都市伝説を宿す人間たちの話。

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都市伝説を宿す人間たちの話。

文字数は8800文字くらい。
普段なら2話に分ける分量ですが、
短編なので1話にしました。


……都市伝説ですがあっちとは関係ないです。





都市伝承編纂所中部支部

都市伝説。

それは口承や書物、あるいはネットなど様々な手段により伝え聞かされていく噂。

その中身は常に変質・変容し、複雑に構成されて1つの都市のように広がっていく。

そして都市と同様、他人同士によって築かれ存在し続けるもの。

そこには光も闇もあり、全てを知ることはできない。

そうして朧気な「あるかもしれない」が、人々の心に伝播していく。

それは果たして真実か虚偽か――――――

 

 

 

 

――――――しかし、それは意味の無いことである。

何故ならこの世では全てが真実になりえるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某県某市某町某所、コンクリート建てでボロボロな外見の怪しい建物。シャッターの下りた車庫の隣の玄関にはプランターが並べられており、綺麗に手入れされている様は建物と正反対で非常にミスマッチしている。

 そして玄関の上、社名を表す看板には「都市伝承編纂所中部支部」と胡散臭い社名が書かれていた。

 

 その建物の2階。いわゆる事務所スペースでは現在、5人の男女がデスクワークをしている最中である。

 中でも一際目立つ机が1つ。他の机と比べ書類が明らかに山積みになっており、使用者である男性は頭を掻きむしり騒ぎながら作業を進めていた。

「あ゛ー終わんねぇえええええ。マジで終わんねぇえええええ……」

「黙れネルガ。たまには仕事ぐらい黙ってできないのか」

「んなこと言ったって量多すぎんでしょ!? 人間にやらせる量じゃないってば!」

 ネルガ、と呼ばれた男性は作業している手を止め、注意してきたメガネの男性の方を向いて訴えかけた。

 

「それは貴様が定期的に消化していかなかったからだろう。自業自得だ、自業自得」

「それはー……ほら、あれだ。少し前は全然仕事がなかったのに急にこんないっぱい来るから調子が出なかったというかなんというか……とにかくこんなに急に来た仕事が悪い!!」

 冷たく正論を返され言葉に詰まったネルガは、腕を組み考えるしぐさをすると子供のような言い訳を当然のように言ってのける。

 もちろん、そんな言い分が通るわけがない。

「そんなわけあるかっ! ……いいから仕事のせいにしてないでとっとと手を動かせ!」

「えーでもー」

「『えー』じゃないっ! 俺たちの仕事が遅れると結果的に夏田さんの仕事に支障が出るんだぞ。つまりは他の人への迷惑をもっと考えてだなぁ……」

 さらに子供のような不満の表し方をするネルガに対してメガネの男性はイライラしながらも仕事をするよう促す。が、

 

「私は最終的に皆さんが手伝ってでも期限内に終わらせていただければ問題ありません」

「――――だってさ。と言うわけでみんなでやろう!」

 夏田さん、と呼ばれた女性の一言で台無しになってしまう。

 その上それを聞いたネルガは嬉々として責任感のない提案を、勢いよく手を広げながらいった。

「自分でやれ! と言うより夏田さんもネルガを甘やかさないでください。こいつはすぐ調子に乗るんですから」

「……」

 当然のようにメガネの男性は却下し、夏田を窘めるも彼女は反応を示さず自分の作業を続ける。

 

 そんな3人の様子を仕事しながら聞いていた別の男性と女性のうち、のんびりとした雰囲気をまとった女性が隣の男性に問いかける。

「ねーねー空くーん。あれーはー甘やーかしてーるのかーなー?」

「いやぁどうだろうね。むしろ僕たちに厳しいというかなんというか」

 空くん、と呼ばれた優しそうな男性はいまだに言い合うネルガたちの方を見ながらそう答えた。

 つられて、のんびりとした女性も彼らを見る。

「だから貴様は――――」

「いやでも――――」

 

 

 

 ……不毛な言い合いが続くこと5分。

「それーにーしてーもー、いーつまでー喧嘩ーしてるのーかーなー」

「喧嘩するほど仲がいいとは言うけどね。時間も時間だし休憩に入るついでに止めようか…………テイ君、ネルガ君。少し早いけれどいい時間だし、休憩にしないかい?」

 のんびりした女性の言葉に一応フォローを入れた優しそうな男性は立ち上がると、時間を確認してから2人に休戦の提案。

 すると2人は動きを止め、互いに自分の時計を確認した。

 

「む……そうですね。そうしましょう」

 そしてテイ君と呼ばれたメガネの男性が休憩を受け入れると、他の人も席を立ち動き始める。

「ではコーヒーを淹れますね」

「じゃー私ーはーお菓子をー準備ーするーねー」

「うん、お願いするよ」

「よっしゃ休めるぞー!」

「貴様はずっと休んでたようなものだろうが」

「ははは、気にしない気にしない」

「……まったく貴様は、もっといろいろな事を気にしたらどうだ」

「あまり気にしすぎるとハゲだぞ」

「誰がハゲだっ! 生えとるわっ!!」

「あ、(わり)(わり)ぃ。『ハゲるぞ』だ。言い間違えたわ」

「貴様……ワザとだろ」

「バレた?」

「いい度胸だ貴様、表へ出ろ。そしてそのまま車に轢かれるまで道路に突っ立ってろ」

「やだよ。そんなことしたら死んじゃうじゃん」

「ならば貴様を今から溶岩に突き落としてやろう。よしそうしよう」

「ちょっ――――タンマ! それはシャレにならないって! 目がマジだからっ!!」

 冗談のような内容の割に目が本気なテイの言葉に、冗談な内容の割にやけに焦るネルガ。

 こうして先程と同じような言い争いが続くかのように思われたが――――

 

「はーいー。お菓子ーよー」

「ほらほら、2人とも。そろそろコーヒーもくるし今は休憩しよう。喧嘩は後でやってね」

 ――――それはお菓子とそろそろ来るコーヒーによって防がれる。

 事の真偽はともかく随分と頭にきているような様子だったテイだが、我を忘れるほどではなかったらしく、

「……はぁ。それもそうですね。我ながら少し熱くなりすぎたようです」

 自信を落ち着けるようにため息をつき、おとなしく定位置に座った。

 

 それを見てネルガは冷や汗を拭う仕草をし、

「ふぅ、マジで助かったぁ……」

 テイとは別の意味でため息をついてからいつもの場所に座ったところで、キッチンから夏田がコーヒーを運んでくる。

「ミルク等はご自由にどうぞ」

 それぞれに配っていく中、ネルガのものにだけガムシロップ付けて渡した。

「おっ、サンキュ」

「……」

 礼を言われた夏田だったが、特に反応は示さず自分の定位置へと座る。

 そのことに対してネルガも気にする様子はないことから、どうやらいつものことなのだろう。

 こうして5人は休憩時間へと入った。

 

 

 暫くして、コーヒーも無くなり休憩時間も終わりかという頃。

「おっす、お前ら。ただ今帰ったぞー」

 言葉からしてここの関係者であろう、1人の男性が紙袋片手に入り口から入ってくる。

 

「あ、所長。お疲れ様です」

「おかえりなさい」

「その手に持ってんのは土産っすか!?」

「お前……第一声がそれか」

 それに対しテイと夏田とネルガはそれぞれの反応を見せた。

 テイの言葉からするとどうやらこの男性はここの所長らしいが、その割にはネルガの言葉は上司に対するものとは思えない。

 言われた所長も特に咎めることないようで。

「おう、帰りに偶々目に入ってな。買ってきてやったぞ」

「わー。いーですーねー」

「だろー? ついでに仕事も持ってきた」

「げっ、さらに追加ですか……マジっすかぁ……」

 自分の現状もありテンションが急下降するネルガであったが、所長はそのことを知っているためか少し笑いながら否定した。

「あーいやいや。そっちじゃなくてあっちの(・・・・)仕事だ」

「なぁんだそっちですか。いやぁ良かった良かった……これ以上こっちの仕事が増えたら死んじゃってましたよー」

 あははは、と胸をなでおろして笑う。

 ……どうやら別の仕事なら増えても大丈夫なぐらいの余裕はあるようだ。

 

「それは『今の仕事は期間内に1人で終わらせられる』という発言と同意ととらえて構わないな。言ったからにはしっかり終わらせろよ」

「うっわ汚ねぇ! 嵌めやがったな!?」

「どう考えても自爆だ」

「ぐう……」

「はっはっは、相変わらず仲がいいな! お前らは」

 2人の掛け合いをいつの間にか夏田が入れてくれたコーヒー片手に楽しむ所長。

 その言葉にネルガはグッとコブシを握って断言した。

「そりゃぁもう! 仕事を手伝ってくれるくらいの仲ですよ!」

「――――と言うのは妄言です。勝手に関係を偽装しないでもらおうか」

「ええーイケずぅ」

「気色悪い声を出すなっ!!」

 口をとがらせ、両手の人差し指でテイを指すさまは声と相まって確かに気色悪くうざい。

 これはつい怒鳴ってしまうのも仕方がないだろう。

 

「あーのー。つまーりー、狩りーのー時間ーですーねー」

 と、お土産を冷蔵庫にしまってきた女性が話を元に戻した。

「ん、ああ、そうそう。そういうことだ」

「そう言えばそうでしたね……詳しい内容はどうなのでしょうか」

「簡単に言やぁある組織のトップの捕獲とその場にいた人間の殲滅だな。流れとしては一週間後の大きな取引の後、アジトに帰ったところを狙う。メンバーはいつも通り。どうだ、簡単だろ?」

「そりゃあ分かりやすくていいっすね!」

「つまーりー……みなーごろーしー、ですーねー」

「そうだね」

 左手の平に拳を打ち付けてやる気を見せるネルガと、ゆっくりしながらも内容が()る気に満ちている女性。

 所長はそれを見て頷いた後、「ただまぁ……」と真剣な顔で続けた。

 

「聞いた話によると、何でもその組織には化け物がいるんだとか」

 その言葉に、社内の雰囲気が真面目なものに変わる。

 

「化け物ですか。それはやっぱり……」

「本当かどうかは分からんが、本当ならその可能性が高いだろうな。まー仮にそうでもお前たちなら問題ないだろ」

「ですが気を付けるに越したことはないでしょう。どのような力なのかもわかりませんので」

 所長の言葉は否定せず、しかし仕事に対して真摯な態度を見せるテイ。

 このまま仕事の話が続くかに思われたが……

「まっ、なんとかなるだろ!」

 その空気をネルガが壊す。

「……貴様は気楽に考えすぎだ。そうやって後先を考えないから仕事も溜まって最後に苦しむんだろ」

「それは今は関係ないだろー?」

「無いと思うのか?」

「ああ!!」

「……救いようがないな」

 あまりにも能天気なネルガに、テイは片手で顔を覆い深くため息をついたのであった。

 

 

 

 

 一週間後の夜。

 車庫内には古めの白い車があり、所長を除いた全員が揃っている。

 そして既にのんびりした方の女性とテイは乗っていて夏田は居残りなので、残すはネルガが乗るだけだ。

「じゃっ、行ってくる」

「問題はないとは思いますがお気を付けて。無傷で帰ってきてください」

「おう。任せとけ」

 表情を変えず見送る夏田へ親指を上向きに立て笑顔で返事をすると、そのまま運転席へ乗り込みリモコンでシャッター開く。

 車はそのまま目的地へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 車を少し離れた場所に待機させ、目的の建物の裏手。

 バックを肩にかけたネルガと、大きい輪を背負ったテイは、中の防犯機器を無効化しに行った女性を待っていた。

 そんな2人の元に上から誰かが下りてきて綺麗に着地する。一体誰なのかと言えば……

「たーだーいーまー」

 その女性であった。

 だが下りてきた箇所の上に窓はなく、飛び降りられそうな場所は屋上のみ。一体どうやって下りてきたのか、2人は特に疑問はないようだ。

 

「お疲れ様です、番場さん。中の様子はどうでした?」

「ぜーいんじゃーないーけどー……おーきーへやーでー、みーんなーお酒ー飲んでーたーよー」

 番場さんと呼ばれた女性は先程見てきた光景を思い浮かべながら、変わらずのんびりと答える。

「目的の人物はいましたか?」

「んーんー」

「んじゃあその部屋は皆殺しでいいわけだ――――なら早速行こうぜっ。防犯機器も切ったわけだし」

「おー」

「そうだな……気づかれる前に動くとしよう」

 拳を挙げて意欲を見せる2人を見て頷き、裏口の電子ロック扉をなるべく音がたたないように気を付けて開く。

 どうやら問題なく開いたことからキチンと解除できていたようだ。

「そんじゃ、サクッといきますか」

「さくーさくーさくー」

「……まずはその『大きい部屋』まで案内をお願いします」

「りょーかーい」

「さーてお仕事お仕事っと」

 緊張感のない2人に対し内心呆れながらも指示を出すテイ。

 そうして3人は、裏口から堂々と侵入を果たした。

 

 

 主にテイが周りに気を付けながら階段を上り通路を進み、番場に案内されて1つの大部屋の前にたどり着く。

 すると耳を澄ますまでもなく、賑わった居酒屋店内のような騒ぎ声が筒抜けていた。

「随分と騒がしい……それほどに酔っている、ということか」

「それは好都合だな。あまり騒がれずに済むし、とっとと殺っちまうか」

 意地の悪い笑みを浮かべている様は、大人数をすぐに殺せるという余裕が見て取れる。

 それを見て番場は口に人差し指を当てて悩むそぶりをしてから口を開いた。

「わーたーしーはー……ここーにー、いないーのーをーころーしーまわるーねー」

「はい。TOP以外一人残さず殺してください」

「もちー」

 軽く返事をして番場は対象を求め別の場所へ移動、同時にネルガも動きを見せる。

「じゃ、早速――――」

 

 

 

 

 

 

 

「――――ま、ざっとこんなもんだろ」

「相変わらず気味の悪い光景だな。俺はコレを回収していくから、先に行って俺が着いた時には終わらせられるようにしておけ」

 部屋の中。

 先程まで騒がしかった室内は嘘のように静まり返っていた……いや、正確には僅かだがうめき声のようなものが聞こえる。

 今にも消えそうなその声が何処から発せられているのかと言えば、床やソファで骨を抜かれたように崩れている人の形をしたもの。おそらく先程まで騒いでいた人間だろう。

 血が漏れているものも多くあり、室内は誰かがこぼした酒のアルコール臭と血の匂いが充満していた。

「へいへい。まー他はアイさんが殺ってくれてるだろうし、目的の部屋に一直線で行くだけだからすぐだろ」

「貴様が寄り道しなければな」

 アイさんとは番場のことだろう。

「しないってーの。じゃ、サクッと行ってくるわ」

「ああ。とっとと行ってこい」

「うーい」

 片手を振りながら部屋を後にする。

 それを確認してからテイはポケットから棒を取り出し、死屍累々の回収を始めた。

 

 

 

 とりあえずトップがいるとされている部屋の前にたどり着いたネルガは、躊躇うことなくドアを蹴り開けた。

 そして机の向こうの椅子に目的の人物が座っていることを確認してから、ワザとらしく呑気な声で相手に目的を伝える。

「夜分遅くにお邪魔しまーす! あんたを捕獲に来ましたー」

「…………」

「あれ? 反応が薄いなー……登場の仕方ミスったかな? うーん」

 まさかのノーリアクションに頭を掻き、顎に手を当てて考えるふりをするネルガ。

 

 机の向こうの人物はそれを見てから少しして、口を開いた。

「……何者だ」

「へ? いや今言ったでしょ。『あんたを捕獲に来たものです』って――――あ、ちなみに。部下の人は皆殺(みなごろ)しといたんで」

「何?」

「まー勝って兜の緒を締めよってか、取引が上手くいったからって油断しすぎだよね。都合よくビールなんて飲んでくれてるから、まとめて処理できて楽だったよ。うんうん」

 腕を組みながら頷く。

 そんなネルガの様子を見た男は暫し目を瞑り、そして静かに口を開いた。

「まぁいい。所詮あいつらなどただの人間だ。代わりすら必要ない」

 その意味を大方理解しながらも、あえて知らない風に尋ねる。

「お、つまり自分はただの人間ではない、特別だと?」

「これから死ぬ人間に説明する必要もないだろう…………まあ見れば嫌でも理解するだろうがな」

「あっそ。んなら死ぬつもりはサラッサラないけど、せっかくだし見せてもらおうかな。その『見れば理解できるもの』とやらを」

(さてさてどんなモノが出てくるのか……一応確認はしとかないとだし)

 思いながら、バレない様にバックの中のものへ手をかけ振動を加えていく。

 

 対して男は殺す宣言をされたにもかかわらず緊張感の欠片もないネルガに対し、僅かに眉をひそめた。

 しかしすぐに戻すと、ゆらりと立ち上がる。そして上半身の力を抜いて前かがみの状態でネルガを睨みつけ、

「まぁいい。そんな態度もここま――――」

「シャンパンファーッイト!!」

「――――うぐぉあ」

 言おうとした言葉はネルガが振動を加え続けていたシャンパンの噴射によって遮られた。

 突然のことに、思いっきりそれを食らってしまった男は当然のことながら怒気を孕ませる。

「貴様……っ!」

「いやー、前口上長くない? そーゆーのどーでもいいんですけどぉー」

「殺す!」

 ネルガのあからさまな煽りを受けて明確な殺意を露にする男。

 その途端、男の体に変化が現れた。

 

 

 短かった髪は腰のあたりまで伸びていき

 服はスーツから真っ赤なワンピースへと変わり

 両手には鎌が握られ体が全体的に細くなっていく

 そしてその口は耳元まで裂けていた

 

 

 そのおぞましい姿は誰がどう見ても間違いなく、

「あー……口裂け女か」

 であった。

 しかしそれを見てもネルガの余裕が崩れることはなく、いたって平然としている。

(不利なヤツだったらヤバかったかもだけど、これなら問題なく捕獲できそうだな……じゃ、仕事しますかね)

「ククク……そうだ。この力は紛れもない『口裂け女』そのもの。この力があれば人間を殺すことなど、他愛もない」

「ところであんた、こんな話を知っているか?」

「何だ、命乞いなら聞か――――あ?」

 ない、と言葉が続くことはなかった。

 男は突如、足が支えを失ったかのようにその場に倒れこんでしまう。そしてすぐに立とうとするも足は言うことを聞かず、しまいには腕すらも体を支えられなくなり地べたに突っ伏す形になってしまった。

「な、何だ。これ、は」

「――――曰く」

 そんな男の問いかけを無視して、ネルガは歩きながら言葉を紡ぎ始めた。

 

 

「曰く――――炭酸飲料で骨が溶けるらしい。

 曰く――――それは炭酸飲料が酸性だから骨が溶けてしまうらしい。

 曰く――――炭酸に含まれるリンがカルシウムと結合するため骨が脆くなるらしい。

 曰く――――とある炭酸飲料にはヤバいものが含まれていてそれが骨を溶かすらしい」

 

 

 語り終え、男に背を向ける形で立ち止まる。

「そ……れが、いったい」

「まぁ所詮ただの噂話。嘘か本当かも曖昧な『あるかもしれない』程度の都市伝説。でもそんなことはどうでもいいことで……何故なら――――」

 そこで言葉を区切ると、男の方に向き直り見下しながら言った。

「――――今この瞬間この場所においては、ソレは紛れもない真実なんだからな」

 

「まさか……」

 ようやくネルガの話の意味を理解した男。

 しかし何もかもがすべて遅い。もはや出来ることなどほとんどなくなってしまっていた。

「都市化け・変異『炭酸飲料で骨が溶ける』。俺は炭酸飲料を飲んだ者の骨を溶かすことができる。お前だけがそうじゃないってことだ」

「な……」

「本当は無傷で捕獲したかったところなんだけど……まぁ危ないし? とりあえず『達磨』なら生かしておけるからモーマンタイ。これであとはテイを待つだけだな」

 言いながらソファの背もたれ部分に座って足をぶらぶらさせていたネルガだったが、ふと何かに気付いたようで。動きを止めて両手の平を合わせた。

「あ、そうだ。舌噛んで死なれるとよくないし、歯を支える骨も溶かしてしまおう…………でもあんたも運がいいよな。だって痛覚鈍ってるみたいだし? 普通の人間だったら耐えられない激痛みたいだしなー」

「な……ん、あお」

「あははは、何言ってんのか分かんねぇ。ま、入れ歯くらいは経費で落ちるよな……落ちるよな?」

 喋ろうとして歯が取れてしまった男を笑いながら、そんなことよりもお金の心配をする。

 男はその態度に怒り、睨みつけるもネルガは見向きもしていないので効果はない。

 

 待つこと2分。

 再び部屋の扉が開くとそこには大きな虫取り網に近い何かを持ったテイと、アイの二人がいた。

「おつーかれー」

「こっちは全て片付け終わったが……この様子なら問題なく終わらせたようだな」

「モチのロンよ。ちなみに『口裂け女』だったけど、骨を溶かしたからもう何もできないぜ」

「おー、ぶーざーまー」

「それなら安全か。早いうちに送ってしまおう」

 テイは手に持った大きな虫取り網のようなもの――――正確に言うとすれば、直径90㎝程の輪2つを白い布でつなげた筒状のもので、片方の輪には持ち手であろう棒がついたもの――――の持ち手を上にして男が見えなくなるように被せる。

 しかしそれは2秒にも満たない時間のことで、すぐに持ち手を下げると棒と輪を分離。そしてどうやら伸縮するもののようだった棒を縮めてポケットにしまい、円柱を圧縮して二つの輪を留め具のようなもので止めてから肩にかけた。

 

 ――――ただ、驚くべきことに。円柱を被せたその個所から男は消え去っていた。

 

「よし、これで今回の仕事は完了だな。報告しておこう」

「んー、もー終わりーかー」

「んじゃあ、さっさと帰って打ち上げでもしようそうしよう」

 報告のためメールを打つテイと、どこか残念そうにしているアイ。そしてネルガは上に伸びをしてから締めくくるように提案をした。

 しかしネルガの状況的にそのような提案が通るわけもなく。

「馬鹿か貴様っ! 貴様には仕事が残っているだろ」

「ええ! マジかっ」

「『マジかっ』じゃない! ……あまり調子に乗ると本当に送るぞ?」

 わざとらしい驚きに対してテイはポケットから棒を取り出す。

 それを見たネルガは「げっ」と言うとテイから距離をとりつつドアへと近寄る。そして――――

 

「――――俺は先に車で帰るぜじゃっ!! テイは自力で帰るって言っとくしー!」

「あ、おい待て貴様っ――――!!」

 早口でまくし立てて風のように走り去るネルガを、メールを打ちながらだったため反応が遅れながらも鬼の形相で追いかけていくテイ。

 

 そして二人に残されたアイはというと、

「仲ーいーねー」

 のんびりと歩き出すのであった。

 

 

 

 

 

 後日、公になったわけではないが、組織の人間は何処かへ逃亡した扱いとなったらしい。

 

 

 

 

 

 ちなみに、ネルガの仕事はぎりぎり終わったようだ。

 

 

 

都市化け 都市伝承編纂所中部支部 了。

 




まずは、
読んでいただいた方はありがとうございます。

最初は長編予定の構想でしたが、
この内容で長編は自分では無理だと判断し短編に。
おそらく似たような話を何個も量産するだけになると思うんですよねぇ……。


では色々と無駄な設定を。

都市化け
 都市伝説の力を宿すこと。その数は都市伝説の数だけある。基本的にその存在は隠されている。

都市化け・変異
 宿した都市伝説の力を使う事。自分自身を変質させるようなものもあれば、周りに影響を与えるようなものもある。



(ほとけ) 練雅(ねるが)(骨が溶ける→ほねがとける→ほとけねるが)
・主人公。
・男。
・手先が器用。
・武器は炭酸水を入れた水鉄砲・水風船・炭酸飲料入りの缶や瓶など。
・近くの的に照準を合わせるのが正確かつ早い。
・就職に失敗してふらふらしていたところを所長にスカウトされた。
・他人を殺すことに関しては「TVの向こうで他人が殺されるのと、目の前で他人を殺すことの違いなんて大してないでしょ。罪に問われるわけでもないし」とのことで躊躇いはない。相手が犯罪者等ならなおさらで、むしろいい気分。
・ただし「他人」でなければ躊躇う可能性あり。
都市化け『炭酸飲料で骨が溶ける』
 炭酸水に骨を溶かす効果を与える。飲ませた方が効果は大きいが、かけるだけでも多少の効果はでる。
 力の扱いに慣れてきたため、狙った骨を溶かせるようになってきた(正確には効果範囲を細かく指定している)。

番場(ばんば) 愛栖(あいす)(一寸ババア→いすんばばあ→ばんばあいす)
・女。
・「っ」を使わない、のんびりした話し方をする。
・都市化け時は針を使うが、そうでないときはレイピアを使うことが多い。
・一見やる気のなさそうなのんびりした話し方をするが、殺る気は満々である。
・屑やごみを殺すことに一番積極的で、外に出さないがそれらに強い憎悪を抱いている。
都市化け『一寸ババア』
 自らを『一寸ババア』に変える。背は一寸(3.03㎝)、見た目は老婆。しかしその運動能力は高く、武器として出現する針による攻撃は防ぐのが困難。
 鍛えてはいるものの、この能力を使った翌日は筋肉痛が凄いらしい。

津布久(つぶく) (てい)(ブティック→ぶていつく→つぶくてい)
・男。
・メガネ。
・ネルガとは犬猿の仲だが、喧嘩するほど仲がいいのかもしれない。
・最大限に無駄を省いた携帯式の試着室とそれにつける棒(虫取り網のような感じ)を持ち歩いている。
・その棒を使った棒術が得意。
・人を殺すことに関しては必要なうえに、仕事だからと割り切っている。
都市化け『客の消えるブティック』
 試着室に入った人間を、別の試着室に瞬間移動させることができる。なお、移動先の試着室はあらかじめ指定しておく必要がある。
 最大で5つ(所持してるやつ。どこかの火山の中。本部。中部支部で4つ埋まっている)。

相城(あいしろ) (そら)(白いソアラ→しろいそあら→あいしろそら)
・男。
・怒ることはほとんどない。
・基本は移動要員。
・人を殺すことに関しては慣れた。
都市化け『白いソアラ』
 自らを『白いソアラ』にする。主な移動手段として使われる。中古車なので見た目は少しボロく見えるが、性能に問題はない。燃料もいらないので便利。
 ただし、ルーフから顔を出すと首を切断されるので気を付ける事。
 これを使った翌日は妙な筋肉が筋肉痛になるらしいが、もう慣れた。

夏田(なつた) 香代(かよ)(よかったな→なつたかよ)
・女。
・基本的には所長のボディガードや留守を預かることが多く、仕事に同行することは少ない。
・同行する際は別の人間が変わりを務める。
・素の戦闘能力は所内で一番強い。
・小さいころ自らの能力で両親を殺してしまったのち、所長に養子として引き取られる。
・ほとんどネルガが遊んでくれていた上に、授業参観などの行事を出ていたため、ネルガに一番なついている。
・優先順位はネルガ>所長>自分>同僚>その他
都市化け『明かりをつけなくてよかったな』
 一定の暗さの場所で変異可能。変異後、範囲内の一定数値以上の明かりをつけた生物を問答無用で切り殺す。「明かり」の類であれば何でもいいため、携帯や懐中電灯、閃光弾なども含まれる。

葛西(かさい) 安仁(あんじん)(怪人アンサー→かいじんあんさ→かさいあんじん)
・男。
・所長。
・夏田の保護者。
都市化け『怪人アンサー』
 携帯10台と、自分を含めない人間10人を集めて儀式を行う事で9人までの質問に答えることができる。しかし残りの1人は無理難題を投げつけられてほぼ死ぬと言っていい。また、質問をするのに時間がかかった場合も携帯から出て来た手に殺される。
 変異時は脳だけの状態になるので非常に無防備。かつ負担が大きい。連続使用厳禁。
 儀式中に憑依状態を解除すると、自らが死ぬ。

九軒(くけん) 智佐直(ちさなお)(口裂け女→くちさけおんな→くけんちさなお)
・男。
・とある犯罪組織のTOP。
・能力のおかげで調子に乗っている。
・能力で女になってしまうことに関しては複雑な気持ち。
都市化け『口裂け女』
 自らを『口裂け女』にする。性別は女になり、口が裂ける。武器として鎌が現れ、身体能力も向上。
 しかし「ポマード」が苦手になったり、べっこう飴が好物になる。


こんな感じです。
……最近は時間ができてるので徐々に他のも書いていきたいなぁ。

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