ハイスクールAMEN 作:雑魚グール
結局あのあと、ボロ雑巾になったフリードを柱に縛り付けて説教をした後放置した結果、今朝は悪魔祓いに連れて行かれなかった。
特にすることもないので、堕天使から隠れて外に出ることにした。
聖書を懐にしまい、静かに扉を開けて歩き出す。
そのまま特に誰にも出くわすことなく外に出ることができた。
案外、私の警備は軽いようだ。
森の中を歩き、町に出る。
太陽は真上にあるのでどうやら昼のようだ。
何をするか、そう考えながら町を歩いていると、公園に差し掛かった。
ベンチに座って項垂れている少年、あれは間違いなくイッセーだろう。
私はその前へ忍び寄る。
すると彼はゆっくりとした動作で腰を上げ、間抜けな顔で言った。
「……アーシア?」
「ああ、昨日ぶりだな、イッセー。」
ー○●○ー
「ふむ…」
私はハンバーガーショップのレジで困惑していた。
日本語が喋れないのを失念していたな。 イッセーの手伝うという申し出を断らなければよかった。
「あの、アーシア? やっぱり俺が…」
「いや、いい。 私の率いていた部隊の者が大抵のことはボディランゲージでなんとかなると言っていた。」
取り敢えず、1番肉の多そうなメニューを指し、その後に飲み物を指す。
そして金を出して終了。
「セットじゃなくていいのか?」
「セットとは何ぞや。」
「あー、やっぱり俺がやるよ… えーと、クォーターパウソダーチーヌ"のセットで飲み物はスプライトサイドメニューは… ポテトとサラダどっちがいい?」
「ポテトで。」
「じゃあポテトでお願いします。」
「かしこまりました。」
やはり悪魔は便利だな、どんな言語でも理解できるからなぁ…
私も日本語を勉強せねばならない。
「悪いな、イッセー。」
「気にすんな。 まずは日本語から慣れていこうぜ。」
トレーにセットとやらを乗せてイッセーについていく。
注目が痛いな… 好奇の視線にさらされることは好きではないのだが…
「…なあイッセー、これはどう食べればいいんだ?」
「姫君、こうやって包み紙を少しずらして一気にかぶりつくのですよ。」
「ああ、なるほど。」
イッセーの真似をして、包み紙をずらしてハンバーガーにかぶりつく。
うん、決して高級な品ではないが塩っこくて美味い。
「ポテトもこうやって手づかみです。」
「へえ、手づかみで飯を食うのはインドあたりだけかと思っていたよ。」
またイッセーを真似て、ポテトを齧る。
味が濃くて美味いな。
「美味いな、なかなか。」
「ハンバーガー食べたことないの?」
そう言われて、自分の食事を思い出す。
「ないな。 テレビで見ることはあったが実際に食べるのは初めてだ。」
「あらら。 じゃあ、普段は何を?」
「パンとスープ、あとは野菜とパスタ。 時によっては猪、鹿、蝙蝠、蠍も…」
任務中に食事が尽きることもあったのだ。
現地調達で動物や虫を食べたことがある。
「ず、随分と過酷なメニューですね…」
「調理工程を間違えなければ美味いものさ。」
ネズミを食べたときは酷い腹痛に苛まれたがね、と付け加えて食べ進める。
日本はやはりいいな、まず飯が美味いし治安がいい。
ハンバーガーを食べていると、イッセーが急に声をかけてくる。
「アーシア。」
「何だ?」
「今日は遊ぶぞ。」
「…へ?」
「次はゲーセンだ。」
ー○●○ー
「峠最速伝説イッセー!」
「へえ、上手いものだな。」
現在、バーガーショップを出てイッセーとともにゲーセンとやらにいる。
中は人と機械に溢れていて、活気がある場所だ。
だが…
「ここはうるさすぎないか?」
「ん? ああ、慣れれば気にならなくなったなぁ… あ、もう出る?」
「いや、構わない。 …ところで、あれをやって見たいんだが。」
私が指さした先には、大きな画面の前に二つの銃が置いてある機械がある。
先ほど使っていた者を見る限り、あの銃で狙いをつけて画面の中の敵を撃つもののようだ。
「ああ、あれね。 よし、一緒にやろうか!」
「ありがとう。」
車に乗ってレースをする機械から降りたイッセーは、その銃の機械の方に向かっていく。
私が100円玉を取り出した時に、イッセーが2つ一気に入れてしまった。
「これぐらい自分で払うが…」
「いやいや、俺が付き合ってもらってるんだから!」
イッセーは笑顔で言い、私に銃を取るよう促した。
それに従い、少し大きなサイズの銃を手に取る。
少し経つと映像が始まった。
どうやらテロリストを討ち取る内容らしい。
程なくしてゲームが始まる。
銃の照準は画面のマークで確認できるようだ。 イッセーは赤で私は青。
出現する敵に照準を合わせ、発砲。
ゲーム内の抑制された発砲とともに敵兵が倒れていく。
「成る程、これは面白い…」
ー○●○ー
「あー… 疲れたな。 まさかあの後最終ミッションまでノーダメでクリアするとは…」
「まあ、楽しかった。 今日はありがとう。」
あの後ゲーセンで遊び倒し、今は夕暮れの道をイッセーと歩いている。
そしたら急に、イッセーが何もないところでつまづいた。
「ああ、昨日のフリードの銃創だな。 患部をだせ、治療してやろう。」
「え、ああ、ありがとう。」
イッセーはズボンをまくり、左のふくらはぎを出す。
成る程、治癒は進んでいるが決して浅くはない銃創がある。
私はその銃創に手を触れ、聖母の微笑を使用する。
緑色の光が手から溢れ出て、イッセーの銃創が消えた。
「これでどうだ?」
「すげえよ、アーシア! 違和感がなくなった! 痛みもだ!」
「そうか、そいつは幸いだ… 言っておくが、私は
「ああ、わかってる。 …なあ、アーシアはなんでそんなに強いんだ? 俺なんてあいつに手も足も出なかったのに…」
何故強い、か…
「じゃあまずは私の出生から語ることになるな… まず私は、教会に保護された捨て子だ。 いや、そんな顔をするな。 特に気にしてはいない。」
話をしていると、イッセーは申し訳なさそうな表情になった。
ただ、正直自分が捨て子だからって何? と思う。
「元からいないと思うところは無いんだよ… それじゃあ話を戻すが、私はそれで教会に拾われ、研究者共の改造を受けた。」
「どう言うことだ?」
「そのままの意味だよ、この体を8割方作り変えられたんだ。」
「それは… 無理矢理か?」
「物心もついていない時期のことだ。 恐らくは何も考えずにYesと言ったんだろうさ。 …そして、教会には私と同じようにして作られた人がいた。」
私の頭に1人の人物が思い浮かぶ。 短く刈った金髪に、緑の目と丸メガネ。
「アレクサンド・アンデルセン。 それがその人、私の師匠の名前だ。 銃剣の使い方も、聖書での奇跡も、文字の読み書きも計算も彼に習った。」
「へえ… そのアンデルセンって人は随分と強かったんだろうな。」
「ああ、私が弟子入りした時には130歳を超えていたが、それでもなお勝てる気がしなかったよ。」
「130!? 本当に人間かその人?」
「いや、あの人は殆ど人間じゃ無いよ。 人間をベースに改造された私に対して、あの人は完璧に作られた存在だ。 再生能力以外は私よりも遥かに高かった。 そしてアンデルセン師匠と、仲間とともに何度も実戦で悪魔を祓ったから、私は強くなれた。 」
「やっぱり実戦が1番か…」
「ま、気長に考えるといいさ、悪魔の寿命を数えるには世紀単位が1番適すると聞く。 人間とは違い生き急ぐ必要が無いのだから、ゆっくり成長するといい。」
「…そうか、なあ。 もしよければ、俺に修行をつけてくれないか?」
「ふ、生き急ぐ必要は無い、と言った直後にそれか。 …まあ、いいだろう。 だが、お前がその力を悪用するならば即刻殺す、滅す。」
「ああ、ありがとう。」
「無理よ。」
空から声がした。
その先にいるのは露出度の高い衣装を着た黒髪の堕天使がいた。
「ゆ、夕麻ちゃん…?」
夕麻? 誰だそれは?
奴はクスクスと笑う。
「へえ、生きてたの。 しかも悪魔? 嘘、最悪じゃないの。」
ああ、成る程。 彼女は何らかのの方法で偽名を使ってイッセーに近づき、殺したのだろう。
「レイナーレ、お迎えの時間か。 随分と特定が遅いな。」
「あなたこそ、今日は安息日ではないわよ?」
「んで、堕天使さんが何かようかい?」
イッセーがレイナーレに、少し挑発気味に発言する。
それに対し、奴は嘲笑してこう返す。
「汚らしい下級悪魔が気軽に私へ話しかけないでちょうだいな。 …その子、アーシアは私たちの所有物なの。 返して貰えるかしら? アーシア、逃げても無駄なのよ?」
「逃げちゃいないさ。 ただ、少し退屈になったから抜け出しただけだ。 他に衣食住もないしな。」
ただ、それが他にあるのなら即刻出て行きたいが、と付け加える。
「あら、冷たいわね。 あなたの
「成る程、私のために中級堕天使殿が町中を大捜索か、いい身分だな、私は。」
ベンチから立ち上がり、レイナーレの方に歩いていく途中、イッセーが前へ出た。
「なあ、ゆう、いや、レイナーレさんよ。 あんた。 こいつを連れて帰ってどうするつもりだ?」
「下級悪魔、私の名を呼ぶな。 私の名が汚れる。 あなたたちに私たちの間のことは関係ない。 さっさと主のもとに帰らないと、死ぬわよ?」
レイナーレは手に光を集中させて、槍を作り出す。
その槍は大したことはなく、下級悪魔を殺すのには役立つだろうが格上相手にはとても通用しそうにない。
「レイナーレ、止めろ。 そいつには案内をしてもらった恩があるんだ。」
「…そう、なら止めるわ。」
レイナーレは槍を消滅させて、私の方に歩いてくる。
私もレイナーレに近づく。
「アーシア!?」
「…イッセー、私は例え教会にいる全員に一斉に襲いかかられたとしても死ぬことはない。 お前が思っているよりも強いぞ、私は。 …今日は悪かったな。 あ、あと最後に、だ。 私にはこれまで仲間はいても友と呼べる人物はいなかったんだ、わたしと友達になってくれないか?」
「謝ることはねえよ! それに俺たちもう友達だろ!? またいつでも遊びに行こうぜ!?」
「ああ、また、だ。」
振り返り、むかつく笑みを浮かべるレイナーレの翼に体が覆われる。
「下級悪魔、この子のおかげで命拾いしたわね。 次に邪魔をしたら、その時は本当に殺すわ。 じゃあね、イッセーくん。」
そしてそのまま、レイナーレに抱かれて私は天高く飛び上がった。