明日仕事なのに……
性別とはなんだろうか。性別は、男と女の二つしか存在しないのが普通だ。(稀に名称不明の三つ目が有るらしいが)
では……
「私の先輩をどこに隠したんですか?」
「嘘を吐くと痛い目にあいますよ?」
「今なら…少し触るだけで…済ませます」
今の俺……いや、《私は》どれに分類されるのだろうか。
俺が普段寝てるベッドには、四つの人影があった。
一人は俺の後輩であるマシュ。一人は
「つまり、貴方は女性になった先輩……ということですか?」
「はい。そういう事になりますね」
現在絶賛正座中の私である。
正座をさせられているのかわからないし、何故三人から殺気が迸っているのかも分からない。そもそも女になっていることがおかしいというものだ。
もう本当に訳が分からない。
「先輩は、性別が反転したことについて何かわかりますか?」
「もしかして、この間の風邪が原因ではありませんか?」
思考を巡らせ、風邪の時を思い出す。
風邪……そういえばマシュから薬は貰ったが、それならマシュが気付いているだろう。それ以外は…特にないか。
そこまで考え、今度は風邪が治ってからのことを思い出す。風邪の時とは違い意識がはっきりとしていたからか、こちらは鮮明に思いだせる。
マシュに起こしてもらい、熱を測り、ナイチンゲールに完治したことを報告したこと。食堂で妙にゲッソリとしたエミヤと死んだクー・フーリンに会い、ヒロインXと食事をし、クエストに向かったこと。クエストから帰ってきたらマリーに説教をされ、清姫と食事をしていたら目の前にジャンヌ(オルタ)が座って気まずくなったり、お風呂で覗きをしようとしたランスロットにマシュの盾が突き刺さる現場に遭遇したこと。その後風呂上がりの一杯にと渡された飲み物を飲み、マシュと食事をして眠りについたはずだ。
ここまででおかしいと思うところは……
「無い…かな」
「じゃあ…マーリンに触れてきますね」
「ではますたぁ。わたくしは
いやマーリンの仕業とも限らないし、そもそもクー・フーリンはとばっちりじゃないかな。と言って止めようとするも、二人はそれより先に扉から出ていってしまう。
後で二人には個別に謝罪をしておこう。
「では、一度パラケルススさんの所に行きましょう。もしかしたら元に戻る薬を持っているかもしれませんし」
パラケルススが万能過ぎではないか?マシュの中でパラケルススはどういう人だと思っているのだろうか。
そう思いつつも、他に解決策もないのでマシュに連れて行かれるままにマイルームを出る。
廊下に出ると、どこかで聞いたことのある叫び声が聞こえてくる。しかし、今は相手にしている暇はないので無視する。
「そういえば、お風呂上りに飲み物を渡されたそうですが、誰から貰ったものですか?」
マシュがこちらへ振り返り聞いてくる。どうでもいいかもしれないが、ちゃんと前を向いて歩いたほうがいいと思う。それと、背後から出ている黒いオーラは何だろう……もしもオルタ化するというなら、精神的に死ぬ気がする。
飲み物……確かギルくんが宝物庫から取り出した物のはずだが、どんな飲み物かは聞いていない。
とてもいい笑顔で渡してきたから、特に何もないと思う。
「先輩。それが原因で間違いないです」
原因ってあの飲み物が?
そう言われて少し考える。確かに他に怪しいものはない。
そういうことなら、早くギルくんから元に戻る薬を貰うとしよう。
「あっ、先輩!走ると危ないですよ!」
マシュの静止も聞かずに走る。
正直この体で居続けるのは、少々どころではない違和感があるのだ。できる事なら早く元に戻りたい。
マシュには悪いが、少々
まあ、今は女なんだけどね。
「…行ってしまいました」
溜息交じりに出た言葉は、向けられた者に届くことなく消えていく。
一人残された少女は、思い人に置いて行かれた寂しさを胸に抱く。
「女性のままならお風呂や着替え、果てには慣れない身体について色々と教えることができたのに……」
訂正、胸に抱いているのは欲望のみのようだ。
少女は少しの間その場に留まっていたが、ふと何かを思いついたように来た道を引き返していく。
その足取りはとても軽く、このままスキップをしてしまうのではないかと思うほどである。
「~~~♪」
途中で鼻歌を歌いながら、少女は先ほどまでいた部屋に入る。
少し警戒するように辺りを見回し、誰もいないことを確認するとベッドに入り込む。
「まだ少し、温かいですね」
しばらくすると、少女の目が虚ろになっていく。
恐らく数分もしないうちに眠りにつくだろう。
「いい……匂いがします……」
もはやほとんど意識がない中で、少女は呟く。
その言葉は、本人の記憶にも残らないだろう。
「誰にも……渡しません。…私の……せん…ぱい……」
「ということがありまして」
「それは一体どういうことなんだね」
そう言ってこちらに困ったような笑みを向けるエミヤ。
それもそうだろう。私が女になった理由を聞いたのに、帰ってきた返事がということがありましてではわかるはずもないだろう。
というわけで、今度は最初から話すとしよう。
「なるほど、つまりあの英雄王の仕業というわけか」
「小さい方を英雄王と言っていいのかは、微妙なところだと思うけどね」
まあ本人にも大人の時の記憶はあるようなので、英雄王と呼んでも問題は無いだろうけどね。
このカルデアに大人のギルガメッシュが来ることなんて一生無いだろうし。いや、キャスターとしてならくるかもしれないかな。
「ところで、何故女のままなのだ? 話によれば、君は薬を貰いに行ったはずではないのか?」
「丸一日は戻らないみたいだよ」
「なるほど。では、風呂などを貸切にできるように手配しよう」
何故か微笑みながらそう告げる
しかし、その申し出はありがたい。もしこの姿のまま男湯に入ってしまうと。男性に遭えば面倒になる。それが黒髭やランスロットなら問題になる。
かといって女湯に入るというわけにはいかないだろう。
ならば当然、皆が入らないような時間に入ればいいのだ。それに、貸切にしてくれるなら誰かが入ってくることはないだろう。
「じゃあ、夜中にでもお願いしようかな」
「待ちな、別にいつもの時間でもいいんだぜ。マスター」
エミヤにお願いをしていると、後ろから静止の声がかかる。
振り向くと、所々焦げた青タイツを身にまとう男が居た。先ほど八つ当たりに遭っていたクー・フーリンだ。
「でもそれは皆に悪いよ」
「気にすることはない。マスターの緊急事態に対応するのもサーヴァントの役目みたいなものだ」
「そうそう。そうでなきゃ、マスターへの負担が大きすぎるってもんだ」
……なんか意見の有っている二人をみると不自然な気分になる。というより、これはもはや気持ち悪いレベルだ。いつもの喧嘩腰の二人はどこに消えてしまったのだろうか……
それと、なんでクー・フーリンはそんなにも悟ったような顔をしているのだろうか。
「ところで、マスターはその体に違和感とかねぇのか?」
「違和感は特にないかな。味覚もそんなに変化してないみたいだし」
「強いて言うなら、少し食欲が落ちたようにみえる。しかし、それも大した変化ではない」
「他にあるとすればトイレとお風呂くらいだし、案外このままでも生活できるかもね」
笑いながら話しているが、もちろん冗談だ。このままで居続けたら、今は気付いていない障害にぶつかるかも知れない。
それと、単純に黒髭に会いたくなくなるからだ。ただでさえ遭遇したくないのに、身の危険まで追加されれ当然だろう。
「マスター、それは冗談でも笑えねぇぜ……」
「そうだな。できる事ならやめてもらいたい」
二人が溜息交じりに諭してくる。
二人の
この件については、あまり深くは尋ねないほうが良いのかもしれない。
「そういや、そろそろ風呂の時間じゃねぇのか?」
「あっ、そういえばそうだね」
「行ってきたまえ。今はこちらの心配よりも自分の心配をするべきではないかね」
時計を見ると、予想よりも時間が過ぎている。
まだ話したいことはたくさんあるが、二人もこう言っていることなので先に堪能させてもらうとしよう。
幸いにも髪は長いわけではなさそうなので、時間もそうはかからないだろう。
「じゃあ、後はお願いするね」
二人から肯定の言葉を受け取り、風呂へと向かう。
なんだかんだでいつもの日常だ。願わくば、この日常が長く続くことを願いたい。
ハプニングもあったけど、今日もカルデアは平和だったね。
「さて、もう一仕事片付けねばな」
「俺はまた殺されるのかねぇ」
「頑張ってくれたまえ。無論、後で美味い飯を用意しよう」
「頼んだぜ……」
一人の少年が食堂で寛いでいる。
そこには少年以外に人影はなく、不気味なほどに静かな空間となっている。
「しっかり効いていましたね。あの薬」
ジュースを口に含み、少年は静かに呟く。
少年は虚空から液体の入った瓶を呼び出し、それを眺める。
「症状はランダムですけど、代わりにしばらくは毒だろうと呪いだろうと打ち消してくれるはずです」
少年は笑みを浮かべ、その瓶を後ろへと放り投げる。
瓶はそのまま壁に向かって一直線に飛んでいき、《空中で停止する》。
「よく気付いたな。流石は英雄王と言ったところか」
「いや、貴方の気配遮断が微妙なだけですよ」
瓶の投げられた所から、水着を着た長髪の女性が現れる。
女性は瓶を投げ返すと、話を続ける。
「そうか。本職ではないとはいえ、こうも簡単に見抜かれるとは思わなかったのだがな」
「それで、何の用ですか? 貴方がわざわざ僕を訪ねる理由なんて無い気がしますけど」
少年は投げられた瓶を受け止め、女性に目をやる。
その目には悪意も敵意もなく、純粋に疑問に思っていることがわかる。
「少し聞きたいことがあってな」
「聞きたいこと?」
「何故、そのような秘薬をマスターに与えたのかが疑問でな」
「何故……ですか」
その問いに、少年はしばしの間逡巡する。
音のしない空白の時が続く中、少年は思い切って切り出す。
「マスターのいるカルデアは居心地がいいから……かな」
「……」
女性はその問いに満足したように振り返ると、空気に溶けるように消えていく。
まるで最初から、少年しかいなかったかのように。
「他には……あの金ピカの人みたいになりたくなかっただけですけどね」
既に誰もいなくなった空間に向かって、少年は呟く。
そして、少年も食堂を後にする。
「居心地のいいカルデアが、これからも続けばいいな」
少年は、暗がりの中を一人で進んでいく。
その足取りは、スキップをするように軽い。
(このまま金ピカも来なければいいんだけど)
多少溜息がちだが、その足取りが止まることはない。
そして、少年は目的の部屋に辿りつく。
その部屋は、少年がマスターと呼ぶ
「おやすみなさい。マスター」
少年は部屋の扉にそう呟くと、またスキップするように廊下を進む。
少年は騒がしくも平和な毎日を思い出し、楽しそうに笑う。
「ああ、今日もカルデアは
活動報告の件ですが、連載に切り替えさせていただきます。
正直細かいことではありますが、切り替わったところで何か変更があるわけでもないので特に気にしなくても問題ありません。