マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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航海-誉れ堅き雪花の壁-
オケアノス1


 いつになれば、誰が、あたしのために、あたしに優しくしてくれるの?

 

 ……………

 

 ……

 

 …

 

 今日も同じ時間に目を覚ます。

 体温を感じる。柔肌を感じる。深呼吸をして、目覚めれば必ず見ると信じられるようになった後輩の寝顔を確認する。

 わたしは今日もリカと寄り添って朝を迎えた。

 

 グランドオーダー出発の朝は必ずわたしが先に目を覚ます。そして。

 

「フォーウ」

「はい。おはよう、フォウさん」

 

 二番目にわたしたちのベッドの足元で寝ているフォウさんが起きて、リカのほっぺたを舐めて起こすのが定着したパターンだ。

 

「んぁ……おはよーございます、マシュ先輩」

「おはよう、リカ」

 

 リカとは敬語を使わず話すのにも慣れてきた。

 

 さあ、まずは朝のシャワーと身繕いだ。それが終わったら朝食を頂きに行って、いつものブリーフィングに出席しよう。

 

 

 

 

 リカと二人で中央管制室に入ると、やっぱり一番にドクター・ロマンが出迎えてくれた。

 

「おはよう、諸君。昨夜はよく眠れたかな? うん、実はボク、あんまり眠れてない」

 

 そうでしょうとも。

 

 ――わたしたちはレフ・ライノールを倒し、第二の聖杯を回収した。

 字面はいいけど、疑問は増える一方だ。

 あの肉の柱は何なのか? 七十二柱の魔神を名乗るアレは何なのか?

 そこを解析するための時間も設備も足りないのが、一度は大破したカルデア館内の現状である。

 

 ふと、リカがわたしのパーカーを小さく摘まんだ。

 

「先輩。七十二柱の悪魔って、何ですか?」

「私がお答えしよう!」

 

 突然のダ・ヴィンチちゃんの上機嫌な登場に、リカがびっくりしてわたしの後ろに隠れてしまった。

 わたしは役得なのでいいのですが、あまりリカを脅かさないでください。

 

「それは古代イスラエルの王にして、魔術世界最大にして最高の召喚術士! 彼が使役する使い魔こそ、その名も高き七十二柱の魔神たちってワケなのさ!」

 

 ダ・ヴィンチちゃんとドクターが、それぞれ七十二柱の魔神とその主の王について議論を戦わせ始めた。レイシフトまでちょっと待とう。

 

 ――すみっこでリカと二人、手持無沙汰に待つこと10分。

 

「さ、それより今は当面の課題。三つ目の聖杯入手の話をしよう」

 

 戻っておいで、とドクターの手招き。

 わたしたちは改めてドクターとダ・ヴィンチちゃんの輪に加わった。

 

「唐突だがリカ君、キミ、船酔いする?」

 

 リカは首を横に振った。しない、の答え方だ。

 

 そのリカの肩に載っていたフォウさんが意気軒昂な声を上げた。

 

「おや。今回もフォウは行くつもりなのかい」

「ンキュ」

「だめ、ですか?」

「ふむ。ゲンを担ぐわけじゃないが、フォウがいるとリカ君の精神状態が安定する。レイシフト先は常に新天地だ。馴染みのものは多いほうがいい。遠慮なく連れて行きなさい」

 

 リカはぱっと顔を輝かせて、フォウさんを抱っこした。

 ……これはリカをフォウさんに取られたと思うべきか、フォウさんをリカに取られたと思うべきか。実に悩ましい案件だ。

 

「今回は1573年。場所は、見渡す限りの大海原だ」

「海、ですか」

 

 ドクターの説明によると――

 1573年は特異点を中心に地形が変化しているらしい。第一オーダーのフランス、第二オーダーのローマ帝国というふうに、具体的に「ここ」という地域が決まっているわけではない。海域にある陸地は点在している島だけ。

 

「ドクター。それはつまり、レイシフトの到着点が海のど真ん中ということもありうるのですか?」

「ああ、それは心配ない。こちらでレイシフトの条件を設定しておく」

「いざって時は、はいこれ。私が作ったゴム製の浮き輪。万が一の時はこれでピンチを凌ぐといい」

「ど、どうもです」

 

 リカ。恐縮して受け取らなくていいから。そもそもその浮き輪、コフィンの中に入るサイズじゃないから。

 

 

 

 

 

 ――確かにですね。

 海の上にレイシフトすることはなかった。無人島に降りてレイシフト・ロビンソンをやるハメにもならなかった。ドクターが配慮してくれたのは分かる。分かるのよ。

 

「よく分からねえが……野郎ども、やっちまえ!」

 

 わたしたちは現在、海賊船の上にいます。

 

「やはりドクター・ロマンには何らかのお仕置きが必要です!」

《ごめん、悪気はなかったんだよぅ!》

 

 なるべく壁寄りに陣取って、後ろからの包囲を回避。かつ、フォウさんを抱っこしたリカは背中に庇って、わたしはいつも通り盾を構えて飛び出した。

 

 敵は海賊とはいえ生身の人間。リカの安全を脅かさない限りは、なるべく峰打ちに留めなければ。いたずらに船員を減らして船が動かせなくなったら、わたしたちまで海上で立ち往生だ。

 

 ――そんな運びで(わたしにとっては)軽い戦闘後、船員全員がこちらに向かって這いつくばって頭を下げた。

 

『『『すいませんでした』』』

 

 おお、これが世界に名立たるジャパニーズDO・GE・ZAですか。

 

 うーむ。ちょっと心苦しいし、こういう荒事はあまり好きじゃないんだけど、事態が事態。強引に尋問しよう。

 

「どなたか。この海がどこで、どういう状況なのか説明していただけますか?」

「いやあ、それが俺たちにもさっぱりでよぉ。気づいたらこの辺りに漂流してたんでさ。羅針盤も地図もまるっきり役に立たねえし。もう何が何だかわからなくなったら、ほら、目の前の獲物を襲うしかねえだろ? 海賊の習慣として」

 

 海賊は自分たちの安全が確保されていなくても、場の勢いとノリで他人を襲う人種である。よし、覚えた。

 

「この近くに海賊島があるって同業に聞いたんで。食糧も水も乏しくなってきたんで、ひとまずそこを当たろうと」

「海賊島っていうと、やっぱり、海賊がたくさんいるんでしょうか……」

《とりあえず手がかりらしい手がかりがない以上、そこへ進むしかないか》

 

 ですよね。このまま海上を漂流するわけにもいかない。

 

「では皆さん。勝者の権利を行使します。その海賊島に向けて舵を取ってください」

「アイ、アイ、サー!」

「アイ、アイ、マムです!」

 

 わたしの一喝を受けて、海賊たちが慌ただしく船を動かし始めた。

 

「先輩、かっこいー……」

 

 リカから拍手とキラキラした眼差しをゲット。

 当然です。だってわたしはリカの「先輩」なんですから。

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