マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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アメリカ13

 リカの決めた編成は以下の通りだ。

 

 北軍には、エリザベートさん、ロビンフッドさん、エジソン氏、ブラヴァツキー女史。

 南軍には、カルナさん、ラーマさん、ナイチンゲールさん、スカサハさん、わたし。加えて、率いる機械化歩兵には、サーヴァントに追随可能なよう、エジソン氏がブースターを組み込んでくれた。

 

 ただ、若干の変動はあった。スカサハさんの単独離脱と、カルナさんの先陣を切りたいという要請である。

 どちらの希望にも、リカは平静に頷いた――震えを隠して。

 

 スカサハさんの見立てだと、全面衝突は南北共に3日後。

 北軍はただちに発つべきとのことだったので、エリザベートさんとロビンさん、エジソン氏とブラヴァツキー女史は早々に大統王府を後にした。スカサハさんもまた、遊撃手として別ルートで出発した。

 

「あの、先輩? なんだか心配そうな顔してるような……」

「フォウフォウ……」

「その指摘は当たっているぞ、リカ。敵の首魁はクー・フーリン。あれが敵に回っている以上、我々に確実な勝利というものはない。それでも勝利を得るために、我らは死力を尽くすのだ。マスター、さあ、号令を」

 

 リカは一度俯いたものの、決然と顔を上げて、普段のリカからは想像もつかない大声を張った。

 

「これが最後の戦いです! 敵はホワイトハウスにあり!」

「アメリカ合衆国をお前たちの手に取り戻せ! そのために我らも力を貸そう!」

「全軍、進撃――開始!」

 

 西部合衆国の全兵士が、応えて大きな鬨の声を上げた。

 

 

 

 

 

 南軍の進軍は極めてスムーズだったと言える。先遣隊のカルナさんとその兵士たちが、ほとんどのケルト兵士を先もって討ち破ってくれたおかげだ。わたしたちはカルナさんたちが討ち漏らしたケルト兵士やワイバーンを討った。

 

「本格的な激突まではあと僅かだ。総員、気を抜くなよ!」

 

 兵士たちが応えて怒号を上げ、それぞれ銃を再装填し始めた。

 

《さすがコサラの王。どんな年齢(すがた)であれ、絶大なカリスマ性だね》

 

 ラーマさんは複雑そうな表情を浮かべたものの、すぐにそれを引き締めた。

 

 しばらくして、兵士から報告があった。

 20キロ先で敵軍を視認。敵軍を率いているのは、褐色の肌をした白衣の弓使い。

 

「カルナには伝えたか? ――そうか。ならいい。戦闘になっても、その弓使いにだけは近寄るなと総員に通達してくれ」

 

 兵士が了解して下がった所で、ドクター・ロマンが通信をオープンにした。

 

《……アルジュナだね》

「ちょっとした悪夢のようだな。アルジュナはマハーバーラタの主人公とも言える大英雄だぞ。あらゆる戦場で勝利を掴み、カルナですら一敗地に塗れた。果たして勝てるものか……」

 

 答えたのは、リカだ。

 

「そこは、勝ってください。今はシータさんと一緒、なんでしょう?」

「――そうだったな。余の命の隅々に渡るまで、妻シータは共に在る。思い出させてくれて感謝する、マスター」

「いいえ。ラーマさんがそう思ってくれる分だけ、あたしも希望が持てますから」

 

 リカは穏やかに笑んで胸に両手を当てた。そのしぐさは、可憐というより、敬虔だった。

 

 

 

 

 行軍を進めて、ついにわたしたちは激戦区へと踏み入った。

 

 戦場の中央で対峙している二名。純白の射手アルジュナ。黄金の槍使いカルナ。彼らの激突は、わたしたちが割って入っていいものではない。そんなの自殺しに行くようなものだ。

 わたしたちの敵は、ケルト軍の兵士と怪物ども。

 

 ラーマさんが兵士たちに号令を発す。

 

「ワイバーンなどを含めた敵への対処は、行軍中に叩き込んだ通りだ! 奴らは強いが、ただそれだけだ! 恐れる必要はない! ――お前たちにはこの土地を守る義務がある。それは所有者だからではない。奪ったからには、最後まで責任を果たせということだ! 幾千幾億もの命が、お前たち一人一人に懸かっている。この戦争は、お前たち一人一人が勝たなければ意味がない。勝利を掴め! さあ、行くぞ!」

 

 カルナさんとアルジュナの戦いからあぶれたケルト兵士軍団が向かってくる。わたしは先んじて実体化させた盾を握り直した。

 

 両軍が、激突した。

 

 スキル・自陣防御を最大値で発動。アメリカ軍の兵士たちの護りを少しでも堅牢にして、死傷者を増やさないように。

 そうしてわたしが防衛領域を築いても、敵がケルトの戦士となれば、どうしてもこちら側に負傷兵が出るのをまぬがれない。けれどこちらには最強の看護師――ナイチンゲールさんがいる。彼女は戦場を縦横に駆け、負傷兵を手当てして回った。

 

 こちらはどうにか持ち堪えている。

 アルジュナと邂逅したカルナさんは無事だろうか? わたしは通信回線を開いてドクター・ロマンに尋ねてみた。

 

《……すごいぞ。まさに神話の再現だ! さすがはトップサーヴァント。色々と針が降り切れてるな! とにかく映像をそちらに回すから見てくれ!》

 

 通信端末に青い光学スクリーンが展開した。

 映っているのは、カルナさんとアルジュナの――死闘と表現するのもおこがましい、ヒトの域を凌駕した激突だ。

 

 崖は槍の一閃で焼失する。

 荒野は矢の一本でクレーターを生じる。

 

 わたしたちが駆けつけても、せいぜい観戦しかできない。

 だとしても、ただ安全圏で映像鑑賞しているよりはよっぽどマシ!

 

「リカ、行こう!」

「はい先輩っ」

「フォーウ!」

 

 わたしはリカと手を繋いで駆け出した。

 

 

 

 

 

 到着した現場では、もはや「戦い」という形容すら生々しい光景が広がっていた。

 

 アルジュナは弓兵。カルナさんに懐に入られれば、自慢の矢も射られない。そのわずかな差がカルナさんに優勢をもたらしている。このまま押し切れば、カルナさんが勝て……!

 

「――抉り穿つ(ゲイ)鏖殺の槍(ボルク)

 

 ―――――え?

 カルナさんの胸から槍が生えた――訂正。カルナさんの心臓を、背後からゲイボルクが貫いた。

 

「悪く思うな、施しの英雄。こいつぁルール無用の殺し合いでね」

 

 クー・フーリン・オルタは邪悪な笑みを刷いて、カルナさんから紅槍を抜いた。

 

「「カルナさんッ!!」」

 

 わたしもリカも弾かれたようにカルナさんに駆け寄った。

 

 片膝を突いたカルナさんの左胸には、ラーマさんと同じ陥没。そこからどんどん血が溢れて地面に落ちていく。

 

「さあて。そいつが例のマスターか」

 

 わたしは立ち上がって、リカとカルナさんを背にして盾を構えた。

 

「何だよ、震えてるじゃねえか。歴戦の勇者ってのはこっちの思い込みだったか」

 

 ――容姿は確かに冬木で一緒に戦ってくれたキャスターさんだ。でも目に惑わされてはだめ。あの「クー・フーリン」はキャスターさんとは別人で、わたしが戦うべき敵。

 

「ナイチンゲールさん。リカとカルナさんを下がらせてください。カルナさんに治療措置を」

「言われるまでもありません。ミス・藤丸、彼の反対側の肩を担いでください」

「は、はいっ」

 

 リカたちは後方へ。入れ替わるように、ラーマさんがわたしと並んだ。

 

「スカサハはどうした!?」

「ん? ああ、斃した」

 

 クー・フーリン・オルタのあまりにも軽快な回答に、立ち眩みに見舞われかけた。

 斃し、た……スカサハさんが、死んだ……?

 

「弔いの言葉なら必要ねえぞ。オマエたちもここで死ぬんだ。傷の舐め合いは冥土で勝手にやってろ。――蠢動せよ、死棘の魔槍」

 

 クー・フーリン・オルタの宝具が来る!

 あの朱槍は因果を超えて心臓を穿つ。いくらギャラハッドの盾でも、真名解放できないわたしじゃ、呪いの槍は防げない。全速離脱したくても、もう間に合わない……!

 

「先輩ッ!!」

 

 反射的にふり返ると、リカがわたしのほうへ駆け戻ろうとしていた。わたしを助けようとしている。

 だめだと叫ぶ暇さえない。よしんば間に合っても、リカの治癒魔術じゃゲイボルクの呪いの傷を治せないのは、ラーマさんで証明済み。

 

 わたしはこの時初めて、カミサマというものに全力で祈った。

 何でもいいから奇跡を起こして。わたしにリカを護る力をちょうだい……!

 

 ――カミサマは応えなかったけれど、祈りは、確かに届いていた。

 

 誰もいなかったはずの場所に、白いローブの男性が現れた。

 それだけなのに、ゲイボルクは発動を止めていた。呪いの槍はわたしたちの誰も傷つけていない。

 

「ちょっとうたた寝しながら歩いていたら、そこは見知らぬ荒野の国。これは夢の続きか幻か。おはよう、そしてこんにちは、諸君。みんなの頼れる相談役のお兄さんの登場だよ」

 

 ギャラハッドの霊基が大きく鼓動した。――“僕”は彼を知っている。

 

「――テメエはどこのボンクラだ? こいつは白昼夢ってヤツか?」

「もちろん。私の十八番、相手を煙に巻いて何とかする戦法さ」

「夢魔のたぐい……そうか。テメエが星見か。反則級の邪魔をしやがって。テメエの矜持が崩れるぞ?」

「そこはそれ、私に誇りとか決まりとか、そういうの無いからね」

 

 あなたは――ここにいるはずのないヒトだ。それだけは確かだ。あなたは最果ての島より世界を見晴るかす御仁。見ているだけで、世界(ぶたい)そのものには上がれないはず。そんなあなたがなぜこの場に――

 

 ――いいえ。わたし、何でそんなことが分かるの? ギャラハッドの記憶の残滓がまた? やめて! これじゃわたしがギャラハッド本人みたいじゃない!

 

「っと、本当にうたた寝から覚めそうだ。申し訳ないけど、私にできる手助けはここまでだ。あとはキミたちの手であの狂王を倒すしかない。それが果たされた先の未来で再会と行こう。それでは失敬。キャスパリーグをよろしくしてやってくれ」

 

 

 

 

 

「―――『オシリスの塵』」

 

 はっと、我に返った。

 

 クー・フーリンが舌打ちして大きく身を翻した。奴の背後にいたのは、血まみれのカルナさん。

 

「灼き尽くせ……日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)!!」

 

 満身創痍のカルナさんがその槍その身に膨大な炎を集わせ、解放した。

 神をも殺す火焔の槍を、神なきこの大地を侵さんとする狂王を滅ぼすために、惜しげもなく、命さえ惜しみもせず使った。

 

 爆発した。

 比喩でもなんでもなく、カルナが爆心地となってクー・フーリン・オルタに劫火を浴びせた。

 でも、威力があと一歩届かなかった。クー・フーリン・オルタは火傷まみれだけど健在だ。カルナさん自身、そうと分かったからか、無念を顔に浮かべて、消滅した。

 

「最後の最期で足掻きやがって。これだから槍使いの生き死には信用ならねえ」

 

 どの口で……!

 茫然自失はここまで。わたしは盾を握り締めた。目の前には手傷を負ったクー・フーリン。今ならラーマさんと総がかりで奴を倒せるかもしれない。

 

「こちとら今ので全身大火傷だ。帰って涼ませてもらうぜ」

「逃げても無駄ですよ。クー・フーリン、()()()()()()()

 

 え、とわたしはついクー・フーリン・オルタを見やった。

 傷を負っているというのならわかる。カルナさんの決死の一撃でクー・フーリン・オルタは全身に火傷を負った。けれど、ナイチンゲールさんの指摘は火傷ではない。

 

「……ハ。お前の言う通りだ、血まみれの天使。オレが癒される日なんざ、永遠に来ねえだろうよ。倒れて朽ち果てるその日まで、オレは王で在り続けるだけだ。――来るなら来い。ワシントンで戦ってやる」

 

 クー・フーリン・オルタの姿が掻き消えた。女王メイヴが聖杯で呼び戻したのかもしれない。

 

 この機を逃さず、ラーマさんは全軍に進撃を命じた。アメリカ軍兵士たちはケルト戦士やワイバーンに向かって、それぞれの全力を尽くして戦い始めた。

 

 空白地帯になったここに立つのは、わたしとリカ(とフォウさん)、ナイチンゲールさん――そして、アルジュナだけ。

 その場に立ち尽くすアルジュナに対し、ナイチンゲールさんが呼びかけた。

 

「アルジュナ。治療を受ける気はありますか?」

「……私が何を、病んでいると言うのです」

「貴方は、『第二の生を享けた英雄』で在ろうとしていても、『サーヴァント』で在ろうとはしていない。狂おしいほどにやり直しを願い、叶わなかった願いを求め、それでも最後の一線を引くのが、サーヴァント。貴方はその一線を理解しようとしなかった」

「……私、は……」

 

 アルジュナは深く項垂れて、それきり言葉を発しなかった。銀の弓を握る手から、ぽつ、ぽつ、と血が零れたのは、よほど強く拳を握り固めたせいだろう。

 そんな彼を葛藤と苦悩から解放する言葉を、わたしはこれしか持たなかった。

 

「アルジュナ――さん。その、よければわたしたちに力を貸してくれませんか?」

「……残念ながら、そういうわけにはいきません。そうしたいのは山々なのですが。私のしたことへの償いは必ずします。信じていただけますか?」

 

 わたしはリカと顔を見合わせた。リカは、一度アルジュナさんを見てから、またわたしに顔を向けて、頷いた。

 

「待っています」

「貴女の言葉は、虚ろな心にもよく響きますね。――さようなら」

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