金髪さんの居ない銀英伝   作:ドロップ&キック

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やっぱ敵やライバルが弱いと盛り上がらないし(えっ?


第015話:”ルアー・フィッシング”

 

 

 

艦隊配置概略図

 

 

           2

     ○ □ 1☆ →    ←第2艦隊

           3

 

☆→ヤン直轄艦隊、○→メルカッツ航空分艦隊、□→ファーレンハイト高速分艦隊、1→シュターデン分艦隊、2→フォーゲル分艦隊、3→エルラッハ分艦隊

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

第2艦隊旗艦”パトロクロス”

 

 

 

「ラップ、敵主力の左右……なんか動きが悪くないか?」

 

アウトレンジの航空戦が終われば次は間合いを詰めて砲撃戦、それは定石(セオリー)通りといえばそれまでなのだが、ワイドボーンの目には教本に載せたくなるぐらい隙無く陣形を整え前進してくる中央に比べ、どうにも左右が出遅れてる感じがしていた。

ぶっちゃけてしまえば、かなり連携に難があるようだ。

 

「ああ。待て……右の分艦隊には戦艦”バッツマン”が、左には”ハイデンハイム”が識別できた」

 

「ん? 聞いたことのない艦名だな?」

 

「データベースによれば、フォーゲル中将とエルラッハ少将の乗艦らしいな」

 

「誰だそいつら?」

 

「門閥貴族の後ろ盾で将官になれた、いわゆる”()()()()将軍”のようだ。フェザーンからのデータにもうちのデータにも、階級に見合った戦功は記載されては居ないよ。その分、貴族達との交友関係が記載されているが」

 

ラップの言葉を聞くなりワイドボーンは心底呆れた顔で、

 

「ヲイヲイ……なんだってヴェンリーの野郎はそんないかにも使えなさそうな貴族の腰巾着連れてきたんだ? あいつの手下か?」

 

「いや。ヴェンリー子爵家は独立系だ。代々、意図的に門閥化してない。ローエングラム伯まで継いだ今でも門閥化はしてない筈だ。フォーゲル中将はブラウンシュバイク閥で、エルラッハ少将はリッテンハイム閥らしい。フェザーンからの情報だから、こと貴族に関することは確度は高いと思うぞ?」

 

「なんだ? 二大門閥からの援軍か?」

 

だがラップは首を横に振り、

 

「援軍のつもりなら、もっとまともな人材を出すさ。おそらくは貴族なりの政治的理由じゃないかな?」

 

「貴族の政治?」

 

「ああ。おそらくローエングラム伯の勝利やこれ以上の英達を望まぬ輩が居る……そういうことだと思う。おそらくフェザーンに情報を流したのもその勢力だ。じゃなければ正確()()()遠征艦隊データの説明がつかないさ。フェザーンの情報収集能力がどれほど高くても限度があるからさ」

 

するとワイドボーンは面白そうな顔をして、

 

「貴族サマには下々の俺らにはわからない高貴さゆえのお悩みがあるってことか。ハハッ、ザマァみろだ」

 

そして不意に真面目な顔をすると、

 

「おいラップ……引っ掛けやすそうなのはどっちだ?」

 

「軍服の中身が大差ないなら、当然階級が低いほうじゃないか?」

 

「よっしゃ!」

 

ワイドボーンはパンと拳と掌を合わせ、

 

「全艦に告ぐ! 艦隊は紡錘陣形を維持したまま()()一杯! 目標、敵艦隊右側面分艦隊! ただし艦隊速力は全速の()()()を維持!!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

パトロクロスのダメージは思ったよりはひどくなく、まだまだ航行だけでなく戦闘にも指揮にも耐えられそうだ。

戦闘艇群の空襲は斧で断ち切ったように唐突に終わり、もうすぐ全面艦隊戦が始まろうとしていた。

 

艦隊の状況は、正直良くはない。

敵の艇群は旗艦だけでなく分艦隊旗艦や戦隊指揮艦を集中的に狙ったらしく、艦隊の統制は著しく難しくはなっていた。

だが……

 

(一丸となって突っ込むことぐらいは出来る……!!)

 

そのための”C-5”プログラム……旗艦を軸に艦隊運動を連動させるアプリだ。

柔軟で迅速な陣形変化は難しくなるが、反面、プリセットされた特定の陣形での運用を半ば半自動化し効率よく行える。

そもそもこれは新設艦隊が艦隊機動の基礎を学習する段階で使われる軍事教練プログラムで、本来なら実戦……しかも正規艦隊で使われるような代物ではない。

 

だが、だからこそこのような……艦隊の指揮命令系統がズタズタにされたような状況では役に立つ。

如何にもエリート軍人を絵に書いたような風貌と言動のワイドボーンだが、その思想も発想も決して硬直などしていない。

もっとも硬直などしていたら、ラップはともかくアッテンボローなどとはつきあえないだろうが。

 

「ラップ、釣れると思うか?」

 

ワイドボーンが何をやろうとしているのかとっくに理解していたラップは頷き、

 

「頭のいい大物は狙えないかもしれんが、雑魚は釣れる……その程度に魅力的な疑似餌(ルアー)だと思うぞ? 我々は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ルアー=疑似餌

餌かと思って食いつくとえらいことになるので注意。



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