マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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アメリカ16

 はあっ、はあ……!

 クー・フーリン・オルタの強さはでたらめに上がる一方だ。

 ここまでに、わたしとラーマさんで一度ずつ致命傷を負わせたはずなのに、そのたびに棘器官を禍々しく進化させてまた向かってくる。追いつめているはずのわたしたちのほうが息を切らしている。

 

《い、急いでくれ! もう北部戦線が保たない! 彼らの敗北はアメリカの敗北だ。その時点で時代が崩壊する可能性が極めて高い!》

 

 分かってます、ドクター・ロマン。でもこのままじゃ、わたしたちに勝ち目は……

 

我は全ての害あるもの、毒あるものを断つ(ナイチンゲール・プレッジ)!」

 

 春のそよ風に似た癒しの魔力がわたしたちを包んだ。体が軽い。体中に負っていた傷が完璧に治癒されている。

 

「ミス・藤丸。これが私の治療、そして()()()治療です。独りが痛みを肩代わりするのではなく、他者に傷を押し付け合うのでもない。理不尽を踏み躙りなさい。絶望を踏破しなさい。何度でも何度でも何度でも。あなたがこれからも、癒す側で在りたいのならば!」

「っ……!」

 

 全快したなら多少の無茶は利く。押し通してやる。ナイチンゲールさんが立ち上がる力を何度でもくれるなら、わたしは何度でも目の前の敵へ走っていく。

 

「ラーマさんッ!!」

「心得た! ――終わらせるぞ、狂王! 羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!」

 

 ラーマさんの鉈剣が回転して法輪を描いて翔ける。わたしは熱線を放つ法輪の軌道そのものをわたしへの壁にして追走した。

 ラーマさんの宝具の原型は“矢”。よって矢避けの加護を持つクー・フーリンには通用しない。だから決め手はわたしが担う。さっきのナイチンゲールさんの治療宝具で魔力も回復したから、遠慮なく!

 クー・フーリン・オルタが法輪を弾いたモーションの、一瞬のさらに何百分の一かの隙を突いて、懐に潜り込んだ。

 

仮想宝具(ロード)人理の礎(カルデアス)!」

 

 盾の反発力で吹き飛ばすのではなく、クー・フーリン・オルタの体は捕捉したまま、石畳を抉って前進し、その体を広場の柱の一つにぶつけた。ぶつかったクー・フーリン・オルタの背中で白い柱が粉々に砕けた。

 ここで止まらない。わたしは最後の魔力を盾に流し込み、盾を傾けてクー・フーリン・オルタを石畳に組み敷いた。陥没する地面。一波、二波、三波、クレーターが波紋のように広がっていく。このままマントルまで埋没させてやるくらいの気概で、わたしは盾でクー・フーリン・オルタを押さえ込み続けた。

 

 やがて。

 ばきん、と、彼の霊核が真っ二つに割れたような手応えが、あった。

 

「やれやれ。オレもヤキが回ったか」

 

 まるでどうでもいいことのような言葉を吐いて、クー・フーリン・オルタの霊基が消滅した。

 

 

 

 

 

 

 わたしは、それこそ地下と呼んで差し支えない深度の穴から上がって、ラーマさんやナイチンゲールさんと合流した。

 

「どうやら治療は終わったようですね。一人ではなく、この国全体の大きな傷が」

 

 最後までこの看護師の祖はブレないようだ。でも、ブレない彼女だから、ここまでやって来られたのだとも、よーく知っている。

 

 そこで、どこか浮かない顔でぽつんと立っていたリカが、わたしのそばへ来た。

 そういえば、ずっといつもどこかでと思っていたのに、リカの治癒魔術を禁止したナイチンゲールさんに抗議できないままだった。しかしここでその話題を出して別れを後味の悪いものにしたくはないし。うーん、どうするべきか。

 するとリカはナイチンゲールさんに一礼して、いつもよりフラットな声で言った。

 

「色々勉強させてくださってありがとうございました」

「感謝は無用です。無用ですが、その代わりに」

 

 ナイチンゲールさんは手袋を外して右手をリカに差し出した。

 

「どうか握手を、ミス・藤丸。連れ添った()()が退院する時、こうやって手を握り合うのが、私の密かな楽しみだったのです」

「――はい」

 

 リカがナイチンゲールさんと握手を交わした。

 

「マスター。厳しいことばかり言いましたが、重ねて言います。貴女はもっと自分に優しくなりなさい。私は私の目的のために戦った。貴女は貴女のために戦っている。ですからこれは差し出がましい祈り。――いつか貴女の神秘と貴女の心が結びつき、真の奇跡となりますように。そうでなければ何もかも救われません」

「……ありがとうございます、婦長」

 

 ナイチンゲールさんの別れの微笑みは、当人は何度も否定したが、それこそ天使のようだった。

 

「こほん、最後は余だな。マシュ。リカ。余は、今回の戦いで誇れることがいくつもある。最短記録でシータを救出することができたのはもちろん、おぬしたちと出会えたことだ。リカの正しきサーヴァントとなり、マシュと肩を並べて戦うことができたら、それは最上の喜びとなろう。ゆえに、別れは告げぬ。また会おう! マシュ! リカ!」

 

 ラーマさんが退去した。

 

 ドクターから入った通信によると、北部戦線のサーヴァントたちは全員が先ほど退去しという。これで残ったのはわたしとリカとフォウさんだけ。

 いつもながら名残惜しい、第五の旅の終わり。あとはわたしたちがカルデアへレイシフトするだけ。

 

 ……ナイチンゲールさんは退去したんだし、もう、いいよね?

 わたしは、久しぶりでつい照れくさくなりつつ、リカと手を繋いだ。リカはこてんとわたしの二の腕に頭を預けた。何だろう、このむずがゆさ。

 

 

 

 

 

 

 カルデアの青い管制室に無事帰り着いたわたしたち。

 ドクターの勧めもあって、わたしとリカは休息を取るべく早々にマイルームに向かうことにした。

 

 廊下に出て少しして、リカが唐突に言った。

 

「先輩、いいことでもありました?」

「わたしが?」

「笑ってるから」

「……そうね。ねえ、リカ。今回の旅も、悲しい出来事がたくさんあったね」

「はい」

「だからこんなことを言うのは、その、不謹慎なんだけど――楽しいんだ、わたし。リカと二人で世界と時代を駆け巡って、色んな人や英雄と出会う。すごいよね。きっとどんな魔術師でも体験できなかった旅。記録には残らなくても、この思い出を、ずっとずっと大切にしたい……そう思う」

「――――」

「それじゃあ、シャワーを浴びて、ちょっと眠りましょうか。それとも何か食べに……リカ?」

「――せん、ぱ――ごめん、なさ…」

 

 ぱたっ、と。

 ひどく呆気なく、前触れなく、リカが廊下に、倒れた。

 

「――リカッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 苦しい。苦しい。それでも、生きてる。

 安らかに眠れなくてもいい。

 あなたの命の終わりを知った時から、あたしは、生まれ落ちた。




 ながーい留守を謝罪して、読者の皆様に土下座を。

 そしてついに作者も念願のキャメロット編に入れます。
 ここからはなるべく間を置かずに行ければと思っております。
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