マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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オルレアン4

 召喚サークルの確立後、わたしたちは改めて自己紹介をし合った。

 助勢に現れた二名のサーヴァントの真名は――

 フランス王妃、マリー・アントワネット。

 偉大なる音楽家、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。

 戦いの来歴がなくても英霊の座に至れるんだと、また一つ知らなかったことを知った。

 

 互いに、特にトラブルはなく、相手を受け入れた。特にジャンヌさんとマリーさんは、よい友人関係を築けそうだ。

 そして、情報の統合から、共闘の流れとなった。

 

 これからの方針として、わたしたちは話し合い、竜の魔女の支配下にないサーヴァントを探すことを採決した。

 ――聖杯戦争が始まっていないのに、すでに竜の魔女は聖杯を所持している。その因果の逆転に対抗すべく、マリーさんやアマデウスさんのようにカウンターとして召喚された「はぐれ」のサーヴァントがいる可能性が出て来たからである。

 

 今夜は召喚サークルを確立したこの森でキャンプをして、明日には出発する。

 

「見回りに行って来ます」

 

 わたしが盾を出して立ち上がると、リカが肩を小さく跳ね上げてから、小走りにわたしのそばに来た。わたしと一緒に行くつもり、らしい。

 

 目線で不安げにわたしを窺うリカに向けて、わたしは微笑んで見せた。上手く笑えていたらいいのだけど。

 

 ――二人で暗い獣道を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「リカ、疲れてない? 休まなくて大丈夫?」

「正直、ちょっと。でも()()平気です。……それに、その。い、一緒にいる人たちみんな、偉い人ばっかりで、ちょっと、気が引けて」

 

 ――納得した。ジャンヌさんたちが頼もしい味方であるのは確かだけど、彼女たちは「知り合って間もない他人」でもある。わたしがあの輪を外れたら、この子はひとり蚊帳の外……は言い過ぎかもしれないが。

 

 わたしはリカの髪を撫でた。なんとなくそうしないといけない気分になった。

 

 

“ディンドラン”

 

 

 ……呼んでいる。わたしの中の誰かが。大切なひとの名を口ずさむように……

 

 電子的なコールが意識を現実に引き戻した。――今、何を考えてたんだっけ、わたし?

 

《サーヴァントを探知した! それに付随して巨大な生体反応がある! 二人ともキャンプに引き返すんだ!》

「了解しました。リカ、ごめんね」

 

 わたしは盾を霊体化させて両腕にリカを抱え上げて、キャンプへ戻るべく走り出した。急を要するこの事態、二人して走るより、わたしがリカを抱えて全力疾走したほうが速い。

 

 キャンプの火の灯りが見えた。

 

「皆さん!!」

 

 わたしは焚き火をしていた窪地に駆け込んで、リカを下ろしてから盾を実体化させた。

 

「ちょうどいい所に帰ってきてくれた、マシュ。大物が来るぞ。――気が重いな。耳がいいのも考えものだ」

「この距離で分かるのですか?」

「もちろん。音楽家ってだけでサーヴァントになっただぜ? 大気を震わす波なら正確に聴き分ける。例えばキャンプの時の君たちの寝息とマリアの寝息。どれもきっちり堪能させてもらった。寝息だけじゃない。もっと細かな生体音まで、じっくりたっぷり、脳内記録(ヴォルフガングレコーダー)に録音済みさ」

 

 わたしはともかく、「君たち」と言ったからには、リカも?

 

「こ、の――セクハラサーヴァントぉぉぉぉ!!」

 

 盾を全力で振り上げて、全力でアマデウスさんに振り下ろした。避けられたけど。激昂したせいで狙いが甘くなってしまったようだ。

 

「ごめんなさい、マシュ。監督役として謝罪します。でも我慢してあげて? だって彼から耳を取り上げたら、変態性しか残らないのですもの!」

「それはそれでより最低かと!」

「せ、せいぱいっ」

「何を言っているんだか。生き物っていうのは活動するだけで汚いものだぞ。その真実と向き合って初めて音楽は完成する。人生とはこれ汚濁であり、これを洗浄する行為だ」

 

 生き物は汚い。カルデアでは教わらなかった知識だ。それは確かに、生体活動の中には不潔・不衛生な行為もあるけれど、活動の全てがそうだとは限らないのでは……

 

「さて。我が耳に届くは巨大飛行物体の襲来する前兆の大気の震えと、聖なる衣の衣擦れ」

 

 アマデウスさんの読みは正しかった。

 

 次の瞬間、嘘みたいに巨大な亀らしき生物が、森の木々を薙ぎ倒して、凄まじい地揺れを起こして着地した。

 

 わたしは揺れにふらついたリカを受け止めて、巨大な亀型生物を見据えた。

 わたしの盾でも防げるか怪しいけれど、片腕の中にリカがいる以上は、限界を超えてでも護ってみせる。

 

 巨大亀の肩から、白い人影が舞い降りた。

 一目で看破した。この女性はジャンヌさんと同じ「聖女」だ。

 

「こんばんは、皆様。寂しい夜ね」

 

 ジャンヌさんが旗を油断なく構えて前衛に出た。

 

「先輩――」

 

 リカがわたしの腕の中から出て、フォウさんを抱えて一歩下がった。わたしが動きやすいように配慮してくれたのだと分からないわたしではない。

 

 白い聖女は憂いを浮かべて語っている。

 

「最後に残った理性が、貴女たちを試すべきだと囁いている。貴女たちの前に立ちはだかるのは、究極の竜種に騎乗する災厄。私ごときを乗り越えられなければ、彼女を打ち倒せるはずがない。だから、私を倒しなさい」

 

 ――場違いな所感だが、すごい、と感じてしまった。この聖女は狂化されているのに、わたしたちに殺戮ではなく正しい試練を与えようとしている。

 

「我が名はマルタ。さあ、出番よ。大鉄甲竜タラスク!」

 

 控えていた巨亀が咆哮した。




今さらですが、リカの容姿はぐだ子です。髪が腰まで長いぐだ子をイメージして頂けると、のちのちピシャーン! と来ます。
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