マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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アメリカ11

 エジソンのいる大統王府へ向かう道すがら、ロビンさんがケルトの戦士を捕虜にしてくれと言い出した。ノンストップで、消耗なしに、大統王府まで進むためだとか。

 ロビンさんの策の効き目は劇的だった。

 各地の関所に立つ機械化歩兵に対して、ロビンさんがアメリカ西部軍兵士のフリをして、捕虜を輸送中だと虚偽の報告をする。機械化歩兵はわたしたちの同行さえも詮索しないで道を譲った。合言葉は「インダストリ&ドミネーション!」

 

 

 でも、そのカモフラージュも、大統王府の正門に来てからはさすがに通用しなかった。

 

 機械化歩兵が城塞の中から次々に出て来て列を成した。

 やっぱり数に物を言わせるのね。いいえ、一度は物量差で負けたけど、今度はそうはいかないんだからっ。

 

 いざ、という時だった。スピーカーから、エジソンの怒声が響き渡ったのは。

 

《おのれ貴様ら、まさかケルトに屈するとは! それでも英雄か! 何よりクリミアの天使よ、貴女ほどの信念の人が、私の信念を解さないとは!》

 

 ちょ、これ、音割れがひどい! 耳にきーんて、きーんて!

 

「いいえ、まだ望みはありますとも。私たちは貴方を裏切ってなどいない。ましてケルトに与するなど、冗談にも程があります」

《攻め込んできて何を言ってるんだか》

 

 今度はブラヴァツキー女史の声。

 

《情報によると、あなたたちはメイヴ暗殺に失敗した。それで生きているのは不自然なのよ。敵に寝返って命乞いをした、というのが真っ当な見解じゃなくて? フローレンス》

 

 この失礼甚だしい見解に、エリザベートさんが激しく反論した。

 

「ふざけんじゃないわよ! アイツがそんなタマかってぇの!」

《あら、竜の尻尾を踏んじゃったみたい。気に障ったなら……いえ、失礼をしたわ。ごめんなさい。――エジソン。どうやらあの子たちはただの負け犬みたい。ケルトに与したって線はなさそうよ》

《ぬ? つまり敗軍だと? 我々の庇護を求めに来たというわけか? だが、それにしては殺気に充ち満ちている!》

「――エジソン。こうして対面してみて理解できました。貴方は病んでいます。即刻治療を受けなさい」

 

 それなりに長い空白を置いて、ようやくエジソンの発声器官が復活した。

 

《……無礼な。私のどこが病んでいると言うのだ。強靭な四肢。はち切れんばかりの健康。研ぎ澄まされた知性。どこを取ってもスタンダードではないか!》

 

 JARO通報レベルの発言である。

 

「世界を救う力を持ちながら、理性を保ったまま世界を破滅に追いやろうとしている。それが病以外の何なのです。今そちらに向かいます。大人しくベッドで休んでいなさい」

 

 ナイチンゲールさんは拳銃を連射してスピーカーを破壊した。

 

「銃を撃つと演説が終わる……覚えました、先輩っ」

「忘れなさい」

「は、はい。先輩が言うなら、忘れます……」

 

 リカは、しょぼんとした。そんなリカに、肩に乗っていたフォウさんが擦り寄った。フォウさん、ありがとうございます。ここのとこ、リカとのスキンシップを図るとナイチンゲールさんに阻まれることが多かったから。わたしの分もリカを和ませてあげてください。

 

「無駄話をしている暇はありません。さあ、踏み込みましょう」

 

 すると、大統王府の城門を守っていた機械化歩兵が一斉に引き上げて、代わりに一騎のサーヴァントが現れた。――カルナだ。

 

「やはり来たか」

「はい。来ましたよ。大英雄カルナ!」

 

 カルナの手にはすでに錫杖が握られている。初手から獲りに来る気でいるんだ。

 わたしは盾を実体化した。皆さんも武器を出して身構えた。

 

「ここを通すわけにはいかない。……、……助けを乞われたのだ。オレのような益体もない男に、跪いて。先に乞うたのがエジソンだった。お前たちに敵対する理由としては充分だろう」

 

 カルナの顔には微笑が浮かんでいる。その笑みは、なんだかとても、彼を親しみやすい人物であるかのように見せた。

 

「オレは一言足りないらしいので、余計だが付け足させてもらった。()()()()()()()()()。此度は二度目。あれからどれほど腕を上げたか、見せてもらおう――!」

 

 カルナが錫杖を突き出すより、迅速に、わたしは盾を前面に構えて飛び出した。

 

 ――槍使いが獲物から刺突をくり出す前の小さな小さな前動作が、視えた。これは李書文さんとの立ち合いを経験したから掴めた勘だ。

 カルナとの闘いは短期決戦を狙う。長く盾と矛を交えたって、それこそ永遠の矛盾で決着がつかない泥仕合になる。

 

 錫杖の軌道を盾で逸らしながら、カルナの懐に入った。

 仮想宝具の展開は必要ない。スキル・魔力防御で盾をフルコーティング。そのまま全体重を預けてのボディアタック!

 

 わたしの攻撃を真正面から食らったカルナが大きく後退した。あくまで後退しただけ。ダメージは負っていない。でもいい。デミ・サーヴァントのわたしが、大英雄カルナに傷を負わせられるとは思っていなかった。

 

 わたしの役目はここまで。カルナを大統王府の敷地内に押し戻すだけでいい。

 

「ラーマさんッ!」

「引き受けた! 中へ進め、マシュ! リカ!」

 

 敷地内でインドラの英雄が二騎も衝突しては余波による建物への被害が免れない。必然、カルナは手加減せざるをえなくなる。そして、全快したラーマさんの実力はカルナと五分だとジェロニモさんが言っていた。

 

 わたしは、フォウさんを抱いたリカを抱き上げて、脇目も振らずに大統王府の中へと走った。ナイチンゲールさん、ロビンさん、エリザベートさん、スカサハさんがわたしたちに続いた。

 

「ドクター! エジソンのいる部屋までナビをお願いします!」

《ルート算出済みだ! 東側の最上階まで駆け上がってくれ! そのエリアに部屋は一つしかない。そしてサーヴァント反応が二騎。間違いなくエジソンとブラヴァツキーだ!》

 

 緊急時はめきめき頼れるようになってきたドクター・ロマン。そういうとこ、嫌いじゃありません!

 

 

 

 

 

 機械化歩兵と道中やり合いつつも全機撃破して、わたしたちは大統王府の最上階へ上り詰めた。

 ドクターが言った通り、階段を上がって向こうに見える部屋のドアは一つきり。

 

「リカ。わたしの後ろに」

「はい先輩っ」

「フォウ!」

 

 このやりとり、久しぶりな気がする。うん。やっぱりしっくり来るや。

 

「突入します!」

「フォーウ!」

 

 わたしたちはドアを蹴破って、全員で執務室に雪崩れ込んだ。

 部屋の中心には、鼻息荒く仁王立ちするエジソンと、傍らにブラヴァツキー女史。罠の気配は一見して感じない。

 

「よくも来たな、嘆かわしき裏切り者たちよ! 何故私の正しさを信じられないのだ! さては陰謀説に浸かっているのか!? エジソンは資本主義の権化だ、とか! 真の天才は商売などに傾倒しない、とか!」

 

 陰謀説に振り回されているのはご自身ではないでしょうか? あと、「真の天才」というフレーズに屈折した何かを感じたのですが、特定の比較相手がいらっしゃるんでしょうか?

 

 ナイチンゲールさんが溜息をついた。

 

「ミス・マシュ。ミス・藤丸。オペの準備を。まずは安静にさせてから、話を聞かせるほかありません」

 

 やっぱりそうなりますよね。

 

「強気ね、フローレンス。それはもしかして、あたしたちと戦って勝つということかしら」

「ええ。戦って、殴って、勝ちますが」

「分かりやすくて好きよ、そういうの」

 

 ブラヴァツキー女史が腕を一振りすると、おとぎ話に出てくる魔法みたいに一冊のハードカバー製本が現れた。しかもその本は宙に浮いている。

 

「ミスタ・エジソン、準備はいい?」

「う、うむ!? ああ、できているとも。最大電力で迎え撃って……!」

「あ。それはダメよ。あなたの宝具は窮地に立たされない限りは温存して。あたしが十全に力を発揮できなくなってしまうわ」

「そ、そうだったな。失念していた……すまない、ブラヴァツキー」

 

 エジソンの宝具が解放されるとブラヴァツキー女史が力を出せない? それはどういう意味の……っと、とと!?

 わたしは、電撃が炸裂する寸で、リカとフォウさんを抱えてその場を飛びのいた。電撃はエジソンの攻撃だ。ロンドンで会敵したニコラ・テスラと同じで、エジソンも電気を主武装としているということか。

 

 加えて隣のブラヴァツキー女史は極めて魔術師らしいキャスター。今は攻勢に転じる気配がないが、いつ魔弾やらが飛び交うか分からない。

 慎重に攻めなくちゃ――って、ナイチンゲールさん!? 急に飛び出して、エジソンの懐に入って……アッパーカット!?

 

「ぐふぅ!?」

「ドフォーウ!」

 

 これにはわたしも、リカとフォウさんも、ロビンフッドさんもエリザベートさんも呆気に取られた。最後尾に控えているスカサハさんだけが爆笑している。

 

 吹っ飛んだエジソン氏の胸倉を、ナイチンゲールさんは掴み上げて往復ビンタ。からの、一本背負い。さらに殴った。

 な、殴ってる。クリミアの天使が素手で天才発明家をこれでもか、と殴ってしばき倒している。歴史評論家が見たら号泣しかねない一幕だ……

 

 と、そうじゃなくて!

 押しているのは意外にもナイチンゲールさんのほうだ。看護師という職業ゆえか、彼女は的確に人体(エジソンの見た目はライオンだけど)の急所を理解して、そこに拳を叩き込んでいる。

 

「がふっ! まだ敗北しない! 私は、ゲホォッ、屈さない!」

 

 ……一方的にいじめている気分になってきた。しかも動物虐待だ。どうすればいいのかしら、これ……

 

「第一の光!」

 

 ブラヴァツキー女史の本から光線が放たれて、ナイチンゲールさんに直撃した。ナイチンゲールさんがエジソン氏のマウントから吹っ飛ばされたことで、わたしたち全員が我に返った。

 

「か、かたじけない、ブラヴァツキー……っ」

「あんなの、どんなサーヴァントでもさすがに見かねるわよ。大丈夫?」

 

 わたしたちの前に転がったナイチンゲールさん。わたしとリカは慌てて彼女に駆け寄って、わたしのほうで彼女を支え起こした。

 

「大丈夫ですか!?」

「フォウフォウ!」

 

 リカがナイチンゲールさんに手を伸ばした。治癒魔術をかけようとしている。なのに、ナイチンゲールさんはリカの手の平を叩き返した。

 

「その『治療』は履き違えていると前にも言ったはずです」

「っ、だ、って、あたしにできるの、このくらいしかないのに……っ、ど、して」

 

 リカの瞳が潤んでいく。

 本当に意味が分からない。バーサーカーだから、で済む話ではない。なぜナイチンゲールさんはこうも頑なにリカの治癒魔術を拒むの?

 

「戦士として及ばないのであれば、この身を科学に捧げるまで! トーマス大変身・大改造の時である!」

 

 エジソン氏がどこからかフラスコを取り出した。――毒々しさにドン引きせずにはおれない、そんな毒物丸出しの液体がなみなみと注がれたフラスコだ。

 

「今こそ、今こそ獣のごとき雷音強化! トーマス・マズダ・エジソンに変貌してくれ」

 

 ビシィッ!! と、エジソンの手をチョップした者がいた。エジソンが手に持っていたフラスコはそれで床に落ちて割れた。

 

「な、何をするのだ、カルナ君!」

 

 カルナのほうが戻ってきた? じゃあカルナと戦っていたラーマさんは!?

 

「すまん、マシュ、リカ! カルナの撤退を許してしま……どうした?」

 

 ちょっと怪奇的な混戦模様だっただけですので。ケガが見て取れますがご無事で何よりです、ラーマさん。

 

「悪いがエジソン、ここまでだ。それ以上、滅びの道を歩ませるわけにはいかん。それに第一、間違いなく体に悪いぞ、その薬は」

 

 うんうん。わたしとリカとフォウさんで、全く同じ角度で頷いた。

 

「ノー! 良薬は舌に苦いものだ。心臓が爆発するぐらい耐えてみせるとも。ここで私が踏み留まらなければ、誰がこの国を守るというのだ!」

「守る、ですか。その割にはずいぶんと非合理的な戦いぶりですね、エジソン」

 

 しかしこういう時でも事の真理を呵責なく突きつけるのがフローレンス・ナイチンゲールであると、ここまでの旅でイヤってほど思い知ってる。

 

 非合理的と言われて呆然としているエジソン氏に、ナイチンゲールさんはインフォームドコンセントを開始した。

 ケルトの戦士とアメリカ兵の力の差。大量生産による戦略の陥穽。そういう筋を立てた説明で、それこそ極めて合理的に。あの発明王エジソンさえ、彼女の舌鋒に唸っている。

 

「我々にはアメリカだけではない。この世界を癒し、救わなければならない使命(オーダー)がある。イ・プルーリバス・ウナム。多数の民族から成立した国家であるあなた方は、あらゆる国家の子に等しい。ならば貴方がたには世界を救う義務がある」

「ぬ……ぐ……」

「そんな自己欺瞞から目を逸らす有様だから、貴方は同じ天才発明家として、ニコラ・テスラに敗北するのです」

「GAohoooooooooooooooooooo!?」

 

 絶叫。そして、エジソン氏がひっくり返った。

 

《だ、大丈夫かな? エジソン氏、生きてる?》

「はい。倒れてはいますが痙攣していますので、命に別状はないと思われます」

《普通の人間だったらそれ瀕死のサイン! マシュ! ナイチンゲールに感化されてアタリ判定厳しくなってない!?》

「ドクター、すみません……さすがにあたしも、今のエジソンさんは治せそうにない、です」

《リカ君も! それ治せたらダメなやつ!》

 

 しばらく時を置いて、四つん這いながら、エジソン氏は辛うじて復活した。

 

「……認めよう。私は歴代の大統領たちから力を託され、それでも勝利できないという事実を導き出し、自らの道をちょっとだけ踏み間違えた……」

 

 ちょっとだけ、という部分を復唱しようとしたリカのお口を空かさずガード。

 

「ここまで市民に犠牲を強いておきながら……私はこれからどうすればいいのか……」

「簡単よ。あなたはいつも通りにやればいい。何度失敗してもへこたれず、周りにさんざん苦労をかけておいて、自分だけはちゃっかり立ち上がる。あなたの長所って、詰まる所そういうとこだったでしょ?」

 

 ブラヴァツキー女史は無邪気な少女の貌でエジソン氏に笑いかけた。

 

「エジソン。お前は道に迷ったが、お前が目指していた場所は正しいものだ。何かを打倒することでしか誰かを救えぬ英雄と異なり、お前の発明はあらゆる人間を救ってきた。その成果を糧に立ち上がれ。そろそろ目を覚ます時だ、偉大なる発明王よ。お前の頭脳にはまだ、多くの資源(たから)が眠っている」

 

 頭脳。資源。発明という概念さえないインドラの大英雄が、それらの価値を正しく認め、讃えた。これはすごいことなんじゃないだろうか?

 

「ブラヴァツキー嬢、カルナ君……うむ、うむ! 大統王は死なぬ、何度でも立ち上がらねば! 迷惑をかけたな、二人とも!」

「いいのよ、友達でしょ?」

「そうだな。差し出がましいが、友人だな、ここまで来ると」

「――ふ。私はいつも、いい友人に恵まれる。こればかりは、あのすっとんきょうも及ぶまい」

 

 すっとんきょう? どなた?

 

「そしてカルデアのマスターとサーヴァントたちよ。謝罪し、感謝する。私は今度こそ、世界を救う大発明を成し遂げたい! 君たちに続くサーヴァントの一員として、だ。どうか共に世界を救ってもらいたい。我がマスター・リカ、我が戦友マシュ・キリエライト」

 

 わたしはリカと顔を見合わせて。

 

「「喜んで!!」」

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