マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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オケアノス13

 撤退、戦域離脱したわたしたちの課題は二つ。

 アークをどうするべきか、ヘラクレスをどう斃すか、である。

 

 ドクター・ロマン曰く、アークとは、古代イスラエルの指導者モーセが神から授かった十戒を封じた、神と人の間の「契約の箱」だという。

 

 特異点の核がイアソンと思しき現状、イアソンがアークを手にしてろくでもないことをするのは間違いない。結論としてわたしたちはイアソン率いるアルゴノーツと戦わなければならない。

 アルゴノーツにはヘクトールやメディア、そして、過去最強の敵、ヘラクレスがいる。残り11ないし10の命を持つヘラクレスとどう戦えばいいというのか――

 

 そんな堂々巡りの議論を止めて、ドレイク船長は言った。

 船を進める。どの課題にせよ出たとこ勝負でいいんだ、と。

 その明朗で快活な言い分は、わたしたちはいつも通りの行動をすればいいのだと、わたしに思い出させてくれた。

 

 かくて、アークを探し出すための航海が始まった。

 

 

 

 

 

 島影が見えれば船を寄せ、ドクターが魔力反応を探査する。地味で、地道な作業を、ドレイク海賊団もカルデアのスタッフも愚痴一つ零さずこなしてくれている。

 

 今まで発見した島は三つ。どれもハズレだった。次に接近中の島で四つ目。

 

 てこてこ、とオリオンさんがわたしのそばへ来た。

 

「なあ、マシュちゃんや。次の島はアタリかハズレか賭けない?」

「アタリ……だと、思いたいです」

「じゃあ俺は……ぷぎゅる!?」

 

 オリオンさんの後頭部に矢が突き刺さった。……矢が? 敵襲!?

 

 わたしは急いでリカとフォウさんのもとへ行き、盾を実体化させた。

 精密な狙撃だったけれど、だからこそ分からない。射手はどこから矢を射たのか。ここは海洋で足場になる場所なんてどこにもないのに。

 

「ダーリン、ね、ね、痛い? やっぱり痛い?」

「めっちゃ痛ぇはボケぇ! と、とにかく抜かなくては……あ、今気づいたけど、俺、自分の頭に手が届かないわ!」

 

 オリオンさんの頭に刺さった矢はアルテミスさんが(何故かもったいぶって)抜いた。

 

 矢には厚く畳んだ紙が結び付けてあった。矢文、というやつだ。本で読んだことがある。

 アルテミスさんが矢文を開封したのだが、読むなり、アルテミスさんは破顔一笑した。

 

 

 

 

 

 矢文を射て寄越した射手に会うべく、わたしたちは4つ目に発見した島に上陸した。

 

 ――射手の名を、アタランテ。月女神アルテミスを信奉する、俊足に名高き女狩人である。

 そう、今わたしの前を鼻歌まじりに進むアルテミスさんを。

 頭にぬいぐるみのオリオンさんを乗っけて獣道をルンルン歩く、この、アルテミスさんを。

 

「止まれ!!」

 

 強い声が森の樹々に反響した。

 わたしは盾を実体化して、リカとフォウさんを庇って身構えた。

 

「汝らはアルゴノーツを敵とする者か!? それともすでに諦め、屈した者か!?」

「諦めてませんッ!」

 

 え、リカ?

 

「あたしは諦めが悪いから、何度希望を裏切られても、期待するのをやめられないんです!」

 

 すると、茂みが擦れ合う音がして、一組の男女がわたしたちの正面に現れた。

 

「試すような問いかけをしてすまなかったな。分かってはいたのだが、念のためだ。何しろ吾々はこの海における最後の希望だ」

 

 黒い弓、翠衣、獣のような耳を備えた女性。事前にアルテミスさんから聞いた特徴と合致する。彼女がアタランテさんなのだろう。だとすると、一緒にいる、クルークを持った男性は何者? という疑問も生じるが。

 まずは自己紹介から。……そこが難関だからできれば飛ばしたいのが本心ではあったが。

 

 案の定、アルテミスさんを紹介する段になると、アタランテさんは――

 

「…………、…………、……え、本当?」

 

 立ち眩みを起こしたものの、弓を杖代わりにどうにか保ち直した。

 

「だ、大丈夫だ、この大海で私の精神も鍛えられた……い、今さら信仰する女神が恋愛脳(スイーツ)だからって頽れたりしない……!」

「やあ、麗しの君。今度こそ手を握ろうか?」

「ここぞとばかりに好色を発揮するな、ダビデ!」

 

 ――ダビデ?

 わたしはクルークの男性を見やった。

 

「ああ。古代イスラエルの王、ダビデさんだよ? 僕の顔に何か付いてるかい?」

 

 顔というか、全体像というか。デジャヴを禁じえない。よく知った誰かの面影がダビデ王からは見出される気がしてならない。

 

「先輩? どうか、しました?」

「フォーウ?」

 

 はっ。いけない。まさに核心に至る話が切り出されようとしている気配なのだ。わたし個人の所感は横に置いて、今はダビデ王とアタランテさんのお話を伺おう。

 

 

 ――要点を搔い摘むとこうだ。

 

 アークとはイスラエル王ダビデの宝具(霊体化不可)で、効果は「触れると死ぬ」。

 エウリュアレさんのような低級な神霊であれ、アークに生贄として捧げた場合、神の死と共に世界も死ぬ。滅ぶ。

 こちらの効果について、アタランテさんは、イアソンは知らないものとして推測していた。ただ、王たる資格だと勘違いしている、その程度だろう、と。

 

 アルゴノーツがアークを狙う理由と、それを阻止しなければならない理由は分かった。

 あとは実際に対峙して、アルゴノーツをどう撃退するかだ。

 

 協議が始まった。あーでもないこーでもない。むしろ戦力を比較・分析するほどわたしたちの敗色が濃厚になっていくのがじれったい。

 

「アークに触れてくれたなら、一発で昇華できるかもしれないけどね」

 

 ダビデ王が何気なく口にしたであろう手段の一つを耳にして。

 わたしは――ひらめいた。

 

「あの、先輩?」

「――できるかもしれない」

 

 わたしは掴んだインスピレーションを逃すまいと早口で「作戦」を言い挙げた。

 

 全てを話し終えた所で、ドレイクさんがわたしの背中を強めに叩いた。

 

「いいね、いいね、いいじゃないか! さっすがアタシが見込んだ女だ!」

 

 ちょっぴり背中が痛いです、船長。

 

 エウリュアレさんもアタランテさんもダビデ王も、この壮大なギャンブルに乗ってくださった。

 

「でもそれ、一番辛いのはマシュちゃんだよ? 前線で体張るんだし。この作戦で行くとして、マシュちゃんは本当にいいの?」

 

 決定権がわたしにあるなら、答えは一つきりだ。

 

「この作戦、必ず成功させてみせます。もちろん、ドクターの協力あってこそですが。ドクター・ロマン? 先ほどから沈黙されていますが、聞いていましたか?」

《ああ、もちろん聞いていたとも。危険な作戦だが、今は時間もない。ボクも賛成だ。最大限バックアップするよ》

 

 むう。ドクターの声から挙動不審なイメージを受けるけれど、まあ、いつものこと、よね? 変な兆しじゃない――よね?

 

 わたしは最後の確認としてリカを見やった。リカは小さく微笑んだ。

 

「先輩のいいように」

 

 ありがとう。リカなら絶対そう言ってくれると信じていた。

 

「では戦支度だ。まずはダビデ。アークを所定の場所に運べ」

「あれ結構重いんだけど、誰か手伝ってくれたりは」

「持ち主のアナタ以外が触ったら死ぬ品を誰が好き好んで運ぶのよ!」

「それもそうか。やれやれ」

「マシュとドレイクは私と来てくれ。島を案内するから、ヘラクレスを誘導する道を決めよう」

「はい、アタランテさん」

 

 おのおのが必要な戦支度をしに行くために散会した時だった。

 

「あ、待っておくれ、マシュ」

 

 ダビデ王がわたしを呼び止めた。何のご用事だろう?

 ダビデ王がわたしに差し出したのは、鞘に収まった一振りの長剣だった。

 

「これ、きみにあげる」

「わたしにですか? 急にどうして」

「この剣、特に僕の宝具やスキルによる物じゃないんだよね。それが何でか今回召喚にくっついてきた。弓兵の僕には要らない武器だ。そこに現れた、剣を持たない騎士。これはもう主の御心かなあ? ってね。とりあえず()()()()()()ごらんよ。抜けなかったら返品は受け付けるよ」

 

 ダビデ王の剣―――わたしは言われた通りモノを確かめるべく、()()()()()()()()

 うん。どう見ても普通の、細身のロングソードですね。

 

「抜剣できたね」

「? ええ、それは、剣ですから」

「――さて、僕はちょっくら地下墓地(カタコンベ)に行ってくるよ。上のほうはよろしく」

「あ、はい。ありがとうござました」

 

 とはいえ、盾一つでやってきたんだ。簡単に戦闘スタイルを変えられない。

 剣技については、このオーダーが終わってカルデアに帰ってから、シミュレーターで本格的に練習を始めよう。

 

 わたしは剣を盾の奥の収納スペースに入れた。

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