金髪さんの居ない銀英伝   作:ドロップ&キック

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第049話:”謀ったなぁぁぁーーーっ!!”

 

 

 

「天頂方向に熱源多数!! 敵艦隊別働隊と思われます!!」

 

オペレーターの悲鳴の声が響き渡る。

 

「識別は……敵の”赤い旗艦”ですっ!!」

 

「なんだとっ!?」

 

「砲撃、来ますっ!!」

 

「謀ったな!! ウルリッヒ・ケスラァァァーーー!!」

 

刹那、イリヤ艦隊旗艦”ベルセルク”が巨大な衝撃に襲われた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤いツノ付き(バルバロッサ)”は、一体何処から艦隊を率いて現れたのか?

 

無論、彼の盟主の”前世(かつて)の二つ名”じゃあるまいし、怪しげな魔術を使ったわけではない。

答えは単純、『アクシズがアステロイドベルトから出立したとき、既にケスラーと彼の率いる1000隻あまりの小艦隊は別行動し、イリヤ艦隊の索敵圏外から迂回していた』だ。

そう、イリヤがアクシズの表層に控えるバルバロッサを見たが、あれは最初から工作部隊が取り付けたダミーバルーンだった。

 

全てはこの瞬間のための”謀”(はかりごと)だった。

プロパガンダを流し、小惑星にアクシズといかにも意味ありげな名前をつけこれ見よがしに発進させることでイリヤをおびき出し、ミュラーに目を向けさせあたかも自分がアクシズで構えてるように見せかけた。

 

通信は、超光速通信を使いいくつもの中継艦(プレクシー)を通し、アクシズから発信されてるように偽装した。

カストロプの哨戒網を徹底的に潰したのも、ミュラーがイリヤ艦隊に執拗なまでに電子戦を仕掛けたのも、全てはこの”決定的な瞬間”まで、ケスラーの存在を隠すためだったのだ。

 

「全艦、砲撃戦用意! 優先攻撃目標、イリヤ旗艦周辺の200隻! ただちに排除せよ!」

 

ケスラーが率いているのは、最新のネルトリンゲン級改型標準戦艦と高速戦艦で編成された200隻の戦艦と高速戦用にチューニングされた800隻の巡航艦/駆逐艦だった。

 

速度を最優先とした編成であり、まさに一撃離脱に特化した艦隊だ。

ケスラーはイリヤ旗艦の周辺に展開する障害となる200隻に対し、自ら艦隊から敵艦1隻に対し戦艦1隻に巡航艦と駆逐艦を合わせた4隻を加えた5隻を割り振るように指示を出し、オペレーターに入力されたクラスター・フラクタル・モデリング・システムが最適解を見つけ出した。

そして、

 

「ファイエル!」

 

ケスラーの号令一下、イリヤ艦隊に逆落としをかける1000隻が一斉に火を噴いた!

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

麾下艦隊に障害の排除を命じたケスラーの狙ったのは、イリヤが座乗する”ベルセルク”一点のみ!!

 

ブリュンヒルトの下位互換/ダウングレード/ローコスト版と思われがちなバルバロッサだが、実は『実戦テストに投入可能な新世代技術実証艦』、言うならば”宇宙を駆ける実験室”だったブリュンヒルトに比べ設計年代が新しく、また最初から軍艦として設計されてる分、より軍艦としては洗練されていたり秀逸な部分がある。

その一つが艦首主砲群、”六連装マルチモード中性子(ニュートロン)ビーム・ランチャー”だ。

 

ブリュンヒルトの武装は、従来と同じ中性子ビーム砲を分散配置し、これに画期的な理論値水平360度/垂直180度射界をもつ”ポール・マウント砲口”を採用することで、船体随所に分散配置されたビーム砲の火線を自在に集中させることに成功していた。

これはこれで艦の姿勢に依存せず中性子ビームを自在に指向できる優秀な装備で、実はバルバロッサにも正面から見るとX状に4門ポール・マウントビーム砲が副砲として側面に装備している。

 

だが、六連装ビームランチャーはそれとは開発ベクトルの異なる装備だ。

さて、この装備の説明前に帝国/同盟を問わず艦首に集中装備されることが多い、固定砲身の従来型中性子ビーム砲について少し説明しておこう。

 

正面に砲口を向けて固定装備されることが一般的なビーム砲群だが、本当に正面しか撃てないのか?と問われれば、別にそんなことはない。

実は砲口部に局所斥力場を発生させ、重力レンズ理論の応用で不可視の力場砲身を形成し中性子ビームを偏向できるようになっている。

物や配置場所によりけりだが……基本的には大体上下左右15~30度の円錐状の射角を持っていることが普通だ。

感覚的には、正面だけでなく斜め上下左右に撃てると考えていい。

 

ではバルバロッサに装備されてるマルチモード・ビーム・ランチャーは、何がどう違うのかといえば……

まず根本的な考え方は「六門一組の装備」、言うなればバルカン砲やガトリング・ガンに近い発想の装備なのだ。

そしてマルチモードの名のとおり、六連装の砲門からのいくつもの砲撃パターンを持っている。

 

一番標準的なのは”連射”モード。1番砲身から短い間隔で1→2→3と次々に発砲するモードで砲身冷却もしやすく各コンポーネントの負荷が小さいために持続射撃能力が高い。

次に”斉射”モード。六門を同時に発砲するモードだが、これは六門を単一目標に向けて射撃するパターンに加え、巡航艦や駆逐艦など自艦より防御力が低い目標の掃討を目的とした”二目標同時攻撃(3門1組で1目標を攻撃)”、一門ずつ別の標的を狙う”六目標同時攻撃”などが可能だった。

 

最後に最大の特徴であるのが”同調収束射撃”モード。六門の中性子ビーム砲を完全同調射撃で発砲、()()()斥力場砲身で収束し、あたかも「六門分のエネルギーを一門の大型ビーム砲のように撃つ」という対重防御/長射程の高出力射撃モードだ。ただ、連射モードとは逆に砲身冷却やコンポーネントへの負荷の問題で連射は利かない。

アースグリムのように”肉を切らせて骨を断つ”ような自壊覚悟の超高出力砲撃システムでこそない(無論、威力もあそこまでではない)が、やはり多用すべきものではないだろう。

 

余談ながら、このようなマルチモード射撃が可能となったのは砲口群の上にある艦尖端部、ノーズ・コーンに仕込まれた最新鋭システム”連続可変斥力場砲身発生装置”、通称”ラムダ・マズル”があるからなのだが……これの搭載により建造コストが上昇したため、結局はこのラムダ・マズルを搭載するより、必要なら大型ビーム砲を積んだほうがコスト・パフォーマンスが良いと言う結論に至ったようだ。

故にトリスタン以降の船には、この装置は搭載されてないようだ。

 

さて、この高価でユニークな砲撃システムでケスラーが一体何を撃ち抜いたのかと言えば……

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「くっ……」

 

確かに艦全体が揺さぶれるような強烈な衝撃だったが、なんとか提督席から床へ投げ出されずに済んだイリヤは歯を食いしばりながら現状把握に努める。

 

幸い”ベルセルク”は、元同盟艦。やたらと殺傷能力の高い()は配置されていない。

同盟艦も立て付けが悪いのか、それとも元々安普請なのか構造材が崩れてくる場合もあるが……とりあえず、幸いにして今回はそのようなことはなかった。

あちこちアラートが鳴り響いているが……だが、少なくともブリッジ内で致命的な爆発や火災は起きていない。

ただ、運悪く床に投げ出されて体を打ちつけうめき声を上げてるものは居る。

 

「衛生兵を至急ブリッジへ! 怪我人は下手に動かしたり破片を抜こうとするな! 一気に出血し死期が早まる場合がある! 任務を続行できるものは被害報告をせよっ!!」

 

頭を軽く振り叫ぶ。

その凛とした姿は、なるほど確かにカリスマと呼べるのかもしれない。

 

「イリヤ様、た、大変です! 亜空間スタビライザーが……」

 

手元にダメコンの立体映像を起動してみると、エンジン・ブロックから後方へ100m以上も伸びるテールフィン、”亜空間スタビライザー”がまるで巨大なビーム溶接機を当てられたように根元付近から溶断されていた。

これがエンジン・ブロック本体に当たれば機関爆発は免れないだろうし、ハル・ブロックに直撃していたら、今頃ブリッジ要員は全滅の憂き目を見ていたかもしれない……

 

「運がよかったとでも……まさか!?」

 

イリヤの背筋に冷たいものが走った……

 

()()()スタビライザーを狙ったのか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




中の人と戦艦の色的に強襲が似合いそう(挨拶

なんとなくバルバロッサを強化してみました(^^
いや、原作だとスペックよくわからなかったのもありますが、赤くて角付き、優れたコンピュータシステムとくれば、次は強力なビーム砲かなと。

戦艦は簡単に乗り換え出来ないと思うので、ちょっとずつ地味にバージョンアップしてこうとか思ってます。



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