マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった 作:あんだるしあ(活動終了)
わたしとリカとフォウさんは、当地の海賊船の一団と共に、
陸でも元気な海賊の皆さんと(肉体)言語的に交渉し、成功したわたしは、この島で最も状況を把握しているという人物との面会を先方に取り付けることに成功した。
その人物というのが――フランシス・ドレイクである。
「へっへっへ、テメエたちはもうおしまいさ。ドレイク姐御の手にかかればテメエらなんか……」
《何でいちいち三下口調何だろう、この人?》
《いつの時代でもキャラ立ては重要だってこと。憧れの美女に体を作り替えるとか普通だって》
《すまないがダ・ヴィンチちゃんは工房に籠もっててくれないかな!?》
通信の向こうでのドクター・ロマンとダ・ヴィンチちゃんの言い合いは気にしない。
わたしはというと、案内役の海賊の一人がフォウさんをつつこうとしたので、フォウさんをすぐさま確保してリカにパスしたところである。
「ところで、先輩。フランシス・ドレイクってどういう人、なんでしょうか?」
「要約すると、世界で初めて世界一周を成し遂げた航海者ってとこかな」
「あれ? マゼランじゃなかったですっけ?」
「ああ、それはね。確かにマゼランも世界一周に出航しているけれど、一周しきる前にマゼラン本人が没したの。世界を回って帰ってきたのは残ったマゼランの部下たち。でもドレイクは違う。ドレイク本人が大英帝国に生還してるから、史上初の、生きたまま世界一周を成し遂げた、に繋がるの」
リカはフォウさんと同じ角度で、首を二度縦に振った。納得した、のジェスチャーだ。
「その活躍で大英帝国は富を得て、世界の海を制覇していた“沈まぬ太陽”スペインを撃破することになる。フランシス・ドレイクなくしてのちの大英帝国の繁栄はないわ。ただ、海賊は海賊。これまで遭遇した海賊の生態から推測するに、大食漢で大巨人、樽を片手で掴んで一気飲みするような豪傑だとしても決しておかしくは――」
と、話している内に、そのドレイクがいるというアジトに着いたようだ。わたしはリカより前に出て、いかなる巨漢が出てきてもリカが怯えないように身構えた。さあ、来なさい。わたしも怖いんじゃないの? なんて、もっともな指摘は面会謝絶です!
「こりゃまた…………ずいぶん奇天烈なのを連れてきたね、ボンベ」
――――どなたですか? この、ナイスバディな女海賊さんは。
「へえ。でも見所はあるッスよ。アッシらの命を助けたばかりか、憧れの船長に会いたいとか何とか。さっきから船長は偉大な人物だとか、スペイン海軍なんざドレイクの手にかかれば一息だとか、ラム酒をタルごと一気飲みする豪傑だとか、すげえアゲようで」
「はあ~!? なんだいそりゃ。そこまでの悪事はまだ働いてないよアタシゃ!?」
まだ、と言わなかったか。この人物、まだ、と。つまり今後は働く予定があるのか。
驚き冷めやらず指摘できなかったが、わたしの後ろにいるリカのほうはあまり驚いていないようだった。
「だってあの人ずっと『姐御』って呼んでたから、女の人なんだなあ、って思ったんですけど……」
よし。今後はわたしももう少し人の話を耳聡く聞こう。
気を取り直して、と。
「あなたがフランシス・ドレイク船長ですね? わたしはカルデアという機関に所属するマシュ・キリエライトといいます。こちらはわたしの後輩でマスターの」
「リカ……です。こ、こんにちは、船長さん」
「カルデアぁ? 星見屋が何の用だい? 新しい星図でも売りつけに来たとか?」
《うわっ、意外に博識だぞこの酔っ払い! カルデアの起源を知ってるとか》
「……なーんか薄っぺらい気配がするねぇ。アタシが一番嫌いな、弱気で、悲観主義で、根性なしで、そのクセ根っからの善人みたいなチキンのニオイだ」
「先輩。この船長さんの耳と分析、完璧です!」
通信の向こうでドクターがしょぼーんとした気配が伝わったけど、特に気にしない方向で。
「それで? カルデアとやらはアタシに何の用だい?」
「わたしたちは、この時代の異常事態を修正するため、さる場所から送られた者です。フランシス・ドレイク船長。聡明なあなたなら気づいているのではないですか? あなた方が過ごした海と、今広がっている海は別のモノだと」
「……ふうん。海の話をされちゃあ無視できない。確かにアタシもおかしいとは思っていた。だがね、その『おかしい』は異常って意味じゃない。こんなに面白おかしい世界は他にないってことさ!」
酔いどれ海賊の皆さんから拍手喝采が上がった。
「ヒャッハー!」
「姐さん最高ーっ!」
「無限に湧き出るラム酒うめぇー!」
「と、いうワケだ。アタシたち海賊は自由のためならあらゆる悪徳を許容するんでね」
リカと顔を見合わせた。お互いに困惑するしかない。
――世界の異常までも「面白いから」で放置できるドレイク船長の感性がわたしには理解できなくて、理解できないものをどう説得すればいいかなんてもっと分かるはずもない。
「どうしてもアタシと話をしたいってんなら、まずは力試しと行こうじゃないか! アタシゃ派手に酔っ払ってるからね、派手な酔い覚ましをしておくれ!」
自由にも程がありませんか!? ああ、本当に拳銃を抜いた、引鉄に指をかけた!?
「う、後ろにいて、リカ! 流れ弾があるかもしれないから! できるだけぴったりわたしの背中にくっついててね!」
「はい先輩っ」
「フォウ!」
強かった。一戦交えての、てらいなき所感である。
ドクターは「ドレイク船長から魔力の反応がある」と言って精査に入ったので、その辺は報告待ちである。
銃弾が掠めて擦り傷になった肌をリカが治癒してくれてから、ようやく人心地ついた。本音を言うならこのまましゃがみ込んで深呼吸したい。
それに比べて、ドレイク船長の堂々とした様は崩れていない。勝ったのはわたしなのに、まるで彼女が勝者であるかのように錯覚してしまいそう。
「アタシの負けさね。煮るなり焼くなり好きにしな。でもまあ、見た感じ、足が欲しいってとこじゃないかい? アンタらは探し物があるが、この海に不慣れだ。なんで、海賊だろうがアタシを頼るしかないってわけだ」
「大まかにおっしゃる通りですが、あなたが海賊であるかは問題になりません。フランシス・ドレイク、あなたの力が必要なのです」
「……ふーん。へーえ。そうなんだ。で? 具体的には? アタシは負けたんだ。命以外は差し出すよ」
その言質があれば充分だ。
わたしは事情の擦り合わせに入るべく、ドレイク船長と質疑応答を開始した。