ポケットモンスター Trans Monsters 作:イビルジョーカー
できるだけストックを多く溜めたいので、大体月一のペースで投稿する
予定です。
今回は映画でお馴染み、フェードアウトマンで有名なバリケードさんの
登場です。最後ら辺ではオートボットのあの有名キャラも出てきます。
ポケモンに限った事ではないが……何らかの対象を知る上で何も見ず聞かず、その対象の情報を得ようとするなどと言う事は、どう考え試行錯誤しようと土台無理な話だ。
他人から聞いた言葉にどれほど的確な正当性があろうとも……自分で見て知って、そして答えを得るというのは非常に大切な事。
俗に言えば、それは『観察』という言葉が一番当て嵌まる。
人間にしろポケモンにしろ。あるいは他の何らかの対象でも自分の目で見て聞いて、触ったり等。そういった事は基本中の基本であると同時に必須項目なのだ。
これよりポケモントレーナーとなるべく、オーキド博士から与えられた試験をクリアしようと努力・尽力している卵たちがその良い例だろう。
「キャタピーは糸を吐き、主にその場合、相手の身動きを封じる為ものだが……他にも糸の塊を飛ばして木の実を落す事もある…と」
早速グリーンは野生のポケモンである緑色にピンク色のY状の角が特徴的なむしタイプのポケモン『キャタピー』を観察対象とし、熱心にその特徴や行動を観察し記録していた。
対するブルーはネズミのようなポケモンの『コラッタ』、イエローは少々危険ながらも上手く隠れながら蜂の姿をしたポケモン『スピアー』など。それぞれで違うポケモンたちを観察対象とし、レポートを書き綴っていた。
そして一方、レッドはと言うと……。
「な、なんじゃこりゃあああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!」
森全体に響き渡らんばかりの大声を解き放っていた。
無論、観察対象のポケモンをまだ発見してもいないにも関わらず、このような奇行に奔っている最大の理由は、どういうわけか周囲の木々が炎で焼かれたように真っ黒く焦げ切った墨状と化し、大体で15mの大きさを誇るクレーターだった。更にその中心には、傷を負ったであろう一匹のリザードンが背を天に向けて倒れ込んでいた。
「って、おいおい大丈夫か! 待ってろ!!」
傷のダメージのせいか倒れ込んでいるリザードンを見て見ぬフリなど、人として出来るわけもないレッドはリザードンの下まで駆け寄り、その状態を確認した。
「ひっでー傷だな。ケンカか、もしくは人間に乱獲されかけたか……」
前者ならばともかく、後者はポケモン好きとして、人としても許せない所業だ。
この世界……ガイアスにはポケモンを大切に思う者もいれば、ポケモンを物として扱い商売品としか見ていない者、あるいは研究の為の実験材料などとしか認識していない者など。所謂『悪党』や『外道』と呼べる人間が少なからずいるのだ。
悲しいことだが、これも覆しようのない事実である為に仕方が無いのだ。
「まぁ、どっちにしろ今はこいつを手当てしないとな」
原因は一先ず置いておき、今は治療が先決だと判断したレッドはリザードンを自身で背負い、多少引き摺りながらも此処から離れようとしたその時。
「ほう…驚いたな。こんな所で出くわすとはな」
ふと、厳つい雰囲気の男の声が聞こえる。
同時に何者かの気配も感じたレッドは慌てて声と気配のした自身の背後を見る。
するとそこにいたのは…オレンジ色の毛並みに黒の虎柄模様が特徴的な犬に似た一匹のポケモンがいた。
そのポケモンをレッドは知っていた。
名前を『ウインディ』と言い、『警察ポケモン』の一種として、その自慢の嗅覚が捜査において役に立つポケモンである。
更に言えば、このカントー地方のグレンジムリーダーである男『カツラ』が所持する一匹でもある。野生下でも中々の実力高い、そんなポケモンが現れたのは吉か凶か……レッドがそれを正確に判断する前にウインディはその口から『言葉を発した』。
「人間の小僧。その二匹を置いていけ。そうすれば命までは取らない」
ウインディから発せられたのは、何と『男の声』……先程の声と違和感無く一致する事を鑑みればあの声の主は他ならぬ、このウインディだったのだろう。
「もう一度言う。これは最終警告だ。その二匹を置いていけ……命が惜しくば」
衝撃の事実に応答できなかったセキトへ向けて二度目であり、凄まじい殺気と共に最後の警告を発した。
もう何が何んだか分からない。
今のレッドの頭の内を代弁するのなら、これほど的確なものは他に無いだろう。だが……一つだけ分かり切った事があった。
「正直よぉ、いきなり喋るポケモンに出くわして、そんでもってピカチュウとリザードンを置いてけって言われても全然理解できねぇけど……こいつらを置いていくなんてゴメンだ。俺の勘がこう言ってる……お前にこいつ等を渡すと碌な事にならない、ってな!」
もう一度言うが、レッドには今の状況が一切分からない。
何故、このウインディが当然のように人の言葉を明確な意味をもって発しているのか。
何故、自分の相棒であるピカチュウと重傷を負っているこのリザードンに用があるのか。
全てが分からずじまいだが、しかしトレーナーとして、人として。得体の知れぬ相手の指示を易々聞く道理などない。
大人しく言う事聞いてピカチュウとリザードンの二匹に何かあったら、レッドは間違いなく自分を恨み後悔するだろう。
それがレッドと言う1人の少年だからだ。
「……これは、予想外の答えだな。勇敢なのか、それともただ単にのアホなのかは知らんが、ともかく貴様を『反逆罪』『無知罪』の名の下に処刑する!」
ウインディの処刑宣告と共に、その肉体が明確なまでに変化し始めた。
ウインディの両前足は後ろへと下がり両肩のショルダーパーツへ。胴体が上下四つに開いたかと思えば、そこから金属質の人型ボディが姿を現し、そして獣のそれを彷彿とさせるクロー部位が両腕に装着される。
両後足は腰部を囲むベルトとなり、ウインディの頭は胸部と化す。
そして。同時におぞましく鋭い異形の牙が規則正しく並び、同様に鋭利な形状をした左右対に四つの目らしきものを持つ凶悪的面構えのロボットのような顔の頭部が新たに出現。
ここに、ウインンディというポケモン形態から人型の金属生命体『トランスフォーマー』としての形となった戦士が顕現した。
「下等生物如きに教えても意味は無いかもしれんが……私の名は『バリケード』! ディセプティコン監獄長兵だ!」
「ディ…ディセプティコン?」
「ピッカッ!」
名乗るウインディ。ディセプティコンという言葉に困惑する他無いレッド。そんな1人と1体の間を何かが飛び跳ねるように遮る。
それは『ピカ』という鳴声が特徴的な、他ならぬセキトの最初のパートナーポケモンであるピカチュウだった。
間に入って早々バリケードに向けて『でんきタイプ』の技である『でんきショック』を放った。
「ふん。ぬるいわッ!」
しかし意に介すことなく、蚊が刺した程度と言わんばかりに電気のエネルギー攻撃を大きく鋭利な鉤爪を備えたクローで容易く、まるで煙のように払い除けてしまった
。
「いい加減、本当の姿を晒したらどうだ? オートボット」
またしても、聞き慣れない単語がレッドの耳に届く。
その言葉の意味を彼が考えるよりも早くピカチュウは次の行動に移る。
おそらく、あのバリケードに生半可なでんきタイプの技は通用しない。
ならば『通じるタイプの技』はどうか?
一か八だが、やらないよりはマシだ。
そう判断を下したピカチュウは本来ならば覚える事などない『みずタイプ』の技『みずマシンガン』を口から水鉄砲の応用で発射。
解き放たれた無数の水で構成された球体は、思わず目を剥くが如き凄まじい速度を伴い、風を切る。
そしてバリケードの顔・胴・右肩左腕へと的確に無駄なく命中していき、ついにはバリケードの膝を付かせてしまった。
「ぐウゥゥッッ!」
先程とは違い今度は明確なまでにダメージを負うバリケードにピカチュウは、内心自身の思惑が成功したことに対して安堵の息を零し、一気に畳み掛けようともう一度アクアマシンガンを撃とうとした。
だが、それは実行できなかった。
「フッ、間抜けなオートボットだな。もう勝ったつもりでいるのか!」
瞬間。宙を舞い技を放とうとしたピカチュウめがけ、何かが地面から飛び出して来た。
それは端的に表現するのなら、『普通よりも倍にデカいトラバサミ』というべきか。しかもそれだけでなく、そのトラバサミは実体を有さない炎で構成されており、にも関わらずピカチュウの身体を見事なまでにガチリと拘束。
そしてそのまま重力に従い落下すると同時に到達点である地面へと叩き付けられてしまった。
「ピッ、ピカァ……」
「ちょこまかとすばしっこいネズミでも、捕まってしまえばお終いだ」
トラバサミの拘束と熱による苦痛が拷問のようにジワジワとピカチュウの身を喰らっていく。その様子を変わらぬ冷酷な口調で言い放ったバリケードは、両腕に装備されたクローの鉤爪部位を相互打ち鳴らし合い、無骨な金属音が周囲に響き渡る。そして摩擦で少しばかり熱の篭ったそれらをピカチュウへ向けた。
「さらばだ。オートボットのネズミよ」
「やめろおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!」
今まさに止めを刺す気でいたバリケードの聴覚センサーに1人の少年の声が届いた。そして、行動に移すよりも早く声の主であるレッドがその顔面へと拳を叩き込む。
しかも。それだけに留まらず、レッドが殴った箇所は運悪くオプティックセンサー……すなわち、ポケモンや人間で言う所の視覚器官である『目』があるポイントだ。
彼は四つのオプティックセンサーを有するが、その内の二つがレッドに殴られた箇所だったのだ。
「ガアアァァァァァッッッ!! グゥッ……オオォォッ……き、貴様ァァ……」
殴られた顔の箇所を片手で覆い、残された上下二つのオプティックが赤く光る。まるで怒りを灯すかのように。
「そっちが先だろうか! このイカレロボット野郎!!」
得体の知れない未知の相手に対し、そう啖呵を切って睨むレッド。その瞳に先程の怖気や困惑はなかった。
「いいだろう小僧。もはや助命申告も再審も無効だァッ!!」
少し時間を有したが何とか殴られた箇所のオプティックは正常な状態に戻り、特に問題は無い。だが自分よりも遥かに劣る、人間と言う下等生物に殴られたと言う事実が彼の心にそう簡単には消せない憤怒の炎を滾らせてしまった。
それを表すかのように彼の手から火が燃え出し、やがて帯のような炎となって曲がりくねりながらレッドとピカチュウめがけ向って来た
。しかも、ただ向って来るだけではない。
先端にあのトラバサミと同じものが形作られ、グバッと口を開いているのだ。まるで狙った獲物を食い千切らんとしているのかのように
……。
「さけろ、ピカチュウッ!!」
パートナーにそう命じ、自分も本当にギリギリの紙一重ではあったが身を横へと勢いをつけて倒すように回避。そのせいで地面に倒れてしまったレッドをチャンスとばかりにUターンして襲い掛かるトラバサミ。
「ピカチュウ、電気ショック!」
「ピィィ~~ッカ、チュウウウウウゥゥゥゥーーーーーーーッッッッッッッ!!!!!!」
ピカチュウが自身の体内の電気を放出させて撃ち出した電気ショックとトラバサミがぶつかり合い、小規模の爆発が発生。
どうやら、威力は互角のようらしい。
「フン、生意気に私の『ほのおのトラバサミ』と互角とは。だが、私の戦闘能力はまだ半分も引き出されてはいない!」
まるで言葉に呼応するかのようにクローに付属された鉤爪が鋭利に輝きを増す。
しかも、それはそう見えたわけではなく『確かな意味』があった。
「アイアンクロー!」
バリケードが繰り出すのは、光り輝く鋼の爪で敵を切り裂く『はがねタイプ』の技『アイアンクロー』。
「よけろ、ピカチュウ!」
「ピカァッ!」
レッドの指示に従ったピカチュウは自身の俊敏性を生かし、迫り来る鋼の爪をジャンプで回避してバリケードの腕を踏み台に高く飛び上がった。
「そこから、体当たり!」
ノーマルタイプの技『体当たり』。
読んで字の如く、自身の身体を勢いつけて当てる技だ。程度としては低い攻撃だが、それでも思いっきり顔に命中した事で怯ませることができた。
「うぐッ! 小癪なネズミがァァッ!!」
益々怒りが湧き起こるバリケード。
自身が相手しているピカチュウが『自分と同じ存在』であり、『倒すべき敵』である事は分かり切っている。だが本当の姿にならず、あろうことか下等な種族である人間の言う通りに戦っている……高度な金属生命体としてのプライドが、より更に怒りの炎を燃焼させていた。
「ならば、この技をくれてやる……『インフェル・ブラスター』!!」
一つの技名を叫ぶと同時に両腕を真っ直ぐ前へと掲げ、その間から赤やオレンジ色彩の火花が散る。やがてそれは『火花』から『炎の塊
』へと変貌。
そして、一気に射出された!
「電気ショックで相殺だ!」
「ピィィ~~ッカ、チュウウウウゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
地面へ四肢を伸ばし、二足から四足へと立ち姿を変えたピカチュウは先程の物よりも力強く、体内の電気エネルギーを上昇させる。威力を高めに調整して電気ショックを放つつもりのようだ。この時、レッドと同じようにピカチュウもまたバリケードの攻撃を相殺せしめようと考えていた。
今、ピカチュウ自身が覚えている技の中で威力の高い技は『電気ショック』だ。タイプ的に効果がある『みずマシンガン』の方がいいのかもしれないが……おそらく単純なタイプ相性ではあの技を相殺する事は叶わない。
故に確率的には低いが……それでも、自身の技の中で威力が一番に高い電気ショックがいいだろうピカチュウは踏んだ。
そんな相棒に答えるように同じく『電気ショック』の指示を出したレッド。しかし彼はピカチュウのような考えは特に無く、ほぼ咄嗟の本能的判断で『電気ショック』を選択したに過ぎない。
過程は違えど、同一の結果となった両者の判断。だが……それはあまりにも失策だったと言わざる得なかった。
インフェル・ブラスターの威力はレッドとピカチュウの予測を大きく上回っていたのだ。その結果、電気ショックは容易く掻き消され、無残にもピカチュウの身体に直撃してしまう!!
「ビ、ビィィッカァァッッ!!!!」
「ピカチュウッ!」
攻撃を受けて紙のように軽く宙へ舞い上がり、そのまま地面へと落ちかけたピカチュウ。だがその寸前、上手く両腕でキャッチしたレッドはピカチュウの姿を見て戦慄した。
体中に焦げ跡のような火傷を負い、苦しそうに顔を歪ませている。
見ただけで分かった。今のピカチュウは『ひんし状態』。
つまり……この尋常ならざるバトルは『負け』へと確定したのだ。
「そ、そんな……」
「ふん。よくも梃子摺らせてくれたな。だが、もはやこれまでだ」
ギラリと。殺気の篭った視線を投げ掛けるバリケードはその自慢のクローの鉤爪で、レッドとピカチュウを始末する腹積もりのようだ。
その証拠にゆっくりと重量を感じさせる足音を鳴らし、彼等との距離を詰めつつ片腕のクローを横へ掲げている。
殺される!
複雑に考える必要性など何処にも無く、故にレッドは容易くその答えに辿り着いた。
自分の命が危機に晒される時、人間の本能且つ心理的な行動は『発狂』か『逃走』の二択。仮にレッドがピカチュウを囮に逃げ遂せたとしても、それでレッドを『最悪』と罵り断じる事はできない。
まったくもって未知の存在を相手にポケモンバトル以外で戦う術を持たない人間に対し、どうにかして戦って勝ってみろ、などと言われても到底無理な話だ。
だからこそ、未だ理性を保っていられているレッドの取るべき行動は『動けないピカチュウを置いての逃走』しかない。
「………小僧。それは何の真似だ?」
しかし、前述のこれらはあくまで『大抵の場合』だ。
多いだけで全ての人間がそうなるとは限らない。
今、レッドがバリケードの目前で取った行動こそがソレだ。ダメージでひんし状態に陥ってしまったピカチュウをゆっくりと丁寧に地面に寝かせ、そしてまるでピカチュウを庇うかのように前へ立つ。
その瞳に諦めや絶望など一切無く、あるのは戦う意志…すなわち『闘志』のみが宿っていた。
「……俺は、逃げない。絶対に」
「ほう。この期に及んで、あくまで楯突くか。だが随分と震えているな? それは恐怖からか? それとも武者震いか?」
「……ああ。怖いさ。情けないけど、かなりビビっている……けどなァ! それでもやらなきゃいけないんだよ!! 俺はポケモントレーナーになるんだ! トレーナーが大切なポケモンを置いて逃げるような、そんな真似……俺の目指すポケモントレーナーじゃねぇんだよッ
ッ!!」
レッドはポケモンが大好きだ。
だからこそ、ポケモントレーナーへの道を歩んだ。
他の3人もそうだ。ポケモンに対する『情熱』と『好意』、そして『友でありたい』と願う気持ちに嘘偽りは無い。
ここで自身がピカチュウを見捨てて逃げると言う選択肢を取れば……それは3人に対しては元より、他ならぬ自分自身を裏切る破目になる。
それだけは、あってはならない。やってはいけない。レッドが絶対に守るべき自らの信念であるが故に。
「ご立派だな。しかし所詮、下等な生物の垂らす戯言だ」
冷淡に。無機質に。一切の感情を篭らずに語ったバリケードの言葉は、何処までも残酷な響きだった。
そして、僅か5秒。
スピードに遅れは無い。たった秒数と言う時間の中でレッドの身体はバリケードのクローの一撃によってバラバラに解体され、その命は容易く消える。ここまで聞けばもはやレッドの命運は終わったも同然だと思うかもしれない。運命は決して彼を見放す事は無かった。
≪レッド。レッド・フレイム≫
それは、唐突にレッドの脳内に響き渡るようにして聞こえた。
大人の女性のような、あるいは無垢な子供に近くも、母性的で慈愛に満ちた『声』だった。
それを聞いた瞬間。レッドはまるで自分の身体を現実に置き去り、意識だけが現実のそれとは全く異なる別の場所へ移動すると言う、とても奇妙な感覚に襲われた。
今までに無く……強いて言えばそれは『夢のような』と表現する方が近いのかもしれない。しかし意識は朦朧と霞がかったものではなく、想像を絶するほどにクリアと言っていい。
夢にしては、はっきりと知覚でき過ぎているのだ。
そんな感覚に戸惑うレッドに対し、その声は問いを投げ掛けた。
≪貴方には、選択する自由がある。故に選ぶ時です≫
「え、選ぶ? 何を…」
レッドの問いに対し、偽りも憚りようも無く声は言う。
≪貴方はここで死すべき運命ではない。故に私は貴方を生かしますが、それによって分岐する二つの道を選ぶ必要があります。
一つは、授かるべき力を得てその使命を担う道。
もう一つは、力を得ずにこの先多くの試練を乗り越えていく道。
どちらも貴方には必要なものであり、同時に捨てなければいけないものでもあります。力を得て進むか……力を捨て進むか。全ては貴方自身の意志が決めるのです≫
言葉の一つ一つを逃さず、頭の中に綺麗に収めていくレッドの心中にはもう、当初の困惑という情念は跡形も無く消え去っていた。
既に答えは見出していた。
「『力』をくれ! このまま運良く生き残ったって、意味がねぇよ。仲間を助ける力を……あの訳のわかんねー位にヤバいのと戦う力を、俺に寄越してほしい!!」
必死の懇願は、他ならぬレッドの確固たる意志そのもの。
誰に言われるまでもなく、力を求めるその答えに声は微笑むように言った。
『ならば、授けましょう。しかし力とはいつ如何なる時と場でも責を伴います。選んだ以上…それを覚悟して下さい』
「おうよッ!」
≪……貴方は、本来ならば『力を授けられる事はなかった者』。完全なるイレギュラー。貴方と言う存在が何を齎すのか……私は見守っています≫
最後まで慈愛に満ちた声はそこで途絶え、レッドの意識は再び現実へと返還された
。
甲高い音が凄まじい衝撃と光と共に当たり一面に響き渡る。
まるで…何かの誕生を祝う獣の咆哮と称することもできれば、歯向かう者全てに滅びを約束する戦慄の歌声にも例えられるかもしれない。
いずれにしろ、それは『始まり』だった。
「!!ッ」
「こ、この光は……ッ!?」
バリケードの鉤爪は結局のところ、光とそこから解き放たれた衝撃波によってレッドを身を切り裂くこと叶わず、彼自身の身体を吹っ飛ばした。15mほどの距離の幅を強制的に作らされたバリケードは、怒りを滾らせるよりもいっそ困惑の方が大きかった。
その光は計り知れなかった。
遠い昔、かつて見た『オールスパーク』が放っていた神聖なる光。
自分がいかに矮小な者かと実感させられる程ひしひしとその強大さが金属の肌に叩きつけられるかのような、尋常ならざる感覚。それとまったく同じものがあの光からも感じられるのだ。
そして何より一番の驚きは……そんな途方も無いエネルギーを秘めた光をレッド・フレイムと言う、只1人の人間の少年がその左手の甲から発していると言う事実。
よく見てみれば、手の甲にはモンスターボールが炎を纏った様を象った不思議な紋章が刻まれており、やがて眩き光は純白のそれから炎を思わせる『赤』へと変わる。
その直後、レッドは叫ぶ。
「炎よ! 俺のピカチュウに力を!!」
それは決して考え出た言葉などではなく、ありえない位の直感という不確定要素に基づいて出された言葉だった。だがそれでも確かな意味を有していた。
灼熱を体現したかのような劫火が光を通じて顕現を果たし、さながらまるで光その物が火を噴いて燃焼している様に見えるだろう。だが
重要な部分はそこではなくその劫火はピカチュウめがけその身を包み込んでしまった。
傍から見て感じても尋常とは思えない熱をその身全てに受けてしまったピカチュウだが、不思議と無事そのものだった。
いや、むしろ瞬く間にバリケードによって与えられた傷が癒されていき、やがて炎が消え去った時には『ひんし状態』から『げんき状態』へとシフトチェンジを果たしていた。
「ピィッカァァッ!」
「ピカチュウ!」
危機的状況からの復活。これに誰よりも喜んだレッドは歓喜の声を上げる以外の術を知らず、理屈や他諸々など思考するエネルギーを子の場においてのみ捨て去り、ただ只パートナーであるトレーナーとしての喜びを噛み締めた。
「……そうか。そうだったのか」
しかし当然と言えば当然だが……それを許してくれる程に敵は甘くなど無い。
「よもや小僧が『プライムトレーナー』だったとはな。本当に運命の悪戯という不確定で非論理的な要素を感じせざる得ないな」
何処までも淡々と冷静で且つ、凄まじい怒りを底に隠しているかのような雰囲気と声音でバリケードは語る。更に『プライムトレーナー』という、またしても聞き慣れない言葉が出て来たがこの際レッドはそれを無視してバリケードに睨みを利かせる。
「ただの殺しが、『意味ある殺し』になった事を心から喜ぼう。無意味な殺しほど行使する価値無きものはないからな」
レッドにとってバリケードの言いたい事など一切分からないし、是が非でも分かりたいと願う気持ちなど一片たりとも存在しない。
そもそもバリケードという存在そのものが分かり難い存在である故、当然の理屈というものだろう。
だが……たった一つだけ理解できる事があった。
『こいつは自分とピカチュウの命を狙っている』、と言う明確な事実が存在することを。そう感じ思った直後レッドはチラ見する形でピカチュウへと視線を移した。
「ピカチュウ……お前も、本当はあんな風になれるんだろ?」
「!!ッ」
レッドの言葉にピカチュウは驚愕と罪悪感に染まった顔を作り出す。これを図星と受け取ったレッドだが決して責めるようには言わず、あくまでも自分の最初のパートナーたるピカチュウに信頼を感じさせる口調で言葉を続けた。
「このままじゃ、多分俺もお前も終わりだ。さっきみたいな奇跡っぽい事が二度も起きる可能性は低い……いや、間違いなく起きねーって何故だが知らねぇけどそう感じる。だから……お前の本気を見せてくれ。お前の本気の全力を引き出せる本当の姿ってやつをよ!」
レッドに嘘偽りなど微塵たりとも存在しない。故にその言葉は彼の心からの真実であり、ピカチュウもそれを悟った。
そして思った。自分はこの少年を騙していた。いくら『彼を守る為』と『正体がバレないようにする為』とは言え、このピカチュウとしての姿を用いて擬態する事でレッドの目を欺いてしまった。
だが結果的にレッドは自身の擬態を見破った。彼にしてみれば最初に選んだポケモンが『ポケモンの姿を借りた存在』に過ぎなかったという事実は驚愕と共にどうしようもない悪質な裏切りも同然の筈だ。
だが彼は…レッドはそれを非難し責め立てる事はなく、本当の姿を見せてくれと言ってのけた。
それは責める為ではなく、この場の窮地を脱する為という合理的な理由と純粋な好奇心としての見たさから来るものだった。
故に語ったレッドの表情は実にこの場の空気に似合わず晴れやかな笑顔だ。それを見てピカチュウは決心がついた。
『今こそ本当の姿になって、自分の相棒を……レッドを守り抜く!』と。
「バンブルビー、トランスフォーム!!」
それは紛れも無い人の言葉。この場においての人間であるレッドではない声の発信源は……レッドのピカチュウからだ。
声を合図にピカチュウの姿が瞬く間に変化する。肉体が右から左の順に分かれ後方へと移動。背中の部位と化し、胴体が開いた中から機械的な部位が飛び出す。そこから胴体。両腕。両足へと変形。
最後にピカチュウの頭部が形成された胸部へと埋め込まれるように一体化を果たす。ただバリケードのそれとは違い、こちらは頭の天辺と耳のみを出す形なので、ピカチュウの顔は無い。
そして最後に…ロボットのそれと断言できるほどに温和そうで同時に勇猛さと凛々しさを感じさせる顔が出現。
バリケードと同じく節々や胴体の一部に有機金属で構成された筋肉繊維が垣間見せるバイオチックなデザイン。元のピカチュウと同じ黄の体色をメインとしたロボット戦士が今、ここに顕現を果たした。
【キャラクター図鑑】
名前/バリケード
所属/ディセプティコン
役職名/監獄長兵
階級/ルヴァー(中等兵~上等兵に相当)
【解説】/ディセプティコンの法と秩序を取り締まる軍警察の最高責任者。同時に
ディセプティコンに歯向かう者、同所属でありながら脱走・法を犯した者を捕獲または処刑する役目を担う。
罪人や反逆者を甚振り、場合なら必要以上に惨い処刑方法を実行せしめる冷酷さを持つ一方で、女子供(捕獲・処刑対象は別)に対しては割と甘い所がある。
意外と部下思いでミスを犯した時は厳しい罰こそ与えるが、任務達成に意欲を見せる者に対しての援助や誠意、敬意は惜しまない。