使い魔のくせになまいきだ。 ~ マガマガしい使い魔 ~   作:tubuyaki

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前回までのあらすじ
おいしい英国料理 アルビオン料理


STAGE 38 地下との遭遇

 ルイズは気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりと息を吸い込んだ。

 アルビオンの冷たい朝の空気が、彼女の胸を満たしていく。

 彼女はそれからくっと息を止めた。

 彼女の鳶色の瞳が力強い光を称えていた。

 次の瞬間、ルイズはツルハシを大きく振りかぶると、それを真っすぐに振り下ろした。

 ツルハシが地面へ突き立てられると、小気味よいバカンッという音と共に地面が割れた。

 次いで、彼女の手元からツルハシがふっと離れた。

 しかしツルハシは落下することなく、まるで見えざる手に握られているように宙に浮いた。

 ツルハシは浮きながらに刃を前後に動かしながら、割れた地面へと潜っていった。

 ガタガタガタという連続した音が鳴り響くも、その音はどんどん遠く、小さくなっていく。

 ツルハシは、ルイズの手を遠く離れてどんどん地面を掘り進めていった。

 

 周りから『おお!』と、感嘆の声が上がった。

 ルイズを見守っていた王党派の面々であった。

 当初はルイズが杖ではなくツルハシを携えて現れたことに困惑していた彼らも、いざルイズの力を目の当たりにして目を見張った。

 

「なんともはや…… これは素晴らしいですな。人が簡単に出入りできる穴を、こうも軽々と掘り進めてしまうとは……!」

 

「掘る速さも尋常ではないし、何より大使殿は息も切らしておらぬではないか。この分では、あっという間に地下陣地が出来上がってしまうぞ」

 

 驚きの声を上げる面々に、ウェールズはまるでわがことのように得意げに語った。

 

「だから言ったであろう。彼女は特別なのだよ」

 

「その通りです。ルイズ様はまさしく、破壊神(かみ)に選ばれたお方なのです!」

 

 魔王の言葉を聞いて、ウェールズは大きく頷いた。

 

「うむ、まさしく使い魔殿の言う通り、始祖(かみ)に選ばれたと言って良い才能だ。そしてその恩恵に預かる我々にとっては、これぞまさしく始祖からの贈り物と言えよう。この地下道を活かして戦えば、敵の包囲を心配することなく最後まで力を尽くして戦うことが出来るであろう」

 

 王党派の面々から歓声が上がる中、ルイズは少しはにかみながらウェールズ皇子に進捗を告げた。

 

「殿下、ご要望頂いた通りにまずは地下の浅い層を掘り進めました。ここからさらにもう一段奥深くへ続く道を掘っていきます」

 

「なんと、もうそこまで掘れたというのか」

 

 ウェールズは驚きと喜びの混じった、快活な笑みを浮かべた。

 

「順調なようで結構! どれ、少し中を拝見させて貰おうか」

 

 ルイズは『あっ』と声を上げたが、彼女が引き留めるよりも早く、皇子は穴の中へと飛び込んでいった。居並ぶ貴族の面々は、『まったく皇子の現場主義にも困ったものだ』等と、自慢そうに言い合っている。

 すぐに、穴の中から皇子の声が発せられた。風の魔法で声を外まで届けているものか、穴の中からでも良く響く声であった。

 

「素晴らしい! 人が通るには申し分ないながらも、大勢の敵を一度に通すことは阻む、調度よい広さの穴だ。この様子ならば十分使用に耐え得るであろう」

 

 ルイズは冷や汗をかきながら、穴の入り口に身を乗り出して叫んだ。

 

「殿下、危険でございます! 今のところはお引き返し下さい!」

 

「危険? 一体何が危険だと…… おお! こんなところにスライムが沸いているではないか! 地下ともなると、そういうこともあるのだな。しかしこの程度のマモノなど、心配には及ばぬよ」

 

「いいえ殿下、それだけでは……!」

 

 ルイズの呼び掛けに対し、ウェールズは話半分に聞いているかのような調子で返事を返すばかりである。

 

「おや? こんな大きな虫も涌いて出るのか! これは流石に気を付けた方が良かろうな。戦いの邪魔にならぬよう、前もって駆除した方が良かろう。……む? あれは何だ……?」

 

「殿下、どうか今すぐお引き返しを!」

 

 しばらくの沈黙の後、穴の中から皇子の悲鳴が響いた。

 

「ぬおおおおお! 何だこの亜人は!」

 

 王党派の面々が何事かと顔色を変える中、穴の中からびゅうと風が吹き出した。

 次の瞬間には風の勢いに乗った皇子が、穴の外へと勢い良く飛び出していた。

 慌てた表情の皇子は、ルイズの姿を認めるや否や、彼女を問い詰めた。

 

「一体あれはどういうことかね、ミス・ヴァリエール! 掘ったばかりの穴に亜人がいたぞ!」

 

 穴の中からクワァアアッというけたたましい鳴き声が響き、空色の肌をしたトカゲの頭が姿を覗かせた。

周囲のメイジたちはすぐにでも魔法を唱えられるよう杖を構えたが、トカゲおとこは警戒深そうに穴の外を眺め回すばかりで、外に這い出てくる様子はなかった。

様子を見ていた魔王は慌てて穴の入り口に駆け寄ると、しゃがれた聞き取り難い早口の言葉で、しきりにトカゲおとこらと言葉を交わし始めた。

 

 ルイズはその様子を横目に見ながら、ばつが悪そうに皇子へ答えた。

 

「だから、その、まだ危険です。道を掘りはしましたが、まだ準備中なんです。私の力で穴を掘ると、魔物も一緒に出て来てしまうんです」

 

 皇子は首を横に振って嘆いた。

 

「困った。これではおいそれと中を通るわけにはいかぬ。地下のトンネルであのような好戦的な亜人を相手にしたのでは、討伐するにも骨が折れよう」

 

 いくら陣地として適した地下トンネルであっても、それを使う前に兵を疲弊させたのではいけない。皇子はそのことを心配しているのだった。

 

 それまで面白くなさそうな顔をして様子を見ていたワルドは、ここぞとばかりに魔王へと嫌味を投げ掛けた。

 

「ふん。これだからお前の力はあてにならぬのだ。やはりメイジは杖に限る」

 

 ざわつき始めた周囲の様子に、ルイズは、慌てて釈明した。

 

「御心配には及びません。マモノなら今すぐにでも、私の力でどうにかしてみせます!」

 

「おや、そんなことも出来るのかね? ふむ、確かに君の奇妙なあの魔道具ならば、その刃でマモノを蹴散らせもするのかもしれぬな」

 

 皇子がルイズの言葉に素直に納得しかけたところで、そこに口を割って入る者がいた。

 

「まさかルイズ様、『マモノを全部間引いちゃおう!』とか考えてないでしょうね!」

 

 非難がましく叫んだのは、彼女の使い魔である魔王だった。

 ルイズは少し気まずそうにしながらも、彼に告げた。

 

「そりゃ、あんたの気持ちは分かるけど…… その様子じゃ、しょうがないじゃない」

 

 ルイズが目を向けた先には、今なおダンジョンの入り口から顔を突き出し、威嚇するようにクワア、クワアと鳴き叫んでは剣を掲げて止まないトカゲおとこの姿があった。魔王との意思疎通は出来るようだが、戦意を滾らせどうにも物騒である彼のマモノがどうして王党派のメイジたちと仲良く出来ようかと、ルイズはそう思って魔王に納得を求めているのだった。

 

「ルイズ様は頭が固いですな。いいえ、皇子殿と揃って頭が固い!」

 

「あんた、また皇子様に向かってなんてことを!」

 

 怒りの声を上げたルイズに代わって、皇子が疑問を投げ掛けた。

 

「君の口ぶりからすると、何か良いやり様があるのかね?」

 

「ええモチロンです。私は聞きましたぞ? 敵の貴族派とやらは亜人を配下に組み込んでいるそうですな」

 

「ああ、その通りだ。反徒共はオークやトロールどもへの伝手があるらしく、戦でもたびたび姿を見かけている。まさか、同じことを我々にもやれと言うのかね? そこのトカゲ亜人を相手にして?」

 

 魔王は大きく頷いた。

 

「敵はフソンにも、この魔王を差し置いてマモノを配下においているようですが、同じことをどうしてこの魔王率いる軍隊が出来ないことがありましょうか!」

 

「一体いつからあんたの率いる軍隊になったというのよ!」

 

 青筋を立てながら怒るルイズを他所に、魔王は再びトカゲおとこたちの元へ駆け寄ると、ボソボソっと言葉を投げ掛け始めた。

 

「ガンギンゲジョ。パセパセグシジョグギデジャスボゼグ。バセサゾ」

 

 すると、忙しなく鳴いていたトカゲおとこは嘘のように大人しくなり、くりくりしたつぶらな瞳を輝かせながら、周囲を見守るようになった。

 

 魔王は、目を丸くしているルイズらに振り返って言った。

 

「我が陣営に味方する者へ、この魔王は寛大です。トクベツに『魔の契約』の仕方を教えて差し上げましょう」

 

 不穏な響きの言葉に、ルイズは息を呑んだ。

 ウェールズや貴族の面々も、表情を強張らせている。

 

「一体なんなのよ。魔の契約って!」

 

「言葉通りのモノです。マモノとニンゲンとが契約を交わし、マモノがニンゲンにチカラを貸し与える。その代わりに、ニンゲンはマモノへと代償を支払う…… いにしえより伝わりし、魔界の秘儀です」

 

 ルイズは顔を青くしながら言った。

 

「代償だなんて…… 殿下にマガマガしい要求をしようだなんて、この私が許さないわよ!」

 

「フフフ、ただのニンゲンが強力なマモノのチカラを借りようというのですぞ? そのためにはそれ相応のカクゴがいるというものです」

 

「あんたねえ!」

 

 ルイズの怒り声を、しかしウェールズは遮って言った。

 

「良いのだ、ルイズ殿。我々は戦力の少なさに苦しんでいる。兵隊が手に入るというのならそれを逃す手はない。話を聞こう」

 

「殿下……」

 

 言葉に窮すルイズを他所に、魔王はフフンと機嫌よく笑った。

 

「覚悟は出来ているようですな」

 

「無論だ。死ぬ覚悟を定めてここに立っている。代償が何だなどと、気にするような我々ではない」

 

「ほ、本当によろしいのですか?」

 

 ルイズは恐る恐る皇子に尋ねたが、彼の意思は固かった。

 

「構わぬ。ハルケギニアの未来のためならば、魔物にだってこの魂を売ろう」

 

 魔王はフハッ!と笑った。

 

「それでこそ、オモシロくなるというものです。かつてこの秘儀を使った者がどうなったか、知りたいですか?」

 

「いいや、御託は結構だ。早くその契約の仕方とやらを教えたまえ」

 

「では先ず……」

 

 ルイズや貴族たちが心配そうに見つめる中、魔王はウェールズに囁いた。

 

「供物となるハラワタを用意するのです」

 

 …………………………………………………………………………………………

 

 見るも悍ましき贓物を乗せた皿が辺りに並べられる異様な光景の中、その内の一つを手に取ったウェールズ皇子は、慎重な足取りで穴のそばへと近付いて行った。その一歩後ろには魔王が付き従っている。

 魔王がしゃがれた声で言った。

「ベギジャブンドビパビダ!」

 するとすぐに穴の中から、血走った眼をしたトカゲおとこたちが這い出して来て、甲高い鳴き声を上げた。トカゲおとこの口は大きく開かれ、そこから覗く鋭い牙の間からは涎が滴り落ちていた。

 

 王党派の面々が固唾を飲んで見守る中、ウェールズはトカゲおとこたちに一歩歩み寄った。途端に、トカゲおとこたちがわっと駆け出し、ウェールズの元に殺到した。ルイズが最悪の未来を想像し、思わず目を背けそうになった時、ウェールズは大きく叫んだ。

 

「ステイ!」

 

 ビクッと、トカゲおとこたちは動きを止めた。しかし彼らはくりくりっと目玉を動かすと、再び動き始めた。

 

「ステイ!」

 

 再びの大声に、またトカゲおとこたちがビクついて止まった。しかし涎を垂らしたトカゲおとこたちは、またすぐにウェールズに向け近付いてくる。そしてウェールズを取り囲んだ彼らは、皿目掛けてあごや手を突き出してきた。ウェールズは皿を大きく持ち上げ、大声で唱え続けた。

 

「ステイ! ステイ! ステイ! ステイ!」

 

 初めは命令を無視していたトカゲおとこたちも、皿に手が届かぬと見るや、段々と大人しくなっていく。そして全てのトカゲおとこが皿に目をくぎ付けにしたまま、身じろぎもしなくなったところで、皇子はさっと皿を下に降ろし、叫んだ。

 

「OK !」

 

 トカゲ男たちは、わっと皿の上の臓肉に食らいついた。

 

「これで『魔の契約』は完成です!」

 

「ただの餌付けじゃないの!」

 

 ルイズはゴンと、魔王の頭にこぶしを振り下ろした。痛みに頭を抱える魔王を他所に、ウェールズは感慨深く呟いた。

 

「いやはや、昨日のハギスがたくさん残っていて助かったよ」

 

「まったく、かような亜人をどうしろというのかと思いましたが、案外どうにかなるものですな」

 

 ウェールズに続き、貴族たちも次々に皿を手にしては、トカゲおとこたちに『ステイ』を叫びながら、近付いていく。そして『OK』が唱えられるや否や、トカゲおとこたちはつぶらな瞳を輝かせ、喜び勇んで餌を食い散らかした。

 

「ちょっと、本当にこんなんで良いんでしょうね!」

 

 ルイズは自分が殴り倒した魔王に詰め寄り、問い質した。

 

「まったく、ルイズ様はミョーなことにこだわり過ぎなのです。手段がどうあれ、協力し合えるならそれでいいではないですか」

 

「言いたくもなるわよ! こんなテキトーな餌付けで、本当にここぞという時に大丈夫なのよね!?」

 

 魔王はしばらく考えてから言った。

 

「トカゲおとこたちが覚えている内はダイジョーブでしょう!」

 

「そういうのを大丈夫とは言わないわよ!」

 

 どうにも不安の拭えない返事に、ルイズは頭を抱え込んだ。貴族の面々も、先ほどの安堵の表情から一変、薄ら寒さを覚えたのか顔を引き攣らせている。

 

「勘弁しなさいよ。王党派の人達がこの穴に逃げ込んできた時、マモノたちからも攻められたら目も当てられないじゃない。ねえ、もっと確実な方法はないの?」

 

「そうは言われましても…… 何なら、使い魔にでも頼ってみてはどうでしょうか? 」

 

「へ? 使い魔?」

 

 ルイズはきょとんとした。

 

「メイジの使い魔にはマモノだっているのでしょう? ならばマモノ同士、コミュニケーションが取れるハズです。トカゲおとこたちの心象が良い今の内に、親睦をフカめておいてはいかがでしょうか?」

 

「むう、そのような方法があったか」

 

 ウェールズが手をぽんと打った。

 

「お前たち、今の話は聞いていたな? 幻獣を使い魔にしている者は、トカゲ亜人たちの輪に加わらせ、我々との仲を取り持ってもらうのだ」

 

 こうして、王党派貴族たちの使い魔がかき集められた。この内戦で壊滅した幻獣部隊の生き残りであるヒポグリフやマンティコアの他、それ一匹では大した戦力にはならなそうな細々とした生き物までもが集う。魔王の導きで彼ら使い魔とトカゲおとこたちが顔を合わせると、彼らはすぐに、人には通じない言葉を使って会話を始めたようであった。

 

「ニンゲン相手では角が立つことでも、使い魔を介せばケッコウ平和的にやり取り出来るというものです。ま、それも! この魔王の言葉添えがあったからこそなのですがね!」

 

 さあさ、私を褒め崇め奉りなさいと、魔王は偉そうに胸を張った。

 

「あ、そうそうトカゲおとこの相手をさせるのは、食べられないようなマモノにしといてくださいね? 牙の生えた口でバリッといかれちゃいますので」

 

 バリッ!

 

「ニャッキー!!」

 

「……どうやら遅かったようですな」

 

 早速、一匹食べられたようであった。

 

「ああ、なんてことだ! 私の可愛い可愛い使い魔が! ミツゲイモムシのニャッキーが!」

 

 なぜそんな生き物をこの場に持ち出したんだと、周囲の面々が微妙な表情を浮かべる中、使い魔を食われたそのメイジは一人、大いに嘆いていた。比較的小柄な体格に、大きな眼鏡をかけた男であった。近くにいた仲間のメイジが彼に問い掛けた。

 

「ああ、ハガー子爵よ。使い魔はお気の毒だったな。しかしなんだ、そのミツゲイモムシとやらではやはり無理があったというか、そもそもそれは幻獣なのかね? そこら辺の枝葉を探したら、すぐにでも見つかりそうではないか」

 

「何を言う! 魔法力無しには説明の付かぬ生態を持った稀少生物だぞ! 世間的にはともかく学問的に厳密な定義からしたらギリギリ幻獣の枠に入る、立派なイモムシだったのだぞ! それがまさかこんな、こんなぁあああ!!」

 

 彼はおいおいと泣き始めた。どうしたものかと悩んだ仲間たちは、現状を作り出したとも言える魔王に視線を向け、どうにかしろと無言の圧力を発した。ルイズからも厳しい目で睨まれ、早く行けと小突かれた魔王は、仕方なしにかのメイジのそばに寄って彼を慰めようとした。

 

「まあまあ、落ち着くのです。その、ニョッキでしたっけ?」

 

「ニャッキーだ!」

 

「まあ、どっちでも構いません。とにかく冷静になるのです。彼が始祖とやらの御許に導かれてしまったからと言って、そう嘆くことではありません。だって、お陰でトカゲおとこがあんなに元気そうにしておるでしょう?」

 

「ふざけるな! あの子は1年間も一緒に過ごした使い魔だったんだぞ!」

 

「たった1年? ちなみに、その前はどんな使い魔を?」

 

「……前に召喚したぶんぶんムシは、召喚したその日に鳥に啄まれた。もう一つ前に召喚したカジリ虫は、3か月ぐらい経つといつの間にか居なくなっていた。少し経ってから、ある不届きな虫が寝ておられる殿下のお尻に噛り付いたという噂を聞いた。寝返りと共に踏み潰されたらしい」

 

「ハガー子爵! お前の仕業だったのか!」

 

 ウェールズ皇子が叫んだ。

 

「今でもまだ噛まれたお尻がかゆむんだぞ!」

 

「申し訳ございません殿下! しょせん虫刺されと思い、今日まで告白する勇気が持てませんでした!」

 

 憤慨する皇子を周りの貴族たちが必死に宥める中、魔王は尚も子爵から話を聞き取り続けた。

 

「それで他には?」

 

「皆、似たり寄ったりだ。どれもこれも短命で、あの子ほど長い付き合いではなかった」

 

「それはまた、ご愁傷サマです。しかしムシとはただでさえ短命なものなのです。使い魔として縁があったとはいえ、自然の摂理に従い亡くなってしまったものはしょうがありませんぞ。気を取り直して次に目を向けるのです。これもあなたたち風に言えば始祖とやらのお導きなのですぞ。今回の事はきっと、マモノたちとの仲を取り持つ魔物を新たに召喚せよという破壊神(かみ)からの思し召しにチガイありません」

 

 かのメイジはそれを聞いても沈痛な面持ちのままであったが、しばらくすると迷いを振り切るように頭を振って、顔を上げた。

 

「……うむ、もしかするとお前の言う通りなのかもしれぬ。始祖(かみ)の思し召しか…… 今までニャッキーほど長く続いた使い魔はいなかった。奇跡的なことだった。その彼と今日という日に別れたのは、何か特別な意味があってのことなのかもしれん」

 

「そう、その調子です! さあ、気を取り直して次の使い魔に目を向けるのです」

 

「うむ、そうだな。そうしよう。他ならぬ、アルビオンのために!」

 

 ハガー子爵はそうやって魔王に煽てられつつ、杖を振るうことになった。

 彼の仲間たちは、『また妙なものを呼び出すのではないか』と思っていたが、あえて止めようとはせず、成り行きを見守った。

 サモン・サーヴァントが唱えられ、光り輝くゲートが現れる。

 辺りにぱあっと光が満ちて、次の瞬間には彼の新たな使い魔が姿を見せていた。

 

「む、これは……」

 

「……やっぱりなのか?」

 

「いや、そうであるにしても、これは今までに見たことのないサイズだぞ」

 

 口々に周りの貴族たちが言い合う中、魔王とルイズは驚きの声を上げた。

 

「これって……!」

 

「マチガイありません。ガジガジムシです!」

 

 白い体に黒っぽい体節を持つそのムシは、あごを元気にガジガジさせながら床を這い回り始めていた。

 

「何でガジガジムシが呼ばれたのかしら? 地下のマモノが召喚されるなんて、きっと凄い確率よ」

 

「確か使い魔にはそのメイジに相応しいイキモノが呼び出されるのですよね? もしかすると太く短く生きる運命(さだめ)のマモノたちは、これから命を捨てようとしている彼らにとってピッタリな使い魔なのかもしれません」

 

 そんなことをルイズと魔王が話している矢先に、バリッと小気味良い音が響いた。

 

「「あっ」」

 

「私のムシがぁ──!!」

 

 無慈悲にも、新たに召喚されたガジガジムシはトカゲおとこによってバリバリ食われていた。

 呆然とする子爵を他所に、ガジガジムシで腹を満たしたトカゲおとこはご満悦だ。

『このニンゲンは自分のエサを生み出してくれる奴だ』と学習した彼は、子爵に好感を持ってクワァアとかわいい鳴き声を上げるのだった。

 

「フム、これで彼もトカゲおとこたちと上手くやっていけそうですな!」

 

「あんたって、本当にいい性格してるわよね」

 

 ルイズは深いため息をついた。

 

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