その存在は実はチラチラと仄めかされてはいたんですが(^^
「ば、バカな……」
自らの宮殿の大広間で愕然とする若きカストロプ……
この男とて無能ではない。故に何が起こったか即時に理解したのだ。
どのような手段を使ったのかは理解できないが、ただの一撃で自分が持つ最大兵力が無効化された……それだけは疑いようもなかった。
『おや? 御自慢の衛星は強火で煮込まれ”
画面の向こう側でいけしゃあしゃあと皮肉をかます赤毛の若い男をカストロプは睨みつける。
どんな罵倒をくれてやろうかと思案するが、
『残念ながら
急激な展開についていけず、思考停止するカストロプを更に追い込むようにキルヒアイスは、彼に似合わぬ酷薄な微笑を浮かべて告げる。
『いかがなさいますか?』
デザートが何を意味するのか?
惑星に落ちつつある
だが、マクシミリアン・カストロプという男は、貴族としても人間としても甘すぎた。
例えば、である。
赤毛の青年と話している間に、いつもは見下している下々の者達がこっそりと武器を用意していることに気づかないあたりが……
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さてさて、再びシーンは元同盟艦の”ニーズヘッグ”のブリッジに戻る。
「ふぅ……いつ見てもいいものだ」
そうアドミラルシートでぼそりとつぶやくのは執事服を着こなす程度には慣れてしまったアーサー・リンチ、ヴェンリー警備保障から抽出、今回のカストロプ攻略艦隊に「書類上、レンタルされた形」になる指向性ゼッフル粒子発生装置を搭載した50隻の工作艦を含む特別艦隊を率いる提督だ。
実は”発破”の起爆は、彼的には五指に入るお気に入りの”宇宙風景”だった。
流石に大型の軍事衛星群なんてものを吹き飛ばしたのは初めてだが、おそらく彼は帝国内で最も指向性ゼッフル粒子の扱いに長けた一人ではないのだろうか?
なんせ通常業務で、デブリの除去などで使っているのだから。
(やはり爆発はいい……刹那の輝きは、美しくも鮮烈だ。まるで宇宙に咲く大輪の花火のようではないか)
更に今回はヴェンリー家保有の宇宙発破搭載工作艦の半数を投じた過去最大規模の”
宇宙を彩る爆炎に魅入られた者としては、心に来るものがあるのだろう。
一般人から見れば少々危険に感じる小さな耽溺を味わっていると、
『リンチ、そろそろ星に降りてかまわんか?』
空間投影型の立体スクリーンに映し出されたのは、細身ながら筋肉質な長身と銀灰色の髪が特徴の同僚、
「ああ、待たせたな。”
☆☆☆
ヘルマン・フォン・リューネブルク
かつて同盟最強の陸戦隊と名高い”
そして亡命直後にヤンにスカウトされ、まるで濁流に流されるようにあれよあれよと言う間にヴェンリー警備保障へと就職。
その持ち前の陸戦スキルの高さと指揮能力を存分に発揮、今やヴェンリー家お抱え陸戦(白兵戦)兵力では最強、おそらく同数/同条件で戦うなら帝国全体を見回してもオフレッサー率いる”
プロテクト・ギアを思わせる新型軽量装甲服をなぜか小粋と表現したくなるように着こなし、精悍と言う言葉を擬人化したようなこの男にはまさに打ってつけの仕事だろう。
今更だが、ヴェンリー家の三大
そして今回の作戦でオフレッサーと装甲擲弾兵団ではなく、リューネブルク率いるアイゼン・リッターが参加しているのは相応の理由があった。
一つはまず”指揮権”の問題。
今回の遠征の最先任は少将のケスラーだ。対して
ならオフレッサーじゃなくて配下だけを出せばよいと思うかもしれないが、大好物の鉄火場を前に飲み友達に「待て」を言うほどヤンは無慈悲ではない。
もう一つは……というか、どちらかと言えばこっちが本当の理由なのだが、”部隊の性質”の問題だ。
百戦錬磨の白兵戦エキスパート部隊である装甲擲弾兵団は確かに強力無比な戦力だが、得意とするのは制圧戦や蹂躙戦等のパワープレイ、まっとうな正面切った戦いだ。
艦船で移動し、惑星や敵拠点への強襲と制圧などを行うことを考えれば、その性質は正規戦がメインの”海兵隊”に近い。
一方、特殊作戦任務群はその名のとおり特殊な作戦、つまりは非正規戦に分類される暗殺や破壊工作、逆ベクトルを持つ要人警護に人質奪還などもその任務に含まれる、正しく”特殊部隊”だ。
現実のグリーンベレーやデルタフォースをイメージしてもらえればいいかもしれない。
ついでに言えば、ヤンの軍務以外で使う拠点や住居に張り付いてる警備員も実はこの部隊の者達だ。
例えば、第025話において過去にミッターマイヤーを救出して見せたのも当時のアイゼン・リッターだったし、彼らにとってそれは初めての救出作戦ではなかった。
今回の作戦では、マリーンドルフ伯の
『待ったとも。久しぶりの
だが、既に社の重役用サロンで何度も飲み明かしてる友人でもあるリンチは、実はリューネブルクが見た目とは裏腹に思いのほか子供っぽい部分があることを知っていた。
例えば出会った頃にあった高い名誉欲は、実は
そういう分析が出来るのも、年齢においてもヴェンリー家とのかかわりに関しても先輩であるからだろうか?
「それで本音は?」
『閣下にオモチャを与えられ、使ってみたいと思うのは貴殿だけではないということだ』
なるほどと納得いく返答だった。
リンチの口元に自然と笑みが浮かぶと、
『リンチ、何か?』
「いや、お前さんは相変わらず”閣下”と呼ぶのだなと思ってな」
『うむ。あのお方は爵位や階級で呼ばれるのを好んではいないからな。かといって総帥や会長と呼ぶのはどうもしっくりこない』
リューネブルクのヤンへの忠誠心がずっと高いと思っているリンチ(だが他者から見れば方向性が違うだけでいい勝負らしいが)は苦笑しながら、
「なるほど。だが、リューネブルクよ……」
『ん?』
「もしかしたら、もはやお前さんが望むような状況は、あの星にはないかもしれんぞ?」
キルヒアイスが実にいい性格になってしまった(挨拶
実はこのシリーズのキルヒアイス、紅茶だけでなく主夫技能も高そうです(笑
そしてついに出てきたヴェンリー家お抱え三大
どうやら帝国に逆亡命してきた早々、ヤンに一本釣りされたみたいですよ?
社会的地位も高収入もあるので、余裕があるせいか原作より大分性格が丸いみたいです。