マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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原作なぞるだけになった…orz


オケアノス6

 わたしたちは再び歩き出して、平原を突っ切った。

 

 進めば進むほど平原は荒野の様相に変わっていく。ドレイクさんは「殺風景」と評した。わたしも同意だ。島は島でも、ちょっと進んだだけで、時の流れも空気も全く別の異空間に踏み入ってしまったように錯覚した。

 

 急に、リカの肩からフォウさんが飛び降りて、進路とは別方向に駆け出した。

 ――フォウさんがこういうことをする時、行く先には事態を動かす何かがあると、二度のオーダーで知っている。

 

「フォウくん、待ってっ」

「船長、わたしたちもっ」

 

 

 みんなでフォウさんを追いかけた先には、人一人が潜れる程度の穴が開いた岩山があった。

 フォウさんは、まるでわたしたち全員が揃ったのを見届けたように、岩山の穴に入って行った。

 

 暗い穴を潜ってすぐ、下に続く階段があった。出口らしき光は下に灯っている。

 

地下迷宮(ダンジョン)ってやつかい? いいねえ、海賊の血が滾る!」

 

 ドレイクさんがまず階段を降りて行った。

 

 ここでわたしたちが追いかけないわけにはいかない。わたしはリカと手を繋いで、地下へ続く階段を慎重に降りて行った。

 

 出口を抜けるなり、フォウさんがリカの顔面にアタックした。フォウさんはそのまま上手いことリカの肩に乗った。

 

「本当に迷宮です……」

 

 ――石詰めの壁。小さな火を燈した石の柱。何より、似た風景が続くいくつもの分かれ道。

 

「よーし、揃ったね。じゃあ進むとするか。右か左か……直感、左!」

 

 ドレイクさんは軽やかな足取りで、石造りの閉鎖空間など物ともせず進んでいった。

 

「……先輩、先輩。いいんですか?」

「よくはないんだけど……ドレイク船長は一流の海賊。その直感も鋭敏でしょう。た、多分?」

 

 うぐ。分かってる。分かってるから、リカ、そんな泣き出しそうな顔しないで。見てるわたしも心苦しい。――そうだ!

 

 わたしはいつものようにリカと手を繋いだ。いつものとちょっと違うのは、十指を絡め合う「恋人繋ぎ」をしたこと。やましい意図はありません。

 

「これならはぐれても、わたしだけは絶対リカのそばにいるよ」

「――――はい」

 

 あ、はにかんだ。かわい――じゃなくて! リカが安心してくれてよかった。

 

 ふいに前を行っていたドレイクさんが立ち止まった。彼女の横顔は、険しい。

 

「ドレイクさん?」

「――血の臭いがする。こういうのは商売上、どうしても嗅ぎ慣れるからね」

 

 本当だ。床に点々と赤い液体が落ちた形跡があった。

 ゴールがどこか分からない迷宮の中で見つけた、唯一の手掛かり。

 わたしたちは血痕を追って歩を進めた。

 

 

 

 

 程なくして床の血痕は途切れた。死体らしきものはないから、この血痕の主は生きてはいるんだろう。ここで患部を止血した? それとも転移魔術なんかでこの場から消えてみせた?

 

 わたしは前方を見やった。

 瀟洒な細工で飾られた門の向こうは、暗闇で視えない。

 

「止まりな、マシュ!」

 

 咆哮。そして、鎖を引きずる重い足音。近づいて、来る、この気配。サーヴァントだ!

 

「イヤな予感的中だね。何か来るよ!」

 

 わたしは盾を構えてリカとフォウさんを庇う位置に立った。

 

 足音が大きくなっていくにつれて、わたしの心臓も早鐘を打つ。汗が肌に滲む。手が震え出す。

 今までに竜種や魔神とまで戦っていたって、恐ろしいものは恐ろしい。

 でも、わたしの背中には、わたしの「後輩」がいる。情けない「先輩」を見せたくない。

 震えるんじゃなくて、奮い立て、マシュ・キリエライト!

 

 暗闇から現れて全容を晒したサーヴァントは、鋼鉄の牛面を被った大男だった。

 

「デカッ!? 何だい、こいつ!」

 

 仮面越しにくぐもった声が無慈悲に告げた。

 

「しね」

 

 問答無用、か。撤退しようにも、きっとこの迷宮は彼の領域だ、すぐ追いつかれるのが目に見えている。

 

 牛面のサーヴァントが肉厚の拳を振り下ろした。

 

「オオオオオオオォォォォォ!!!!」

 

 わたしは盾を傘のように構えて、敵の拳を防いだ。ぐっ、やっぱり、重い!

 

 続いて牛面のサーヴァントは蹴りをくり出した。彼の足には枷と、それに繋がった鉄球がある。まともに食らったら複雑骨折待ったなし。

 わたしは急いで彼の拳を盾で跳ね返して、鉄球付きの蹴りを盾で受けた。よし、防御は間に合った。

 

 銃声が木霊した。

 

「マシュ! 下がりな!」

 

 ドレイク船長が牛面のサーヴァントを銃撃している。着弾は全て眉間。急所狙いだ。

 

 わたしは牛面のサーヴァントから距離を取った。

 

 盾の防御力を反発力に応用して吹き飛ばすべき? でも、これだけの巨漢を相手にその技を試したことはない。わたしの小柄さじゃあ逆にわたしが吹き飛ばされかねない。

 

 そこで、敵の牛面に亀裂が入って、真っ二つに割れて床に落ちた。

 お面の下から出てきたのは、額から血を流す、どことなく童顔の男。

 

「ま、もる……!」

 

 護る、って言った? 何を――()()

 

「お待ちなさいッッ!!」

 

 わたしたちの中の誰でもない、少女らしきソプラノボイスが迷宮に響き渡った。

 

 現れたのは、声のイメージに違わぬ、そう、美少女だ。外見年齢はリカより幼く見える。でも、この気配。彼女もサーヴァントだ!

 

 彼女は大男の前に出てヒステリックに叫んだ。

 

「わかった、わかったわよ! 私が付いて行けばいいんでしょ!? アステリオスはもう瀕死よ。戦力としては連れて行く価値もないでしょ。さっさと帰りましょうよ、アイツの所へ」

 

 ……あれ? ええと。どうしよう。何を言われたかさっぱり分からない。

 

「あの、少々よろしいでしょうか」

「なに、ダサい大盾女?」

 

 だ、ださいとは、わたしが!? 失礼な! この甲冑も盾も“()”にとっては誇らしい、由緒正しい品々で……!

 

「こら、ガキんちょ。助けられる身分で、そう悪口を言うもんじゃないよ」

「はあ? 育ちきった女はお呼びでないんですけど?」

「――、ほう? アンタ、船首の女神像の代役でもしたいわけかい」

「女神? ……よくわからないけど、私は女神エウリュアレよ。なに? そんなことも知らないで追い回してたの!? 名前くらい知っておきなさいよ。失礼にも程があるわ。アナタ、どこの三流海賊?」

「こ、このガキ……!」

 

 場が、しっちゃかめっちゃかに、なっていって、止められない。

 

 わたしの後ろにいたリカが、ぼそっと何か呟いた。

 わたしには聞き取れなかったのに、エウリュアレと名乗った彼女には内容が聴こえたみたいだ。

 

「はあ? じゃあ一体どこの誰よ、あなたたち」

 

 エウリュアレさんはこちらの話を聞く姿勢を見せた。

 チャンスだ。わたしは急いで、わたしたちが地下迷宮を偶然見つけたことと、ここにエウリュアレさんがいるとは知らなかったことを説明した。

 

「な・に・よ・そ・れーー! まぎらわしいのよ、あなたたち!」

 

 ちゃんと説明したのに怒られた。理不尽だ。

 

「ぐ……」

「ああ、アステリオス! 動かなくていいわよ。あなた頑丈なんだから、じっとしていれば死なないわよ。……死なないわよね?」

 

 アステリオス、というと――ギリシャ神話のミノタウロス!? 迷宮に迷い込んだ生贄の子供たちを殺したミノス島の怪物!?

 

 わたしは慌てて、盾は構えないまでも、リカを背中に庇った。

 

「結界を張ったのはそちらのアステリオス……ですね?」

「そうよ。でも、あなたたちを閉じ込めたんじゃなくて、外から入ってくる敵を防ぐため。しょうがないじゃない。こっちは特別タチの悪い変態に狙われてるの。そこの女と同じ海賊、しかもサーヴァントにね。真名は知らないわ。ただ、世界最強の気持ち悪さなのは確かよ。アイツの前じゃスキュラも自分の体を見直すくらいに」

「そ、それは相当ですね……ですが、解除していただかないとこちらも立ち往生で」

「むぅ……仕方ないわね」

 

 エウリュアレさんは予想外にあっさり承服した。

 

「あなたたちが外に出るには、アステリオスが死ぬか、結界を解除するしかないんだから。だったら解除するほうがマシ。……一人になるより、遙かにね」

 

 ここでずっと黙っていたドレイクさんが話題に参加した。

 

「でもさ、アンタたち、結界? とやらを張らなきゃいけないほど切羽詰まってるんだろう?」

「そんなのあなたに関係ないでしょ」

「ある! アタシはね、面白いモノが好きなんだよ。世の中には面白いモノばっかりだ! アタシはアンタが気に入った。だからウチの船に回収する。そっちのアステリオスも一緒にね」

 

 エウリュアレさんが面食らった。当のアステリオスは事の成り行きが分かっていないらしく、首を傾げた。

 

「あんだけ根性があって体力があって、おまけによく見りゃいい男だ! アンタ、アタシの船の用心棒にならないかい? 給金も弾む。あ、でも福利厚生は期待しないでおくれ」

 

 エウリュアレさんはアステリオスをふり返り、恐る恐るどうするかを尋ねた。

 

「いく。――おまえ、が、いく、なら、ついていく。ひとりは、さびしい」

「……なら、いいわよ。船に乗ってあげる」

 

 思い知った。ドレイク船長と行動を共にするとはこういうことなのだと。

 そんなこんなで、黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)に2名様ご案内です……

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