マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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 作者近況。
 ①上手くシナリオパートとバトルパートを繋げて書けない病に罹患。
 ②マシュ先輩版・幕間の物語に着手。


ロンドン10

 わたしとモードレッド卿はバベッジ氏との戦闘を開始した。

 

《二人とも! 魔力波形を解析するに、彼の鋼鉄の鎧はおそらく宝具かスキルによるものだ。様子見なしで全力で叩くんだ。でないとダメージが中まで通らないものと思ってくれ!》

「了解……!!」

 

 落ち着いて。落ち着くのよ、わたし。

 敵はサーヴァントとはいえヘルタースケルターの大型版。戦い方の要領はとっくに掴んでいる。

 

 ――ヘルタースケルターは人間が操縦するロボではなかった。宝具の担い手であるバベッジ氏にもこの法則が適応されるから、あの鋼鉄鎧のヒトガタがそのままチャールズ・バベッジ本人と思われる。

 

「リカ! フランさんを連れて()()()()()!」

「はい先輩っ。――フランさん、こっちです」

 

 ヘルタースケルターより精密に設計された巨大な腕を、バベッジ氏は振り上げた。

 わたしは巨腕によるチョップを盾で防いだ。モーションが大きい分だけ次のアクションが予測しやすい。

 

 防いだ分だけ、あえて下がる。少しずつ方向を変えて、バベッジ氏の攻撃を受け流す。

 このまま広い表通りまで誘導するのだ。路地裏では狭すぎて、モードレッド卿が宝具を解放することになった時に余波が出てしまう。

 

 バベッジ氏が振るったドリルみたいなハンマーを受け止める一瞬、わたしはあえて軽くジャンプした。

 わたしはハンマーを防ぎながらわざと吹き飛ばされて――よし! 表通りまで誘導成功! 着地!

 

 待ってましたと言わんばかりに、モードレッド卿がわたしを越えて高く跳び出た。

 

「ドタマかち割ってやらァ!」

 

 モードレッド卿は落ちる勢いも併せての斬撃をバベッジ氏に見舞った。山高帽子じみた頭部鋼殻は、王剣の兜割りでリサイクルの空き缶みたくひしゃげた。

 スチームパンクでロボットじみた外見でも、頭部へのダメージはそれなりに痛手のはずだ。

 そう、思ったのに。

 

「――ディファレンス・エンジン、起動」

 

 バベッジ氏は呆気なく普通に立ち上がった。そして、あろうことか、蒸気をロケットのように噴射して――

 

「「飛んだああああああ!?!?」」

 

 わたしとモードレッド卿はパニックになりつつもそれぞれ反対方向に離脱した。

 

 ずどん! と、ハンマーが、彼自身の鋼鉄が、地面を陥没させた。

 二の腕がぞわっとした。あれをまともに食らったら、盾が平気でも構えるわたしが圧壊しかねない。

 

「盾公! 防げ!」

 

 反対側のモードレッド卿が王剣を大上段に振り被っている。王剣の刀身からはすでに禍々しい魔力が噴き上がっている。

 防げって、まさか、卿のクラレントを防御しろと!? 無茶振りにも程がある!

 

我が麗しき(クラレント)――!」

 

 ええい、ままよ。

 わたしはリカとフランさんに駆け寄った。二人とも、意地でもわたしが護るんだから。

 冬木のキャスターさんに言われたことを意識するのよ。外敵を阻むのではなく、背中にいる大切な誰かを護ることを意識する。

 盾よ、開け! 是は誉れ堅き我が雪花の壁――!

 

「――父への叛逆(ブラッドアーサー)!!」

 

 迸る赤雷がバベッジ氏を飲み込んだ。

 赤黒い血色の奔流はそれだけでは止まらない。わたしたちをも食らわんとして迫ってくる。

 

「や、ぁ、ああああああああッ!」

 

 わたしは盾をありったけの魔力でコーティングして、クラレントの赤雷を受け止め、弾き返した。

 

 わたしが反射した赤雷と、モードレッド卿が王剣から放つ赤雷が、ちょうどバベッジ氏を中心点としてぶつかり合い、空高く駆け上がった。

 

 ――そう、か。モードレッド卿が「防げ」と言ったのはこうするためだったんだ。

 わたしの盾と彼女の剣による相殺で、二重にバベッジ氏に王剣の燦光を浴びせてオーバーキル。さらには光線を上に反らして周囲一帯への被害を出さない。

 ――戦いのさなかにあって、この一瞬のシチュエーションを編み上げる発想力。そして、実行に移す決断力。

 

 今さらながらにわたしは、モードレッド卿こそがこのロンディニウムを守護するために召喚された騎士なのだと思い知った。

 

「……シティの地下へ、行くがいい」

 

 バベッジ、さん……

 

 蒸気機関の鎧は一欠けらずつ剥げていく。蒸気機関による世界躍進を望んだ夢の住人が、消えていく。

 

「地下鉄のさらに深い、奥底……そこに魔霧計画の首魁が在る、だろう……都市に満ちる霧の、発生源、我が発明……巨大蒸気機関“アングルボダ”……聖杯は、動力源として、設置……」

 

 フランさんが無言でバベッジさんに歩み寄った。

 

「……すまぬ、ヴィクターの娘。お前の声は、聴こえていたが……」

 

 フランさんは首を横に振って、再びバベッジさんを見上げた。

 

「……私の夢を叶えなかった世界であっても……隣人(あなた)たちの世界を、終わらせよう、とは、思わ、な……」

 

 バベッジさんの仮初めの肉体がエーテルへとほどけて、消失した。

 

 ……もし、わたしがバベッジさんの立場であったら。

 わたしは未来の世界を恨むだろうか? それとも、この世界もまた善し、と受け止めるだろうか?

 そんな、益体もない疑問が、浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 地下へ潜ったのは、わたしとリカとフォウさん、それにモードレッド卿だ。フランさんは事前にアパルトメントに送り届けた。

 

 迷宮の様相を呈する隧道を、わたしたちは手探りで降りていった。

 

 広くて複雑な地下道。国家の秘密事業の痕跡か、魔術協会のしわざか。とにかく厄介な不動産物件があったものだ。

 

「地面の下に地下鉄ってのがあるとは知ってたが、まさかさらに『下』があるとはな」

 

 それに加えて魔霧の濃度。一階層下へ行くほどに濃くなっている気がする。今の所、リカとフォウさんに不調は見られないけれど。

 

 この地下通路だが、カルデアのライブラリにはデータがないため、ドクター・ロマンにナビゲートしてもらうことができない。

 わたしたちの足で探索して、マップを埋めていくしかない。

 

 この地下空間のどこかに、魔霧の発生源がある。聖杯を炉心にしたという巨大蒸気機関アングルボダがあるはず。

 

 ゾンビやスケルトンといったエネミーが発生する時は、事前にモードレッド卿が気づく(そのたびに探知速度で負けたとドクターが悔しがる)。おかげで暗い中でもある程度は先手を取れる。

 それに、いよいよ視界が利かなくなれば、リカが魔本を用いて火を熾して、通路一帯を照らしてくれた。

 

「……今、何層目だ?」

「四層目です。さっき階段を降りましたから」

「深くまで来たなあ。これ、上がるの相当面倒じゃないか?」

 

 そうだなあ。サーヴァントのわたしたちはいいとして、リカは(フォウさんを抱っこして)ここまで休憩なしで(文句一つなく)歩いて来たから、体力の消耗が大きい。

 よしっ、帰りはわたしがリカを負ぶさって登ろう!

 

 

 

 

 それから何層降りたのか――

 わたしたちはついに地底に着き、巨大な空洞に出た。

 

 冬木の大聖杯があった地下空洞に極めて似ている。地形も、それに空気の魔力の濃さも。

 

 この大空洞のずっと奥で、蒸気を大量に噴出しているドーム、あれがきっとアングルボダだ。巨大、という一点においては名が体を表している。

 あの機械から動力源である聖杯を取り外せば、魔霧は止められる。

 

 わたしたちは全員でアングルボダに向かって歩き出した。

 近づいて――わたしは、アングルボダの前に一人の男が立っているのに気づいて、立ち止まった。

 

 男がわたしたちをふり返った。

 

「奇しくもパラケルススの言葉通りとなったか」

 

 わたしは盾を構えてその男と対峙した。こんな場所に平静で立っているんだから、真っ当な人間ではない。きっとあの男こそが、バベッジさんが最期に言い残した計画の首魁――!

 

「これは我らの悪逆の形ではあるが、希望でもある。ここでお前たちの道行きは終わりだ。善は今、我が悪逆によって駆逐されるだろう」

「ほとほと御託が好きな連中だ。語るな。ここで終わるのはお前の命だ」

「――あなたが『M』ですか?」

「そうだ。我が名はマキリ・ゾォルケン。魔霧計画における最初の主導者である。この第四の特異点を完全破壊するため、魔霧による英国全土の浸食を目指す、一人の魔術師だ」

 

 魔術師? 何かのクラスのサーヴァント、ではなく。まさかこの男、生身の人間!? バベッジさんを従えていたマスターなの!?

 

「この時代を完全に破壊し、人理定礎を消去する。それこそが、我らが王の望みであり、我らが諦念の果てに掴むしかなかった行動でもある」

 

 また、だ。レフ・ライノールも、イアソンと王女メディアもちらつかせていた存在。

 彼らの黒幕。多くの英雄に聖杯を与えて命運を狂わせた何者か。

 同じ黒幕が、マキリの背後にいる?

 

「アングルボダはすでに暴走状態へと移行した。都市に充満させた魔霧を真に活性化させるに足る、強力な英霊が、これより現界するだろう」

「させるかよ。お前を殺して、アングルボダを叩き壊す。オレでないくせにブリテンを蹂躙するお前を、オレは決して許さない」

 

 モードレッド卿は王剣を実体化してマキリに突きつけた。

 

「ならば最後の英霊を目にすることなく死ぬがよい。破滅の空より来たれ、我らが魔神――」

 

 大空洞の濃密な魔力大気が、竜巻のようにマキリに一点集束していく。人体に納まりきらない膨大な魔力が、内側から肉色に弾け飛んだ。

 この、光景――知ってる。わたしは知っている。

 挽肉が際限なく湧き出て、柱となって天を目指して屹立する。

 魔神柱の顕現――!

 

『七十二柱の魔神が一柱。魔神バルバトス。これが、我が悪逆のかたちである。我が醜悪の極みを以てして――消え去れ! 善を敷かんとする、かつての私の似姿たち!』




 「飛んだああああ!?!?」は作者と弟がバベッジさんの宝具を見た時のリアルなリアクションです。4章実装当時の実話です。
 示し合わせてなくても同時に全く同じ台詞を叫ぶ現象は実在した。

 アポのおかげでモーさんの戦闘映像がたくさん観られて大変参考になります。
 ありがとうございます制作陣m(_ _)m
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