金髪さんの居ない銀英伝   作:ドロップ&キック

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前回までのあらすじ

帝国爺様連合:「喝っ! さっさと出世して元帥にならんか!」

門閥若手:「ヤン、邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔(以下エンドレス)」

赤毛:「先生なら天下を取れる!」

寵姫妹:「禿同」

非常勤:「いや、そんな気ないんだけど……」


第006話:”アスターテの舞台裏・同盟篇”

 

 

 

舞台は再びアスターテ……

 

 

 

自由惑星同盟軍、第2艦隊旗艦”パトロクロス”

 

 

 

「”ダゴン会戦、再び”か……なあラップ、やっこさんは乗ってくれると思うか?」

 

そう士官学校で主席を争った頃からのライバルであり無二の親友に問いかけたのはマルコム・ワイドボーンだった。

 

「どうだろうね。ヴェンリー提督、いや今はローエングラム提督かな?の恐ろしさは俺たちも身に染みてる」

 

「だな。第四次ティアマトの時には、頭押さえ込まれていきなり挨拶代わりのレーザー水爆を撃ち込まれたっけか……ガスジャイアントに」

 

その時のことを思い出しぶるりと身を震わせるワイドボーン。

実際、あの時は九死に一生……実にきわどいタイミングで生還した。

 

「それだけじゃない。艦隊戦では精細さを欠いたって言われてるけど、常にミュッケンベルガー艦隊をフォローできる位置に居座られたせいで迂回戦術がとれなかったよ」

 

「それを言うなら大惨事……いや、第三次ティアマトの時もそうか。第11艦隊を包囲殲滅したのはミュッケンベルガーだったが、真っ先に踊り疲れたホーランドをエピメテウスごと()ったのはヴェンリーだったな……」

 

「そして第11艦隊の救援に向かったビュコック提督とウランフ提督を邪魔したのも彼とメルカッツ提督だったよ。ローエングラム提督はメルカッツ提督にあらかじめホーランド提督を討った後のことを考えて艦隊を迂回させていた」

 

「そして自分はホーランドを同盟史上最年少の元帥にした後、さっさと狩場の番人に早代わりってか? 嫌なヤローだ」

 

吐き捨てるようなワイドボーンだったが、それはヤンに対する恐怖の裏返しなのかもしれない。

 

「ワイドボーン、問題なのはローエングラム提督の底知れない恐ろしさがまだ軍全体にいきわたってないことだ。”帝国の黒魔術師”だなんて忌み嫌ってる連中はまだ救いのある方で、パエッタ提督……いや、ロボス元帥一派は未だ”妹の七光り”だなんて呼んでる」

 

難しい顔をするラップだったが、

 

「要するに『帝国貴族のボンボンが自分たちより優秀』って苦い現実を認められないのさ。大体、地位も名誉もあり三十路前に上級大将サマだ。このままいけばミュッケンの後釜は確定だろう。しかも商売で恐ろしく成功してやがる……知ってるか? フェザーンじゃ『ヴェンリーがフェザーン人だったら毎年シンドバット賞をもっていかれる』なんて冗談があるんだぜ?」

 

「認められないもんか……」

 

「ああ、認められん。自分たちが惨めになるからな。突き詰めてしまえば、『最高の成功者は帝国主義の中にあり。共和制や民主主義の中ではそれより劣る者しか生み出せない』……なんて結論になりかねん」

 

「貴族主義の肯定、か。人はより優れた者に大きな権限を持たせ統率されるべきって」

 

ワイドボーンは頷き、

 

「自由惑星同盟が自らの政治的正しさを証明できるのは、貴族が主張に対して中身は甘やかされて育った傲慢で無能な暗愚揃いだからだ。同盟にとって貴族はそう言うものではなくてはならん。現実はともかく建前的には平等で同じスタートラインに立ち、競い切磋琢磨し家柄や血筋よりも本人の努力と能力で社会的チャンスをつかみ成功する……誰でも成功する機会が与えられてる共和制や民主主義がより上質であるってな」

 

「だがローエングラム伯爵の存在は同盟の主張する政治的、あるいは社会工学的優位性を全否定する……か」

 

「そうだ。地位も名誉も金もあり、代々にわたり民に慕われる()()()領主で戦争も強い……そんな奴が貴族として君臨し、自分達が踏みつけられるなんて我慢ならないだろ?」

 

 

 

きっとこの二人の会話を聞いたらヤンは複雑そうな、あるいは困ったような笑みを浮かべるだろう。ついでに『私はそんな大袈裟な存在じゃないさ』とでも言うだろうか?

 

「だから同盟上層部は是が非でもヴェンリーを殺したい。百歩譲っても捕らえてやっこさんの名誉や地位を地に落としたいのさ。幸いなことに、」

 

ワイドボーンは一度言葉を切ると皮肉げな笑みを浮かべ、

 

「貴族はお家芸の足の引っ張り合いを望んでるらしい。ヴェンリーを妬み疎んでるのは連中も一緒、おそらく情報を知らせてきたフェザーンもだ。だから”ダゴンの再現”なんて状況が生まれた」

 

「だが、そんな簡単な相手か? ローエングラム提督が自分に向けられた悪意に気づかないとは思えないんだけど」

 

「まあ気づいてるだろうな……気づいた上でそれを利用するだろうさ」

 

「ワイドボーン、この場合、もっとも警戒すべきは包囲が完了する前に各個撃破されることじゃないか?」

 

ラップの台詞にワイドボーンは頷き、

 

「パエッタ提督にはそれとなくその可能性を伝えておく。すぐに聞き入れられるとは思えないが、やらんよりはマシだろう」

 

 

 

幸いにして士官学校を主席で卒業し優等生かつ秀才肌の努力家……優秀な軍人としての評価をワイドボーンは勝ち得ていた。ラップも同期で次席であり、病気療養のため一時退役していたため階級こそ低いがその優秀さを疑う者は少数だろう。

むしろラップの階級が低いからこそワイドボーンを部下として支えることができる。

 

軍も”エル・ファシルの英雄()()()”としてプロパガンダとして利用しているため、二人を積極的に組ませていた。

”武に秀でる”ワイドボーンに”智に勝る”ラップ……ゆえにパエッタにとり別の世界線の非常勤参謀よりは受け入れやすいに違いない。

 

だが、それが戦況に決定的な影響を与えるのか未だ未知数だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ワイドボーン、見・参☆

ヤンとアッテンボローのシーン→ワイドボーンとラップのシーン


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