使い魔のくせになまいきだ。 ~ マガマガしい使い魔 ~   作:tubuyaki

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STAGE 6 物騒な錬金

ルイズは教室の扉に手をかけるも、はたと後ろを振り向いて言った。

 

「……無理に付いて来なくていいのよ」

 

「何をおっしゃいます! 生徒たちはみな呼び出した使い魔を連れていくのでしょう?

 チュージツなるルイズ様のシモベとしては、参加しない訳には参りません!」

 

「ハァ……」

 

ルイズは憂鬱になりつつも、教室の扉を開いた。

 

 部屋の内には、生徒達とともに彼らの召喚した使い魔がひしめいており、

カエルやヘビ、フクロウといった小動物から、バクベアーやサラマンダーといった

幻獣に至るまで、まさにより取り見取りといった様子であった。

 

「いやはや色んなマモノがそろっておりますな。

 魔王軍の幹部候補生をここで募るのもいいかもしれません」

 

「あんた、他人の使い魔にちょっかい出すんじゃないわよ!

 あんたの行動は全部私の名誉に関わってくるんだからね!」

 

「いやいやルイズ様。一度、使い魔をコチラ側に引き込んでしまえば、

 その主のことなど煮るなり焼くなり埋めるなり沈めるなりどうとでも……」

 

「ならないわよ! 貴族の子弟の身に何かあって、ただで済むわけないでしょ!

 第一、何よそのブッソウな考えは! とにかく下手なことしたら許さないわ!」

 

 ルイズが席に着いた後も、教室内はしばらくざわついていたが、

廊下から響く教師の足音が近づくにつれ、それも収まっていった。

 

「皆さんこんにちは。二年の土魔法の授業を担当するシュヴルーズです」

 

そう言うと彼女は満足げに教室を見渡して言った。

 

「わたくしはこの時期に皆さんが召喚した使い魔を、こうして眺めるのが好きなのです。

 使い魔はメイジと共にあるもの。皆様の生き生きとした使い魔を見ていると、あなた方が

 将来どんなメイジになるのか、期待が膨らんで止まないのです」

 

 朗らかな顔をして周囲を見やっていたシュヴルーズだったが、ルイズの方を向くと一瞬にして

その顔を強張らせた。

 

「ミ、ミス・ヴァリエール、あなたのお隣に控えている方はもしかして?」

 

「……お察しの通り、コレが私の使い魔です」

 

シュヴルーズは困惑した顔で答えた。

 

「わ、私も噂には聞いていましたが、ほほほ、本当に珍しい使い魔を召喚しましたね。

 このような使い魔を召喚できるというのは、ある種一つの才能です。

 あなたのメイジとしての将来が、た、 楽しみ、 うぅ……」

 

 そこまで言うと彼女は感極まった様に後ろを向いて顔を隠した。直前に、彼女の眼がキラッと

光ったのは、きっと目にゴミでも入ったからに違いない。ルイズはそう思うことにした。

だから今、シュヴルーズがどれだけ沈痛な面持ちをしてこちらをチラチラ見てこようと関係ない。

関係ないったら関係ない。

 

……くそう。

 

「失礼、少々感極まってしまいましたわ。

 ミス・ヴァリエールは大変な努力家と聞いていましたから、

 召喚に成功して本当に良かったと思います。ええ」

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

 ルイズは頬をひくつかせながら答えた。だが止せばいいのに口を挟む者もいる。

風上のマリコルヌ、使い魔にフクロウという無難な生き物を召喚した生徒だった。

 

「おいルイズ、お前のせいで先生が困ってるぞ!」

 

「何よ!なんか文句でもあるっていうの?」

 

「お前がゼロなのに無茶に召喚なんてするから、そんな妙な使い魔を、 ウッ!!!」

 

ルイズが頭にきて言い返そうとしたところで、マリコルヌは口を詰まらせ、目を白黒させた。

 

「お友達をそんな風に言ってはいけません!それに私語は厳禁です!」

 

 見ると、シュヴルーズは杖を構えていた。彼の口に魔法で粘土を詰め込み、黙らせたようだ。

ルイズはマリコルヌの見っとも無い姿に溜飲を下げ、ほんの少しばかりシュヴルーズへの印象を

良くしたのだった。シュヴルーズは続けて彼に言った。

 

「例え、ミス・ヴァリエールの使い魔が、教会がなんと言うか分からない様な

 酷くいわくありげでとびきり怪しく禍々しく邪悪でサバティックな雰囲気を

 醸し出していたとしても、決して悪く言ってはいけません!」

 

勇気を振り絞る様な、少し震えた声だった。

 

「     」

 

「……先生。僕、そこまで言ってません」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 授業は淡々と進んでいった。新学期の最初ということもあり、内容は前学年の

簡単なおさらいからだった。自分の使い魔がアレなことを新任の教師からも公認されて

しまったルイズは、大変落ち込んでいた。相手が教師だけに言い返すことも出来ないし、

第一、自分に嘘はつきたくない。

でも現実逃避ぐらいはしたい。

ルイズは、傷心を癒すべく外を眺めることにした。

 

 だがルイズが窓に目を向けると、逆にこちらを覗き込む大きな影が見えた。

今年召喚された使い魔で一番の大物、風竜だ。教室に入りきらないため、

外窓から教室に顔を出して参加しているらしい。

召喚したのは確かタバサとか言ったっけ。

彼女も自分と同様、座学でかなり良い成績を取っていたはずだ。

座学も実技も出来るだなんて。

 

……くそう。

 

 メイジの使い魔格差を思い知らされ、ルイズはより一層気を落とした。

隣では己の使い魔が、熱心に教師の言葉へと耳を傾けている。

 

「ふむふむ、魔法は火・風・土・水の四大属性から成る。

 アリガチな設定ですね。光とか闇はないのでしょうか?」

 

相変わらず、訳の分からないことをつぶやく魔王を見て、

ルイズは今日何度目か分からないため息をついた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 傷心のあまり授業を上の空で聞いていたルイズは、なぜ注意を怠ってしまったのかと、

いつの間にか出来上がった目の前の空気に頭を抱えた。

 

「土は万物の組成を司っています。つまりそれを操ることのできる土属性の魔法には、

 万物を支配する無限の可能性が秘められているのです!」

 

 シュヴルーズの言葉に、言い過ぎなんじゃないかと多くの生徒たちが思ったが、

ギーシュを始め、土属性の魔法に秀でた者は彼女の言葉に強い共感を覚え、熱狂している

ようだった。そこへ火に油を注ぐかのように己の使い魔が加わるのを見て、ルイズは

開いた口がふさがらなかった。

 

「まったくもってそのとーりです!

 土はあらゆる生命のミナモトにして、このセカイの全てです!

 イノチは土から生まれ、土に育まれ、そして最後は土へと還っていく……

 しかしそれでいて終わることはなく、その土はまた新たな生命の源となる。

 そうして土は、あらゆるイノチの営みの循環をカタチ作っていくのです。

 そのような土のチカラを活かすということは、これ即ち神の御技と言えるでしょう!!」

 

頭を抱えたくなることに、ギーシュまでもがそれに乗っかり始めた。

 

「それだけじゃないぞ! 土は文明の発展にも多大なる貢献をしてきたのだよ。

 歴史的に見て金属を制したもの、つまりは青銅、そして鉄の錬金技術を

 編み出した国々によって、その時代時代の勢力図は塗り替えられてきたんだ。

 金属を制したものに繁栄は約束される。そしてそれを成すのは土魔法の力だ!

 土には文明の現在・過去・未来が秘められていると言っても過言ではないだろう!」

 

「ミスタはよく勉強なさっていますね。他にも土は建築や農業等、人類の活動の

 あらゆるものに関わっています。言うなれば土は、この世の全てです!

 土を表すのには余計な言葉はいりません! 一言で十分です!

 

「「「土サイコーーーー!!!!」」」

 

「    」

 

シュヴルーズも幾多のメイジの例に漏れず、己の得意とする属性について語るときには

熱がこもるのだったが、呆れたことにルイズの使い魔はその熱狂の中へ自然に入り込んでいた。

 

「いやはや、土好きに悪い人はいないというのは本当ですね。

 ミス・ヴァリエール、あなたは勤勉な生徒だと伺っていますが、

 真に見識ある、相応しい使い魔を得られたものですね!」

 

「    」

 

始め、この亜人を見て恐れ慄いていたのは何だったのか。

ルイズはそう思わずにいられなかった。

 

「そうだわ!折角ですし、こんな素晴らしい使い魔を呼び出した

 ミス・ヴァリエールに錬金の実技をお願いしましょう!」

 

 今まで怠そうな視線で土メイジの盛り上がりを眺めていたキュルケは、それを聞くなり

慌てて声を上げた。

 

「ま、待ってください!危険です!」

 

 危機感を覚えたのは彼女だけではない。皆が恐れおののく中、カエルを使い魔として

召喚したモンモランシーも不満の声を上げた。

 

「そうよ、冗談じゃないわ!昨日も散々、「まあまあ、ここは一つ、彼女の使い魔の

 見識の高さに免じて大目に見ようじゃないか」ギーシュ!何言ってるの!?」

 

騒然としてきた教室を見て、シュヴルーズは生徒たちに語り掛けた。

 

「皆さん、私も彼女のことは聞いていますよ。実技があまり得意ではないと。

 しかし同時に、座学では一番を取る程の努力家だとも聞いています。

 さあ、失敗を恐れていては何も始まりません。ミス・ヴァリエール、躊躇せずに

 やってみてください。大丈夫、貴方なら出来ますよ」

 

そう言って、彼女はルイズに微笑みかけた。

そうは言うものの、ルイズは失敗した時の惨状を思い戸惑った。

 

「お願い、止めて」

 

「そうよそうよ!あ、そうだギーシュ、あんたこそやってみなさいよ!

 二つ名に恥じない力を私に見せて頂戴!」

 

「む?うむ、それもそうだな! どうせやるならこの世で一番美しい使い魔を呼び出した、

 この青銅のギーシュこそがその技を披露しようじゃないか!

 モンモランシー、この僕の雄姿をしっかりと目に焼き付けておいてくれよ!」

 

「ああ、それがいいよ。使い魔を使って人語を解すキメラを錬成してみせてくれ。

 二つ名を名乗るにも国家資格が必要だろう?」

 

「マリコルヌ、君は何を言っているんだい!?」

 

昨日の爆発の記憶冷めやらぬ生徒たちの必死の引き留めは、ルイズの意地な心を奮い立たせた。

 

「やります。」

 

 一瞬の静粛の後、教室は前にも増して慌ただしくなった。皆が机の下に一斉に身を隠す。

 

「ルイズ様、あんまりスゴイものを錬金しようとするあまり、

 腕とか持ってかれないように気を付けてくださいね。」

 

「何のアドバイスよ!」

 

「何を隠そう、ルイズ様は失敗魔法の達人ですから」

 

「っっっ!! 見てなさい! 絶対成功させてやるわ!」

 

 そんな中、先ほどルイズが羨ましがっていたタバサはこの先を見越して、いつものように

教室を脱出することに決めた。皆の行動に何事かと戸惑っているシュヴルーズは、

どうせ彼女の杖先一振りでダウンだ。

いつものように、皆が自分の身を守ることに必死な隙に移動し、いつものように、スッと

誰にも気付かれず教室を抜け出し、本を読む素敵な時間を送るのだ。

そしていつものように、

 

どこへ行かれるのですか?(ドミネ・クオ・ヴァディス)

 

「……何?」

 

彼女の前にマガマガしい亜人が立ちはだかっていた。

 

「これからルイズ様がその御業を披露なさるというのに、

 どこへ行かれようというのですか?」

 

「私の勝手。通して」

 

「いーーえ、それは出来ません!」

 

教室の前では周囲に意を介さず、実技の準備が進められていた。

 

「杖の向きはこうです。さあ、錬金する金属をイメージしてみて下さい」

 

「はい!」

 

もう、何時錬金が始まってもおかしくなかった。

 

「どいて。……早く!」

 

彼女にしては珍しく慌てた声を上げたが、魔王の態度は余裕そのものだった。

 

「知らなかったのですか?」

 

タバサは遮る魔王の横を必死に通り抜けようとしたが、教卓から届いた閃光を目の当たりにして

青ざめた。

 

「破壊神さまからも逃げられません!!」

 

教室を爆風が駆け抜けた。

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