マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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キャメロット16

 わたし、ベディヴィエール卿、藤太さんが武装して、三蔵さんのもとに駆けつけた時にはすでに遅く、スフィンクスは腹を見せて仰向けに倒れて目を回していた。

 きっとあれが不運にも三蔵さんを襲ってしまったスフィンクスなのだと、わたしたち全員が即時理解した。言語化すると、「あ、うん、そうだよね」という感じ。三蔵さん、きっと無我夢中だったんでしょうね。

 

「――――」

「リカ、どうかした?」

「三蔵ちゃんはスフィンクスからはおいしそうに見える。先輩、覚えました」

「忘れなさい」

「ぁぅ……すみません」

「フォフォフォウ、フォーウ、キャウ!」

 

 とはいえ、三蔵さんがスフィンクスというトラブルに突っ込んでいくタチなのはよーく理解できた。つまり三蔵さんが気ままに進む方向がスフィンクスの徘徊地であり、アトラス院に通じる場所という可能性が高い。

 

 藤太さんもそれに気づいてくださって、三蔵さんに「進みたい方向へ進め」と言った。

 それを、道案内を任されたと受け取った三蔵さんは、意気揚々としていた。

 

「あ、でもなんか気をつけて。後ろからイヤな気配がばびゅーんって近づいてる気がするの。たぶん荒ぶる大岩か何かだから、転がってきたら受け止めなさいね」

「イヤな気配か。おぬしの勘をもう笑えぬからなあ……これは急いだほうがよさそうだ」

 

 三蔵さんの道案内で、わたしたちはひときわ高い砂丘を見渡せる位置まで進んだ。

 砂丘の向こうには複数のスフィンクスが見える。あの一帯を監視するように周回しているスフィンクスを見るに、目的の遺跡はあそこに違いないのだが。

 

「問題はスフィンクスですね。一頭ならともかく、あれだけの数を相手にするのは無謀です。他の侵入経路を探すしかありません」

 

 こういう時こそ、ドクター・ロマンの情報支援があれば……

 

「――今回は別の道探しも一時中断だ。馬の足音だ。武装した一団がこちらにやってくる! この重圧、円卓の騎士と見た!」

「……戦うしかありません。ここは私が切り開きます!」

 

 ベディヴィエール卿を、席を同じくした円卓の同胞と戦わせる。それはとても残酷な仕打ちに思えた。

 わたしは盾を実体化して、リカ(とフォウさん)を背中に庇って身構えた。

 

「――追いついたか。諸君らと事を構えるのはこれが三度目だ。いずれも反逆者のリーダーと対面することは叶わなかったが、最後でようやく機会を得た」

 

 わたしたちの前に現れた円卓の騎士は――

 

「円卓、遊撃騎士ランスロット。王の命により、その身柄を拘束する」

 

 あ………………れ?

 わたし……あの人を、よく知っている。だってランスロット卿は“僕”の――

 

「降伏か抗戦か。諸君らの信念に合わせよう」

「降伏するつもりはありません。ですが、戦いの前に問い質したいことがある。サー・ランスロット。卿はいかなる理由で、今の王に仕えているのか」

「――――これは、幻か? ベディヴィエール……ベディヴィエール卿なのか⁉ 馬鹿な、ありえない! 貴方がこの場にいるなどあるはずがない……!」

 

 三蔵さんが小声でわたしに囁いてきた。

 

(ねえ、マシュ。円卓の連中、みんなああだったの? ベディヴィエールが円卓から離反したからって、反応が過剰じゃない?)

 

 そ、そう言われると、確かに……

 

「改めて問う。答えよ、サー・ランスロット。卿ほどの騎士が今の獅子王に仕える理由を」

「――――総員、戦闘配置」

「ランスロット!!」

「断じてあれが王の所業などと語れるものかッ!! 私が剣を預けたのは騎士王だ、獅子王ではない!! だが、それと諸君らを捕らえる任務に関係はない!!」

 

 ランスロット卿の怒号が乾いた大気を震わせた。

 

「申し開きは王の御前でするがいい! アグラヴェインが卿の参列を許せばの話だがな!」

 

 ランスロット卿が宝剣アロンダイトを抜いた。相変わらずものすごい分からず屋だ! と、わたしの中のギャラハッドが地団駄を踏んでいる。

 

 ランスロット卿の号令で粛清騎士たちが襲ってきた。

 わたしは盾で。ベディヴィエール卿も三蔵さんも藤太さんもおのおのの武器で戦い始めた。

 とはいえ、大人数vs少数。消耗戦に持ち込まれたら確実に負ける――!

 

「先輩、ちょっとだけ頑張ってください! あたし、応援連れてきます! 三蔵ちゃんも一緒に来てください!」

「え、あたし!? きゃー、引っ張らないでー!」

 

 応援?

 ランスロット卿の言ったように、ここにわたしたちに味方する山の民はいない。

 

 リカの発言に、ランスロット卿と彼の部隊も訝って一時的に進軍をやめている。

 

 膠着状態――

 

 先に動いたのは聖都軍のほうだった。

 斬りかかった粛清騎士の剣を、わたしは盾で防いだ。

 

「援軍とやらが合流する前に叛逆者を拘束しろ! 断じて生かして捕らえるのだ! いいな!?」

『『『イエス・サー!』』』

 

 ……ドドドドドドドッッ!!

 

 何か、砂を派手に蹴って、大型の生き物が何頭も、こちらに向かって来ている気がする。

 

「やーめーてー! あたし美味しくないわよー! トータ~~~~!!」

 

 顎、外れるかと思いました。

 

「な――」

「なんですか――!」

 

 リカは三蔵さんを疑似餌にして、スフィンクスの群れを先導して、こちらに走ってきていた。

 

「せんぱーい!」

 

 そうか。スフィンクスの群れとランスロット卿の部隊をぶつけて、わたしたちは側面離脱。タイミングさえ合わせれば、敵vs敵でこちらは消耗なし。我が後輩ながらナイス計略!

 ……問題はその側面離脱のタイミングが計れないってことくらいかな。

 

「ただいま戻りました! 藤太さん、三蔵ちゃんパスです!」

「拙者にパスされてもだな!?」

「よく走ったね。えらいよ」

 

 リカが頑張ったことには違いない。仏式に苦手意識があるのに三蔵さんと一緒に行けたとか、決して運動神経がいいほうではないのにスフィンクスに追いつかれないくらいに走ったとか、花丸をあげたいことはいくつもある。

 なので、リカの頭をなでなで。リカの表情は、ほにゃっと崩れた。

 

「でも次からそういう不意打ち作戦は先輩に相談してからすること。いい?」

「はいです」

「よろしい。では皆々様」

 

 リカをよいしょとお姫様抱っこ。そのリカのお腹に、フォウさんが駆け上ってしがみついた。

 

「ダッシュでこの戦域を離脱します!! 走れー!!」

「あーん! さっきも死ぬ気で走ったのにまたなのー!?」

「泣き言を吐く間があらば足を動かせ!」

「というわけでお暇します、ランスロット! スフィンクス退治はよろしくお願いしますね!」

 

 駄目で元々。かわいい後輩が頭をひねった作戦、一個くらいは根性論で叶えてあげたっていいじゃない。

 

 無我夢中で走っていたわたしの、足下が、急に消失した。え、と戸惑う暇もなかった。

 

 落とし穴のトラップに、わたしたち全員が見事に嵌まってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 落とし穴のトラップに見事嵌ったわたしたち。ただ今、絶賛、真っ暗闇の中。

 

「とりあえず出席をとりましょうか。まずは」

「は、はい。先輩の後輩で一応マスターのリカ、いるのです……その、先輩? あたしが乗ってて、膝、重くないですか……?」

「まさか。こんなに細いんだもの」

「華麗に着地できました。ベディヴィエール、ここに」

「羯諦、羯諦……玄奘三蔵、ちゃんと出席してまーす……」

「ずいぶんと落下したな。それにしては空気があるな?」

「フォウ」

「それは結構。どうやら全員窮地を脱したようだね。では灯りを点けよう。少しばかり目眩がするが、そこはご愛敬だ」

 

 ――――声が、一人分、多い?

 悲鳴を上げるより早く灯りが燈って、六人目の正体を詳らかにした。

 

「やあこんにちは、諸君。そしてようこそ、神秘遙かなりしアトラス院へ。私はシャーロック・ホームズ。世界最高の探偵にして唯一の顧問探偵。探偵という概念の結晶、キミたちを真相に導く最後の鍵というわけだ!」

「な――」

「な――」

「なんかスゴイ人来ましたーーーー!!!」

「何でロンドンに来なかったんですかこの方ーーーー!!!」

 

 はははは、とシャーロック・ホームズを名乗ったサーヴァントは朗らかに笑ってから、わたしたち一人一人を指差し確認し始めた。

 

「キミがミス・キリエライト。そちらがマスター、リカこと藤丸立香。サーヴァント、玄奘三蔵と俵藤太。そして」

 

 ホームズ探偵は堂に入った紳士の礼を、ベディヴィエール卿に向けて取った。

 

「お初にお目にかかる。サー・ベディヴィエール。同郷の人間として、親近感を覚えずにはいられないね」

「同郷? 貴方もロンディニウムの系譜の民なのですか?」

「イエス。ですが私自身はsirの称号を得たことはありません。私の活躍の伝達者はその称号を得ていましたがね」

 

 モニターが生きていれば、ドクター・ロマンも大喜びだったはずだ。わたし自身、感動もひとしおだもの。シャーロック・ホームズは実在したんだから!

 

「喜んでいただけて光栄だが、ミス・キリエライト、私の本質は君が思うものとは些か異なる。それに、私はまだカルデアの依頼は受けられない。依頼された順番がある。私はバベッジ卿の一欠けらの、綺羅星のような理性と引き換えに、この殺人事件の解決を依頼された。この依頼が終わるまで、私はカルデアに縁を結ぶことはできない。だが、私は探偵だ。ただ謎を暴く。それが私の本分なのだから」

 

 小説から想像したホームズ像を裏切らないホームズさんだ。

 

「つまり、単に先回りしてただけ……」

「まさしくその通り! 落とし穴を作動させ、諸君を招きはしたがね!」

「この子たちに協力するけど味方にはならない……そういうことでいいのかしら?」

「イエス。諸君はこの学院に知識を求めて来た。『全てを知る必要がある』。おそらく山の翁はそう語ったのではないか?」

 

 こくこく。わたしとリカは合わせて首を縦に強く振った。

 

「であれば諸君はこの学院の中心部を目指すべきだ。そして私も、その中心部に用がある」

 

 ホームズさんによると、その「中心部」はここから500メートル地下にある。そこまでの通路はダンジョンの様相。これは、「入るに容易く出るに難しい」というアトラス院の性質を反映した造りなのだとか。ホームズさんは中心部にわたしたちを案内する代わりに、わたしたちが通路のトラップを道々解除する。

 

 というわけで。

 わたしたちはホームズさん先導のもと、アトラス院最深部へ向けて出発した。

 

「なし崩し的にホームズ殿と行動することになりましたが……これでいいのでしょうか、マシュ? ……私はどうもあの手のタイプは苦手で。あの人、マーリンと同じ匂いがします……」

 

 いえ、ベディヴィエール卿。マーリンと一緒くたに語るのはシャーロック・ホームズへの侮辱です。あの名探偵はマーリンのようなトラブルメーカーではありませんから。

 

 リカがおずおずとホームズさんに、アトラス院の概要を質問した。ホームズ探偵は的確に、アトラス院という組織の位置づけと性質を説明した。

 

 学院というよりは騙し絵の迷路みたいな道を、下へ、下へ――

 

 さらに進んだところで、ホームズ探偵は魔術王の正体について言及した。実は、わたしもリカもとうにエンカウント済みです、とそろりそろりと申告すると、ホームズさんはわたしとリカに詰め寄って、魔術王の情報を次々と問いかけた。そ、そんなに一気に言われたらわたしもリカも答えに困りますよぉ……

 

「よく思い出してほしい。どんな些細なことでもいい。魔術王には、何かおかしな所はなかっただろうか」

 

 思い出そうにも、魔術王を見た時の姿も声もノイズに埋め尽くされていて思い出せない。

 そこでリカが、数日前に百貌さんから届いた文を取り出すと、壁から染み出す水滴を指先につけて、裏面に何やら指を滑らせ始めた。

 あっという間にスケッチを完成されたリカは、ホームズさんに無言でそれを差し出した。

 

「度胸のある少女だ。本来なら魔術王の姿を絵にした時点で呪いを受けてもおかしくないというのに」

「……それについては、一度、身を以て思い知りましたので。アトラス院の中でなら大丈夫かな、って……あの、だめ、でした?」

「いや。重要な手がかりだ。謹んで受け取ろう」

「ありがとう……ございます」

 

 その後、奥へ進んでいると、防衛機構であるキューブの集合体に二度襲われたものの、わたしだけでなくベディヴィエール卿や、三蔵さんや藤太さんの助力もあって、窮地を切り抜けることができた。

 

「ミス・キリエライト。見た所、キミはまだ宝具を扱えていないね?」

「はい……わたしは、わたしに力を譲渡した英霊がギャラハッドだと知っています。ですが、“彼”の真価たる宝具の力を引き出せずにいるのです……」

 

 リカが無言で横からわたしの手を両手で包んだ。心配してくれてありがとう、リカ。

 

「真名はそう大きな問題ではない。キミはただ、踏み出す足を間違えているだけだ。キミの精神はすでに完成している。その恐れは、宝具のあるなしで変わるものではない。仮に宝具が解放されなかったとしても、キミは立ち上がることをやめないだろう?」

「――はい」

 

 私は最期まで、弱気を押し殺して、勇気を振り絞って戦う。たった一つの信じるもののために。

 

 もうすぐ最深部というところで、アラートがけたたましく鳴り響いて、防衛機構の駆動を伝えた。

 わたしたちは各々の得物を構えた。

 

「目的地に着く前に、私からの忠告、いや宣言だ。私が諸君の前に現れた最大の理由は、ここにはカルデアの目が届かないことにある。事前に言っておくとだね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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