マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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前回字数を上げる宣言をしておきながら今回はいつもより短めですorz


セプテム4

 ガリアの野営地。兵士たちがそれぞれの夕べに入る時刻。

 わたしは一人、リカやブーディカ女王を待って佇んでいた。手に、即席の入浴セットを持って。

 

 これはですね、そのですね。ブーディカさんが、夕飯をご馳走する前に、女性陣みんなでお風呂に入ろうとおっしゃって、わたしもリカも強く反対することができずこういう運びになったからでして。

 

「マシュ! お待たせ~」

 

 ブーディカさんの元気いっぱいの声に、そちらを見やった。

 

 ブーディカさんと、後ろには(肩にフォウさんを乗せた)リカが、わたしと似たり寄ったりの入浴セットを持って、わたしと合流した所だった。

 

 ……リカのまとうオーラは一目見て分かるほどに昏い。このまま逃げたい、と顔に書いてあるよ、リカ。

 

「リカってば、夜に一人でこっそり入りたいって言うもんだからさ。使い方が分からないし、灯りもなくて危ないからって言って聞かせるの苦労したよ~。ささ、二人とも行こうか」

 

 ブーディカさんがわたしとリカの背中をぐいぐいと押した。

 

 

 連れて行かれた先の建物の中に入って、入浴設備を見たわたしたちは、ぽかんと大口を開けてしまった。

 

 上質な石材を削って水漏れの隙なく繋げた大浴場。

 湯船に散らされるは真紅の薔薇の花びら。

 隅には、香油と髪油の小壺が数種ずつと、櫛とヤスリ。さらにはガラスの酒器が添えられていた。

 

 圧倒されていたわたしを、通信端末のコール音が現実に戻してくれた。

 

《マシュ。キミたちの入浴中は、こっちの映像・音声共にオフにするから、上がったらそっちから連絡してくれ》

「了解しました。お気遣いありがとうございます、ドクター」

《どういたしまして。ごゆっくり》

 

 通信が切れた。

 わたしは通信端末を腕から外した。

 

 ブーディカさんはすでに浴室の端っこで服を脱いでは、並んだ籠に落としている。脱衣はああいうふうにするらしい。

 わたしも真似をして、ブーディカさんの横へ行って服を脱ぎ始めた。甲冑とはいえ、下地はライダースーツに近いから、あちこち外すのに苦労した。

 

 わたしも裸のブーディカさんに続いて湯船に入った――まではよかったんだけど。

 

 リカだ。あの子は一向に服を脱ごうとしない。制服の着脱に困ってる、わけはないよね。1年の訓練期間中はずっとそれ着てたんだから。

 

 リカはあちこちに目を泳がせた。

 やがて唇をきゅっと結ぶと、リカは強張った手付きで、制服のサスペンダーを外して、上の服を脱いだ。

 次に、意を決したように、スカートのファスナーを下ろして脱ぎ落した。

 

 ……何だろう。これじゃわたしがリカにひどい辱めを与えているみたいだ。

 

 そんな複雑な心境は、リカがキャミソールとレギンズを脱いで裸体を晒した瞬間、霧散した。

 

 リカの全身は傷だらけだった。

 正確には傷痕だらけと言うべきか。細かな裂傷から火傷、打撲痕まで、あちこちに多様な古傷がある。

 

「……すいません。見苦しい、ですよね」

「そ、んなことは」

「いいんです! 慣れて、ますから」

 

 リカはぎこちなく笑ってから、湯殿につかった。

 

 リカは湯の中で膝を強く抱えて縮こまった。体をほぐすための入浴で、そんなに体を緊張させて……そんな姿を見せられたら、わたしも、何かしないではいられない。

 

 お湯を掻き分けながら四つん這いでリカのもとへ。わたしは、面食らうリカの横に座って、ぴっとりリカと腕同士をくっつけた。

 

「せん、ぱい」

「大丈夫だから」

「……醜く、ないんですか? うえっ、って言って顔逸らしていいんですよ?」

 

 そういうことを言うってことは、過去に他人からそういう仕打ちをされたことがあるのね……

 

 ここで「そんなことない。綺麗」と言ってあげるのは簡単だけど、リカはその言葉を素直に受け取るまい。だから、言わない。この子がもっと、わたしの言葉を無条件に信じてくれるくらいになるまでは、その言葉は取っておく。

 

「先輩、なんだか綺麗で……ドキドキ、します。でも……もうちょっとだけ、このままでいて、いい、ですか……?」

 

 よいですとも。少なくとも先輩のほうは大歓迎です。

 

 適温のお湯が剥き出しの素肌を温める。ここまでの旅の垢も流れ出していきそうだ。

 道具の見聞をしたり、実際に使ってみたり(さすがに飲酒はブーディカさんに止められたけれど)。

 わたしにとって温泉や公共浴場に入るのはこれが初めてだけど、思いがけず贅沢な初体験になった。

 

 

 ようやく落ち着いた所で、ブーディカさんからガリアの戦況を伺った。

 

「ガリアは今、大半が連合の支配下だ。あたしたちでも攻めきれない」

 

 ブーディカさんは、下ろした赤毛を水面に泳がせるまま、それに櫛を通している。束ね上げた彼女の赤毛は、そうは見えなかっただけで、実は大変長かった。

 

「ガリアの支配者、『皇帝』の一人。あいつは強い。精神も肉体も贅肉ひとつない、ちょっと見た目と性能がかけ離れた英傑よ」

 

 ――この言葉に対し、わたしはのちに「うそつきー!」と心中で絶叫することとなる。

 

「ブーディカさん。その偽『皇帝』の正体はすでにご存じなのですか?」

「うん。多分、誰でも一回は聞いたことあるんじゃないかな。奴はセイバーのサーヴァント。真名は――ユリウス・ガイウス・カエサル」




はいココ! リカの古傷! ココ、伏線ですからね! 重・要!
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