マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった 作:あんだるしあ(活動終了)
わたしたちにとっては義憤を以てして挑んだ戦いは、トリスタンの宣告で唐突に幕を引いた。
「時が来ました。見上げなさい、西の空を。王を邪魔立てした報い、無念と共に受け入れる時です」
西の空が光った。光は柱の形となって落ちて――西の村を、飲み込んだ。
わたしはここが戦場であることも忘れて呆然と立ち尽くした。わたしと一緒に剣を摂ったベディヴィエール卿でさえそうだ。
「これが獅子王の裁き。聖槍ロンゴミニアドによる浄化の柱。ご覧の通り、ちっぽけな山の民たちの村は消え去りました。そして言うまでもなく、次はこの村です。一切の痕跡なく浄化致しましょう」
ことばを失うわたしたちの中、一人だけが絶叫した。――リカが。
「ひ…ぃ、ゃ……あああああああああああっっ!!!!」
皮肉にもわたしは、後輩の悲鳴と泣き崩れる姿で、我に返ることができた。
わたしは盾を消してリカを抱き留めて、どうにかリカを宥めようと何度も呼びかけた。けれどリカはぐずる幼子のように叫ぶのをやめなかった。どうしよう、どうすれば……!?
リカとわたしの有様を見て、トリスタンは呆れたのか憐れんだのか、音断ちの弓を霊体化させて踵を返した。
「これより五分ののち、王の裁きはこの山に落ちる。さらばです、ベディヴィエール卿。もう会うこともないでしょう」
トリスタンが悠々と去っていく。
待て、と吠え立てたくてもできなかった。こんなリカを放って戦いに戻るなんてできっこない。「先輩」がしていいことではない。
《直上、魔力観測値300万オーバー! えーと、最高級の宝具か力が1000から3000だから――ええい、比較するのも馬鹿らしい熱量だ! 急いで退避を! 消し炭になるぞ!》
「―――いや、どちらも無理だ。逃げるのも、助けるのもな」
この声! アーラシュさんだ。無事だったのね。よかっ、た……、……え?
アーラシュさん? どうしてそんなに血まみれなんですか? 内臓が見えそうなほどに深い全身の刀傷は何なんですか? どうしてそんな死に体で、戻って来たんですかッ!?
「リカ、
ぴたり、と。わたしの腕の中で、リカがしゃくり上げるのをやめて、くしゃくしゃに歪んだ顔をアーラシュさんに向けた。
「あなた、まさか――」
「……ごめんなさい。ウソ泣き、でした」
開いた口へ牡丹餅――じゃない。間違えた。開いた口が塞がらない。
「トリスタンは耳を頼りにしてる分、お前さんの迫真の叫びには面食らっただろう。もうこのマスターの心は折れた、自分が手を下すまでもない、と
リカは返答しないで、アーラシュさんに駆け寄って傷口に手を伸べた。けれど、わたしが止めるより早く、アーラシュさん自身がリカの手を避けた。
「治さなくて――いや、移さなくていいんだ。お前さんには耐えられない。というか、こんなバカでかい怪我をお前さんがしてみろ。出血より先に痛みでショック死するぞ。俺はサーヴァントだから平気なだけだ」
「嘘、です……それは! 嘘です! サーヴァントだって怪我したら痛いでしょう!? あたし、知ってるんですから!」
「そこを踏ん張るのが英霊の意地ってやつだ。それとリカ、『命の使い方』をこれから考えるんだろ? 今から俺の『命の使い方』を見せてやる。ま、反面教師だと思ってくれ。せっかく芽生えた気持ちを無駄にするな。お前の迷いは正しいものだ」
「何で……? 何で最後まで、そんなに――他人に優しく、できるんですか……?」
「――、呪腕殿に詫びを伝えてくれ。あんたの大事な村で多くの犠牲を出してしまって、本当にすまなかった、ってな。お前たちは洞窟まで下がってろ。一度ばかり本気を出す」
アーラシュ・カマンガーの、一度きりの、“本気”。まさか、命と引き換えに放つと言われる特攻宝具!?
「アーラシュ――貴方までそのようなことを……」
「なあ、ベディヴィエール。お前さんはもう休んでいい。いや、とっくの昔に休むべきだった。そんなモンまで持ち出して、残った最後の幸福すら切り捨てやがって」
「知っていたのですね。私の目的を……私の、あらゆる罪を」
「これでも千里眼持ちなんでな。察しの良さなら誰にも負けんさ。さあ、行け!!」
ベディヴィエール卿は一度だけ
わたしは条件反射で、リカとフォウさんを抱き上げてベディヴィエール卿たちを追いかけた。
途中からは洞窟までの道案内のため静謐さんが先頭に出てわたしたちをリードしてくださった。
わたしたちは、こぢんまりとした洞窟に辿り着いた。
避難した村人たちの中には三蔵さんもいて、わたしたちの直後のタイミングで呪腕さんが洞窟に来た。
呪腕さんの顔を見たわたしは、アーラシュさんとの別れが今さら胸に詰まされて、すぐにアーラシュさんの「お詫び」を伝えられなかった。でも、わたしの様子から、呪腕さんは事を察したようだった。
ふいに、黙ってしゃがんでじっとしていたリカが、洞窟を出た。
――夜天から落ちる白光を、阻むのは、祈りの矢。
大地から天空へ、逆しまに墜ちる流星。
リカは泣くこともなく、表情さえ無く、その輝きを見上げていた。
――朝が来た。
白日の下に晒された村の荒廃を見て、ひたすらやるせなかった。
裁きの光が落ちた西の村はもう面影もない、と呪腕さんが言っていた。せめてもの救いは、前のモードレッドの襲撃を教訓に、百貌のハサンさんがいち早く村人たちの大半を別の集落に避難させていたことか。
――わたしのせいだ。
東の村に裁きの光が落ちる瞬間、わたしが宝具を真名解放できていれば、アーラシュさんはきっと死なずに済んだ。
わたしは、わたしに宿ったギャラハッドの盾の宝具としての使い方が分からない。
何度意識しても、宝具の真名が出て来ない。
わたしのサーヴァント・マトリクスをリカに読んでもらいもしたが、ステータスが所々滲んでいて読めないとリカは困ったように答えた。
悔しさと後ろめたさで、胸が塞いだ。
民家の隅で蹲っていたわたしに、声がかかった。
「マシュ」
「静謐さん……?」
「村人たちの葬儀が始まります。せめて祈りだけでも一緒に」
「そうですね……」
鎮魂と追悼。今のわたしに手向けられるものなんてそんなものくらいだ。
静謐さんと一緒に広場に向かって歩いていると、正面からリカ(肩にはフォウさん)が走って来た。
「先輩!」
「リカ? よかった。これから村の人たちの葬儀だっていうから、一緒に」
リカは首を横に振った。
「さっき、呪腕さんに言われたんです。早々に出発して、アトラス院の砂漠へ向かえって。円卓の追撃が来る前に急げ、って」
こんな惨状にある村に背を向けて、悠々と旅立てって? そんなの、あんまり不義理じゃなかろうか。
カルデアからの通信が端末に入った。ドクター・ロマンからだ。
《初代ハサンの言いつけもあるけど、今は聖都を攻略するための情報が欲しい。裁きの光を目の当たりにした今、一刻の猶予もない。あれに対抗する手段を見つけないと》
心がにぶく痛む。リカやドクターの言う通り、わたしが村に残ってできることはない。
きついししんどいけれど、今は目の前の課題を一つ一つ片付けていかないと。
「了解しました。砂漠へ向かいます」
砂漠を歩くメンバーは、わたし、リカ、フォウさん、三蔵さんに藤太さん、そしてベディヴィエール卿である。
「相変わらず物凄い風です! 皆さん、吹き飛ばされないよう……!」
わたしはリカと手をがっちり繋いである。最悪、吹き飛ばされても、リカと離れないならまだマシだ。
「だいじょうぶ、バッチリよ! なんたって一度踏破しているしね! 度一切苦厄。舎利子。色不異空。空不異色。色即是空。空即是色……」
あ、リカがわたしの横に隠れた。苦手な仏式の中でも“読経”は特に苦しいらしい。頭の中にメモメモ、と。
「この辺りだという話だが影も形も見えん! 目安になる建物すらない!」
「距離、方角、共に間違いありませーん! 旅の方向感覚だけは円卓一! 負けませんとも! それが私、ベディヴィエールの自信ですので!」
――わたしたちがこの進路を取っているのは、百貌のハサンさんからの情報を頼りにしてのことだ。
百貌さんからの伝令によると、アトラス院は砂漠の中でも、オジマンディアス王お気に入りだが調査の手が出せない遺跡にあるという。しかもその遺跡の周りにはスフィンクスが徘徊していると来た。
おまけに、近頃は遺跡の周りでおかしな人物がよく目撃されているとか。ターバンを頭に巻いて、黒いマントみたいな服を着た西洋人。わたしの知識には該当する英雄偉人がない――
「きゃあああ! ちょ、やだ、来ないでよぉ! 獅子の体にヘンな顔とか怖すぎるわ! 開明獣といい勝負ね! って何で目からビーム出るの!? 飛び道具やめて! あたしキャスターなんだから肉弾戦で来なさいよ~!」
…………………。
心底申し訳なさそうな藤太さん。
わたしは盾を実体化。ベディヴィエール卿もどこか渋みほとばしった顔をして、右手で細剣を抜いた。
今回のMVPはアーラシュさん。異論は認めぬ。
信じられるか……これ、まだストーリー的には半分の量なんだぜ……?
追伸。
ついに作者もFGO2部沼に落ちました。
筆が進むものでそちらに魅了されておりました。
更新が遅れたのはぶっちゃけそっちのせいです。すんませんでしたァ!m(_ _)m