マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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オルレアン11

 ジル・ド・レェの宝具「螺煙城教本(プレラーティーズ・スペルブック)」発動によって、大広間に大量召喚された、ヒトデ型をした海魔。その群れが四方八方からわたしたちに迫ってくる。

 

「ジャンヌさん! わたしが露払いに徹します! ジャンヌさんはジルとの決着を!」

「ありがとう、マシュ。後顧の憂いなく、ただ前へ――行きます! ジル!」

 

 粘液の跡を残しつつこちらに迫ってくるのが1…2…2体。わたしは盾の表面に魔力をコーティングして、2体の怪魔を殴り払った。

 

 露払いを引き受けたはいいが、正直、リカとフォウさんを護りつつ単騎戦は、わたしにはまだ早すぎる。

 ええい、ままよ。ここで、リカの前で、頼もしい姿を見せられないで何が「先輩」だ。

 

 そこで何の前触れもなく、大広間のドアが外から勢いよく開け放たれた。

 

「見つけた!」

「いきなり逃げ出すとは……っ」

「エリザベートさん、清姫さん! 来て早々すみませんが手伝ってください! ジャンヌさんとジル元帥の決闘をこいつらに邪魔させるわけにはいかないんです!」

「え!? アタシがいない内にメインステージ終わっちゃったの!? クライマックス突入しちゃったの!? 何それ聞いてなーい! ものすっごい急いで追ってきたのに~!」

「エリザベートったら。みっともない体たらくを晒すんじゃありません。それでも竜種の女なの?」

「むぅ~~」

 

 ……あれ? このお二人、実は仲がよろしい?

 

「ま、いいわ。要はコイツらまとめて挽いちゃえばいいんでしょ? 清姫! どっちが多く獲ったかで勝負しましょうよ!? アタシたちみたいのにはお似合いでしょ?」

「粗野な人。ですが趣向としては悪うございませんわ。乗りましょう。――さあ、たかが異界のクリーチャーふぜい。どちらの竜の牙に噛み砕かれとうございまして?」

 

 キュピイイイイイイイイイイィィィィ!!!!

 

 エリザベートさんは巨大槍を、清姫さんは鉄扇を手に、同時に怪魔の群れへと突撃した。

 

 これはわたしも負けていられない。彼女たちのフォローをしないと。ひいてはそれがジャンヌさんの決戦に貢献するはずだ。

 

 考えているそばから、清姫さんの背後に怪魔が迫っているのを、わたしは見咎めた。

 わたしは爆ぜるように駆け出し、その怪魔の個体を盾によるボディアタックで遠ざけ、撃破した。続く2体目も、盾をフルスイングして殴って沈黙させた。

 

 もうそれなりの数の海魔を撃破したと思うのだけど、怪魔の肉の壁は未だ健在。

 とにかく数が規格外。しかも、中途半端に斬り損じたら、分裂して個体を増やす。これじゃイタチごっこ。

 

仮想展開(ロード)人理の礎(カルデアス)!! ――これで怪魔はしばらくしのげます! 皆さん一旦集合、集合でーす!」

 

 エリザベートさん、清姫さん、無事離脱。後ろにいたリカもフォウさんを抱っこしてやって来た。よし、全員集合。

 

「いいですか? あの怪魔の群れを殲滅するには、一瞬にしてあれら全てを焼き払うだけの火力が必要です。あの群れを焼き尽くし、なお被害はこの城に押さえる。お二人には、そんな宝具はありますか?」

「アタシの宝具は全体攻撃だけど、味方もろともらしいのよね。おかしいなあ。アタシの歌は、敵には強力なソニックウェーブでも、味方には激励ソングに聴こえるはずなのに」

「…………………………………………………」

「清姫さん?」

「この広間の中のバケモノどもを殲滅すればよろしいのでしょう? でしたらわたくし、できましてよ」

 

 え……ええええええ!?!?

 

「お若いマスターさん。小指を出してくださいませ」

 

 リカはおずおずと右手の小指を立てて清姫に差し出した。対し清姫は、彼女自身も左手の小指を上げて、リカと指切りをした。

 

「ゆーびきーりげんまん。うそついたらはりせんぼんのーます。ゆびきった。――はい。これで仮契約は完了です。改めてマスター。わたくしに魔力をありったけ回してくださいまし。有象無象を間引きます」

「は、い。『清姫さん。ここにいる海魔を全滅させてください!』」

 

 リカの右手の甲から令呪の一画が消えた。

 

 清姫さんが立ち上がって、守護円陣の範囲外に出た。

 

 ――その、転身。骨が折れては接着する。肉が盛り上がっては弾けて鱗へ変わる。白い和装束は裂け散って、やんごとなき姫の面影は失せた。そこに出現したのは、ワイバーンの巨躯にも届かんばかりの白い大蛇。

 

『転身――――火生三昧ッッ!!』

 

 大蛇が清姫さんの声で叫び、口から火を噴いた。壁の隅のホコリをこそげ落とすように、蛇の清姫さんの火炎放射で、壁際に追いやられていた海魔は次々と黒炭へと変わって、皆消えていった――

 

 

 

 

 わたしは守護円陣を解除した。

 

 もう海魔の脅威はない。わたしたちにできることは、ジャンヌさんの決戦を見届けるくらいだ。

 いえ、一番大事なことがあった。着物を装い直している清姫さんにお礼を言わないと。

 

「清姫さん。ありがとうございました。あなたのおかげです」

「あ、ありがとう……ござい、ました!」

「フォフォウ!」

 

 一呼吸分の、間。

 

「――あなた方。一つ答えてください。どうかこの質問に嘘はおつきなさいませんよう。――わたくしは、醜いですか?」

「そんなっ。とても頼もしかったです」

「妖怪大戦争みたいでかっこよかったです!」

 

 清姫さんはきょとんとした様子だったが、やがて鉄扇で口元を覆ってコロコロと笑い出した。ご満足頂ける回答だったと思って、いいのかな?

 

 大きな打撃音があった。わたしは急いで奥をふり返った。

 

 ――床に大の字に倒れたジル。そのジルに旗の石附を突きつけたジャンヌさん。

 

「ジル。もういいんです。もう大丈夫です」

 

 ジャンヌさんの瞳に、やはり、迷いや揺らぎはない。

 

「休みなさい。貴方はよくやってくれた。右も左も分からぬ小娘を信じて、この街の解放まで。私はあの時の貴方を信じている。――大丈夫。私は最後の最後まで決して後悔しません。私の屍が、誰かの道へ繋がっている。ただ……それだけで、よかったんです」

「……ジャンヌ。地獄に堕ちるのは、私だけで――――」

 

 キャスター・ジル・ド・レェが粒子化して消滅した。肉体と精神と仮初めの魂の三位が滅ぶ刹那まで、ただジャンヌ・ダルクに幸あれと願いながら――

 

 

 

 

 

 通信端末のコールが鳴った。

 

《聖杯の回収を完了した! これより時代の修正が始まるぞ! レイシフト準備は整っている。すぐにでも帰還してくれ》

「はい、ドクター」

「了解しました」

 

 リカが通信端末を切ると、ジャンヌさんが間髪入れずわたしたちに声をかけた。

 

「もう、行かれるのですか?」

 

 首肯した。この時代この国で、わたしたちカルデアは成すべき任務を完遂した。

 

「そうなの? ふぅん……まあ、目的は果たしたし良しとするわ。じゃあね、子ジカに子ウサギ。悪くない戦いぶりだったわよ」

 

 エリザベートさんの肉体が粒子化して消滅し、

 

「袖振り合うも他生の縁。貴女がたとの共闘は胸ときめくものでしたが――ああ、また安珍様の背中が遠くなってしまいました。寄り道が過ぎましたわ。すぐに追いかけませんと。わたくし、これにてお暇致しますね」

 

 次に、清姫さんの肉体が同じく粒子化して消失した。

 

 きっと城の外で、ジークフリートさんにゲオルギウスさん、アマデウスさんも“座”に還っていっただろう。

 

「リカさん。マシュさん。おそらく、こうしてお二人と出逢ったことも、戦ったことも、失った命すら、『無かったこと』になるのでしょうね。私はそれが、少し悲しい。でもいつか、また違う形で巡り会えるなら―――さようなら。そして、ありがとう。全てが虚空の彼方に消え去るとしても。残るものが、きっと―――」

 

 ――意識が引力へ。レイシフトの波が迫っている。

 ――わたしはリカに手を差し出した。リカは、はにかんでわたしと手を繋いだ。

 

 ――意識が意味を消失する―――

 

 次に目を開けた時、わたしたちはコフィンの中から青い管制室に戻っているはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 青い中央管制室。

 コフィンから出たわたしたちを一番に迎えたのは、ドクター・ロマンだった。

 

「おかえり、マシュ、リカ君。お疲れ様」

 

 閉鎖的な寒色の広い管制室にあって、今この時、ドクターの笑顔が眩しい。

 

「初のグランドオーダーはキミたちのおかげで無事遂行された。―――うん、本当によくやってくれた。補給物資も乏しい、人員もいない、そして実験段階のレイシフトという最悪の状況で、キミたちは最高の成果を出してくれた。15世紀フランスの修正は完璧だ! キミたちは七つの内の一つをあるべき人類史に戻したんだ!」

 

 ああ、そうか。

 わたしたち、やれたんだ。達成したんだ。ほんの一歩だけど、確かに世界を一つ救えたんだ。今さらになって実感が込み上げてきた。

 

「管制スタッフ、起立!」

 

 コンソールとそれぞれに向き合っていたスタッフさんたちが、一糸乱れぬ動きで立ち上がると、わたしたちを見た。人生初の大注目。

 

「生き残った全カルデアを代表して、ボクらから感謝を。キミたちはもう一人前の、ボクらカルデアが誇る、新しいマスターとサーヴァントだ!」

 

 拍手が沸いた。スタッフはそれほど多いわけじゃないけれど、きっと、何万人もの人から貰う拍手より、胸に染みた。

 隣のリカを見ると、この子も慣れてないみたいで、困った顔でわたしを見上げてきた。

 

 ――でも、よかった。上手くやれて、本当によかった。

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