時刻は午後10時を少し回った頃。月夜に照らされビルからビルへ飛び移る姿は無駄な動きは一切なく華麗だと言えよう。
忍の様な身のこなしであっという間に高峰絢香は、常盤台中学女子寮に辿り着く。
それもその筈、絢香の家系は忍を源流とする流派であり、その業は今も連綿と受け継がれていた。
おそらく、絢香の先祖達は草葉の陰で号泣しているに違いないだろう。
「ではでは、早速…と言いたい所だが、なんつうーか、ね」
常盤台中学女子寮はまるで高級マンションを思わせる佇まいをしていて、それこそお嬢様学校なのだと再認識するだけのインパクトがあった。その迫力に少々尻込みしてしまう。
絢香も緊張がないわけではない。誰も成し得なかった前人未踏の領域に足を踏み入れるのだ。背筋がゾクッと冷たくなるのを感じる。
「ま、ビビっても今更しゃーない。なる様にしか物事はならないってね」
気合を入れると寮の裏へと回り込み、壁面に手を伸ばすとロッククライミングの要領でスルスルと登攀していく。傍から見ればスパイダー○ンの様だが流石は忍の末裔と言った所か。
屋根まで登り切ると今度は忍足で下の様子を伺う。
寮の見取図は先日下見に来た時に頭に叩き込んでいる。加えて、難敵となるであろう寮監も本日は私用で不在。生徒達も厳しい規律から解放されてどこか浮かれているに違いない。だからこそ、警戒の薄くなった今日を選んだのだ。
「え~と、確か…ここだここだ」
屋根をつたい窓を覗き見るとそこには制服姿の常盤台生が数人、楽しそうに会話をしている。
ここは寮内のランドリー室。彼女達は、各々の洗濯物が洗い終わるのを待っている所だった。
「YES!」
小さくガッツポーズをし今宵の成果に期待が高鳴る。
「やっぱりお嬢様学校なだけあって中学生と言えども大人びてるし出る所は出てるし……発育がえぇのぉ」
完全にオッサン入ってます。この変態。
「じゃあ、秘密兵器行ってみよー」
絢香は、嬉しそうに呟くと右眼に神経を集中させる。すると、瞳の色が薄い青へと変色していく。彼の右眼は義眼だ。しかし、唯の義眼ではない。最新のコンピュータが搭載されており、サーモグラフィー、赤外線カメラなどの機能を有し、その気になれば衛星にハッキングをかける事も簡単に出来てしまう。
「清掃ロボにハッキング開始……。接続まで3、2、1……コネクト。セキュリティープログラム除去。……内蔵カメラ掌握及びマイク音声掌握…。映像送信開始……受信問題ナシ…」
義眼を使い、寮内に徘徊する掃除ロボの一台にハッキングしてコントロールを奪う。
絢香のコントロール下に置かれた掃除ロボは、命じられるままランドリー室へ。
『コレヨリ、清掃ヲ始メマス!申シ訳アリマセンガ、少シノ間退去ヲオ願イシマス』
掃除ロボはそうアナウンスすると、女生徒達は仕方なく外へと出て行く。
掃除ロボの内蔵カメラを通して周りには誰もいない事を確認して絢香は窓から侵入する。
「ふっふっふ…。俺ってばマジ有能!ではでは、お宝を拝ませて頂くとしますか?」
絢香は洗濯機を開けて中身を物色する。
先程の女生徒が身につけていたであろう青と白のストライプのショーツ。
「頂きます」
純白のショーツ。
「頂くでしょ?これは?」
黒のレースのショーツ、そしてブラ。
「こ、これはけしからん!何てハレンチな!……ので頂きます」
けしからんのは、お前の行動だよね?
「良し!大量大量!」
満足そうに戦利品をバックに回収して直様次の場所へと移動する。おそらく、ランドリー室を出て行った彼女達が戻って来るまで四、五分ってとこだ。戻って来たら流石に異常に気付くだろう。
だが、絢香に焦りは見えない。と言うのもバレるのも計算の内。バレて寮内が騒ぎになればまた更に騒ぎに乗じてゆっくりと物色出来る。火事場泥棒的発想だった。
次に向かったのは、全男子憧れの聖地。脱衣所。
先に言っておくが、脱衣所だからと言ってムフフな展開や描写はないので悪しからず…。
別段、絢香は覗きに行くわけではない。…多分。
絢香のどうでも良い持論で『下着泥棒は下着だけに集中するべきだ』として、仕事の合間に覗きや何だとする奴は二流、三流の泥棒だと豪語する。まぁ、だからと言ってやってる事は犯罪ですし、全くもってカッコ良い事言ってるわけではないですから間に受けず戯言と捉えてくれて構わないです。
暖簾を潜ると脱衣所特有の熱気に包まれる。
この時間は、風呂を利用する生徒がいないのはリサーチ済み。これから起こるであろう騒ぎが起こるまでここで待機する腹なのだ。
「はてさて、後は騒ぎが起きてくれたら一切合切根刮ぎ奪還ですよ~」
すんなり計画通りに事が進むので幾分か余裕が出てきた。今迄成功した者がいないと聞いていただけにもっとキツイものかと考えていたがそうでもなさそうだ。もしかしたら、話に尾ヒレ羽ヒレ付いただけなのか?
等と考えていたら、絢香の視界にとんでもないものが入って来た。
それは脱衣カゴに置かれた着替えとカエルの、確か『ゲコ太』と呼ばれるキャラクターがプリントされたショーツである。
「え?何?まだそんなのを履く娘がいるの?いやいや、ないわー。どれ位ないかと言うと俺が真面な思考を持ち併せる位ないわ~…。……って、そうじゃない!」
ショーツを手に取りながらそこで絢香は我に返る。余りにも色気のないショーツに衝撃を受けて思考が飛んでしまったが、由々しき事態に陥ってる事に他ならなかった。
脱衣カゴに服が有ると言う事は、誰かが浴室を使っているという事。
「いや、まさか…でも…」
下調べではこの時間帯であれば人はいないはず。身を隠すには絶好の場所であるここに人がいる。マズイ。それは非常にマズイ。もしここで見つかってしまっては狭い事もあり逃げ場がない。
ここから出るか?いや、外に出てタイミング悪く騒ぎが起こって誰かと鉢合わせしてしまったら?
次第に状況に雁字搦めにされていく絢香。
すると……。
「ちょっと誰、脱衣所で騒いでいるのは?黒子?」
ガラッと浴室の扉が開き、タオルをその肢体に巻いた姿の少女が出て来た。
「黒子?アンタまさか、また私の下、着を…?」
「や、やぁ!こんばんは!」
整った顔立ちで肩まで届く短めの茶髪をした少女はそこで言葉を失い立ち尽くす。
目の前には、想定していた知人のそれではなく、見ず知らずの、あろう事か不審人物らしき男が自分の下着を手にしているのだから。
「あ、あ…あぁ、わわわ、わた…し、私のパンツ…」
何が起きているのか分からずパニックになりつつも表情は赤面していく。
それとほぼ同時に脱衣所の入口から…。
「お姉様!大変ですの!下着ドロが現れ、ました、の…」
茶髪のツインテールの少女が現れるなり、その光景に唖然とする。
絢香は、というと…。
「俺、オワター!」
絢香はまだ知らないが、浴室から出てきた少女は御坂美琴、後から脱衣所に飛び込んで来たのは白井黒子。美琴は件のレベル5「超能力者」、黒子はレベル4「大能力者」。共に「風紀委員」である。
つまりは、今まさに死すら生温い血の制裁が行われようとしていた…。
次回よりようやく上条さんが出て来ます。
主役が出てこないって…。
自分の構成力の無さがうらめしい…