気分が胸を支配する。

 

「それもそうだ。私達もこの街でしなければならない用事があるのでよく考えて欲しい」

 明るい口調は商談が成立するのを確信してのことか。

「ただ、こちらの薬草を買い取ってもらえないだろうか? 仕舞い直すのも面倒だからね」

「ええ。かまいませんよ」

 ンフィーレアは淀みなく言葉を続ける。

 睨み付けるような鋭い視線で薬草の束を見つめている。

「ああ、そういえば薬草は種類によって保存方法が異なるんだったな。もし、まずいものがあったら教えて欲しい」

「そうですね。もし、契約が成立した際にはお教えしますよ」

「……そうか。では、その時は宜しく頼む」

 返事をするのに間があったのは、破談する可能性があるのを知ったからだろう。

 そんなちっぽけな事で満足感を感じてしまう自分に腹が立っていた。

 

 

「ンフィー。あの二人はもう帰ったよ」

「………………」

 いつの間にか二人は帰ってしまったようだ。

 ンフィーレアは返事もせずに薬草の束を入念に確認している。

 

 そんなンフィーレアの頭にコツン、と軽い拳骨が落ちた。

 

「……お祖母、ちゃん?」

 ンフィーレアは呆然と呟く。

「仕事以外で、あんたにこんな事をするなんて何年ぶりかねえ」

 リイジーは昔を懐かしむかのような口調で言った。

「……ごめんなさい」

 本当に何年ぶりだろうか?

 自分で言うのも何だが、拳骨が落ちるような真似をしたことは少ない。

 両親を早くに亡くしてから、ンフィーレアは手のかからない子供であろうとしたからだ。

 拳骨や雷が落ちるようになったのは薬師になってからの方が多い。

 薬師としては師と弟子の関係だ。

 容赦のない叱責、時には強烈な拳骨が落ちる事だってあった。

 

 だが、今回のは全然痛くない。

 

 顧客に対する対応ではなかったと自分でも思っているのに、何故だ?

 

「あんたは良い子に育ったよ。自慢の孫さ」

「あ、ありがとう」

 少しこそばゆい。

 祖母がこんな話を始めるのは珍しいことだ。

「あんたがいなけりゃ、私はどうなってたかねえ。きっと、神の血の為なら、人さえ殺しかねない奴になったかもしれない」

 ンフィーレアは祖母の冗談に苦笑いを浮かべた。

 何故だが納得してしまい、否定しようという気にはなれなかったからだ。

 

「ンフィーレア。なんで、商談を保留にしたんだい?」

 

 祖母の瞳は真剣だ。

 

「ごめん。僕が間違ってた」

 初めて経営に関する重大な決定権を与えてくれたというのに。

 一人の商人として失格だ。

 あれは損のない取引だった。

 それを自分の意地から受け入れられなかったのだ。

 

「違う。そうじゃない」

「えっ?」

 祖母の目が細くなり、眼光に危険な光が宿る。

 常人の限界に到達した第三位階魔法詠唱者がそこにいた。

「ふざけるなって一喝して殴ってやればよかったじゃないか」

「はあっ?!」

「これでも私は城砦都市エ・ランテルの有力者だ。貴族と揉め事を起こしたってどうにかしてやるさ」

「幾らなんでもお客さんに手を上げるなんて出来ないよ。お祖母ちゃん。何を言ってるのさ!」

 そうしたいのは山々だが、バレアレ商店の看板に泥を塗るような真似は出来ない。

 

「冗談だよ。あんたがそんなことが出来ない子だってのは知ってるさ」

 

 ンフィーレアはホッとしたように息をついた。

 

「そして、それがあんたの本質だよ。ンフィー……あんたは、その悪癖をどうにかしないといけない」

 リイジーは孫を嗜めるように言った。

 

「えっ?」

「あんたは薬師だけど結晶トカゲくらいは知ってるね?」

 ンフィーレアは頷く。

 その名の通り結晶が亀の甲羅のようについたトカゲで稀少なモンスターだ。

 武器を鋳造する際に、このトカゲから取れた結晶を混ぜるだけで武器の性能が一段階上がるとされている。

 ただし、結晶トカゲは臆病で逃げ足が早く、一日で国を渡るとさえ言われるほどである。

 それだけに一匹捕まえれば三代は遊んで暮らせると言われるほどの破格の値がつき、庶民にとっては一攫千金のチャンスである。

 

「いいかい? 人生で大切なのは結晶トカゲみたいな大事なものを見かけた時、それを上手く捕まえられるかどうかだ」

「………………」

 祖母が何を言いたいのか、何の話をしているかが理解できた。

「それさえ捕まえることが出来たら、貧乏人でも幸せになれる。だけど、どんだけ頑張ったって自分の前に結晶トカゲが現れてくれるとは限らないんだ」

 自分は一体、何年の間待ち続けた?

「得てして、そういうものが現れる時は大体、準備なんざ出来てない。だけど、そこで行かなきゃ駄目なんだ。立ち止まってたら成るものも成らない」

 幼い時、初めて見た時から抱き続けた思い――そういってしまえば耳には心地よい。

 だが、それは幼い時から結婚してもおかしくない年頃まで、ずっと行動せずにいた証でもある。

 

 仕方のないことだと言えば、そうなのかもしれない。

 

 三重の城壁に囲まれた城砦都市に生まれ、第三位階魔法の使い手を祖母に持ち、街の外に出るときは冒険者を連れていた。

 彼の人生は、常に安全に守られていた。

 そんな彼だから上手くいく保障もないのに一歩を踏み出すなんてことが出来なかったのだ。

 

「……まだ、間に合う」

「んっ?」

「まだ分からない。そうだろう? お祖母ちゃん!!」

「………………」

 リイジーは孫の資質を一つ見誤っていた。

 彼はとことん追い詰められてからその力を発揮するタイプだったのだ。

 

「……そうかもしれないね」

 リイジーも別に本気で逆転出来るとは思っていない。

 むしろ焚きつけることで孫が一皮剥けるのであればいいだろう、という判断だった。

 商談を破棄するのは痛いが、ここで意識改革をしなければバレアレ商店の未来も危うい。

 

「どうせ喧嘩するなら勝つんだよ。負けるとまずいかもしれないからね」

「分かってる。彼は怪しい――エンリは騙せても僕は騙せない」

「怪しい? どこら辺が?」

 確かに不思議な人物ではあるが、騙すとはどういう意味だ?

 

「彼が騙した点は幾つもあるよ。これだけの量の薬草を彼はどこで集めたのかな?」

「トブの大森林に決まってるじゃないか?」

「そんなの出来るわけがないじゃないか。森の賢王のテリトリーだよ?」

 リイジーは「あっ」と声をあげた。

 

「これだけの量の薬草――特に価値のある物を取るには森の賢王のテリトリーに進入することが必須だ。つまり、この時点で人には不可能ってことだ」

「……確かに、そうだね」

 トブの大森林で数百年を生きた伝説の魔獣――そんな魔獣を出し抜くなど出来るはずがない。

 

「じゃあ、どうやって集めたんだい?」

「分からないけど、まっとうなルートじゃないと思うよ。そう考えれば全ての辻褄があうんだ」

「ほう」

 リイジーは孫の推理を素直に聞くことにする。

 

「もし、今回の商談をうちの店が受けなかったらどうなると思う?」

「今後、カルネ村で薬草採取は出来ないだろうね」

「僕もそう思う。ただし、彼の目的は薬草採取じゃない。むしろ僕達に採取させないことだ」

「うん?」

 どういう意味だ?

「開拓村を訪れる人は少ない。僕達が行かなくなれば、それこそ徴税官くらいしか訪れなくなる。そうすれば村は閉鎖されたも同然だろ?」

「確かにね」

 そもそもああいう村は危険が多い。

 物見遊山で行くような場所では決してない。

「そうすれば外部からの干渉がなくなり、彼の望み通りになる。彼は一体何者か? まず一人ではない――それなりの人数がいる組織だ。個人で村を街のようになんて発言が出るわけがない」

「確かにそうだ」

「僕の結論はこうだ――彼は八本指の手先である。よって、彼とは手を組むべきではない」

 

 ………………。

 

「なんだって!?」

 リイジーは驚く。

 八本指はリ・エスティーゼ王国の裏社会を牛耳っている地下犯罪組織である。

 その影響力は絶大で、傭兵、貴族、王族にまでコネを持ち、王国内のあらゆる犯罪の裏にその姿があり、巨大過ぎるが為に誰も手出しが出来ない集団だ。

「いやいや、どうしてそんな結論になるんだい?」

「とある筋からの情報でカルネ村はこれから大きく発展すると言ってた。それは一体何処からの情報でどうして発展するのさ? まさか王様がトブの大森林を一大開拓すると思う?」

 それはない。

 そんな一大事業に金を費やすことは今の王国では不可能だ。

 エ・ランテルの重鎮ということもあり、王国の内部事情にも詳しいリイジーには断言出来た。

 

「だとしたら貴族? ますます在り得ない。あそこは王の直轄領だ。かの『黄金』の姫なら在り得なくはないけど、姫は別に領土を持ってる」

「………………」

「そうなると国に近しい組織しかない。そしてそれが可能なのは現状では八本指しかない」

「む、むぅ」

 リイジーは真剣に思案する。

 仮にそうなら、絶対に止めなければいけないからだ。

 幾らなんでも相手が悪すぎる。

 

「だったら、なんで私達に薬草を売るなんて話を持ってきたんだい?」

「口止め料かな?」

「口止め料?」

「薬草を売るってのは表向きの理由で麻薬を栽培してこの街に蔓延させるのが目的としたら? それを黙ってる見返りに僕達に薬草を供給する」

「………………」

 否定する材料が思い浮かばない。

 現在、八本指は王国の内部に深く根付いている。

 それこそ公然と麻薬を栽培していても、簡単には口出し出来ない程だ。

 

「……確かに」

 そう考えれば、確かに不可解な点にも納得がいく。

 

 アインドラ家に縁のある者ではなく、むしろその逆。

 犯罪組織の幹部という線も十分考えられる。

 

 人は何の意味もなしに行動したりしないと彼は言ったが、それ言うなら見返りなしに人が動くなど稀なことだ。

 開拓村を発展させるのが本当に真実なら、リスクとリターンが釣りあわない。

 何か裏があると考えるのは当然だ。

 

「もしくは脅迫。最近、今迄頼んでいた冒険者さんがいなくなったでしょ? 僕がエンリを慕ってることもばれていてもおかしくない。エンリや家族を人質に取られたら僕には何も出来ない」

「………………」

 そんな馬鹿なことがあるものかと笑い飛ばしたい所だが、それは出来なかった。

 こんな推理が否定できないほどに王国は腐敗しているのだ。

 

「もしそうなら、カルネ村は危険だよ。エンリ達を助けないといけない」

「………………」

 まずい。

 話がまずい方向に向かっている。

 今更ながらにリイジーは反省した。

 孫が首を突っ込もうとしているのは想像以上に危険な相手ではないのか?

 

「私は、かのアインドラ家の傍流じゃないかと思ってるんだがね」

 自分で言っておいて何だが、儚い希望だった。

 英雄的素質を持った美貌の男性がたまたま訪れた村に思うところがあって力を貸す。

 そんな男に村娘は当然、好意を抱く――如何にも酒場で吟遊詩人が歌いそうな話だ。

 だが、現実にそんな人物が現れる筈がない。

 そんな夢を見ていられるほどリイジーは若くなかった。

 

「確かに女性受けはいいかもね。カルネ村をエ・ランテルのような都に変えるだなんて――まるで花の都の異邦人だ。エンリもそんな甘言に騙されたのかもしれない」

 

 花の都の異邦人。

 史実を元にした御伽噺で女性に大変人気があるものだ。

 

 時を遡ること100年ほど前――ここより遥か南にある砂漠に覆われた小国に大層美しい姫がいた。

 その美しさたるや姫を娶ろうとした貴族たちの争いが殺し合いに発展するほどだったという。

 最終的に姫は何と平民と結ばれることになる。

 ある日ふらりと現れた不思議な格好をした男は、砂漠という不毛の地に決して枯れることのない花を咲かせてまわったのだ。

 国のどこにいてもその花が見かけられるようになった頃、姫は不思議な男を城へと招きいれ、その場で男は姫に求婚を申し出た。

 姫はそれを快く了承した。

 不毛の地だと諦めず、黙々と花を咲かせてまわる男の行動が姫の心を射止めたのだ。

 姫と結ばれた男は国の後ろ盾を得て、周囲の砂漠に覆われた国にも花を売ることにした。

 花は小国を繁栄させ、また決して枯れぬ花は砂漠に繁栄した。

 しかし、ある時に竜の怒りに触れてしまい一夜にして国は滅んだ。

 男と姫もその時に亡くなったのだが、まるで彼の後を追うかのように花は一斉に枯れ出したという。

 身分の違いを結びつけた花と、まるで咲いて散るかのような国の顛末から、その都市は花の都と呼ばれることになった。

 

 生まれに違いがあっても、愛を得るために努力すればその苦難すら乗り越えることもある。

 身分違いの恋に身を焦がす者にとっては憧れの御伽噺だ。

 今でも男が眠る地には彼を守るように少なからず花が咲いていると言われており、その花を手に愛を告白すれば必ず結ばれるという伝説もある。

 

 繁栄の花――コナリなんとか、花言葉はなんだったか?

 

 長ったらしい上に不思議な名前だったのでリイジーは思い出せなかった。

 まだ若かりし頃、決して枯れない花を使えば、老いることもないのではないかと散々手を尽くして調べてまわったことがあった。

 当時のアダマンタイト級冒険者にも話を聞いたと言うのに年は取りたくないものだ、と改めて痛感する。

 女性受けする話だけに世に出回ってる書物などは大きく改変されている為、正確な話を知る者は少ない。

 自分が死ねば、元の話を知る者などいなくなってしまうだろう。

 

「早急に彼の素性と村の現状を調べてないといけないな」

「………………」

 孫は自分の意見など考慮に値しないと切り捨てる。

 確かに通りすがりの人間が英雄だったよりは犯罪者である方が身近な話だろう。

 見返りもなく人を助けようとする行為が、そうそう転がっている筈がないのだ。

「でも、相手が八本指なら、生半可な冒険者をぶつけるのは逆効果だね」

 八本指が相手ではこの街のミスリル級冒険者程度では返り討ちにあう可能性が高い。

 だとすれば――手は一つしかない。

 

「僕は今から冒険者ギルドに行って来るよ。王国のアダマンタイト級冒険者チームを指名しようと思う」

 




みかか「愚問だよ、ハニー。ぼくの好みはベイベー、君だけさ!」
リイジー「……キャー素敵、抱いて!」

 今回の見所は頬を赤らめる老婆と男装女子の出会いのシーンです。
 この小説はガールズラブですからね、ショウガナイネ。
 
 保有する特殊技術で化粧まで見破られると某聖王国の王女の肌年齢がばれたり、龍王国で必至にロリ演技をしてるおばちゃんが透けて見えてしまうという悲しい世界になるので今回の運びになってます。

 後は色々大変なンフィーレアさんでしょうか。
 クライムが彼を見たらどう思うんだろという印象です。
 結晶トカゲを追いかけて高所落下やモンスターの群れに突っ込まないといいですね。

 そんな訳で彼も地雷原でのタップダンスパーティに参加。

 今回の小ネタ解説。
 タイトルの「わきあがる疑惑」はある名作ノベルゲームから。
 ここで推理を外すと……?
  

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