マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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キャメロット12

 とても大きな変化があった一夜が明けて――朝。西の村。

 

 藤太さんのお米宴会のおかげで、わたしの体のバイタルは上がって英気は万全。

 そんなわたしたちを、呪腕さんは呼び出して百貌のハサンさんと改めて対面させた。百貌さんから大事な話があるとのことだ。

 

 百貌さんは、わたしとリカとベディヴィエール卿が獅子王と敵対している者であることを信じ、静謐のハサンさんの救出へのお礼を前置きして、何かを――言わなかったんですねえ、これが。

 挙句、百貌さんは正々堂々戦って勝って、彼女自身から協力の言葉を引き出せろとの無茶な要求を一方的に突きつけてきた。静謐さんを巻き込んで。静謐さんは静謐さんで、ズレた方向に受け止めて百貌さんの味方について挑んできた。

 

 協力を正式に承諾してもらうためには致し方なし、と腹を括ったわたしは、ベディヴィエール卿と力を合わせて、全力でお二方を撃退させていただきました。

 

「ええい、子供か貴様は! 静謐の素直さを見習わんか!」

「山の翁の誇りを忘れていないだけだ! そう簡単に異教徒を受け入れられるか!」

 

 そこでリカがわたしに耳打ちした。「何教に改宗すれば許してくれるでしょうか?」って……こら。デリケートな問題をその場の空気で決めちゃいけません。

 

「だが、それもここまでだな。確かに大人げなかった。童たちの手前もある。――マシュ。リカ。我らは近々、軍勢をもって聖都を攻略する。聖地を奪われ、家族を奪われた者たちによる連合軍だ。その時、お前たちの助力が欲しい。どうか我々に、お前たちの力を貸してほしい」

 

 わたしたちの目的は獅子王との対面。山の民の目的は獅子王との対決。その目的に至る手段は全面戦争しかないという点で一致している。むしろこちらが力をお借りしたい。

 

 わたしはリカをふり返った。リカは少し強張った面持ちで、それでも一つ首肯した。

 

 百貌さんが現在の味方の戦力を丁寧に解説した。

 ――現在、聖都への攻撃に賛成している山の民の村は半分。前線に出られる戦士は7000ほど。数だけなら聖都の兵士と並びうるが、粛清騎士たちは強く、一人に対してこちらが三人がかりでようやく勝ち目があるという。円卓の騎士が出てきてしまえば一貫の終わり。

 

「……それでも、これ以上は待てぬのだ。我らは疲弊する一方なのだから」

 

 わたしは昨夜の光景を思い出した。リカが世話して回っていた、暗がりにいた傷病人たち。例えばここにナイチンゲールさんがいたら彼らに的確な治療を施せただろうけれど、そこまでだ。英気を養おうにも水も食糧もかつかつで、体を休めるための寝床さえ満足にないし、看病する人手は軒並み兵力。疲弊していく一方。なるほど、その通りだ。

 

「しかしサーヴァントの数ならこちらが上だろう。十字軍との戦いを生き延びた円卓の騎士は五騎。対してこちらは八人だ。いや、戦場になると三蔵は役に立たぬゆえ七人か。それでも一人一騎で数は合う。であれば、もう我々だけで聖都に攻め入ってしまえばいいのでは?」

「それは違う、トータ殿。これは聖地を取り戻す戦いだ。俺たちが戦って円卓を倒せばいい、という話じゃない」

「無論、兵力については最後まで呼びかけを続ける。円卓どもも各個撃破すればよい。問題はガウェインだ。奴が正門にいる限り我らに勝ち目はない」

 

 ガウェイン卿は日中であれば聖者の数字によって力を三倍に増す。ならば太陽の加護のない夜に戦いを挑むのがベターだ。しかし、獅子王のギフトによって彼は常にその場を「日中の時間帯」にしてしまえるようになった。

 

 三蔵さんが、いっそ一度はガウェイン卿に勝ったランスロット卿を味方につければ、と明るく提案したが、藤太さんに拳骨で却下された。

 

《悪いが、この状況では聖都攻めは反対だ。加えて、敵というのなら他にもいるんだ。エジプト領のオジマンディアス。彼が何を企んでいるのかまるで分からない。不安材料が多すぎる。カルデアの司令官として、マスター・リカおよびマシュの参戦は認められない》

 

 そこで、ずっと黙っていた静謐さんが、待ったをかけた。

 

「マシュさまとリカさまを繋ぎ止めるには、もう一つ、大きな戦力があればいいのですね? それなら我らにも秘中の秘があります。私が捕らわれ尋問されていた理由の一つでもあります」

「静謐! 貴様、まさか――!」

「お許しください、百貌さま。ですが我々も禁忌を破る時ではないでしょうか? 私たちだけでは力が足りないなら、あの御方の力を借りるしか……」

 

 暗雲を漂わせる呪腕さんと百貌さんに代わるように、ベディヴィエール卿がその答えを教えてくれた。

 

「アズライールの廟。アサシン教団始まりの寺院に眠るという、初代“山の翁”のことですね。ここに来る前に魔術師に言われたのです。『アーサー王に対抗するのなら、歴代のではなく、最初にして最後の山の翁を訪ねなさい』と」

 

 確かに、と呪腕さんが生唾を飲み下すように賛同した。

 

「あの御方であれば、ガウェインなど恐れるに足りぬ……」

「静謐、貴様には言っていなかったな。呪腕めは、この時代に生きた暗殺者だ」

「っ、そんな…………ごめんなさい。私、知らなくて――」

 

 意味深な――おそらくはハサンの彼らにとってはきっとデメリットが大きい話が、わたしたちを蚊帳の外に置いて進んでいる気がしてならない。

 

 だというのに、わたしが意見や質問を挟む隙もなく、呪腕さんがドクターに言った。

 

「ロマン殿。マシュ殿とリカ殿を今一度、我が村に遣わしていただきたい。そこで我らの秘密を明かしましょう」

 

 

 

 

 聖都攻略の準備に出かける百貌さんと一旦別れて、わたしたちは東の村へ戻った。徒歩で。二日かけて。

 

「アーラシュ殿のあの破天荒から丸一週間ですか。まさに夢のような出来事に思えますね」

「なに? なんか楽しそうな話、してる?」

 

 三蔵さんがひょっこり話題に入ってきた。微かに、本当に微かに、リカが息を呑んで、わたしの腕にしがみついた。寄り添ったリカの体は小刻みに震えている。

 

 三蔵さんに返答したのは、最後尾を行くアーラシュさんだ。

 

「楽しいぞう? 大声上がるの待ったなしだ! しかし、帰り道もどうかと提案したが却下された。無念だ」

 

 三蔵さんは事の詳細をアーラシュさんから聞くべく、アーラシュさんに歩調を合わせたので、こちらと三蔵さんの列に空白が生じた。それによってリカは、くたっとわたしの二の腕にもたれかかった。……今さらな感想だが、リカにこのトラウマを植え付けた仏式カルト教団とやら、人理修復後も健在なら叩き潰しに行ってもいいだろうか?

 

「まあまあ、アーラシュ殿。慎重を期せば敵に遭うこともなし。さあ、我らの村が見えてきましたぞ」

 

 

 

 

 ――村へ入ると、村人さんたちが集まってきて「頭目とアーラシュさんがお帰りだ!」と歓迎モード全開。

 よくよく考えれば、呪腕さんとアーラシュさんはこの村の守りの要であり、その二角が揃って留守にした日々、村人さんたちは気が気でなかっただろう。どれもこれも大事なことだったとはいえ、お二人を連れ回したことを反省し――

 

「おかえり、マシュ姉ちゃん! リカお姉ちゃん!」

「ひゃ……!」

「きゃああああ!」

 

 び、びっくりした。後ろからわたしとリカに飛びついたルシュド君に、ではなく、リカの悲鳴の音量に。

 

「はっはっは。これルシュド、気持ちは分かるが今のは良くない。これで相手が静謐や三蔵殿であったら、おぬし、一日は物が通らぬ体だったぞ」

「そこは大丈夫! 人を選んでやってるからね」

 

 ――こら。

 

 

 

 

 

 藤太さんの宝具で白米を東の村人にたっぷり配給してから、呪腕さんがついに物々しく告げた。

 

「我らが目指すのはこの村よりさらに奥、深き幽谷。山の民でさえ近寄れぬ、アズライールの廟。皆様には、かの廟までご同行願いたい」

《アズライールというのは、死告天使アズライールのことかい?》

 

 ドクター・ロマンの問いに頷いたのは静謐さんで、呪腕さんの説明を継いで教えてくれた。

 ――天命の下、諸人に死を告げに現れる大天使。本人が望まずともその名を冠した暗殺者。その人物が、彼女たち“山の翁”の初代。アサシン教団の守護者。

 

《うーん……山の翁の初代っていっても、やっぱりアサシンのサーヴァントだろう? 対人特化はしているだろうけど、今の円卓の騎士やアーサー王に対抗できるのか……》

「いいえ、魔術師殿。アズライールの廟にいるサーヴァントは特別な存在。彼にとってあらゆる命は平等に“一つの命”であり、彼に相対した者は刃ではなく“自らの運命”に殺されるのだと聞きました」

「……ベディヴィエール殿。我らが初代を敬っていただけるのは喜ばしいが、ますますもって貴方が分からなくなってきた。円卓の騎士である貴方が、何故そのことを?」

「全て花の魔術師からの受け売りです。私自身は……未熟な、円卓に居ただけの騎士ですから」

 

 常盤色の両目を逸らすベディヴィエール卿を見て、呪腕さんの表情(?)が綻んだ。

 

「――貴公、嘘が下手ですなあ」

「はい、申し訳ありま……い、いえ! 嘘ではありませんとも! 初代殿の伝説はフランスでじかに聞いたのですから間違いありません!」

 

 ベディヴィエール卿、それ、自白です。

 とはいえ、わたしにも、わたしの中のギャラハッドにも共通した疑問が生じた。

 ベディヴィエール卿がフランスに行ったことなんてあった?

 生前にアーサー王が大陸に軍を進めると決定した時期には、“彼”は聖杯に召されて昇天したあと。

 わたしが史料から得た知識が正しければ、サー・ベディヴィエールは確か、ローマ帝国皇帝ルキウス・ヒベリウスとの決戦まで、ブリテン軍の先陣にいた。そしてスワシィの谷で、彼は――、――だめだ。この先が思い出せない。わたしにも、“彼”にも、やはり不鮮明なデジャヴで行き詰まる。

 

「と、とにかく、アズライールの廟に案内していただくことには、私も賛成です。“山の翁”の実力が伝説通りであれば良し。そうでなくとも、戦力が一つ増えるのですから」

 

 はっとした。わたしは相当深く思考に没頭していたらしい。

 

「本当にあたしたち、その初代さんにお願いしに行って大丈夫、でしょうか……?」

「はい。リカさまであれば、初代様もお力を貸してくださいます。必ず」

「――静謐」

「あ……申し訳ございません、百貌さま」

 

 あちこちに隠れた思惑でがんじがらめにされたような心地のまま、初代“山の翁”の廟を目指すことが決定した。




 言えない……「偽名が何でルキウス?」の調査が型月Wikiであっさり解決したなんて言えないよ……
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