ハイスクールAMEN 作:雑魚グール
「お父様、お母様、という事情でこのアーシア・アルジェントのホームステイをお許し頂けないでしょうか?」
夜、イッセーの家で部長が朗らかな笑顔で凄まじい要求をイッセーの両親に叩きつけていた。
ご両親はこちらと私の隣にいるイッセーをチラチラと見ながら耳打ちしている。
「アーシア……さんで良いのかな?」
「ええ、もちろんですとも。 お義父さま。」
できるだけの笑顔で答える。 え? 字が違う? なんのことだ?
「…立て続けにこんな可愛い女の子にお父様と呼ばれると心にくるものがあるね… いい意味で。」
何やら感無量といった様子のお義父さま。
確かにリアスは綺麗だからな。
「ちょっと。」
「あ、ああ。 すまんすまん。」
お義母さまに窘められて、お義父さまが考え込む。
少しの静寂の後、お義父さまが口を開く。
「ホームステイ自体は構わないが… うちには性欲の権化とも言える馬鹿息子がいる。 …何かあってからでは責任の取りようが…」
「でしたら構いませんよ? むしろそうなった場合はウェルカm「アーシアちょっとストップ!」
私の台詞を遮ってイッセーが制止を入れてくる。
「年頃の女の子がそんなことを言うもんじゃありません!」
「年頃の女の子、と言ったらむしろお前だろう? 唇を奪った時の反応は可愛らしかったぞ?」
「待てイッセー! そこの話詳しく!」
お義父さまが反応し、椅子から立ち上がってイッセーに問う。
同時にお義母さまも立ち上がってガタッという音が二つ。
「い、いや! 俺からじゃないから!」
「そうだな、私からだ。 しかしお前は私の初めてを奪ったわけだな。」
「「イッセー!?」」
「ちょ! 違う違う! 初めての友達とキスな!? それにキスはアーシアからだから!」
わたわたとしながら両親に弁解をするイッセー。
ご両親はなんとも言えない表情で悶えた後、椅子に座り込む。
「アーシアさん… 本当に、うちのバカ息子で良いのか?」
「構いませんよ、私は彼ほど勇気のある人間を見たことがないので。」
「しかし…」
「それに問題はないです。 護身術は心得ておりますので襲われたとしても大丈夫です。」
「どこでそんな技を?」
「
私が言い終わると、ご両親はお互いの顔を見合って、頷いた。
「では、ホームステイを許します… しかし本当に、本当にこんな息子で良いのかな?」
「全然! 寧ろ最高です。 それに… 私が彼の唇を奪いましたから、責任を取らないわけにはいきませんよ。」
直後、お義父さまの目から大量の涙が溢れ出す。
涙を拭いながら、口を開いた。
「…イッセーがこんなのだから、父さんは一生孫の顔なんて見れないと思っていた。 老後も独り身のお前を心配しながら暮らさないといけないのかと悲嘆にもくれたよ……」
途切れ途切れ語るお義父さまの隣では、お義母さまがハンカチで涙を拭っていた。
「私もね、イッセーにお嫁なんて来ないと思ってたの。 だって、イッセーだもの、バカ息子だもの。 それが… こんなに可愛い子を…」
ボロボロと泣くご両親、私も恥ずかしくて顔から火が出てしまいそうだよ。
「アーシアさん! こんなダメ息子でよければよろしくお願いします!」
「ええ、問題ありませんよ。 私はそんなイッセーが好きですから。」
イッセーも恥ずかしそうに頬を染めている。
やはり少女のようだ。
「リアスさん! アーシア・アルジェントさんを我が家でお預かりしますよ!」
「ありがとうございます、お父様。 というわけでイッセー、これからアーシアをよろしくお願いね? アーシアも、ご両親に失礼のないように、仲良くね?」
「大丈夫だ。 未開の部族と親しくなり、さらには村の神として祀られた私のコミュ力ならばいける。」
あの時は本当に疲れたな…
たかが虎1匹であそこまで祭り上げられるとは思わなんだ。
☆★☆
イッセーの家にホームステイを開始して、数日が経った。
やはり転校生は珍しいのか学園の話題になったり、何度か告白を受けたりもしたが学園生活は概ね良好だ。
「イッセー、今日は体育でソフトボールがあるそうだ。 …イスカリオテの力を見せつけてやろう。」
「ああ、そうだな。 って、イスカリオテってなんだ?」
「ん、ああ、イスカリオテは私が受け持っていた隊だよ。 悪魔祓いの中でも特に信仰が深く、また戦いに長けた者が集う隊だ。」
イスカリオテの連中は私を見たらなんというだろうか?
いや、どうせ会うこともなかろうが。
と、かつての仲間に思いを馳せながら歩いていると、イッセーの顔がにやけているのに気がついた。
「何か面白い事でもあったか?」
「い、いやなんでも。」
なんでもないのににやけるとは変わった奴だ。
「ところでアーシア、学校生活で何か困ったことはあるか?」
イッセーの質問に、少し頭を悩ませる。
「…特には無いな。 ただ一つ言うならば男子の視線が痛い、だろうか?」
何が楽しいのかはよくわからんが、周りの男子からよく注目を受ける。
私を見つめて何が楽しいのだろうか?
「昔ならば力ずくだったが… 日本は面倒だな。」
「すぐに拳で語らい合おうとするのはやめてください。」
拳で語らい合おうとはしていないが、尋問に過ぎないが。
いや、日本的には尋問もアウトなのだろう。
と、そうこうしているうちに校舎の中に入った。
「アーシアちゃーん! おはよーう!」
「おはよう、アーシアさん、今日もブロンドがキラキラ輝いているね。」
現れたのはイッセーの親友である松田と元浜だ。
同じクラスの男子で、まあお調子者というか変態と言うか…
「おはよう。 二人とも朝から元気がいいな。」
すると二人はしみじみとした様子で肩を組む。
「これだよ、元浜くん…」
「ああ、美少女からの『おはよう』… 最高だな松田くん!」
「ところで知っているか? 元気は騒がしいの丁寧語らしいぞ?」
冗談混じりにそう返すと、二人は地面に膝をついた。
「し、知らなかった… そんな日本語があっただなんて…!!」
「そして知りたくなかった…」
「あはは、お前らは本当に賑やかだな。 今のはいい意味でだぞ?」
なんというか、リアクションがオーバーで面白い。
ほら、今もガバッと顔を上げて満面の笑みになってる。
「ほら、早く教室に向かうぞ。 遅刻まではまだ時間があるが、早いに越したことは無いだろう。」
「あっ、ちょっ。」
イッセーの服の袖をつかんで歩き出す。
さて、本日も学校が始まる時だな。
♧♣︎♧
「ふっ、ふっ。」
私は深夜の街をチラシ配りのついでにランニングをして駆け抜けていた。
このチラシは悪魔を召喚するための者で、強い渇望を持つ人物にのみ配るそうだ。 そのリストがこの手元にもある。
こんなシステムを考え出した悪魔はよっぽど狡猾に違い無い。 まったくご苦労なことだ。
「戻ってぞ。」
「ただいま帰還しました!」
校門の前であったイッセーとともに、旧校舎のオカルト研究部部室に入る。
オカルト研究部という形をとって、グレモリー眷属がここに集まっているらしい。
「あらあら、お疲れ様。 今お茶を淹れますわ。」
「悪いな。」
私たちを出迎えたのは黒髪ポニーテールの朱乃だ。
こいつの淹れるお茶は絶品なので、密かな楽しみであったりする。
「やあ、二人で行ってきたのかい?」
「いや、校門で会っただけだ。 …自転車なのに置いてかれちまったよ。」
残念そうに木場にそうこぼすイッセー。
木場はイッセーの肩に手を置いて、爽やかな笑顔で慰める。
「まあ、しょうがないよ。 彼女は最強級の悪魔祓いだ。」
「元、悪魔祓いだ。 ついこの間からはなりそこないの悪魔だよ。」
肩を竦めてそう言うと、下から声が聞こえた。
「…あの羽は、綺麗なので嫌いじゃ無いです。」
「そうかそうか、ありがとう。」
我が部のマスコット、小猫ちゃんを持ち上げて胸元まで抱き上げる。
なんていうか愛玩動物みたいな可愛さがある。 猫又だからか?
そのまま頭をワシャワシャと撫でていたら、身を捩って脱出された。
「…やめてください、そんな猫みたいに。」
「猫じゃないか。」
もう一度小猫ちゃんの頭を撫でて、リアスの方に向く。
「リアス、おいリアス。 聞いてるか?」
「…あ、ごめんなさい。 ボーッとしていたわ。」
ここら最近、リアスの調子がおかしい。
不安げな表情を浮かべてみたり、溜息をついたりと。
「リアス、何か悩みがあるなら相談しろよ? 我らはお前の眷属だ。 お前を支えるために存在するのだから。」
「…ええ、ありがとう。 でも心配無いわ。 ええ、大丈夫。」
その笑顔は偽物でこそなかったが、哀愁漂うものであった。