マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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キャメロット9

 ともあれ西の村の近くに辿り着いたのだ。一刻だって無駄にできない。

 わたしたちはハサンさんの案内に従って脇目も振らずに村を目指して走った。

 

《強力な魔力反応を前方に確認! 間違いない、円卓の騎士だ!》

「真正面からぶつかれば勝機は薄い! このまま奇襲をかけましょう! アーラシュ殿とハサン殿は我々が敵の虚を突いた隙に村へ――!」

「承知! この場を頼みまする……!」

 

 接敵まであと5秒――4、3、2、1……!

 

「リカ、お願いっ!」

「はい先輩! 魔力回路(サーキット)全励起(イグニッション)!! および瞬間強化、付与します!」

「やっ――あああああああッッ!!」

 

 わたしは斜面を駆け降りる勢いをそのままに地面を蹴って、落下の推力を乗せて、魔力防御のスキルでフルコーティングした盾ごと、その騎士に全力のボディアタックを仕掛けた。

 しかし、というか、やはり、真っ向から防がれたが。

 

「よく来たなクズども、歓迎するぜ! 手前から来るとは見所あるじゃねえか!」

 

 王剣が盾を受け止めて、鍔迫り合いに持ち込まれた。

 

 覚悟、していたつもりだったけど……ロンドンで何度もわたしたちを助けて戦ってくれたモードレッド卿を、思い出さずにはいられない。

 でも、違和感がある。彼女はこんなにも禍々しいモノを背負っていただろうか?

 

「テメエは……父上の招集に応えないと思ったら何してんだよ、え? 盾公。まさか叛逆者ってのはテメエだったのか? ……。……そうか。テメエなら、まあ、アリだな。ちっ。また遅刻しやがって。遅すぎたっつーの。もう盾公から遅刻魔に呼び変えるぞ」

「わたしの名は盾公でも遅刻魔でもなく、マシュ・キリエライトです!」

「言うじゃねえか」

 

 モードレッド卿は可憐な顔に似合わない獰猛さで、盾ごとわたしを王剣の一振りで振り払った。

 

「後ろでびくびくしてんのが例のマスターだな? アグラヴェインの頼みだ。念入りに殺してやるよ」

《マシュ。彼女はロンドンで会った赤雷の騎士じゃない。情けをかけていたらリカ君が殺される。全力で、ひとりの敵として戦うんだ》

 

 リカが殺される。その言葉はわたしの中の何か大事なスイッチを、かちん、と他愛なく切り替えた。

 スキル・魔力防御、再発動。リカがくれた魔力をありったけ、盾の反発力と硬さを高めるために回す。

 

「戦いになればいいけどなァ? オレに与えられたギフトは“暴走”だ。オレの魂が燃え尽きるまで聖剣をぶっ放し続ける。たかだかマスター一人とサーヴァント二騎じゃあ相手にもならね――、――待て。何でテメエが居る? 居るはずのねえ三流騎士が反逆者に混じってるなんざ最悪の冗談だろうが!? ベディヴィエール!!」

 

 モードレッド卿が、わたしの隣にいたベディヴィエール卿に斬りかかった。速い。瞬きも間に合わないスピードで懐に入られた上に、予備動作が全く視えなかった。

 けれど、ベディヴィエール卿は腰の細剣を抜くことさえなく、銀に光る右腕だけでクラレントの一撃を防いでみせた。神造宝具の模造品とはいえ、何てデタラメな強度と耐久性。

 

 飛びずさって王剣を構え直したモードレッド卿。わたしは、はっとして急いで盾を構えたのだが、ベディヴィエール卿がわたしを小さく制して自ら前に出た。

 

「貴方に恨み言があるのは私も同じです。叛逆の騎士、アーサー王の理想を踏み躙った不忠者。その汚れた聖剣こそ、見るに堪えぬ()()()()()だ」

「――思い上がるなよ。テメエはただ余った席に座っただけの、軟弱騎士だ。アグラヴェインが早死にしなけりゃ、テメエが王のお付きになるなんてこともなかった。テメエは、ただ! アーサー王の覚えがよかっただけの! ()()()()()()()じゃねえか!」

「ええ、その通りです。私は他の騎士たちに遠く及ばない。精霊や太陽の加護もなく、天賦の才も持ち合わせぬ、一介の騎士に過ぎなかった。そんな私を、王は頼ってくださった。その恩に報いるために、私はこのヌァザの腕を賜ったのです」

「ははあ? 大口叩いた自信はその義手か。チキン野郎、そんなもんどこで手に入れやがった? オレたちの記憶にねえぞ、んなシロモン」

 

 ――そう、いえば。

 あ、れ? どうしてわたし、疑問に思わなかったの? ベディヴィエール卿は隻腕の騎士だった。ギャラハッドの霊基が覚えている彼の姿は、砂嵐がかかったように不鮮明なデジャヴで、特に右手の画像がどうしても再生できなくて――

 

「記憶にない? それはどうかな。貴方の鳥頭では思い出せないだけかも、ですよ?」

 

 不機嫌に着火した形相のモードレッド卿にも、ベディヴィエール卿は一歩たりとて怯まない。

 

「リカさん。どうか約束してください。これから私が負う傷の一切を治さないと。この痛みが、私の『証』だから」

「痛みが、証――」

「――我が魂を燃やして走れ、銀の光」

 

 スペルによって輝きを増したベディヴィエール卿の右腕が、ついに細剣に伸びた。

 

 ――ベディヴィエール卿だけに任せるなんてできない。信頼していないのではない。ただ、わたしが、助けてくれたこの人を今度は自分が助けたいという思いで、盾を構えた。お節介な先輩騎士の顔をした敵への迷いを捨てきれないままでも、それ以上にわたし自身の強い気持ちがあるから。

 

 開戦に合図はなく。

 勢い任せに突っ込んできたモードレッド卿を、わたしは盾で阻んだ。

 

 二度目の王剣と盾の鍔迫り合いに持ち込んだ所で、二度目の、反発力を使った弾き飛ばし。ただし威力は弱めて。モードレッド卿を吹き飛ばすのではなく、よろめかせる程度に留める。

 

 姿勢が崩れたモードレッド卿にベディヴィエール卿が迫って細剣をくり出した。――彼の生前から変わらないスタイル。鎧を重厚に纏う騎士に対して、甲冑の隙間から細い刃を滑り込ませてダメージを与える。精密な技巧と観察眼を持つベディヴィエール卿でなければ不可能な戦い方である。

 ここでもやはりそれは活きた。細剣はモードレッド卿の甲冑の胸部の隙間に入り込み、確実に急所を捉えた。

 

剣を摂れ(スイッチオン)銀色の腕(アガートラム)!!」

「ガッ!? かは……!」

 

 細剣を通してヌァザの銀腕が生じた灼熱がモードレッド卿を穿ち、焼いた。

 モードレッド卿はベディヴィエール卿を蹴り飛ばして離脱し、前屈みの姿勢でダメージを食らった胸元を押さえた。

 

「ちくしょう……! 何やってんだオレは! ギフトまで受けて圧し負けてんじゃねえ!」

 

 モードレッド卿は憤怒の形相で王剣を正眼に構えた。王剣に魔力が集束していく。まずい、宝具を開放するつもりだ!

 

「煮え滾れ、星の怒り。我が麗しき(クラレント)父への(ブラッド)――!!」

 

 わたしは急いで前に出て、盾を仮想展開する準備に入った。

 

 けれど、それより早く、流星のごとく矢が飛来した。

 モードレッド卿は矢を王剣で叩き落とさざるをえず、宝具解放のタイミングを逃した。

 

「どこのどいつだ!? しつこく腕の腱を狙いやがって、殺されてえのか!」

「そりゃあ戦いだ。どっちかは死ぬだろ。特に、自分の限界を無視して前に出る奴とかな」

 

 アーラシュさん! ハサンさんも!

 

「いい働きだったぜ。お前さんたちのおかげで、その騎士さま以外の兵士は残らず片付けた。村は無事だ。ただ……なんだかなあ。そのお嬢……いや、兄さん。いま自爆しようとしていたよな。暴走のギフトを全開放して聖剣ごとこの山を吹き飛ばす算段なんだろうさ」

「……何だそれ。お前、分かるのか、そういうの」

「たまたまだよ。英霊といえど魔力を暴走させても、宝具の威力が増すくらい。だがお前さんのギフトは別だ。そりゃあただのメルトダウンだ。分かってんのか? そのギフトを与えた奴はお前をそういうもんとして扱ったんだぞ?」

 

 リカが顔を青ざめさせた。

 

「な、何ですか、それっ……非道い――」

「っ、ひでぇもんかよ! オレは猟犬だ。獲物を殺して殺して、最後には野垂れ死ねば満足だからな! テメエらはその道連れだ。オレと一緒に死にやが……っ」

 

 アーラシュさんは最後まで言わせなかった。

 モードレッド卿が言葉を終えるより速く矢を射た。モードレッド卿は悔しさを呈して王剣で矢を弾き落とした。

 

「敵であってもそういうことなら俺は怒る! 剣の勝負に負けたから自爆してチャラだと? 勇士の誇りがまるでない! お前さんそれでも円卓の騎士か? 勇ましいのは最初だけか?」

 

 モードレッド卿はアーラシュさんが未知の言語をしゃべっているかのように、あたふたしている。

 驚くことに、アーラシュさんはモードレッド卿の性根を本心から親身になって叱っているのだ。敵対者の態度ではないし、何より彼女は自分を思いやるゆえに怒る相手と会うこと自体初めてだろうからな。なんて、現実逃避しないと、わたしも展開に付いて行けない。

 

「いいか? 命を使うべきであれば、自らの誇りと、護るべきもののために使え! 自暴自棄のわがままに俺たちを巻き込むな! 子供の世話は大好きだが、ガキの面倒は願い下げだ!」

「ガキっ―――オレのどこがガキだってんだ!」

「……すまん。ちょっとタイム。――おいマシュ、あいつ何歳なんだ? 見た目が若いんで、てっきりお前さんより年下かと」

「年上だよ! オレは外見が16歳で止まってるだけだ!」

「そうか。なら立派な大人だな。であればなおさらだ。悔しいのなら再戦に全てを賭けて出直して来い。今回は引き分けにしておいてやる」

 

 モードレッド卿は乱暴な手つきで金のポニーテールを掻き毟った。

 

「いいだろう、口車に乗ってやる。今回はオレの負けだ。部隊も全滅してるしな。この村も見逃してやる。そこのチキン野郎が獅子王に謁見するってんなら、どうあってもオレたちは聖都でご対面だ。勝負はそれまで預けた」

 

 モードレッド卿は何の気負いもてらいもなく王剣を鞘に納め、背中を向けて山を下りていった。

 

 どっと肩の力が抜けた。

 

 味方に回れば心強いが、敵であるなら最凶。それがあの騎士だ。ハサンさんも言っている。負けを引き分けにしただけでも僥倖、と。

 

 今のはロンドンでずっとわたしたちのサポートをしてくれたモードレッド卿とは、違う。目に惑わされないで、現実を受け止めないと。

 ――遊撃騎士モードレッド。わたしたちの敵の一人。

 声にはせず唱えて、胸に刻んだ。

 

「ベディヴィエールさん!?」

 

 リカの悲鳴じみた呼び声で、わたしもふり返った。

 ベディヴィエール卿は右の義手を抱えて頽れていた。

 

「だい、じょ、ぶ……、…っ」

「大丈夫くないです! 待って、今」

 

 リカが義手に伸ばした手を、ベディヴィエール卿は左手で制した。

 

「治さない約束、でしょう? ――マシュ…すみませんが、少し、迷惑を、かけ…」

「ベディヴィエール卿!」

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