ハイスクールAMEN 作:雑魚グール
「…日本、か。」
昨日の堕天使のことを思い出す。
日が昇った空の下で聖書を開く。
奇跡の力によって輝く聖書のページが捲れ、1つの見開きでピタッと止まる。
その見開きに手を置くと、私の体は光に包まれた。
ー○●○ー
光が消えた時、私は広場の中にいた。
あたりを見回すと、子供の遊具と思われる器具があった。
広場の外に出ると電柱があり、その電柱に貼られたプレートの字を読み取ることはできないが、昨日レイナーレから渡された日本の通貨の字と似たような形をしているので、ここは日本で間違いないだろう。
ここの地理がわからないな… まずは地図を買うべきか?
ただ、売っている場所もわからない。
まあ、人を見つけたらその人に教会の場所を聞けばいいだろう。 英語がわかればだが…
暫く道を歩いていると、小さな店を見つけた。
ガラスの先には様々な本が並んでいる。
ここならば地図もあるだろう。
ガラスのドアを開け、店に入ろうとすると店のドアが1人でに開いた。
成る程、これが自動ドアというものか。
店の中に入り、店内を見渡す。
地図が売っていればいいが…
先ほど本があったあたりをうろついていると、mapと書かれた本を見つけた。
これが地図だろう、試しに中を見てみると、英語の地図が書かれている。
当たりだ。
その本を恐らくは会計場と思われる場所に持って行き、上に昨日レイナーレから受け取った通貨を三枚全て置く。
地図がそこまで高いこともないだろうが、足りないかもしれないな。
どうやらその心配は杞憂だったようで、店員はニ枚と数個のメダルを紙とともに私に渡し、一枚を受け取った。
店員から袋の中に入った地図を受け取り、店を出る。
「さて… 確かクオウチョウだったか?」
地図の目次を見て、kuoという字を探す。
あった。 そのページを開く。
…参った。 私は日本の地図の読み方がわからないようだ。
まあ、しらみ潰しに歩けばなんとかなるだろう。
ー○●○ー
あれから数時間。
結局目的の教会に辿り着くことはできなかった。
日も降りてきた。 そろそろ教会に行きたい。
-ボスッ-
地図とにらめっこしながら歩いていたら、何かにぶつかって頭に被っていたヴェールが落ちてしまった。
顔を上げると、目の前には跳ねた茶髪の少年がいた。
…その少年からは、悪魔の匂いがする。
「申し訳ないな。」
目の前の少年悪魔は目を見開き、私を見ていた。
この国ではシスターがそんなに珍しいのか?
悪魔ならば言語は関係なく通じるはずだが…
「君、どうした?」
「…あ、ご、ごめん! つい。」
少年はぎこちなく笑いながら、ヴェールを拾って私に手渡した。
受け取ったヴェールを被り直す。
それにしても… 悪魔か。 祓うべきか、祓わぬべきか、見極める必要がある。
「少年、君は英語が理解できるようだな。 申し訳ないが、道案内をお願いできないか?」
「え、あ、はい。 どこまでですか?」
「この町の教会だ。 知り合いに紹介されたのだが、やつめ、案内を忘れていた。」
「あ、それなら知ってるかと。 案内するよ。」
私が礼を言うと、少年は歩き出した。
その背についていく。
「助かったよ。 英語が通じる人がいなくてね。 地図は手に入れたが読み方もわからなかったんだ。」
「そ、そうなんだ。 ここには旅行か何かで?」
「いや、見ての通り私はシスターなのだが、この町の教会に赴任することになってね。」
まあ、嘘ではないはずだ。 わざわざこの少年に詳細を語る意味もあるまい。
途中、私が転移した公園に差し掛かった。
その公園から、子供の泣き声が聞こえた。
どうやら転んで膝を擦りむいたようだ。
すぐに公園に歩を進め、男の子の前に座り込んで
傷はふさがり、男の子は不思議そうな顔で泣き止んだ。
「少年、君も男だろう? この程度の怪我で泣いてはなるまい。 男とは強くあるべきだよ。」
男の子の頭を撫でてから立ち上がる。
きょとんとしていたその男の子の母親は、頭を垂れてから男の子を連れて去っていく。
去り際に彼が何かを言っていたが、私にはそれを理解することができない。
「ありがとう、お姉ちゃん。 だってさ。」
少年が通訳をしてくれた。
成る程、ありがとう、か。
やはり人に感謝されるのは嬉しいことだ。
口角が上がるのを抑えて、少年に向き直る。
「…その力…」
「ん? ああ… これは私の
「君… まさか…」
「ああ、気にしないでくれ給え。 私が君を祓う理由はないよ。」
おそらく、この少年は祓わなくても良いだろう。
それに案内をして貰っているんだ。
「でも、なんでわかったんだ?」
「…私は聖女であると同時に悪魔祓いだった。 数多の悪魔を祓う中で、彼ら特有の匂いがわかるようになったんだよ。 それに、君はこの十字架が嫌いだろう?」
私が胸に下げた十字架を少年に向けると、彼は少し顔を顰めた。
「ああ、悪いね。 まあ、祓う気はないから案内をしてくれるとありがたいよ。」
「あ、ああ。」
彼はまだショックが拭えないのか、少しどもりながら返事をして歩き始めた。
当然、私は彼の後をついていく。
歩き続けて十数分。
私達は森の中にある教会の中にいた。
「ここか、ありがとう。」
少年は顔を青くしていた。
おそらくは、聖域を恐れる悪魔の本能だろう。
「…悪いね、少年。 辛いだろう?」
「まあ、ちょっと。」
「悪魔は、それだけ聖なる力に弱い。 聖剣を食らえば体が浄化され、聖水をかけられるだけでもそれなりのダメージを食らう。 君にはできれば死んでほしくない、極力生き残ってくれ。」
「ああ、ありがとう… そうだ、名前を聞いてもいいか?」
「私の名はアーシア・アルジェントだよ。 君の名前は?」
「兵頭 一誠だ。 家族や友達はイッセーって呼ぶよ。」
「そうか、ならイッセー。 ありがとう、また会おう…
彼は私に別れを告げ、足早に帰って行った。
窓を見るともう夕方のようだ。
近くの長椅子に腰掛け、目を閉じる。
そしてそのまま、意識がとんだ。
ー○●○ー
「アーシア、起きなさい。」
「…レイナーレか。」
目を覚ました私の前には、長い黒髪を持つ堕天使のレイナーレがいた。
ただ、昨日よりもかなり露出度の低い服だ。
ここを本拠地にしているようだが、居住できそうな場所は見当たらない。
「案内を寄越しても良かったのではないか? 私は半日迷っていたんだぞ。」
「でもつけたならいいじゃない。 で、貴女の部屋だけれど…」
文句を軽く流し、レイナーレはキリスト像の下の台座を開けた。
「隠し階段か。」
「ええ、そうよ。」
彼女の後について階段を降りる。
蝋燭で照らされ、日に合わせて揺らめく影が妙に不気味に感じた。
そのまま歩いて行くと、レイナーレは一つの木製の扉の前で足を止めた。
「ここよ。」
「わかった… ところで食事はいつ頃だ? お前のせいでここに来てから一食も腹に入れてない。」
「はいはい、多分すぐよ。」
「そうか。」
軋む扉を開け、室内に入る。
少し狭い部屋に、簡素なベッドと棚が一つ。
まあ、構わない。 教会にいた頃よりは少し質素だが、そこまで求めはしない。
ベッドは柔らかくないが、むしろ少し硬い方が寝やすい。
「まあ、恵まれた部屋だな。 堕天使について来ておいて言うのもなんだが… 主よ、感謝します。
ベッドに倒れこみ、ボーッと天井を見上げながら祈った。