マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった 作:あんだるしあ(活動終了)
――あの時。
船底に大穴を空けられて、もう沈没するしかないと誰もが思った。わたしも思った。
でも、一人だけ、アステリオスは諦めなかった。
彼はその場で海に飛び込むと、何と
アステリオスさんの奮闘のおかげで、わたしたちは生き延びたし、船を修繕する目途も立った。彼にはどんなに感謝しても足りない。
それはわたしに限った話ではない。アステリオスさんは一躍ヒーロー。子分さんみんなが口々にアステリオスさんを褒め称えた。アステリオスさんは戸惑いながらも照れていた。
当面の課題は、黒髭の攻略法である。
わたしは通信でドクター・ロマンに頼んで黒髭の略歴を教えてもらった。うう、字面だけなら大海賊なのに……まさかのアレ。
ドレイクさんの表情が徐々に鬱蒼としていく。
「みんな、すまない。同じ海賊として本当にすまない」
ああっ、ドレイクさんの目がまたも死んだ魚のように。あとその台詞回しは何故か、とある竜殺しを思い起こさせます。
ここは話題を変えてドレイクさんの気を逸らそう。
わたしはドクターに、黒髭の宝具として可能性があるエピソードの有無を尋ねた。
ドクターの答えは、やはりあの船そのものが宝具ではないかというもの。カルデアが戦闘中に計測していた魔力の波動は、あの「
状況を照らし合わせての結論は、あの船は「乗せている部下が強ければ強いほど船体の強度が上がる」特性の宝具だということ。
あの時点で黒髭の船には5騎のサーヴァントが乗っていた。黒髭、二人組の女海賊、エイリーク、それに――十字槍の男。
ぞく、と。
あの十字槍の男とのたった一合を思い出して、背筋が粟立った。
……だめ。弱気にならないで、マシュ・キリエライト。リカがわたしを見つめてる限り、わたしは頼れる先輩でいなくちゃ。
黒髭にリベンジするには、まず、そう、まずは
考えて俯きがちになっていたわたしは、急に足下の影が濃くなったことに気づいて、空を見上げた。
ワイバーンが空を飛んでいた。
――その姿を見た時、天啓が閃いた。
「あれ! あれですよ! ワイバーンの体表の鱗を船の補修に使うんです!」
ワイバーンの硬さは、フランスで食傷になるまで戦ったから思い知っている。だからこそ逆に、あの硬さを利用できれば頼もしいことこの上ない。
「あら、いいわね。竜種の鱗は加工すれば鋼より頑丈よ。加工は――アステリオス、やれる?」
「う」
よぉし。そうと決まれば、レッツ・ハンティング! まずはあれなるワイバーンの注意を地上に引いて、わたしたちのもとまで下りて来てもらいましょうか。
わたしたちは島を奥へと進み、ワイバーンを見敵必殺。ワイバーンの骸から鱗をみんなで力を合わせて剥がして溜めては、船に持って帰る。そういう作業をくり返した。(鱗を収納する風呂敷はドレイクさんの聖杯提供)
これが意外に時間を費やした。ワイバーン一頭分だけでも、鱗を剥がすだけで一苦労。しかも大きさや重さの問題で一度に多くは持ち帰れないと来た。
この調子じゃあ、目標の30頭を狩るまで何日かかるやら。わたしはすでに気が重かった。
ようやく3頭目のワイバーンから鱗を全て回収したところで――わたしたちに数奇な出会いがあった。
文字通り降って湧いたクマのぬいぐるみと、それを追いかけてきた弓使いの女性。
二名との遭遇のあれこれを話し出すと全力で話が前に進まないので割愛させていただくが――
こちら。女性は、世界に名立たるギリシャ神話の月女神アルテミス。ぬいぐるみは、その恋人の狩人オリオンだったのです!
ドクター・ロマンによると、英霊のランクダウンによる代理召喚だとか。とにかくアルテミスさんは「オリオン」の枠に収まることでサーヴァント化し、本物のオリオンさんはなぜかぬいぐるみの姿でくっついてきた、と。
それでも、両名、実力確かなサーヴァントであることは間違いない。言動は横に置いて。言動は横に置いて。(大切なことなので2回以下略)
「では、オリオンさんとアルテミスさんは、我々にご協力いただけるという認識でいいんですね?」
「するする。超手伝う。永遠の世界で生きるくらいなら、地獄で死んだほうがナンボかマシ」
アルテミスさんのほうは、オリオンさんがするなら自分もそうする、という感じだったけれど。神様目線だとそういうふうになるのはしかたないわよね。
わたしは早速お二人に、一緒に竜の鱗を集めることをお願いした。
オリオンさんは、さすが女神アルテミスを射止めた狩人だけあって、竜種の狩りにも精通していた。ワイバーンの巣がある地形から、竜種の生態、鱗を剥がすコツまで(その都度、当のオリオンさんを頭に乗せたアルテミスさんが我が事のように喜んだ)。
おかげさまで予定よりずっとスムーズに鱗が集まった。
――島に上陸してから3日目。
ワイバーンの鱗の加工をアステリオスさんが張り切って進めてくださったおかげで、船の補修が完了した。船底の穴は完全に埋めて水漏れもなし。余った鱗はドレイク船長発案で
ここまで来たら、旅は道連れ世は情け。オリオンさんアルテミスさんにも黄金の鹿号にご同乗いただくのはごく自然な流れだった。
エウリュアレさんとアステリオスさんに続く珍客に、子分さんたちは恐々としていた。アルテミスさんとオリオンさんの乗船についてドレイク船長に尋ねた。
「無害な生き物だから放置しておきな。アタシはフォウのほうが可愛いけど」
「フォウフォウ! フウ!」
「あの、船長さん。フォウくんが『一緒にすんな』って言って……ます」
「あらあら、ごめんよ、フォウ。確かにアンタのほうが品と華がある」
船が復活したとなれば、アステリオスさんにまた一働きしていただく。
アステリオスさんは黄金の鹿号を持ち上げて、航行可能な水深地点に降ろした。
このアステリオスさんの怪力無双っぷりに、子分さんも沸いた沸いた。アステリオスさんたらまた照れて。ふふ。
「出航するよ! 鐘を鳴らしな!」
――わたしたちが煮詰めた戦略は、こうだ。
オリオンさんとアルテミスさんが、先んじて
この隙に、オリオンさんは弾薬庫に忍び入り、導火線に火を点けて離脱。
弾薬庫の爆発を合図に、黄金の鹿号は取舵一杯、鱗で強化した
「さあて、略奪開始だ。乗り込むよ、アタシの頼れるアホウども!」
混戦の再開。でも今度は前のようには行かない。今日までのワイバーン狩りは、わたしに、前回には足りなかった動体視力を開花させた。あの敗走はわたしにとって無駄なんかじゃなかった。
「リカはわたしの後ろにいて。絶対離れないでね」
「はい先輩っ」
「フォウ!」
さあ、リベンジマッチと行こうじゃないの!