金髪さんの居ない銀英伝   作:ドロップ&キック

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やや短めですが……


第046話:”演説”

 

 

 

その日……

ウルリッヒ・ケスラーの声が、全チャンネルを通じてカストロプ全域にフルボリュームで響き渡った……

 

 

 

『初めましてカストロプの諸君。私の名はウルリッヒ・ケスラー少将。ローエングラム伯爵元帥府に名を連ねる一人であり、大逆賊マクシミリアン・カストロプの討伐を任されたものだ』

 

ケスラーは、あえて()()()も爵位も切り捨て、平民の名を呼ぶように告げる。

無論、これも立派に挑発だ。

 

『カストロプにはエリザベート・イリヤ・()()()・カストロプが率いる強力な守備艦隊があり、また巨大な自動攻撃衛星群がある。二度に渡り貴族艦隊を退け、諸君らもさぞかし安心してるに違いない……』

 

イリヤに関してのみケスラーは()()()フォンを付ける。

この叛乱の首謀者……裁かれるべきは誰であるかを明確化するために。

 

そしてケスラーは腕を振り上げ、

 

『だが、見るがいい!!』

 

ケスラーの腕の動きに合わせるように、画像が投影できる全ての受信機(レシーバー)に映し出されたのは、核パルスエンジンやパサート・ラムジェットが取り付けられた巨大な岩塊……同時に映る工作艦との対比を考えるなら最長部で50kmはありそうな小惑星だった。

 

『諸君らは二度の貴族艦隊の戦いで、艦隊や攻撃衛星の威力を晒してしまった。それ故に私は断言しよう! 諸君らの攻撃能力を逆算し選ばれたこの小惑星は砕けないと!!』

 

ケスラーは言霊使いだろうか?

言葉巧みにカストロプの選択肢を狭め、思考を絞ってゆく……

 

 

 

『ゲームをしようではないか』

 

ケスラーは楽しげに微笑み、カストロプ本星とその周辺の模式図を出し、

 

()()()()は、これより加速する小惑星……いや、小惑星では味気ないな? ”アクシズ”と命名しよう。アクシズに随伴し、攻撃衛星の射程ぎりぎりまで護衛する。そして、』

 

ケスラーは星の周囲にあるラインを浮かび上がらせ、

 

『このラインが、”阻止限界線”だ。これを過ぎればいかなる手段を用いても、アクシズの落下を阻止できなくなる。十分に加速したアクシズがカストロプに落ちればどうなるか……想像できない者はいまい?』

 

そして本来の意図を隠す。

 

『さあ! 互いの生存をかけたゲームを始めようではないか!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

「これじゃあ本気で道化だよ」

 

と苦笑するケスラーに、

 

『いえいえ、立派なものでしたよ? 間違いなくこれで、アクシズこそが”カストロプ攻略の切り札”と認識したでしょうし』

 

そういつもどおりにこやかなキルヒアイス。

 

「そうでなくては困る。何しろ閣下にお借りした”電子作戦艦”を総動員し、かつてない規模の通信ジャック(乗っ取り)をしたんだ。これで騙せなかったら、道化以前に笑いものだよ」

 

本邦初公開のピカピカの秘密兵器というわけではないが……ヴェンリー造船の隠れた名品と言われる電子作戦艦群をケスラー達は定数以上、カストロプに持ち込んでいた。

 

一口に電子作戦といっても、ECM/ECCM、ESMなどのアクティブ・タイプと傍受/計測/解析などのパッシブ・タイプの二つに別れ、さらに細かく分類できるが……

 

ヴェンリー造船謹製のそれらの特徴は、『既存の船体(ハル)を可能な限り流用して作る』であった。

装甲強襲揚陸艦の項でもちらりと触れたが……この数種の電子作戦艦は、輸送艦/戦艦/巡航艦/駆逐艦をベースに作られており、詳細に観測しない限り外観からそれと見破るのは難しい。

 

しかも戦艦など戦闘艦ベースのそれは、最低限の自衛用武装は残されてる(例えば戦艦の砲門数6→2)うえに防御スクリーンや防護フィールドは逆に強化され、サヴァイヴィリティ(生存性)は逆に向上してることもあり、前線を含め戦場全域での使用が考慮されていた。

つまり撃ち合いには向かないが、守りながら逃げ帰れる可能性は高いのだ。

 

そして今回のプロパガンダ放送でではこれらの艦が、雷撃艇ベースの電子作戦艇ともども活躍したのだ。

ヤン・ヴェンリー・フォン・ローエングラムという男、情報を司るユニットには殊更注力する傾向があるようだ。

 

「キルヒアイス、そろそろ征くかね?」

 

『ええ。お世話になりました』

 

そうキルヒアイスは敬礼と共に返した。

彼の艦隊は、これより”アルテミスの首飾り”破壊作戦、”プロイエクト・ゲヘナ(爆炎計画)”実行の為に別行動をとる必要があった。

幸いにして監視ポイントを破壊するなどの敵哨戒網の物理的な遮断と艦艇による電子作戦群の電子攻撃で、よほど運が悪くなければ別働隊は感知されずに行動できるだろう。

 

『それにしてもあんなバルーン(ハリボテ)で、敵の目を誤魔化せるのでしょうか?』

 

小惑星”アクシズ”表面には、軍用艦型のダミーバルーン発生装置が無数に取り付けられていた。

とはいえ、ミュラーはその効果について少々懐疑的のようだ。

 

(良い傾向だな……)

 

下手に新装備を過信するより、慎重なほうがいざというとき困らないことをケスラーは良く知っていた。

だからこそ、彼は情報士官としてキャリアを積み上げてきた経験を提示する。

 

「心配はいらない。宇宙軍が海軍と呼ばれていた時代から、船の数が合っていれば安心するものさ。仮に熱エネルギー輻射から真偽を探ろうとする者がいるとしても、アクシズに取り付けた推進器の熱量は膨大だ。例えバルーンが本物であっても、船の熱量など簡単にまぎれてしまうものだ。それにアクシズ前面に展開する卿の艦隊が、いい熱源的雑音になってくれるはずだ」

 

『なるほど……』

 

そう、アクシズ進行においては、敵艦隊を迎え撃つ前衛艦隊はミュラーが率いることになっていた。

そしてケスラーとキルヒアイスはアクシズ至近に展開し、最終防衛ラインを担当する()である。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

指向性ゼッフル粒子発生装置を搭載した工作艦を虎の子とするキルヒアイス艦隊を見送ってから十数時間後……

 

「では、我々も出航するとしよう」

 

ケスラーの静かな号令と共にアクシズのエンジンに火が入り、ゆっくりとその巨体を前進させてゆく……

その姿は、まるで小魚の群れを従え海を遊弋する鯨……そう喩えるのは少々ロマンチックすぎるだろうか?

いや、むしろもっと殺伐とした、あるいは空虚な光景に喩えるべきだろう。

 

カストロプの目線から見れば、この全ては欺瞞で塗り固められた光景なのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっぱり中の人的にはやっておきたかった!(挨拶

でも、これも戦略的情報操作なわけなので、やはりケスラーの得意分野かも?


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