マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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オケアノス3

 黄昏時。

 海賊三昧のどんちゃん騒ぎは収まらず、わたしたちの周りで今なお続いている。

 

 祝いの席だからと、わたしもリカもジョッキを渡されたけれど、二人して口を付けてはいない。何せわたしたちは未成年だ。お酒は二十歳になってから。いかに周りで酒盛りをしようと、雰囲気に流されて飲むようなことは断じてしません。

 

「それじゃあ、野郎ども! 新たに仲間になったマシュとリカに――あ、逆だ。新たにマシュとリカの仲間になったアタシたちに、乾杯!!」

 

 

 ――意外にも、と言うと失礼だが、ドレイク船長はきちんとこの海の異常さを把握していた。嵐の海でサーヴァントらしき存在と会敵し、あまつさえ戦ったとも言った。

 

「で、アタシたちは明日にでも新たな船旅に出ようとしてたとこさ。海賊が陸に上がったままじゃあ、締まりがない。で、今日はその前夜祭だったんだがねえ。アンタたちが乱入してきたワケ」

 

 言って、ドレイク船長はジョッキからラム酒を煽った。

 

「お、お邪魔してすみません」

「なあに、アンタたちはそれこそ吉兆さ! 見た所、そっちのアンタも砲弾の一発や二発なんとかなるんだろ?」

 

 砲弾、砲弾か……試したことはないが、多分、この盾なら防げる。……あれ?

 

「あの、それを承知でなぜ襲ってきたのですか?」

「あっはっは! そりゃあアンタ、面白そうだからに決まってるだろ」

 

 困った。この海賊女王の価値判断基準、さっぱり分からない。

 

「で、アンタたち二人、どっちがキャプテン?」

 

 リカと顔を見合わせてから、一拍、わたしが低めに挙手せざるをえなかった。

 だって、わたしはリカの「先輩」だから。リカもほら、苦笑しながらわたしを両手で指し示している。

 

 そんなわたしたちを見て、ドレイク船長は懐から取り出した何かで、わたしのジョッキにラム酒を注いだ。――――懐、とはいったが、正確には彼女の豊かな乳房の間からである。

 

「フォーーーーーーーーウ!?」

「そら、飲みな! キャプテン同士、仲良くしようじゃないか!」

 

 わたしは呆気に取られて、ドレイク船長が手にした「それ」を凝視した。

 ――今までに見た金の四角錘じゃなくて、ちゃんとゴブレットの形状をした、小さな杯。わたしの見間違いじゃない。あれは聖杯だ!

 

「船長! それはどういった経緯で手に入れた品ですか!?」

「お、コイツに目を着けるとはお目が高い。金で出来たジョッキなんて悪趣味だが、コイツは別さ。汲めども尽きない酒。テーブルに置けばあら不思議、肉と魚がドカドカ盛られていきやがる。たまたま拾ったもんだけど、こんなご機嫌なお宝は他にないんじゃないかねえ」

 

 すると、赤ら顔の海賊の何人かが真顔に戻って抗議した。

 

「何言ってんですか姐さん、とんでもない大冒険だったっスよ!」

「いつまでも明けない七つの夜。海という海に現れた破滅の大渦。そしてメイルシュトルムの中から現れた、幻の沈没都市アトランティス!」

「『時は来た。オリンポス十二神の名の下に、今一度、大洪水を起こし文明を一掃する也』とか騒いでたデカブツを相手に大立ち回りして、お宝を奪った姐さんはこー……」

「何かの間違いに違いねえんですけど、サクッと世界を救った英雄だったんじゃないですかね!?」

「さすが我らが姐さん、幸運と悪運にしか縁のない女! こりゃもう死ぬまで独身ッス!」

「いやあ、新しい仲間も出来て酒が美味い! だがボンベはあとで樽に詰めて潜水な!」

 

 信じられないことに、ドレイク船長も海賊さんたちも、誰一人嘘をついていない。

 

 この時代は、わたしたちが来る前に人理定礎が崩壊しかけていたんだ。

 それを、何も知らないドレイク船長がノリと気分で解決した。

 結果としてあの聖杯は、この時代を救ったドレイク船長を所有者に選んだ。乳房、というか、体に出たり入ったりするのはきっとそのせいだ。正当な持ち主なんだから、収納自在くらい当たり前だ。

 

「ドクター、ドクター!」

《ああ、はいはい何だい? ちょっと待ってくれよ。探査プログラムの調子が悪いんだ。なぜかキミたちの目の前に聖杯があることになってる》

「合ってます! あります、聖杯! 目の前に!」

《何だとぅ!?》

 

 わたしは自分のジョッキを置いて、ドレイク船長に対して身を乗り出し、わたしたちの「探し物」こそその金のジョッキなのだと何とか訴えた。わたし自身も混乱していたから、説明が前後してしまい、夜まで時間を費やしてしまった。

 

 

 

 

「するってえと、何かい? アンタたちはこの魔法のジョッキを回収しに来たって? ふーん。まあ、命以外はくれてやるって言ったしね。ほいよ、受け取りな」

 

 ドレイク船長がポイっと投げた聖杯を、わたしは慌ててキャッチした。

 

「――ドクター。聖杯が譲渡されました。変化はありますか?」

《特になし。時代のボルトは外れたままだ》

 

 ですよね。

 

 ドクターによると、「これ」が聖杯として機能しているのは確かだとのこと。でも、わたしたちが巡ってきた聖杯とは異なる。つまり、これは聖杯と呼んで差しつかえないものの、わたしたちが知る「聖杯」とはよく似た別物。二つの聖杯が拮抗しているから、この時代は崩れない代わりに、元にも戻らない、と。

 

「まーた妙な声が聴こえた。こびとでも飼ってんのかい?」

「ドクターは、そうですね……遠く離れた街から話しかけてくる、不思議な妖精さんだと思ってください」

「アンタらに戦わせて、自分は家で寛いでるって寸法かい」

 

 するとここで、ずっと黙っていたリカが口を開いた。

 

「ドクター、寛いでなんか、ないです」

《――――リカ君》

「すいません……」

 

 あ、うん。確かにドクター・ロマンの情報支援あってこそ、わたしたちがこうして動けているのは知っている。管制の内容が内容だから、忘れがちなだけで。

 

「で、結局、アンタらの目的は達成された?」

「いえ。もう一つ、この時代にあってはならない聖杯があります。それを回収しなければ、海は永遠にこのままです」

「……本気かい?」

「はい。ですので」

 

 わたしは両手で黄金のゴブレットをドレイク船長に差し出した。

 

「こちらはお返しします。これはあなたが持つべき物です」

「こ、こりゃご丁寧にどうも。……はあ。お宝をあっさり渡すのも初めてだけど、あっさり返されたのも初めてだねえ……」

 

 さて。ここからどうするべきか。わたしはカルデアのドクターに助言を求めてみたが、返信したのはダ・ヴィンチちゃんだった。

 

 ダ・ヴィンチちゃんはドレイク船長といくつか問答をした。ドレイク船長に改めて現状の危険がどういうものか伝えて、もう一度、わたしたちへの協力を促した。……ドレイク船長がダ・ヴィンチちゃんことレオナルド・ダ・ヴィンチの名を知らなかったことについては、ご愁傷様ですとしか言いようがなかった。

 

「となると、財宝も何もあったもんじゃないのかねえ」

《いや、ある! あると思うよ、ボクは!》

 

 今度の返信はドクターからだが、ドクター、妙にハイテンション?

 

《この世界、この時代は“海賊”がいて当たり前のご時世だ。大航海時代とは世界を一回り大きく広げた不可避の出来事。未知の海、見果てぬ水平線の向こうに、星の開拓者たちは夢を託したんだ。つまり“そういった思念”が集結している。財宝があったとしても不思議じゃない!》

「要するにあるんだね!? 船に積めないほどの金銀や香辛料が!」

《うむ。ドクター・ロマンが保証しよう。財宝は、間違いなくある!》

「燃えてきた、燃えてきたよ! よーしアホウども、まずはしこたま呑むよ! 明日からの航海はこれまでにない無理難題だ。生きて帰れる保証はないから、一生分呑んでおきな!」

『『『乾杯!!』』』

 

 って、また呑むんですか!? もー、ドクターのせいですからね!

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