ハイスクールAMEN 作:雑魚グール
「アーシア、来なさい。」
教会に戻り、少しの間自室で聖書を読んでいた私を読んだのはレイナーレだった。
「なんの用だ?」
「いえ、少しね…」
夕食の時間はまだ、だとしてもわざわざこいつから私に声をかけることもない。
成る程、潮時か。
「わかった。」
聖書をパタンと閉じ、修道服の中にしまって立ち上がる。
恐らく、こいつの狙いは最初から私の
少しの間会話もなく進むと、広い空間に出た。
長い石の階段の先の祭壇と思わしき場所に十字架が立てられている。
「なあ、レイナーレ。」
「…何かしら?」
煩わしそうに返事をするレイナーレ。
…銃剣を取り出す準備をする。
「私の二つ名を知っているかな?」
「ええ、もちろん。 聖女アーシア、かしら?」
「残念ながら、それは称号付きの名前に過ぎない。 本当の二つ名は様々だが… 一つだけ、名乗らせていただこう。」
-『首斬判事2世』だよ-
言い切ると同時に、レイナーレの顔面にローリングソバットを叩き込む。
いきなりの攻撃に対応できなかった堕天使が、無様に倒れ伏す。
そして私は、左右4本ずつ、計8本の銃剣を取り出して指の間に挟み、構える。
斬りかかる瞬間、レイナーレが光の槍を作り出し応戦してくる。
「…まさか! 飼い犬に手を噛まれるとはね!」
「烏1匹で猟犬と戦うか?」
レイナーレの振るう光の槍を銃剣で受け流して、水月にトーキックを食らわせる。
「ガァッ!?」
「甘いんだよ、何もかも。」
水月を抑えるレイナーレの顔面を蹴り上げる。
まだだ、まだ止めはささない。 この悪を、この堕天使を、もっと楽しまねば!
「ッ! あなた達、来なさい!」
レイナーレが叫ぶと同時に、バタンと開いたそこら中の扉から大量のはぐれ悪魔祓いが飛び出てくる。
不味い…
口角が上がるのを抑えられないッ!!
「神に仇なす愚か者共めが! 堕天使も、はぐれ悪魔祓いも関係ない! 全員このアーシア・アルジェントに首を差し出せ!!」
向かってくるはぐれ悪魔祓いに銃剣を大量に投げつける。
銃剣の本数分は殺った!
もう一度、手に銃剣を取り出し集団に突撃する。
「エェェェイメェェェェンンンンンンン!!!」
唸る人の波を、先頭から叩き潰す。
頭を、胸を、腹を、腕を、首を!
「フハハハハハッ!!」
気づけば、ニヤける口元を隠すこともせずにはぐれ悪魔祓い共を斬り伏せていた。
銃剣についた血を払い、もう一度凪ぐ。
横薙ぎの銃剣が背信者共を切り裂いた瞬間、はぐれ悪魔祓いの一団が弾け飛んだ。
「アーシア! そこにいるのか!?」
「その声はイッセーか! 何故来た!?」
「友達が危ねえってのに助けに来ねえ奴がいるか!」
彼の叫びに、先程とは別の理由で口角が上がる。
あの馬鹿はたかがそれだけの理由で、格上もいるこの教会に攻め込んで来たと?
「クッ! 何故ここに悪魔が…!」
毒づきながら飛び去ろうとするレイナーレに跳躍する。
そしてそのまま背中に取り付き、銃剣を刺す。
「キャァァァァァ!」
黒い翼と背中を縫い付けられたレイナーレが落下する。
背中に刺した銃剣をそのまま押し込み、貫通させて地面にうつ伏せにレイナーレを縫い付ける。 銃剣が地面に刺さったのを確認し、レイナーレの腹の傷を治した。
「まだ死んでもらったら困る。」
「離しなさい! 人間ごときが!」
騒ぐレイナーレの後頭部を踏みつけ、向かってくるはぐれ悪魔祓い共に銃剣を投げつけた。
はぐれ悪魔祓いの体に刺さった銃剣が、笛のような音と共にガスを噴出させる。
そして数秒後、その銃剣が爆発を起こした。
散る臓物、断末魔、まさしく阿鼻叫喚だ。
しかし、私は戦かない。 これより酷い戦場を知っている。 これより酷い戦いを行っている。
だから、私は血が踊る戦場に飛び込んだ。
♣︎♧♣︎
「部長、どうしてもダメですか!?」
「ダメよ。 教会に乗り込むだなんて…」
夜、俺は部室で部長に抗議していた。
アーシアは心配ないと言っていたが、それでも友達の危機を見逃すなんてできない!
「イッセー、それは間違いなく危険な行為よ。 それに何より、彼女に助けは必要ないでしょうしね?」
「な、なんでですか!?」
部長に失礼を承知で詰め寄る。
すると部長は、頭を押さえてため息をついたあと、口を開く。
「…『
「わかりません! それよりもアーシアを…!」
と、俺が言いかけたところで部長が俺の台詞を遮りながら言う。
「すべてあのアーシア・アルジェントについた二つ名よ。」
「!?」
部長が人差し指を立てて、そこらを歩きながら言う。
「あの子は途轍もなく強いわ。 悪魔の貴族たる私の元に名が広がるレベルには。」
「そ、それでも堕天使に囲まれれば…」
「イッセー、彼女は間違いなく私よりも強いわ。 いえ、この眷属全員でかかっても敵わないかもしれない。 彼女は過去に、それぐらいの戦果をあげているのよ。 169、それが彼女が同時に、単独で相手取り、そして一人残らず壊滅させた悪魔の数よ。」
俺は部長の言葉に驚愕した。
あのアーシアが、そこまで強いなんて…
確かに、俺が手も足も出なかったフリードをボコボコにしていたが…
俺があの場面を思い出している間に、朱乃さんが部長に何か耳打ちをした。
部長は神妙な顔をして、部室の出口の扉に向かった。
「イッセー、私は大事な用ができたから少し出るわ。」
「待ってください! 俺の話は!?」
「…いいこと、イッセー? あなたは
「それでも!」
「もう時間がない、私は行くわ。 ユウト、小猫。 イッセーをよろしくね?」
その部長の言葉に、木場と小猫ちゃんが頷いた。
クソ… こうなったら一人でも!
部長と朱乃さんが部室から出て行ってから転移したのを確認して、俺も扉を開ける。
「待って、イッセーくん。」
「木場、止めても俺は行くぞ!」
「わかっているよ。 だから、止めはしない。」
俺の肩に手を置き、爽やかに笑う木場。
「プロモーションのルールは覚えているかな?」
「え? そりゃあ
そこまで言ったところで、さっきの部長の言葉が脳裏をよぎる。
『
「気づいたようだね? じゃあ、向かおうか、その教会に。」
「…私もお伴します。 二人だけでは不安です。」
木場の発言に、後ろから小猫ちゃんもついてくる。
!? いつも無表情で何を考えているのかわからないあの小猫ちゃんが!?
この子の胸の内の優しさに触れられた気がした!
「感動した! 俺は猛烈に感動しているよ、小猫ちゃん!」
「あ、あれ? 僕も一緒に行くんだけどなぁ…」
放置された木場が寂しげに笑みを引きつらせた。
わかってる! お前にも感謝してるぞ!
「じゃあ! 三人で助太刀と行くか!」
こうして俺たち三人は、教会に向け動き出した。
♤♠︎♤
「宿舎に聖堂、怪しいのは聖堂かな?」
「なんでだ?」
「堕天使やはぐれ悪魔祓いは神から見放された存在だからね。 その神が崇められる聖堂の地下で儀式をすることで、自己満足、そして神への冒涜に酔うのさ。 愛していたから、捨てられたからこそ憎悪の意味を込めてわざと聖堂の地下で邪悪な儀式をするんだよ。」
教会の前で、木場の説明になるほど、と頷く。
いや、それを見放した神様もどこか悪いのかもしれない。 なんてったってアーシアを捨てるんだからな!
しかし、それにしても…
「イカれた連中だ! そんな奴らがアーシアを!」
「…悪魔からしてみればそのアーシアさんも十分脅威ですが。」
怒りを高める俺に、小猫ちゃんが呟く。
いや、確かにめちゃくちゃ強いらしいけどさ…
「それでも友達だ! それにあいつは悪魔の俺を攻撃しなかった!」
「あはは、まあ、君がそう言うんならそれを信じよう。」
扉を開け、聖堂に進むと、本来崇められる筈の十字に囚われた神の像が砕かれていた。
「ハ〜ロ〜、悪魔の皆さーん? ありゃ? 今はグッドナイトかな?」
「ッ! フリード!!」
ふざけた台詞を吐きながら柱の陰から出てきたのは、白髪の少年神父、フリードだった。
「どうも、お久しぶりでやんすね悪魔の皆さぁん? 俺っちは今あのクソシスターにボコられて機嫌が悪いんですよ。 まああいつは今、地下で血祭りだろうけどね!? そんでもってここはいっちょサンドバッグになってくれやぁぁぁぁぁ!!」
怒りを露わにした神父が光の剣の柄と拳銃を取り出す。
あの時は厄介たったが、あの時とは違う!
今は3対1だ!
「おい! アーシアは何処にいる!?」
「んー、そこの祭壇の下に地下への階段が隠されてございます。 そこから儀式が行われる祭儀場に行けますぞ。」
祭壇を指差して、あっさり通路の隠し場所を吐く神父。
刺客としての自覚がないのか? それとも俺たちぐらい殺せると?
「セイクリッド・ギアァ!」
叫びとともに、俺の左腕に赤い籠手が現れる。
よし、装備完了!
俺の隣でも木場が鞘から剣を抜き放ち、小猫ちゃんはーーー。
ん!? 自身の何倍もある長椅子を持ち上げて、神父に投げつけた!
「…潰れて。」
流石ルーク! 流石怪力!
「わーお、しゃらくせぇ!」
しかし神父は小踊りをしながら投げ飛ばされた長椅子を切り裂いた。
成る程、やはり一筋縄ではいかないか!
☆★☆
「これ、ピンチってやつですかね? んー、俺的には悪魔に殺されるのはごめんなんで退散したいっすねー? 悪魔祓いできないのが残念だけど、やっぱ死にたくないしね?」
言い切ると同時に、神父が地面に何かを投げつけた。
その瞬間、辺りに光が溢れた。
目眩しか!
「おい、そこの雑魚悪魔… イッセーくんだっけ? 俺、お前にフォーリンラブ。 絶対に殺すから、絶対だよ? 俺のこと殴った上に説教垂れたクソ悪魔は絶対に許さないよ? んじゃ、ばいちゃ。」
視界が回復し、辺りを見回しても神父の姿はなかった。
野郎、捨台詞付きで逃げやがった!
「イッセー君、今はそのアルジェントさんを助けるのが先決だ。 そうだろう?」
「…ああ!」
どうにも言えない不吉な予感を押さえ込んで、祭壇に手を触れて力をかける。 すると祭壇が音を立てながら動いた。
「この下か。」
左右のろうそくで照らされた石の階段を下る。
少しの間通路を歩くと、突き当たりに扉が見えた。
その扉を勢いよく開くと、そこには大量のはぐれ悪魔祓いがいた。
それらは全員、一つの方向を見つめている。
その方向では… 絶えず血飛沫が舞い、度々はぐれ悪魔祓いの体が跳ね飛ばされていた。
まさか、あそこに?
「アーシア! そこにいるのか?」
「その声はイッセーか! 何故きた!?」
「友達があぶねえってのに助けに来ねえやつがいるか!」
心底驚いたような彼女の声に大声で返しながら、目の前のはぐれ悪魔祓いを背後から殴り飛ばす。
『Boost!』
籠手が輝き、力が溢れ出た!
これが俺の
そしてはぐれ悪魔祓いの集団に殴り込むが、その時、俺の視界に黒い翼をはためかせて飛ぶレイナーレが映った。
不味い、逃がしてしまう! そう思った瞬間、アーシアがはぐれ悪魔祓いの中から飛び出し、レイナーレの背に銃剣を突き立てた!
悲鳴を上げながら、アーシアと共に落下するレイナーレ。
その落下地点で、また鮮血が散り、銃剣が振るわれる。
なんて、強いんだ!
アーシアの規格外な強さに戦慄していると、気づいたら周りのはぐれ悪魔祓いは殆どいなくなっていた。
最後の一人をアーシアの銃剣が貫く。
そのアーシアの足元では、レイナーレが銃剣で地面に縫い付けられていた。
「イッセー、助けはいらないと言ったはずだ。」
こちらに向き直った彼女は返り血にまみれていた。
金の長髪が紅に濡れている。
「だから、言っただろ。 友達の危機に助けに来ねえわけがねえだろ!」
俺の言葉に、アーシアは心底驚愕したような表情をした後、吹き出した。
「本物の馬鹿だな、キミは。 まあいい、取り敢えず今はこの堕天使を止めなければ。」
アーシアに視線を向けられたレイナーレが、ガタガタと震え出す。
「お、お願い! 許してちょうだい!?」
「さぁて、どうするか?」
笑いながら銃剣を弄るアーシアにレイナーレがさらに震えた。
「くッ… こ、このぉぉぉぉぉ!!」
レイナーレが自らに突き刺さった銃剣を強引に引き抜き、立ち上がりながらアーシアに光の槍を投げつけた。
アーシアは… 何の反応も見せずに、その光の槍に頭の左側を貫かれた。
「アーシア!?」
「ふ、ふふ。 人間の分際で、堕天使に、この私に逆らうからこうなるのよ!」
レイナーレはさらに光の槍を構えて、嗤う。
「てめえ! 許さねぇ!!」
俺が構え直した瞬間、俺たちが入ってきた扉からさらにはぐれ悪魔祓いが入ってくる。
「く、増援か! イッセーくん、後ろは僕たちが対処する!」
「…イッセー先輩はその堕天使をお願いします。」
二人がそのはぐれ悪魔祓いの集団に立ち向かう。
俺の視界は、怒りで塗り潰された。
よくも、アーシアを。 俺の友達を!
「レイナーレェェェェ!!」
「汚い悪魔の分際で! 私の名を気安く呼ぶんじゃないわよ!」
レイナーレの投げた光の槍に足を貫かれる。
途轍もない痛みが走った。
しかし構わない、その光の槍を両手で掴んで、引き抜く。
「グゥ…アァァァ!!」
「無駄よ! 私の光を食らったらもう悪魔は!」
確かに、視界がクラクラする。
しかし、関係ない。 足の痛みも、槍を握る手を焦がす光の痛みも。
「あいつの負ってきた痛みに比べりゃぁ! 関係ねぇェェェェ!!」
叫びと同時に、槍を引き抜いた。
そしてそのまま、足の痛みを無視して駆け出す。
「ふっ! その程度の
余裕そうな表情で光の槍を再度構えるレイナーレ。
その瞬間、周囲に声が響いた。
『Boost! Boost! Boost! Boost! Boost! Boost!』
!? 俺の持つ
「な、な… ありえない! 下級悪魔がなぜそんな力を…!?」
戦況が悪くなったとみて逃げ出そうとするレイナーレの腕を掴んで、引き寄せる。
「オラァァ!!」
倍加によって規格外な力になった拳でレイナーレを殴り飛ばす。
抵抗もできずに吹っ飛んだレイナーレは、岩の壁に当たって止まった。
「ハァ… ハァ…」
-パチパチパチパチパチパチ-
乱れた呼吸をする俺に、拍手の音が聞こえてきた。
その音のする方へ振り返るとーーー
「アーシア!?」
頭を吹っ飛ばされたはずのアーシアが、不敵な表情で拍手をしていた。
拍手をするアーシアの向こうには、驚愕した表情の木場と少しだけ表情を動かした小猫ちゃんも見える。
「見事だったよ、イッセー。 それでこそ演技をした意味があるというものだ。」
「…へ?」
きっと間抜けな表情をしてるであろう俺に、アーシアは右手を差し出してその右手を銃剣で切り落とした。
「えぇぇ!? 何やってんの!?」
「この程度で驚くな、悪魔だろ?」
アーシアは眉ひとつ動かさずに、その傷口に緑の光を発生させた。
すると、みるみるうちに無くなったはずの腕が生えてくる。
「これが私の
余裕そうな表情で話すアーシア。
「…えぇぇぇぇぇぇェェェェぇぇ!?」
俺の声が教会の地下に木霊した。