マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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ロンドン11

 魔神柱を見るのはこれで三度目だ。もう驚くものか。最大限に警戒はするけどね!

 

 そして、つい先ほどの地上での戦闘経験が、この魔神柱バルバトスをワンターン・キルする必勝法を教えてくれた。

 

「モードレッド卿、向かいに回ってください! もう一度アレをやりましょう!」

「おっしゃ! タイミングはそっちで上手く合わせろよ!」

 

 わたしとモードレッド卿は背を向け合って駆け出した。

 

 わたしたちが盾を、剣を、手にして構える位置は対角線上。魔神柱を中心に挟んで反対側。――バベッジさんとの戦いではぶっつけ本番だったけれど、今は心の準備も仮想宝具の準備も万端だ。

 

「カッ飛ばすぞ盾公! 我が父を滅ぼす邪剣の(いかずち)、見事受け切ってみせろ! 我が麗しき(クラレント)父への叛逆(ブラッドアーサー)ッ!!」

 

 迫る赤雷の奔流。それは魔神柱を焼き尽くすことを目的としない。貫通してわたしの盾にぶつけるまで保てばいい。だからわたしはこの盾で受け止めて、弾き返して、ぶつけ合って高め合う!!

 

仮想宝具(ロード)人理の礎(カルデアス)!!!!」

 

 展開した守護円陣が王剣の赤雷を真正面へ反射した。

 相反する方向からぶつかり合った赤雷は、中心点に在る魔神柱の根元でぶつかり合い、螺旋を描いて魔神柱を縦に貫通した。

 

 肉柱を構成していたピンクのぶよぶよした物質が、煙を上げながら融けて崩れていく。

 その上に仰向けで倒れているのは、マキリだ。――魔神柱に与えたダメージは核となった人間にも伝わることは、今までの戦いで判明していた。だとしても、何度見ても胸が痛む光景だ。

 

「先輩っ」

「フォウ!」

 

 フォウさんを肩に乗せたリカがわたしに駆け寄ってきた。

 

「先輩、お疲れ様……でした」

「うん。リカたちは大丈夫だった? 何ともない?」

「はい」

「フォウ」

「よかった。じゃあ――」

 

 残る仕事は、あの巨大蒸気機関アングルボダから聖杯を取り出すだけ。それで第四の聖杯探索は完了だ。

 

 わたしはリカたちと一緒にモードレッド卿に合流しようとした。

 

「……もう、遅い……ロンドンに充ちた魔霧の量は、すでに、充分に……」

 

 っ、マキリ!? 何てしぶといのか。まだ息があるのは分かるとして、明瞭に意識を保って、肘で体を起こそうとするだけの余力があるなんて。

 

「さあ来たれ、我らが最後の英霊よ……汝、狂乱の檻に囚われし者、我はその鎖を手繰る者――三大の言霊を纏う七天! 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!!!」

 

 モードレッド卿が駆けつけて、マキリの背中に王剣を突き立てた。マキリは一度だけ血を吐いて、うつ伏せに沈黙した。今度こそ彼も終わり……だと思いたい。

 

《マシュ、リカ君! サーヴァントが来るぞ! 魔霧が召喚陣や残りの呪文を代替したと思われる。サーヴァント反応が、魔霧の発生地点にいながら明確に探知できるほどだ。魔力反応、極めて増大! 来るぞ!》

 

 アングルボダの前に烈しい紫電が落ちて、弾けた。文字通り落雷が爆発した。

 

 魔力が爆ぜた余波でリカがフォウさんを抱えたまま吹き飛ばされた。

 

「きゃああああああああ!!」

「フォウフォーウ!?」

 

 わたしは急いでリカの体をキャッチしたが、それでも足りず、わたしはリカを抱えたまま岩壁にぶつかって頽れた。

 見れば、反対側ではモードレッド卿さえも同じ有様だった。

 

 背中を強く打って咳き込んだわたしに、リカが抱きついた。それで背中の痛みが引いて呼吸が楽になった。リカ、治癒してくれたんだ。

 

 わたしは紫電が落ちた地点を見やった。あそこに立つのが、マキリが最期に召喚した――いいや、魔霧計画の関係者全員が求めたサーヴァント。

 

 男だ。ファー付きのマントを羽織ったスーツの、壮年の男。近代寄りの英霊かもしれないが、上半身を半機械化しているから即断はできない。正体の考察は難しい。

 確かなのは、男は強靭な意思力を宿した眼光を、微かな狂気に曇らせていることだけだ。

 

「私を、呼んだな。天才にして雷電たるこの身を呼び寄せたものは、何だ? 叫びか、願いか。善か悪か。なるほど――今こそ、それらの全てが私を呼びつけたか。この二コラ・テスラを! なかなかに面白い。碩学たちが揃いも揃って私を呼ぶか! ならば良かろう! お前たちの願いのままに、天才にして雷電たる我が身は地上へと赴こう!」

 

 ニコラ・テスラは高らかに哄笑してから、地上への道へ悠然と歩み出し、そして去った。

 

 

 

 

 リカが立ち上がり、モードレッド卿へと走った。リカはモードレッド卿に断り、彼女の背中に手を添えた。――あれでモードレッド卿は、わたしのように背中に負った衝撃はもちろん、ここまでの戦いで蓄積した微細な傷も癒えただろう。リカならそこまで完治させられる。

 

 わたしは盾を杖に立ち上がり、遅ればせながらモードレッド卿とリカのいるほうへ向かった。

 

 合流するなり、リカが潤んだ瞳でわたしとモードレッド卿に告げた。

 

「先輩。モードレッドさん。お二人でテスラを追いかけてください。あたしが一緒だと足手まといです。だからお二人だけで……」

 

 リカの言い分は――――間違っては、いない。

 

 サーヴァントのわたしたちだけのほうがテスラに追い上げる確率は高い。

 でもそれはここにリカを置き去りにするという意味でもある。

 

 わたしはリカを見つめ返した。

 

 琥珀色の両目は「行ってください」と言葉より雄弁に訴えてくる。

 ――リカはリカなりにできることをしようとしている。そこには、自分が邪魔だからという卑屈さも含まれているけれど、同じだけ冴えた足し引きがある。

 

「盾公。行くぞ」

「――はい」

 

 わたしはモードレッド卿と元来た道へ走り出した。

 

 

 

 

 

[Interlude]

 

 我ながらこの身の生き汚さには感心する。

 

 魔神柱の依代となり、敵セイバーに斬られ、ニコラ・テスラ召喚の余波で落盤に巻き込まれ、なお、マキリ・ゾォルケンは健在だった。

 ……いや、健在、と言うには語弊がある。せいぜいが「存命」だ。魔力はもちろんだが、自ら起き上がって歩くだけの活力さえ残っていない。

 

 ここで朽ちることを半ば受け容れた時―――その少女は現れた。

 少女はサーヴァントたちを先にテスラ追跡に向かわせ、自身は私の傍らにしゃがんだ。何だ? 引導でも渡すつもりか?

 

 少女は私の傷口に手を当てた。

 徐々に歪みゆく少女の顔色。驚かずにはおれなかった。少女は()()()()()()()()魔術で私の傷を治癒し始めたのだ。

 

「何故――助ける?」

「お願いしたいことがあります」

 

 少女は私の手を両手で持ち上げて握り包んだ。

 

「テスラを召喚したのはあなたですよね? お願いです。あのサーヴァントを令呪で止めてください」

「……不可能だ。彼を呼んだのは魔霧そのもの。私の詠唱はきっかけに過ぎない。その証拠に、この通り、私には令呪が宿っていない」

「そ、んな」

「事実だ。分かったならその魔術を止めるがいい。骨折り損で死に体になりたくはないだろう」

 

 少女は一度だけ目線を横に流し、再び私を見据えて治療を再開した。

 

 分からない。私を治した所で少女には見返りも報酬もない。少女の行為は徒労だ、無為だ。何故やめないのかが私には理解できなかった。

 

 すると少女は苦笑した。

 

「傷ついた人に優しくするのは当たり前のこと、ですから」

 

 私の体が完全に修復されてから、少女は立ち上がった。

 

《リカ君。少しそのままで。回復術式のスクロールを流し込むから。キミ、自己回復はできないだろう?》

「すみません、ドクター。お手間を取らせます」

 

 少女の肉体を外側からの魔術が補強してから、少女は踵を返した。

 

『まあ。マスターさんたら、その汚れた服のままマシュたちを追いかけるの?』

「え? あ、ナーサリーちゃん」

『マスターさん。(あたし)を開いてちょうだいな。(アリス)をめくってちょうだいな』

 

 少女はリュックサックから出したハードカバー製本を開いて、たどたどしく紙面をめくった。

 

『読み上げて』

「えっと……『くるくるくるくる回るドア。行き着く先は鍋の中』――、――あ」

『はい! これでアナタはいつも通りの元通りなのだわ』

「ごめんね、ナーサリーちゃん」

『ダメよ、マスターさん。こういう時に、ごめんなさいは要らないのよ?』

「ごめ……あ、き、気をつけます。ありが、とう」

『どういたしまして、マスターさん』

 

 今度こそ走り出そうとした少女を、私は、呼び止めた。

 

 戻ってきた少女に、私は、魔霧計画の賛同者が使用していたルートを教えた。地下隧道を追いかけて上がるよりはずっと早く地上へ戻れるだろう。

 

 少女は私に無言で一礼して、肩に白い使い魔を乗せて、走り去った。

 

 ――さあ。せっかく拾った命だ。私も逃げる算段をするとしよう。

 

[Interlude out…]




 マキリには生存してもらわないとね。何故なら我が最惜しヒロイン・桜が存在できなくなってしまうからである。
 ここに声を高らかに明かそう。―――あんだるしあは、桜派だああああああああ!!
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