金髪さんの居ない銀英伝   作:ドロップ&キック

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サブタイ、脳筋の誤字に非ず。




第011話:”ソラを舞う猛禽”

 

 

 

アスターテ星域、第2艦隊周辺

 

 

 

畜生(ダム)っ! 男にケツを追い掛け回されても嬉しくもなんともねえっ!! 俺は()()()の趣味はねぇよ!!」

 

同盟の撃墜王、どちらかといえば女のケツを追いかけたいタチのオリビエ・ポプラン()()は、あまりといえばあまりの状況……比喩ではなく雲霞の群れのごとく押し寄せてくる帝国の雷撃艇/戦闘艇(ワルキューレ)混成群に呪詛の言葉を吐きつける。

言うまでもないが追い掛け回されてるのは物理的にではなく……いや、物理的は物理的にだが、リアルケツを帝国軍人に掘られそうになってるのではなく、愛機のスパルタニアンを2機のワルキューレに食いつかれ、追尾されていたのだった。

 

「どっちを向いても敵だらけじゃねぇかっ!!」

 

 

 

『帝国がいつのまに、これだけの機動兵器の集中運用能力を持ったんだか……正直、驚きだな』

 

通信機越しに聞こえてくる相方、イワン・コーネフの窮地においてもなおクールさを失わない声が妙に恨めしかった。

だが確かに言われたとおりだ。

スパルタニアンを半格納式(半露天繋留式)に100機搭載するスパルタニアン母艦、”ラザルス級宇宙空母”に代表されるように本来、戦闘艇の集中運用はむしろ自由惑星同盟軍のお家芸だった。

これまで帝国軍は宇宙艇専用の母艦を持っておらず、戦闘艇の集中運用に関しては同盟の後塵を拝していたはずだ。

 

(どうやら帝国のポテトヘッド共も専用空母を建造し始めたってことか……)

 

第六次イゼルローン攻防戦において、ヴィルヘルミナ級大型戦艦や標準戦艦を改装されたと思われる空母が試験的に運用されていたという情報はあったが……

 

(この様子じゃ大量建造された上に集中運用されてるって考えたほうが妥当だな)

 

とはいえ同盟も負けてないはずだ。

ここ10年くらいはフェザーンが妙に気前良く戦費を貸し付けてくれてる(戦時国債を購入している)せいで、ラザルス級宇宙空母の大量建造はアイアース級旗艦型戦艦同様に進んでるし、噂じゃ空母のエンジンを流用した次世代大型戦艦の開発も進んでるらしい。

 

だが、残念なことに明日登場する兵器に今日の戦場を変える力はない。

それに、

 

(空母が沈む前に艦隊直援艇全機発進命令を出した奴には感謝だな……)

 

何も悪いことばかりじゃない。広域索敵に艇数を割かれたのは痛いが、そのおかげで敵艦隊を手早く発見でき、敵大編隊の接近を察知することができた。

誰の判断だかポプランには知れないが、すばやく「全てのスパルタニアンは発進せよ! 飛べる機体は1艇たりとも残すな!」と命じたおかげで、飛べないまま艦と運命を共にするパイロットはほとんどいないはずだった。

無論、数の差はいかんともしがたく、しかも敵は小憎らしくも”二艇分隊(ロッテ)”を最小戦闘単位とし、僚艇をフォローしながら攻めて来る。

押され気味ではあるが、可能な限り乱戦に持ち込みどうにか対処はしているが……

 

「こうなりゃいっそ勲章と出世のタネが向こうから飛んでくるって思うしかないか!」

 

『違いない……!』

 

 

 

しかしポプランはふと気づく。

 

(おかしい……)

 

「どうして雷撃艇が一つもいねぇんだ……?」

 

大宇宙(おおぞら)を舞う荒鷲(アドラー)達の血生臭い戦いは、まだ終わる気配すら見せてなかった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

第2艦隊旗艦”パトロクロス”

 

 

 

「一体、何をやってるんだ敵の戦闘艇は……なぜスパルタニアンと空母ばかりを狙う……」

 

また1隻、困惑した表情をするパエッタ。

無理もない。彼はどちらかといえば砲戦屋で航空戦は門外漢だ。

 

「”被害極小”ですよ」

 

「被害極小?」

 

疑問を隠そうともしないパエッタに頷き、

 

「敵はこちらの防空能力を根こそぎ奪い取ろうとしています。個艦搭載火器だけでの防空能力は、同盟/帝国を問わずさほど高いわけじゃありませんから」

 

第二次世界大戦の頃から、艦隊最強の防空兵力は空母艦上機だった。イージス艦の登場などにより少しは趨勢は変わったが、宇宙時代に入り再び防空能力は航空機……いや、搭載戦闘艇に依存するようになっていた。

それにはいくつかの理由があるが、帝国も同盟も宇宙艦隊戦の花形は密集陣形からの艦隊砲撃戦であり、軍艦もそれに特化した形態へと進化していったことも原因だろう。

軍艦は本質的に砲撃戦に勝利するために建造されるものであり、こと艦隊戦においては主力ではなく()()()な兵器に過ぎない小型戦闘艇へのリソースを割く位なら、より対艦砲撃に特化したほうがコストパフォーマンスが良いと一般に考えられていた。

 

また、慢性的な艦船の数的劣勢に悩まされていた同盟ならともかく、帝国はこれまで小型戦闘艇を大規模に、そして有機的な運用をしてくることはなかった。

それはスパルタニアンとワルキューレの設計思想にも出ている。

スパルタニアンは攻撃力に重きを置いていて、敵艦に肉薄して撃破することを念頭に置いて設計されている。対してワルキューレは横軸/縦軸共に旋回する武装を兼ねたスラスターユニットに代表されるように運動性やトリッキーな動きを追求している。

ワルキューレは、どちらかといえば対艦戦よりもスパルタニアン・キラーとしての役割を期待されていると言っていい。

 

「しかし、空母やスパルタニアンをどれほど落としたとしても、艦隊戦では決定的な役割にはならんのではないかね?」

 

確かにパエッタの言うことにも一理ある。()()()()()()()()()だが。

 

「だからあるのでしょう」

 

「ワイドボーン()()、一体何があるというのか?」

 

正直に言えばワイドボーンは既に諦めの境地に入っていた。いわゆる『駄目だコイツ。早く何とかしないと』の心境である。

彼は嘆息したい気持ちを押さえつけ、

 

「スパルタニアンを落とすだけには飽き足らず、母艦を潰して航空兵力を根元から継戦能力まで奪わなくてはならない理由が、です」

 

その時、

 

「天頂方向より敵雷撃艇部隊、来ますっ!!」

 

オペレーターの悲鳴のような声がパトロクロスの艦橋に響き渡った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




銀英伝の諸星あたる、華麗に登場♪(中の人つながり)


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